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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第151話 報酬と今後の予定

 竜郎は何故博士の家にレジナルドがいるのか予想がついたため、思い切ってその答えを口にしてみた。



「もしかして人工の魔石製造に必要な苔の育成方法の解明を、博士に頼んでいたんですか?」

「んー、そうだよ。博士はその道ではかなり有名だからね。

 隣の領の人間ではあるが、この国の発展のためにと頑張ってくれているんだよ」

「あー、そういえば鎧買った時に苔がどうのこうの言ってたかも。

 それの研究のために、自分の足であの時もここに来てたんだ」

「それも正解だよ、アイくん」

「やったあ。当てちゃったぜー」



 素直に喜ぶ愛衣が可愛くて、無意識に竜郎はその頭を撫でながら、さらに推察していく。



「そして水槽の製作もかなり気合を入れて自ら頑張っていたようですし、もしかして僕らが捕まえてきたピポリンに、その育成法の鍵が握られているんですか?」

「……はあ、そこまで解っているのなら隠す必要もないか。その通りだ。

 僕が二十年ほど前に拾った、ピポリンの脱皮後の皮膚から取れた体液を利用して育成してみたところ、まだ不安定ではあるが爆発的な成長を観ることができた」

「体液って、よくそんな二十年も前の皮についてたね」

「珍しいからな、子供ながらに家にあった父親が研究に使っていた密閉容器に入れて保管していたんだ。

 そして偶々苔の研究時に近くにおいていたら、藻が反応してな。これはと思って試したら案の定だ。それで──」



 それでサンプルを得ようと普通のピポリンを、大枚を叩いて集め実験したのだが、そちらには全く反応は無かった。

 川に適応したピポリンならと、捕まえてきてもらったピポリンを無理矢理川に放流してみたが、こちらは全滅。

 他にも色々と試行錯誤してみたものの、あの滝に住むピポリンを再現することが出来ず、ならば本物をと冒険者ギルドに依頼を出してみても、誰も今日まで捕まえることは出来なかった。



「だが、君たちのおかげで現物が手に入った。礼を言おう」

「礼を言うなら、米をおくれ」

「あ? ああ、そうだったな。君たちは、僕の要望に応えてくれたのだからな。待っていろ、直ぐに持ってくる」

「はーい。すぐ来るって」

「ああ、楽しみだな」



 竜郎と愛衣は微笑みあいながら席を立って、家の奥に向かっていく博士の背中を見送った。

 思えばただ米を手に入れるだけの軽い気持ちで寄ったのに、また妙な状況になったものだと、ここにいるメンバーで談笑していると、五分ほどで博士が何やら手に持って帰ってきた。

 はて、米を取りに行ったはずなのに、何を持ってきているのだろうと思いながら見ていると、博士は二人の前に手に持ったソレをポンとおいた。



「ほら、これが約束の米だ」

「は?」「え?」

「ん? まさか食ったことはあるのに、調理前は見たことが無いのか?」

「いやあ……えーと、これがコメ…ですか?」



 それはどう見ても竜郎達の知っている米でも稲でもなく、全く知らない植物だった。

 まず、四十センチ程の幅の鉢の中央から、周囲十センチ程の緑の太い茎が三十センチくらい上に伸びていた。

 そして伸びた先からは、四方八方に何本も柳のように茎が枝分かれして垂れ下がり、先端部には拳大程の丸く茶色い物がぶら下がっていた。

 二人が想像していたものとは程遠い物が出てきて唖然としていると、博士は面倒臭そうに口を開いた。



「ったく。食べたことがあると言いながら、調理前の物は見たことが無いんだな。

 ──こんな事は普段絶対にしないんだが、まあ今回は助かったからな。特別にやり方を見せてやる」

「え? ああ、えっと──」



 竜郎がどう言ったものかとまごついている間に、また博士は慌ただしく席を立って奥へと引っ込んで行ってしまう。

 二人は目の前に置かれた米と呼ばれた何かを繁々と見るが、どこからどう見ても白い粒が出てきそうな所が無い。

 そんな風にしていると、今まで興味深げに見ていたレジナルドが話しかけてきた。



「この米というのは私も初めて見たんだがね、美味しいのかい?」

「は? ええ、僕らの食べたことのある米は美味しいですよ」

「へえ、そうかい。私も博士に分けてもらえないかなあ」



 などと話していると、水の入った鍋に、台座のような四角く銀色の箱を持ってきて、ズボンのポケットには金槌を入れてどたどた音を立てながら博士が帰ってきた。

 そして何をする気かと見守っていると、ちゃんと見ておけよと竜郎と愛衣に言って、茎から枝分かれして垂れ下がった先端部に付いた丸く茶色い物体を五つほどもぎ取ると、玉ねぎの皮でも剥くかのようにベリベリと茶色い皮をむいていく。

 そうして二、三枚程度の皮をめくり終わると、中から真っ白な丸い物体が出てきた。

 その色は米そっくりで、これはっと二人の視線が集まっている中で、博士はポケットの金槌を取り出してその白い物体を叩いて砕いていった。

 その突然の行動に目を白黒している間にも、博士は他のもぎ取った物も同様の工程で砕いていく。



「こんなもんか。僕も慣れているわけじゃないから、大きさは不揃いだが気にするなよ」

「はあ」「うん」「ほうほう」



 リアの介抱を任せている奈々以外の竜郎、愛衣、レジナルドは三者三様の様相で博士の行動を見守っていた。



『なんか、細かく砕くと米っぽいな』

『うん。これはもしかすると、もしかするかも!』



 そうして博士は砕いた粒上の白い物をざざっと鍋に入れて蓋をして、銀の台座にポンと乗せると、側面に付いた赤いスイッチを押した。

 すると、だんだんと鍋の中の水の温度が上昇していくのが熱気で伝わってきた。



「この量だと、大体一時間くらい煮れば完成だ」

「おお、なんかそれっぽい」

「ぽいとはなんだ。これは正真正銘、米に相違ない」

「ああ、すみません。別に疑っていたわけじゃないので、気にしないでください」

「ふん、まあいいさ」



 そんなこんなで、各々の時間を過ごして待つこと一時間。

 リアはまだ眠っているようなので、そのまま奈々に任せて博士が蓋を開けるのを見守る、竜郎と愛衣とレジナルド。

 博士が蓋を開ければあら不思議、竜郎たちが嗅いだことのある香り、そして見覚え有る白い粒粒と光沢。粒の大きさにムラこそあるものの、それは米と言ってもいいほど酷似していた。

 二人が無意識に口内に唾を溜めていると、博士は待ち時間に用意した机に座っている人数分の皿にスプーンで盛って渡していった。



「ほら、食ってみろ」

「はいっ」「うんっ」「では、私も失礼して」



 竜郎と愛衣は自前の箸で、レジナルドはスプーンですくってそれぞれ頬張った。



「んんっ」「ん~~」「これは──ふむ、なるほど、なるふぉど」

「これで間違いないと解ったか」



 竜郎と愛衣は、少し感動しながら激しく頷いた。

 食感はほんの少しだけ違うのだが、味は本当に米そのもので、身に覚えのある味が口いっぱいに広がっていく。

 それに竜郎と愛衣は目を合わせて頷きあうと、竜肉を適当にスライスして適当に塩を振って適当に火魔法で炙って米の上に置き、肉をおかずにして米を食べれば至福の時である。

 その美味しそうに頬張る二人の姿に、レジナルドと博士も肉を竜郎たちに頼んで焼いて乗せてもらい、がっついた。

 そうしてあっという間に米は無くなり、このプチお食事会もお開きとなった。



「博士、ありがとうございました」

「ありがとう、感動したっ!」

「感動とは大げさな……。まあ、こちらも肉を貰ってしまったうえに、目的のものが手に入ったのだ、気にしないでくれ」

「ええ。では、これは貰っていってもいいんですね」

「ああ。ただ、一つ注意しておく」



 竜郎が浮かれたまま《アイテムボックス》にしまおうとした時に、博士の真剣な顔と声音で振り向かされた。



「それは非常に繁殖力が強い植物でな、決して自分の土地以外で種を蒔くんじゃないぞ」

「はあ、それはするつもりはありませんが。そんなに強いんですか?」

「ああ、強すぎて他の植物を枯らす。だから、不用意に持ち歩いて種を落とすのも厳禁だ。それだけは約束してほしい」

「解りました。心に刻んでおきます」



 竜郎も、真剣な顔で博士に答えた。



「ならいい。あとは、好きに持っていってくれ」

「はい」



 竜郎の目におふざけも偽りもないと判断した博士は、手の平でどうぞと米を指した。

 なので遠慮なく米をしまって、大体の育て方も博士に聞いておいた。



「それで、タツロウくんたちはこれからどうやって雲隠れする気なんだい?」



 そのレジナルドの言葉に正直に答えようかどうか迷いつつも、そこは知っていたからと追ってこられる場所でもないので、竜郎は事前に調べてしっていたある場所に行くことを偽りなく伝えることにした。



「この町の近くに、レベル7のダンジョンがありますよね。実は、そこに暫く潜っていようかと思います」

「ちょっと、待ってくれないか。君たちなら大丈夫かもしれないが、リアくんはそうじゃあないだろ?

 あんな体質の子がいられるほど、甘い場所ではないよ」

「そこはまあ、そうなんですけど。少し考えがありまして、それが上手くいきそうならってとこですね」

「考えか。それを聞いてもいいのかな?」

「すみません、秘密です」



 その考えは身内以外に気軽に話せる情報ではないので、たとえレジナルドでも竜郎ははっきりと踏み込まれないように線引きした。

 そんな竜郎の素気無い態度にも動じず、レジナルドは笑って応えてくれた。



「それは残念だ。しかし、レベル7ともなると探索できる人間も限られてくる。

 だから取れる魔石の質は上がるが、採取には向いてないとさえ言われている。

 君たちでも油断していい場所ではないはずだ、行くのなら気を付けていった方がいいよ」

「はい、それは勿論。自分たちの命最優先ですから。ご忠告、ありがとうございます」

「それじゃあ、今日はどうするんだ? またそこのデカい箱に入れて、ドワーフの娘を入れていくのか?

 宿にそのまま入るのは、かなり目立つと思うが…」

「ですので、とりあえずこの町であんまり人が来なさそうな場所とその時間帯を教えてくれませんか?

 そこでまあ、少し小細工すれば何とかなると思うので」

「あ? ああ、まあそれくらいなら手をかそう。研究の秘匿のためにも、さすがに僕の家には泊められないからな」



 リアがいる間は、どこでどう聞きつけてモーリッツの手の者がここへやってくるとも限らない。そんな状況では、重要機密の研究を落ち着いてすることなどできないのであろう。

 それは竜郎たちも重々承知しているので、さすがに無理に泊めてくれと頼む気もない。なので、この町に住んでいる人間なら知っているだろう情報を提供してもらうのが一番いいと考えたのだ。

 そしてそんな考えのもと聞かれた質問だということは博士も気がついていたので、できるだけその問いに添う答えを考えた。



「そうだな……、人の来ない場所……。そこまで行くのにも見られない方が良いだろうし……。この家の裏手に回ってから───」



 竜郎は博士の言う道順を、マップ機能を見ながら正確に記憶していく。

 そして聞き終わってからもう一度道順が合っているのか確かめてから、竜郎は博士に礼を言った。



「まあ、このくらいならな。先に言った時間帯になるまでまだあるから、それくらいなら僕の家にいるといい」

「なら、お言葉に甘えさせてもらいます。リアも、まだ目が覚めていませんし」



 そうして博士が言った時間帯に近づくまで、のんびりと家の中で過ごしていれば、やがてリアもその目を覚ましたのだった。

次回、第152話は1月18日(水)更新です。

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