第159話 二つ目の小島へ
ボートから降りて、愛衣の造った足場に他のメンバーも上陸した。
その間、諸々の行動で減った気力を完全回復させるために、竜郎と愛衣はしっかりと恋人繋ぎで手を握り合っていた。
その光景にリアはこんな場所で何をしているのだろうと疑問に思ったが、目のスキルによってその意味を察した。
「響きあう存在ですか。お二人にピッタリな称号ですね」
「でしょ。これ、私のお気に入りなんだー」
そう言いながら竜郎に寄りかかって甘える愛衣に、リアはもう慣れたもので、微笑んでその光景を見守った。
「ん~。空が飛べないあたしは、やっぱり地面があると落ち着くっす~」
「空が飛べても、地面があるにこしたことはないですの。
それで、ここからはこの上を歩いて向こうに渡ればいいんですの?」
「ああ。そうするつもりだ。あんなの相手するより、島でびっくり貝を相手にした方が楽だし効率的だ」
「あっちにもいるかなあ」
そんな会話をしている間に愛衣の気力も完全回復したので、海面に張った何枚かの盾を動かしながらその上を歩いて皆で目的の小島を目指す。
この移動方法を取ったことによって、下からの攻撃に心配する必要もなく、島の手前で待ち伏せる魔物の場所まで近づいて行く。
後ろからも未だにこちらを海中から監視しているのも、伝わってくる。
「それじゃあ、やるよ」
「ああ、こっちも準備オーケーだ」
「ふっ─────」
愛衣が気合と共に鎧に気力を注いでいき、黒く染まった霧状の気力を大量に生み出していく。
そのあまりの気力量に、前方の魔物達が一歩後ろに下がっていく。
そしてその瞬間、今いる場所から島まで一直線に盾が並び、巨大な橋が出来上がる。
その突然できた足場に、《水歩》というスキルで海面に立っていた魔物たちは、水面とは勝手が違うために足を滑らせて倒れ込んだ。
それを《成体化》したジャンヌとその上に乗った奈々、そして自前の足でアテナが全力で駆け抜けて隣接すると、魔物たちが体勢を整える前にジャンヌが踏み砕き、奈々が飛び降りて竜の牙で首を骨ごと突き、アテナが力任せに拳で破壊していく。
そして魔物側が体勢を整え終わった時には、既に四匹しか残ってはいなかった。
死屍累々の現場を見ても恐れることなく、距離を取り直して四匹はこちらに歯茎を見せて唸ってくる。
「おおっ、なかなか気合はいってるっすね~。そういうの、嫌いじゃないすっよ!」
「ヒヒーーン」「あっ、抜け駆けですの!」
臆さず立ち向かおうとする姿勢にアテナの闘争心が刺激され、ジャンヌたちが動き出す前に飛び出していく。
ジャンヌも十分に足の速い方なのだが、まだジャンヌよりもレベルの低いはずのアテナに追いつくことができない。
そしてアテナは獣のようにその長くしなやかな足で走り抜けて先行し、中央にいた魔物の前に立つと、四方から四匹が襲い掛かってきた。
アテナは直ぐに《竜装》を展開し、白い頭部を含めた全身鎧を身に纏うと、むこうがこちらに牙を当てる直前に一歩下がって右隅と左隅の一体の頭を掴み、真ん中の二体を挟み込むようにして潰そうとした。
しかし二体はアテナが予想した通り、体を捩じって躱し、頭を掴んだ二体だけが頭と頭をぶつけて首から先が潰れて下に落ちた。
《竜装》の鎧に返り血がかかるのも気にもせず、アテナは残りの二体に目を向けた。
「こらー。一体くらい残しておきなさいですの! おとーさまにあげる分が無くなってしまいますのーーーー!」
「あっ」
「あっ。じゃないですのーーーーー!」
「てへっ」
「可愛く言ってもダメですの!」
そこで合流したジャンヌと奈々に、アテナは魔物から視線を外して振り返った。
するとそれを好機と取ったのか、魔物はここぞとばかりに水掻きの付いた前足から三十センチほどのナイフのような爪を出し、二匹同時に音もなく切りかかってきた。
「ダメダメっすね」
「グワゥっ!?」「グガッ──」
しかしそれはアテナのフリであり、攻撃するタイミングですよとワザと隙を作ったにすぎなかった。
アテナはその気配を完全に読み切って、向こうの攻撃が届く前に一匹は左手で足首を掴んでジャンヌたちに文字通り丸投げし、もう一匹は右手の手刀を脳天に振りおろし地面に叩きつけた。
そして痛みで立ち上がれないところに、頭に手を当て電撃を直接放って気絶させた。
「ジャンヌおねーさま、一匹来ましたの」
「ヒヒーン」
水の中や水の上なら走れるが、空は走れない。
なので、落下に身を任せてジャンヌたちのもとに落ちてくる魔物を待ち構える。
魔物もただでは負けないとばかりに後ろ足からも爪をだして滅茶苦茶に四本足を振り回しながら落ちてきた。
しかし、それはジャンヌが起こした竜巻に吸い込まれ回転させられ、長い爪が災いして自分の体を傷つけてしまう。
それに気が付いた魔物はすぐさま爪をしまうと、それを見計らったかのように真下に作られた、愛衣が作った盾の橋に叩きつけられ一瞬意識が遠のいた。
その瞬間を狙って奈々が接近し直接触ると、生魔法を使ってより意識を白濁させていき、最後には完全にそれを奪い取った。
「こっちも生け捕りできたっすよ~」
「こちらもばっちりですの」
「ヒヒーン!」
そうしてジャンヌ、奈々、アテナたちは小島までの邪魔者を排除することに成功した。
一方。ジャンヌたちが接敵し戦闘を始めた頃、竜郎たちは竜郎たちで後ろから盾の橋に乗り込んできた魔物の相手をしていた。
「うーん。すばしっこいし、こっちから突っ込んでって接近戦になった方が楽かな」
「じゃあ、俺がフォローする」
「ん、ありがと──」
愛衣は礼を言って竜郎の頬に軽くキスをすると、十匹ほどが群がって上陸してきた魔物に突撃していった。
なので竜郎も呆けている暇はないと、唇の当たった感触は一旦忘れてすぐさまカルディナに指示を出した。
「カルディナ、愛衣の補助を頼む。もう水中からの奇襲はできないから、水中への探査は一旦打ち切ってくれ」
「ピュィーー」
「あ、あとあまり高い所は飛ばないように。上から妙な鳥が降ってくるからな」
竜郎の指示に従い、カルディナは低空飛行で愛衣の向かった方角へと飛んでいった。
そして竜郎も盾と盾のわずかな隙間から水魔法の魔力を海に流し込んでいって大渦を発生させ、未だ水中にいる連中が上がってこられないように翻弄し始めた。
そしてさらにそこへ火魔法を混ぜていき、温度を一気に押し上げていき渦内部の水温を沸騰させていく。
水面付近に潜んでいた魔物は熱湯に焼かれて死んでいくものと、渦にのまれる前に海中深くまで潜って逃げたものの二つに分かれ、これで愛衣のいる場所に追加で現れることはなさそうである。
なのであと竜郎のできることは、この魔法を愛衣が片付けるまで続けることだけである。
『追加注文はお断りしたから、後はそこにいるのだけだぞー』
『はいよー。お土産も持ってけたら持ってくね』
『頼んだー。気を付けてな』
『うーい』
愛衣は軽く返事をして、目の前の敵に宝石剣を出して突撃していく。
今は盾を大量に展開して制御しているので十全の状態とは言えないが、それで目の前の魔物に後れをとる愛衣ではない。
愛衣は剣に気力を纏って中央に割って入ると、まず三匹を一刀の下に切り伏せた。
「あと七匹──」
突然の凶行に戦くものの、魔物の方も負けじと爪を出して応戦にかかった。しかし近づけば一瞬で肉塊へと変えられて、すでに残り三体のみである。
その残った三体も、追いついたカルディナが愛衣に気を取られている間に横っ面から飛び込んで、一匹攫って宙に持ち上げ急降下すると、勢いよく盾の橋にぶつけて圧殺した。
「二匹くらいは欲しいよね」
「ピューイ」
愛衣の上を飛び回り、残り二体にカルディナは土の塊を足で器用に投げつけて魔物の意識を霧散させる。
魔物が反射的に土塊を避けて意識がこちらから逸れた瞬間、愛衣は宝石剣から鞭に切り替え一匹の首に巻きつけて絞め落とす。
その不意の一撃に一瞬動きが散漫になった残りの一体は、急接近する《真体化》したカルディナに気がつかずに首を太い後ろ足で掴まれ、こちらも死なない程度に絞められてやがて気絶した。
「よっし。お土産もできたし、たつろーのとこに戻ろっか」
「ピィーー」
そうして戦利品の魔物二体を持って竜郎と既に合流していた、前に突出していたジャンヌたちのもとへと駆け足で向かった。
「ほい、お土産ー」
「ああ、ありがとな。でもそれは一旦陸に上がってからにしよう。そこなら、アイツらも追ってこないだろうし」
再び細かく水中探査をすれば、まだまだ追加の魔物がうようよ海中に潜んでいる。
なので急いで盾で造った橋を皆で駆け抜けて、ようやく目的の小島に上陸したのだった。
まず砂浜に潜んでいたびっくり貝を、速やかに倒して先ほど手に入れた四体の魔物を首だけ出した状態で、竜郎が土魔法で埋めて突然目が覚めてもいいように処理をして、それから《レベルイーター》を順に使っていく。
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レベル:26
スキル:《水歩 Lv.5》《かみつく Lv.2》《引っ掻く Lv.3》
《音波探査 Lv.5》
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(《音波探査》か。道理で、正確にこっちの位置を把握していたわけだ。後は水を歩くためのスキルが珍しいくらいで、魔法系のスキルは無しと)
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レベル:26
スキル:《水歩 Lv.0》《かみつく Lv.0》《引っ掻く Lv.0》
《音波探査 Lv.0》
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SPを計(39)手に入れた後は、既に呪魔法で補助しなくても巨大金槌を持てるようになったリアが、体の埋まった魔物の頭を、モグラ叩きのように破壊していった。
「あっ、《槌術 Lv.2》に上がりました」
「ってことは、あと一レベルで鍛冶師のスキルが取れるんだね」
「はい。そうなれば、ナナの持っている牙を少し加工できるようになると思います」
「それは素晴らしいですの! 早くあげろですの!」
「だからららああががががんんばっててててるるんででですすす」
奈々がリアの肩をガクガクと揺らしているのを見て、アテナも一つ便乗してみることにした。
「奈々姉の牙が加工できるなら、あたしにも何か造ってほしいっす。竜のろっ骨とかで造れないっすか?」
「観てみないと解りませんが、私は鍛冶スキルが低くてもそれを補う目がありますから、おそらくそこまで凝った造りでないなら可能だと思います」
「なら頑張ってスキルをあげっるす~。とーさん、カル姉、早く敵を探してほしいっすー」
「ああ、わかったよ」
好戦的だが普段はぼーっとしているアテナにしては珍しく、テンション高めで催促してきて、竜郎は子供っぽい所もあるんだなと微笑ましく思いながら、カルディナと一緒にびっくり貝探しに乗り出したのだった。




