第155話 アテナ
無事に名前も決まり、アテナが正式に仲間になったところで、早速パーティ申請してもらい、どんなステータスを持っているのか皆で確認していった。
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名前:アテナ
クラス:-
レベル:1
竜力:118
筋力:16
耐久力:16
速力:11
魔法力:19
魔法抵抗力:19
魔法制御力:14
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜力路 Lv.3》《竜装 Lv.3》《乾坤一擲 Lv.3》
《雷魔法 Lv.3》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
なし
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「あれ、アテナは飛翔系のスキルはないのか」
「そっすよー。竜種で例えるなら、カル姉達は飛竜、そしてあたしは地竜って感じっすかね。
だからジャン姉や奈々姉たちとも違って、《真体化》しても翼とかは生えたりしないっす」
「そうなんだ。でもその代わりみたいな感じで《竜力路》ってのがあるけど、これは何?
こっちは表示が薄くなってるって事は、《真体化》専用スキルって思っていいんだよね」
「そのスキルは、竜力で引いたレールの上をすすす~っと走るスキルっすね。
これは足場のない場所にも引けるんで、空でも移動出来たりもするんすけど、あんまり複雑な路は作れないんで基本直進のみっす」
一つ目のスキルについて聞き終えると、すぐに今度は奈々が次のスキルについてアテナに質問を始めた。
「それじゃあ、この《竜装》っていうスキルはなんですの?」
「なんか強そう」
「あー、それは竜力を具現化して装甲を纏うって感じっすかね。
なんで、皆が思ってる様な攻撃系とかじゃなくて、どちらかといえば防御系のスキルっすね」
「それはそれで、頼りがいがありそうでいいけどな」
「ありがとっす、とーさん」
あまり表情の変わらないアテナが、そこで少し笑みを浮かべたのを竜郎は見た。
そしてそんな間に、愛衣は別の事が気になり始めた。
「そういえば、今のアテナちゃんは《成体化》?」
「そっすよ」
「じゃあ、《幼体化》すると奈々ちゃんくらいの小さい子になるの?」
「え? あたしはそうじゃないっすよ」
「そうなのか? それじゃあ、見せて貰う事はできるか?」
「いっすよ~。そっちはそっちで楽そうっすから~。んじゃ、といやあー」
なんとも気の抜ける掛け声と共に、アテナの体が変化してみるみる小さくなっていく。そして、なんと三十センチ近くまで縮んでいってしまった。
まさか赤ちゃんになったのではと、よくよく見れば、それは赤子ではなかった。
「ねこちゃん!」
「いやー……、これは猫じゃなくて……虎っぽくね?」
「ガァオ」
そこに現れたのは、ホワイトタイガーの子供そっくりな、ぬいぐるみの様にコロコロしたネコ科の動物がいた。
しかしネコだろうが、トラだろうが愛衣にはどちらでもいい事なので、抱き上げてぎゅーとしていた。
虎の子──もといアテナは、それに対しされるがままにぐてーと力を抜いて身をまかせていた。
アテナ本人は別段嫌そうにしている様子もなかったので、竜郎はとりあえず放っておくことにした。
「あと気になると言えば、《乾坤一擲》か。これはどんな?」
「ガァ~ガガァ~~~ァ~オ」
「あなた、わたくしに説明させる気ですの? ご自分で説明しなさいですの」
「ガァ……。しょうがないっすねえ」
「しょうがなくないですの!」
虎の姿のまま説明しようとしたが奈々に怒られたため、アテナはしょうがないなあとばかりに愛の腕から降りて、《成体化》して人型に戻った。
「そのスキルはアレっすよ。サイコロ振って、伸るか反るか大勝負をかける時に使うもんっす」
「「さいころ?」」
またこの場にそぐわぬ単語が出てきて、竜郎と愛衣は首を揃って傾げると、アテナはこくこくと頷いた。
「そうっす。魔力なり竜力なりを半分消費して出来た十面のサイコロを振るんすね。
んで、出た目によって何かがランダムで強化されるってわけっす」
「何かって、結構ふわっとしたスキルね。じゃあ例えば、1が出たらどーなるの?」
「1は外れっすね。その目が出た場合、強化値はゼロっす。
魔力ないし竜力を消費しただけで御終いっす。正直このスキルは、最低5以上は出さないと割にあわないっぽいっすね」
「文字通り乾坤一擲ってわけか。ギャンブル要素の高いスキルだな。
使いどころが難しそうだ。ん? でもこれレベルがあるが、上がるとどんなメリットがあるんだ?」
強化値は数字で決まるようだし、消費魔力も半分と決め打ち。であれば、レベルの意味がなさそうなものではないかと竜郎は考えた。
しかしアテナ曰く、そうでは無いようだ。
「最高強化値の10が出る確率が上がるっす。スキルレベル10になれば、そこそこ出るみたいっすよ」
「けどランダム要素が無くなるわけではない─と。ん~使えるようなそうでないような、変わったスキルだね」
「使えるかどうかはさておき面白そうっすから、あたしは気に入ってるっすよ」
「まあ、本人が気に入ってるのならいいか。でも、使う時は気を付けてくれよ」
「りょーかいっす~─────ガァ~」
了承して直ぐに、そちらの方が楽なのか小虎になってうつ伏せに寛ぎだした。
「あらら、ねこちゃんに戻っちゃった」
「猫じゃなくて虎な。しかしまた、自由な子が生れたなあ」
「自由すぎますの……」
カルディナやジャンヌ、奈々はなんだかんだと熱心な子達で偶に心配になっていたのだが、こういう子が一人いればある意味場の空気を抜いてくれそうだと竜郎は思ったのだった。
しかし、アテナにはまだやることがある。今まで姉たちが通ってきた、瞑想タイムである。
実はもう部屋の隅でリアは瞑想しており、いずれは回復速度上昇系が手にはいる事だろう。
そうしてアテナを《幼体化》のままリアの隣にちょこんと座らせて、瞑想に入ってもらう。気質的に面倒臭がりそうかもとも思ったが、ぼーっとするのは好きなようで、積極的に修行に入ってくれた。
それから竜郎と愛衣が風呂から上がるまでリアは瞑想を続け、アテナは夜通し続けたのだった。
この日は朝早く支度を済ませると、竜郎はリアにカルディナと奈々の力を借りて姿を幻視させる魔法を使用して、見た目は何処にでもいそうな人種の女性に偽装してから外に出た。
そしてそのままタイルアートのなされた道を歩いて門まで向かっていき、途中少しそれて《成体化》したアテナを人目に付かぬ様に出てきてもらい、冒険者ギルドに寄っていく。
そこでアテナを冒険者登録して、身分証を作っておいた。
それ以外することもなかった上に、魔法がかかっているとはいえ、冒険者の中にはどんな能力を持った人間がいるとも限らないので、あまりリアを人目に晒したくなかったため速やかに出た。
それから門を特に何事もなく潜っていき、町外に出る事が出来た。
「よし、妙な連中にも目はつけられずに、無事外に出られたな」
「私のせいで、手間を取らせてしまってごめんなさい」
「まあ、ちょくちょく魔法をかけ直すぐらいで、実質そこまでってわけでもないから気にしなくていいさ」
「そうそう、変にかしこまられると私達もやりづらいし」
「なら、いいのですけど」
「リアはせっかく健康になったのに、胃に穴を開けそうなタイプっすね~。
んじゃ、あたしの用は終わったみたいなんで、《幼体化》で魔力温存しとくっす~」
相変わらずマイペースなアテナは、町から少し離れて人気が無くなると直ぐに《幼体化》し小虎になると、おいでーと手を伸ばす愛衣の胸に飛び込んでへばり付いた。
今は別段してもらう事も無いので、竜郎はまあいいかと愛衣の胸に抱かれて気持ちよさそうに目を細めるぬいぐるみの様な虎の頭を撫でた。
そしてそのまま、より人目のない場所まで歩いて町から離れると、ジャンヌと奈々を呼び、竜郎のポケットに入っていたカルディナは《成体化》した。
次に《アイテムボックス》から犀車を出して、ジャンヌにつながせてもらうと、天板にリア用の外席とアテナ用の外席を作り、揺れた時に落ちないように座席の前にΠ型の手すりと一緒に、カルディナの特等席の左右に取り付けた。
そしてまず二人は御者席に乗り込み、リアはこれから共にしていくことにもなっているので、二人の寝床になっているロフト以外は個室の出入りも自由にしていいと言っておいた。
だが、天井で犀車上からの景色が見たいと言ってカルディナの横の席を選び、意気揚々と個室から梯子を昇って天板の席に座った。
一応追われているのだから、呪魔法を使っているとはいえ個室の方が良いんじゃないかとも思ったが、ジャンヌのインパクトが強すぎて天井に目がいくこともそうないというのと、今までほとんど外に出られなかった反動もあるのだろうと、何も言わずにその行動を二人は見守った。
それから全員しっかりと席に着いたのを確認してから、竜郎はジャンヌに出発の合図を飛ばした。
段々と動き始め、長くまっすぐ伸びた道をジャンヌに引かれた車も一緒に加速し始めた。
「わあっ、すごいです!」
「ガァ~」
「ああ、すいません。アテナさん」
「ガー」
思わず席から立ち上がって危なげに動こうとしたリアを、アテナが前足でぺしっと軽く虎ぱんちしてたしなめ座らせていた。
その光景に二人の顔にも思わず笑顔が浮かび、道中楽しく進んでいった。
そして昼が少し過ぎたあたりで速度を落として道から外れた所に停車すると、お昼ご飯と魔力補給のための休憩タイムとなった。
魔力補給はもうそんなに小まめにする必要もないのだが、カルディナ達は小まめに構ってもらいたいようなので、昼ご飯の準備をしながらも二人はその相手もしながら恒例のバーベキューのセッティングをしていく。
そして今度は竜肉を三人前用意して火を付けたらそっちは奈々とリアに任せて、竜郎と愛衣は道中、御者席で金属製の入れ物にいれて炊いた米の出来を確かめた。
小まめに火加減等を確認していたので、金属製の容器に張り付いた部分が少し焦げた程度で、十分満足いく出来になっていた。
米、肉、そして野菜に果物も用意して、食料供給をほぼ自前でできるようになったことに少し感動しながら、リアも交えて三人で昼食を取った。
その際。
「お二人は、焼く料理ばかりだとナナが言っていましたが、本当ですか?」
「そだよー。てゆーか、私たち料理とかできないから本当に簡単な物ばっかりになっちゃうんだよね」
「料理本とかも買ったから、いずれは……いつかは……いつの日にか……とは思っているんだが、結局やらないんだよなあ」
「あの。それなら、私にその料理本を貸してくれませんか? 料理とか、やってみたいんです!」
「「………………マジデ?」」
「まじで、です!」
両の手で拳を造り、リアの深紅の瞳には気迫が籠っていた。
その目はただ何もしないのは肩身が狭いとか、そういった後ろ向きな意思ではないと如実に二人に語りかけていた。
「……えーと、ダメ、でしょうか?」
「リア!」「リアちゃん!」
「ひゃいっ」
竜郎はリアの右手を、愛衣は左手を同時に両手で握り、潤んだ瞳で見つめ返した。
「「お願いします!」」
「─────はいっ!」
そうして見せた笑顔はどこまでもまっすぐで、竜郎と愛衣、そしてリアはそこでかたくかたく握手を交わしたのだった。
ちなみに余談であるが、わたくしも手伝ってあげますの。と、それを見ていた奈々がリアの助手をかって出たことを追記しておく。




