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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第162話 怒れる者達と敵の正体

 ちょっとした探査魔法では解らないほど、巧妙に隠れていた魔物がいることを告げると、自分が倒しに行くとカルディナ、ジャンヌ、奈々にアテナが怒りを露わにしながら訴えかけてきた。

 しかしその気持ちだけを受け取って、竜郎は愛衣と共に自分自身でけりをつけると言って抑えてもらった。

 カルディナも、やられた本人がそう言うのならと何も言えず、雑魚の処理を全部引き受けるといってくれた。ちなみにリアは怒りこそあれど、自分一人で討伐できる相手ではないと理解していたので黙ってそれを見守っていた。



「じゃあ、本当に雑魚は全部頼んだ。俺たちは、あの謎の魔物に集中する」

「そんじゃあ、行ってくるね」



 そう言って竜郎と愛衣は、謎の魔物のいる方へと駆けていった。



「ピュィー!!」

「そうですの。許せないですの、カルディナねーさま」

「どこのどいつか知らねっすけど、そっちはとーさんたちが落とし前をつけるだろうっすから、あたしらはその露払いをするっすよ」

「ヒヒーーーン!!」

「皆さん……」



 味方であるリアですら震えるほどの怒りが立ち込め、ここに四体全てが真の姿へと変貌していく。



「ピュィーーーーーーーーー」



 まず先陣を切ったのは、最年長のカルディナ。

 カルディナは《真体化》すると、竜郎と愛衣の行く手を邪魔しようとするモノに、足元の盾面を蹴って突き進み片っ端から両の手の爪で切り裂き、取り囲まれたら硬い翼を広げて《竜翼刃》を行使しながら回転し、横一列に海犬の群れを切断していく。

 そしてさらに土魔法で細かな砂を生成して盾面に大量に散布していき、それをアリ地獄のように設置し流動させて周囲の海犬を全てこちらに引きずりこんでは蹴散らしていった。



「ヒヒーーーーン!」



 カルディナに少し遅れて動いたジャンヌは、十二メートルにもなる体と赤黒の分厚く頑丈な鱗を持つ姿に変化すると、ただ力任せにカルディナが行ったのと正反対の方角にいる海犬の群れに突撃していった。

 その分厚い表皮に傷すらつけられずに、踏みつぶされ薙ぎ払われ引き裂かれ貫かれていく。そんな中でも果敢に挑もうとするモノもいたが、恐怖に負けて逃げようとするモノもいた。しかし、それすらジャンヌは許さない。

 風魔法を発動させ、掃除機の様に根こそぎ引き寄せては強大な両手の爪でかき分けるようにバラバラにしていった。



「リアは、わたくしの後ろに付いてくるのが一番いいですの。他の姉様や妹の周りにいては、邪魔になってしまいますの」

「はい。よろしくお願いしますね、ナナ」

「ええ。よろしくですの」



 表面上落ち着いた雰囲気の《真体化》した大人の姿の奈々であっても、奥底に煮えたぎる怒りは抑え切れておらず、威圧感をまき散らしながらカルディナとジャンヌのいる方角とは別の群れに向かって優雅に歩いて行く。

 背丈は成人女性のそれと変わらないので、威圧感すら読み取れない馬鹿な海犬が獲物だと勘違いして向こうからやってきてくれる。

 それにニィと犬歯をチラつかせて笑うと、後ろに言われたとおりピッタリと付いてきてくれているリアにだけはかからないように意識しながら、周囲に呪魔法で強力な鈍足の呪いを付与していった。

 それは近くにいたモノに真っ先にかかり、そこからウイルスの様に範囲を段々と広げていき、丁度盾面の床部の四分の一程にまで行き渡り、海犬たちは鉄のように重くなった体で必死に前に踏み出そうともがいていた。



「あらあら、まるで亀のようですの。ふふふっ、可愛らしい事ですの♪」



 まず自分の近くまでやって来たモノを、両手に持ったリアが加工してくれた牙を頭蓋骨に振り降ろし殺していく。

 そしてたった一歩踏み出すのにも数秒を要するようになった海犬たちの群れに向かって歩み寄りながら、《竜吸精》で根こそぎ精気を奪っていく。

 散歩でもするかのように海犬の群れの隙間をあっちへフラフラ、こっちへとブラブラ歩きつつ《竜吸精》で干物にし、偶に思い出したように自らの手でも止めをさしていく。

 その中でも元気が有り余り、精気が他の個体より多く中々死なない物は、生魔法で無理やり精気を活性化させ、一気に奪い取ってミイラに変えた。

 リアも奈々にレベル上げのいい機会ですの。と言われ、瀕死の海犬たちに巨大金槌を振り下ろして潰していった。



「あたしも本気でいくっすよ───」



 アテナの《真体化》は、ほとんど《成体化》時と変わりはなかった。

 ただ違う点はといえば、二の腕の半分辺りから手先までと、太ももの半分辺りから足先までに、トライバル柄に良く似た琥珀色のタトゥーが刻まれていた。

 そしてそのタトゥーからは、琥珀色の煙の様なものが湧き出ており、ユラユラと揺れながらアテナの周囲に漂いだした。

 この煙の正体はアテナの竜力が可視化したもので、ただ周囲に浮かべているだけでは何の意味もない。

 しかし魔法を行使し、その竜力を変化させれば……。



「はあっ─」



 その煙は紫電へと変わり、触るモノ全てを焼き焦がす電気の塊と化した。

 続けてアテナはこの形態時専用のスキル《竜力路》を発動させ、カルディナ、ジャンヌ、奈々が担当していない区画の群れの中央にまで真っ直ぐに竜力のレールを引いていく。

 そしてそのレールを、雷魔法に変質させておくのも忘れていない。



「《竜装》」



 次にアテナはレールの準備と並行して、スキル《竜装》を発動した。

 すると、彼女の体に琥珀色の鎧が纏われていく。

 まず頭部は、竜の頭部を模したフルフェイスの兜。首から下は彼女のボディラインに添う様に細身の琥珀色の鎧を身に纏う。

 そして手の部分は指先一本一本に至るまで鋭くとがった竜の手を模した物を、足の部分は竜の足を模した形になっており、腰の下あたりからは長い蛇腹の竜の尻尾を模した物が垂れ下がっていた。

 そしてその尾はアテナの意思通りに動いて、間近の一体を絞殺した。そして最後に、竜装もアテナの竜力を具現化させたものなので、当然こちらも雷魔法で属性を纏う事が出来る。

 その全貌はまるで、紫電を纏う竜人のようであった。

 

 やがて群れの中心部まで突っ切る様にレールを敷き終えると、アテナはそこの始点に煙状の雷を纏わせた足を乗せ、《アイテムボックス》からリアに造って貰った竜骨槍を取り出し、両手で構えてそれにも鎧から漏れ出る琥珀色の煙を巻きつけ、そちらにも紫電を帯びさせた。



「じゃあ、死んでくださいっす───」



 バチンッ!!と電気が弾けるような大音量が響き渡ったかと思った瞬間、槍を前に突き出したアテナの体が、竜力のレールに沿って雷の如く前方に弾け飛んだ。

 ズガガガガッと群れの中を一筋の電気の塊が突っ切って行くと、群れの中央に辿り着いたころには、そこまでの道中で轢き殺した丸焦げの海犬の死体が累々と転がっていた。

 だが、まだ半分以上アテナの担当部は残っている。

 なので今度は海犬の群れの中心部で槍を振り回し、紫電をまき散らし、嵐の様に暴れまわり、一方的な虐殺によって見る見るうちにその数を減らしていったのだった。




 そんな風に露払いをしてくれているカルディナ達に支えられながら、愛衣と手を繋ぎながら走り、海と同化している魔物を追跡していた。

 そちらは余程かくれんぼに自信があるのか、こちらが居場所を捕えていることに気が付いていないようで、海の流れに身を任せるようにして盾の床の切れ目付近の海面をずっと漂いながら、二人の目線がそれた瞬間に水鉄砲を撃ってきていた。

 なので竜郎は、こちらが気が付いていないのだと思わせるため少し離れた場所に立ち、愛衣に守備を任せて自分は隠れている魔物の周囲の海に水魔法の魔力を流し込んでいく。

 そして囲い込み漁の様に、徐々にその魔物の周囲の海水を竜郎の支配下に置いていった。

 そうして魔物に気が付かれないように自然な海の動きを意識しつつ、こんどは自分の支配している海水に火魔法を混ぜ込んで急激に沸騰させていく。

 そこでようやく異変に気が付いた様だが、後の祭りだ。上下左右熱くない所を探し逃げようとするが、その間にも自分の体も周りの熱を取り込んで沸騰し、蒸気を上げて体積をすり減らしていく。

 このまま何もしなければ、この魔物は完全に気体と化して死んでしまうだろう。

 それは魔物自身も本能で理解出来たのか、たまらず水の体を解除して、二回りほど大きく、腹が妊婦の様に不自然に膨らんではいるが、それ以外は海犬とほぼ同じフォルムの本来の姿に戻って熱湯の無い場所、即ち愛衣が造った盾の床へと飛び出した。



「─今!」

「はあっ」



 愛衣に着地しそうなタイミングを教えて貰い、竜郎は杖を構えて事前に用意していた火と光の混合魔法を発動させた。

 すると赤光を放つ板を魔物の着地点に展開させ、そこを中心に六面を囲い込んだ箱を一瞬で作り上げた。

 これなら水に変化しようものなら蒸発してしまうし、元の肉体のままでも足元から焼かれて悲鳴をあげるしかない。



「ちゃんと捕まえられたね!」

「ああ、後は煮るなり焼くなり好きに───何っ!?」



 どう見ても脱出不可能だと思い、竜郎と愛衣はそちらから一瞬意識を逸らした瞬間、大海犬は口からレーザーのように直径三センチ程の細さの水を真正面の板に噴出しだした。

 それは当たった端から水蒸気に変わって箱の中を霧で満たしていったかと思えば、その水で板の温度を下げられ極小の穴があいてしまった。

 そしてそれを見逃さず、再び水の形体になってその小さな穴から無理やり身を乗り出し、半分以上体を揮発させたものの、見事外に脱出してしまった。

 そうして再び体を元の姿に戻すと、今度は体積が三分の一ほどに縮み、ガリガリに痩せ細った元大海犬がいた。



「ウゥゥ……」

「りゃあっ」



 大分弱っていたが放っておいて逃げられても困るので、愛衣は一足飛びに近寄ると右足で蹴り上げた。

 するとバシャッと水音を上げ、愛衣の蹴りを水に変化することで難を逃れた。

 今の蹴りは咄嗟の行動だったせいで、ほとんど気力を乗せきれない攻撃だった事も大きい。

 上に水飛沫を上げてバラバラになった体を中空で元に戻していくのを見た愛衣は、すぐさま全身に気力を纏わせそこへ掌底を叩きこんだ。

 今度はこちらの思惑通り、体のほとんどを消し飛ばした。

 なのでこれで終わりかと思いきや、最後に残ったわずかな部分で、竜郎に向かって水鉄砲になって特攻を仕掛けたのだった。



「たつろー!」



 竜郎は最後の悪あがきをする瞬間を見ていたので、その水の弾丸を見て避けるなんて芸当はできないが、その射線上を埋めることくらいはできる。



「はあああっ!」



 杖を前にだし、できるだけ素早く魔法を展開させ、先ほど魔物を閉じ込めていた高温の光の板を射線上に何枚も立てかけて、さらに念を入れてコートを硬質化させた。

 八センチ程の水の弾丸は、一枚、二枚とどんどんその身を縮ませながらも貫通していくが、竜郎まであと板四枚という所で完全に蒸発して消えた。



《『レベル:52』になりました。》



「たつろー、あいつはどうなった?」

「今レベルが上がったから、確実に死んだはずだ」

「《レベルイーター》使えなかったねー」

「ああ。けっこうSP持ってそうだったから残ね──」

「「ん?」」



海犬が消えたであろう場所から突然銀色で三十センチ程の大きさの箱が現れて、ボトッと落ちた。



「何これ?」

「………………解析かけた限りだと、とくに罠らしきものはないな」

「じゃあ、開けてみる?」

「そうしたいとこだが、念の為他の皆と合流してから開けてみよう」

「そかそか、りょうかーい」



 こうして二人はカルディナ達と合流すべく辺りを改めて見渡せば、そこには数百匹の海犬の死骸があちこちに転がっていた。

 そしてさらに海面にも、何匹もの海犬の死骸が流れていた。



「「うわー……」」



 二人はその余りにも悲惨な魔物達の姿に顔を引きつらせ、既に事を終えて集まっているカルディナたちの元へと謎の銀箱を持って歩いていったのであった。

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