第15話 強襲
満足な量とまではいかないが、一先ず食べ物を口にして満足した二人は今、竜郎が使った調理道具や魚の捕獲に使った網を見つめていた。
「うーん、これをここに置いていくのは勿体ないな」
「持っていくにも嵩張るし…あ、そっか、《アイテムボックス》!」
「《アイテムボックス》って、確かシステムのスキルの一つだったっけ?」
「そうそれ、一定の体積量をシステムに収納できるらしいよ」
「へー、詳しいな」
「うん、私もなんか便利なスキルほしいなって思って色々調べてたの」
「そうなのか。ああ、でも愛衣と《アイテムボックス》の相性はよさそうだな」
「でしょー」
愛衣はどんな武術系スキルでも簡単に覚えられる。そのため多くの手段を用いることができるが、それには道具がいる。剣、槍、弓、投具など、それら全てを持ち歩き、状況によって一瞬で使い分けることが可能なら、愛衣はその能力を十全に発揮できるだろう。竜郎もその考えに至り得心顔になった。
「SPはいくつ必要なんだ?」
「マップと同じ(9)だよ」
「そうか、まあ愛衣ならレベルもすぐ上げられるだろうし、それくらい問題ないだろうな」
「うん、じゃあ早速とるよっ」
「ああ」
愛衣は慣れた手つきでシステムを操作し、《アイテムボックス》をすぐに獲得した。すると、早速システムの項目が追加されていた。
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ステータス
所持金:0
パーティ
スキル
アイテムボックス - 使用率:0%
ヘルプ
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「ん、大丈夫みたいね。でー使い方はーと」
ヘルプを使って愛衣は使用方法を入念に調べ上げると、システムを消して顔を上げた。
「できそうか?」
「うん、思った以上に便利かもしれないよ、これ」
そう言って竜郎製の道具たちに手をかざすと、手の平が向いた物から順に光の粒子になって、愛衣の方へ吸い込まれていった。
「おおっ、すげーな! それってすぐ出せるのか?」
「もちろん!」
愛衣が手を前に出すと、そこからまた光の粒子が飛び出して形を成すと、石のタライが出てきた。
「疲れたりとか、デメリットはないか?」
「うん、大丈夫だよ」
満面の笑みで手をかざし、タライをしまい直した。
「それは、便利だな。次は俺も取っとくか」
「たつろーなら拡張とかもどんどんできるだろうし、きっともっと便利になると思うよ」
「拡張?」
「あれ? マップ機能取った時に出てこなかった?」
竜郎は「はて?」と自分のシステムからスキル欄を表示し、マップ機能の欄を見直すと、《マップ機能 拡張機能追加+1》という項目がいつの間にか追加されていた。
「拡張ってこれか、マップ機能の欄はあれから一回も見てなかったから気が付かなかった」
「そっか、魔法の所ばっか見てたから」
「ああ、そうか…そういうのもあるんだな。これからは取った後も見てみるとするよ」
「そうだねぇ」
それから、まだたくさん 《アイテムボックス》に空きがあると言うので、竜郎はクナイのようなものを、そこいらの石で量産して愛衣に渡しておいた。
また、その後の道中で、五十センチ程の岩を見つけ、ちょうどいいと巨大な石槍にしてそれも渡した。
荷物の心配がなくなった二人がまた歩きだして暫くすると、いよいよ夕日が差し込んできた。
「もうすぐ夜か」
「だねー」
「もう少し暗くなったら、また一晩過ごせそうな場所を探していこう」
「わかった───ん? たつろー」
「ああ、何か来る」
二人の耳に、森の茂みの方から大きな音を立てながら、複数の何かがこちらに向かっているのが聞こえてきた。
「今日は穏便に終わると思ってたのになあ」
「そう甘くないってことだな」
近くに隠れられそうな場所もなく、竜郎はいつでも魔法を撃てるように、愛衣はクナイを両手に持って備えた。その間にも音はどんどん大きく近くなる。
「ビュヒイイイィーーーーーー」
そんな鳴き声が聞こえたかと思うと、二メートルはありそうな牙が四本生えたイノシシ似の動物が飛び出してきた。
「愛衣っ!」
「わかってる!」
一言でお互いの意思疎通をし、愛衣は両目に向かってクナイを二本投げ込む。
イノシシ似は相当焦っていたようで、飛び出しざまに目に向かってくるクナイを躱せず、もろに突き刺さった。
すると「ビイイィーーーーーー」と叫びながらすっ転び、ゴロゴロとこちら側に来たところで、竜郎が火魔法をめいっぱいの火力でぶち込んで丸焼きにする。
しかし、それでもまだ死なないイノシシ似に愛衣は《アイテムボックス》から石槍を取り出し、《身体強化 Lv.6》を使って底上げした力で脳天に突き刺した。
《スキル 槍術 Lv.1 を取得しました。》
《『レベル:13』になりました。》
そのアナウンスと共に、イノシシ似は完全に動きを止めた。しかしこれで終わりでないことを、こちらにやってきている足音たちが教えてくれる。
愛衣は急いで脳天から石槍を抜いたが、先端が砕けてしまっていた。そこで竜郎は慌てて土魔法で修復する。
「来るぞっ」
「先手必勝!」
その掛け声と共に強化した体で、クナイを茂みの方から来るであろうモノに向かって投げ放った。しかし、キンッと金属音のような音が聞こえ──次の瞬間。
「グオオオォーーーンッ」
と言う鳴き声と共に、三匹の巨熊が姿を現した。
「な、にあれ……」
「熊、にしてはデカいし、背中に何か生えてるぞ」
そういう二人は取りあえずとしてイノシシ似の躯を盾に陣取り、相手を見る。
そいつらは巨大な茶色の熊の容姿をし、後ろ側全体を手の甲に至るまでビッシリと大きな水晶を棘のようにいくつも生やして覆っていた。
愛衣のクナイはこれに弾かれたようだ。また一番大きい個体は五メートルに達し、他の巨熊が青い水晶を生やしているのに対し一匹だけ黄金色の水晶をしていた。
巨熊たちはイノシシの死骸を見て、こちらにやってくる。それに対し竜郎はすぐさま《レベルイーター》を発動して、黄金水晶の熊との直線上に黒球を吹いた。
その頃には、あちらも竜郎たちの存在に気付き、歩みを緩めてこちらを睨んできた。
「グルオオオォ」
威嚇のつもりか青水晶の熊の二匹がうめき声をあげた。黒球はその間にもノロノロ進み黄金水晶の熊に向かっていく。
先に動いたのは青水晶の熊の一匹で、何故かまだ距離があるのにもかかわらず、右手を上に上げて引っ掻くようにして振り下ろした。
それに竜郎は何を?と疑問の表情を浮かべたが、愛衣は違った。
「危ないっ」
そう言って竜郎を抱えて横に飛ぶ。すると、さっきまで竜郎のいた場所に、ザンッという音と共に爪痕が刻まれた。
「──なっ」
愛衣は三メートルの距離を竜郎を抱えて飛び、竜郎を下しながら熊たちを正面に見た。
「たつろー、今のは気力を使った攻撃だった。
たぶんあいつら、今まで出てきた中でも段違いに強いよ」
「─────みたい……だな」
愛衣の言葉と共に、黒球が黄金水晶の熊に入り込んだのを確認した。
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レベル:51
スキル:《統率 Lv.8》《かみつく Lv.8》《引っ掻く Lv.8》
《嗅覚 Lv.2》《爪襲撃 Lv.9》《岩吐き Lv.7》
《突進 Lv.7》《黄金水晶鎧強化 Lv.10》
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「────化け物じゃねえか」