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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第148話 本来の目的

 竜郎が昼過ぎ頃に目を覚ますと、そこは愛衣の膝の上だった。

 どおりで心地いいはずだと竜郎が頭の下の太ももを撫でていると、頭をぺしっと叩かれた。



「おはよ、えろろー」

「ああ、おはよう。愛衣は今日も最高だな」

「そりゃどうも─」



 そう言いながら、愛衣は竜郎の頬にちゅっと軽くキスをした。そこで離れていきそうになった唇を、竜郎は手を伸ばして阻止すると、今度は唇同士でキスを交わした。



「あの、ナナ? あの二人っていつもあんな感じなんですか?」

「そうですの。ああ、仲良きことは美しきかな──ですの」

「はあ、そういうものですか」



 二人が一度だけに留まらず、何度も何度もちゅっちゅとする風景を、竜郎が寝ている間にいつの間にか仲良くなっていた奈々とリアが、片や美しい物でも見るような目で、片や新人類を見るような目で見ていた。

 そしてようやく気がすんだ二人は、ゆっくりと立ち上がった。



「ふう。昨日の疲労も取れたし、リアの呪いをバシッと解きますか」

「うん。バシッとお願いね」



 竜郎は念の為に生魔法でより体調を万全にし、それからカルディナと奈々とリアを呼び寄せた。

 そして必要な人員もそろったところで愛衣にくっついて貰い、いよいよ解呪の時間である。

 まずリアにかかっていた呪いの内訳は、呪と闇の混合魔法であり、呪魔法を闇魔法で弄れるだけ弄ってこのような精密な魔法を完成させているようだった。

 リアの話ではこれを一瞬でやってのけたというのだから、アーレンフリートというエルフの男は、呪魔法という観点においては完全に竜郎の上をいっているのは間違いない。


 そんな男の魔法を、水魔法と光魔法を使って打ち消していく。

 解りやすくその工程を例えるのなら、やたらと複雑な模様を、鏡映しのように逆に模写して重ね合わせると言えば解りやすいだろうか。

 今回相手の呪魔法のスキルレベルの方が竜郎の水魔法よりも高いので、そこは相手の闇魔法よりスキルレベルの高い光魔法で穴埋めする形になる。


 そうして昨日解析した結果に基づいて、相手の精密さに負けない程こちらも精密に逆の位相を魔力で作り上げていく。

 その位相が少しでもずれてしまえば、また最初からやり直しというプレッシャーの中で、竜郎はカルディナとピッタリ息を合わせて構築していく。

 そして一度だけ失敗してしまったものの、二度目で何とかアンチ魔法の生成に成功した。

 その結果、リアに掛けられた呪いは竜郎の魔法に浸食されていき、最後は綺麗に中和されて消え去ったのだった。



「これでもう、リアに掛けられた呪いは解けたぞ」

「ありがとうございました。といっても、まだ自分では実感はありませんが」

「そのなんちゃらってスキルの御目目おめめじゃ、そういうのは解らないの?」

「はい。自分の事だけは、識る事ができないんです。それが出来たのなら、この虚弱な体や異常な不器用さも解明できたのかもしれないんですが……」

「一番痒いところには、手が届かないってことですの? なんだかそう聞くと、あまり欲しいとは思えませんの」

「ええ。私もこんな事なら何のスキルも無く、普通の体が欲しかったです」



 どことなく自虐的にそう言うリアに、この場の空気も重くなっていってしまった。

 なので竜郎は両手を一度うち鳴らし、大きな声でここでまだやっていない事を話し始めた。



「よし、とりあえずもうリアが定期的に死ぬことは無くなった。なので次はここに来た目的を果たそうと思う」

「ここに来た目的……。そう言えば皆さんは、何をしにここまで来たんですか?」

「そりゃ、リコピンを捕まえに来たんだよ」

「りこぴ? なんですか、それは? 珍しい動物か何かですか?」

「ちがうですの、ピポリンという深海の魔物ですの」

「そう、ピポリンだ。ちなみに愛衣のは、ケチャップに沢山入ってる奴な」

「けちゃ?」



 ケチャップとそっくりな調味料は存在しているが、こちらとは固有名詞が違うのでリアにそちらは上手く伝わらなかったようだが、何かの魔物を捕まえに来たという方はちゃんと理解してもらえたので竜郎はそれで良しとした。



「そんで、いる事も解ったし捕まえようかってとこなんだけど、どうやってあんなに深くにいる魔物をこっちに持ってくるの?」

「そこが一番の問題だったんだが、今回は愛衣に目隠しクレーンゲームをやって貰おうと思ってる」

「私が、目隠しで、くれーんげーむ? どゆこと?」

「まず、俺がピポリンを捕まえる金属製のマジックハンドを作る。

 んで、それを滝壺に入れた状態で柄を伸ばしてピポリンの近くまで先端を持っていく。

 そこで愛衣にはそのマジックハンドを使って、こちらで指示した時にキャッチしてもらうという塩梅だ」

「ん~要するに、とんでもなく長いマジックハンドで捕まえるって事でいいの?」

「ああ、大体それであってる。愛衣のステータスなら、どれだけ長くても余裕でマジックハンドを持って挟めるはずだ」

「おっけー。んじゃあ、道具の方は任せた!」



 そして竜郎はまず昨日解析したときに触れた感覚から、深すぎて詳しい解析は出来なかったが、大体の大きさくらいは把握できていたので、それに合わせて水圧にも負けないように鉄よりかたいフェバス鋼のインゴットで四角い箱を作ると、それを斜め直線に割ってマジックハンドの先端部分を作った。

 あとは鉄のインゴットからそれに格子状に並べて造った柄を一本ずつ付けていき、ひとまず程よい長さで止めておく。

 そして試しにその状態で愛衣に柄のグリップ部分をハサミで切る様に広げたりくっつけたりすれば、きちんと先端部部が閉じて箱型になっていた。

 今回はこの先端部分の箱に、ピポリンを入れられれば成功だ。



「じゃあ、それを持ってついてきてくれ」

「はいよー」



 愛衣は強度を最優先して作ったため、そこまで軽量化できなかった金属の塊のマジックハンドを軽々持ち上げて竜郎の後ろをついて行った。

 そして竜郎は昨日得た情報から最適な立ち位置を導きだし、愛衣にそこに立ってもらった。

 そこは川縁から一メートル程後方で、落ちてくる滝の向かって右斜めの位置で、今回は川の上に立ちはしなかった。

 そして愛衣にマジックハンドを川に対して水平方向に持ってもらうと、大量の鉄のインゴットから柄の長さを追加して伸ばしていき、滝壺に向かって放物線を描くように先端を穴の中に挿しいれていった。



「おお、どんどん伸びてくね」

「ああ、のんびりしてたら日が暮れるから一気に伸ばすぞ。

 今よりずっと重くなるから気を付けてくれ」

「よっしゃ、ばっちこーい」



 竜郎は宣言通りインゴットをどんどん消費して柄を伸ばしていき、それ相応の重量を加算しながら近くで長さを図ってくれているカルディナが良しと言う所まで伸ばしていく。



「ピィーッ」

「ゆっくり、ですの」

「わかった」



 ピポリンが近くなってきたので柄を伸ばす速度を緩めて、ゆっくりと昨日いたポイントまで慎重に距離を詰めていく。



「ピューー、ィーッ」

「もっともっとゆっくり、ですの」

「わかった」



 カルディナの通訳をしてくれている奈々の指示通りに、さらに伸ばす速度を落としてゆっくりとゆっくりとポイントに近づけていくと。



「ピュー!」

「ストップですの」

「それじゃあ、位置を指示してくれ」



 上下方向を合わせ終わったので、あとは左右の微調整をする。これで、昨日と同じ場所にいるのなら捕獲できるはずである。



「ピィーピィーーーピユィッ」

「おかーさま、気が付かれないようにゆっくりと、もう少し右に向けてくださいですの」

「ん? こう……かな?」

「ピィッ」

「おっけーですの」

「それじゃあ、愛衣。持ち手をゆっくり閉じてくれ」

「はいよー」



 愛衣は気負うことなく、片手一本ずつ持ったマジックハンドの持ち手を大きなハサミで切るかのように、ゆっくりと閉じていった。

 やがて持ち手二本ほぼ同じ角度になったところで、場所を変更していない事を祈りながら開かないように注意して愛衣が引き上げていく。

 そしてその横で竜郎は、先ほどの行動を逆再生するかのように、いらなくなった分の長さの柄をインゴットに戻して短くしていく。

 そして愛衣がぐいぐいと引っ張り上げていくと、ようやく竜郎とカルディナの通常探査範囲に先端部が入ってきた。



「愛衣、一旦とめてくれ。中に魔物が入ってるか確かめるから」

「りょーかーい。入ってるといいなあ」



 今回は水と鉄ごしなので、解と水と土を光でブーストした混合魔法でカルディナと行使し、マジックハンドの先端部の中に目当ての魔物がいるかどうかだけを確かめる。



「よし、昨日から微動だにしてなかったみたいだな。死んでもないみたいだし、完璧だ!」

「それじゃあ、このまま一気に上げていいの?」

「いや、それだと急激な水圧の変化で死ぬかもしれないから、あともう少しあげたら、水魔法で引っ張り上げる」

「もう少しね」



 そうして愛衣はどんどん持ち手を手繰り寄せ、必要のなくなった分の柄を竜郎がインゴットにと作業して、完全に竜郎の魔法の使用範囲内に持ってくることに成功した。

 ここまでくれば、もう間怠っこしい手段は終りである。

 竜郎は水魔法を光魔法でブーストして川辺から滝壺に向かって生成した魔力を流し込んでいく。

 そしてカルディナに同期して探知情報を得ながら、マジックハンドの先端周囲の水を全て自分の制御下に置いた。



「これで後は持ってくるだけだ。愛衣、先端を開いてくれ。準備はできた」

「ん、後は頼んだ!」



 愛衣は、クロスした二本の柄を左右に引き離した。

 すると先端が開いて中にいた魔物は解放されたと勇んで逃げようとするも、水流があちこちに流れて上手く泳げない。

 そしてそのまま魔物は下に行こうとするのに、エレベーターのように周りの水が上昇していき自身も押し流されて浮上していく。

 そして、ついにそれは滝壺から顔を現した。



「あれがピポリンか」

「ちょっと可愛いかも!」

「ホントですのー」



 大きさは四十センチ程で、体表面は硬そうなガノイン鱗に覆われているが、全体的に丸く膨らんでおり、口はドーナツ型で丸くて大きな愛嬌のある目を持ち、パッと見フグのようにも見えるが、腹部にはカニの様な足が四本生えていた。


 その魔物は竜郎の操る水魔法で水圧をかけて貰っているので、急激な減圧によるダメージは皆無で、こちらの狙い通りピンピンしていた。

 それ故に必死で元いた場所に帰ろうとするも、ピポリンの周囲にある水の水流は竜郎の思うままなので、川辺の方に強制的に流されて、やがてその先の川縁に沈めて設置していた、鉄とフェバス鋼の二重構造になっている四角い入れ物に水ごと入って行った。

 そして愛衣がタイミングよくその箱にピッタリと小さな空気穴のあいた蓋をして、それを竜郎が箱と癒着させれば、中でどんなに暴れようともう逃げられない。

 それを愛衣が川から箱ごと持ち上げて、川辺にゆっくりと降ろした。

 竜郎は最後の締めに水魔法と、リアの呪い解析で造形の深くなった呪魔法の混合魔法で、竜郎が魔法を使用し続けなくても魔力が続く限りは水圧を調整し続ける効果を中の水に付与した。



「これでいっちょ上がりだな! さあ皆、これから撤収の準備だ」

「あんまりこの狭い箱の中に入れてても、その子に良くはないだろうしね」



 愛衣は今もごとごと音がなっている入れ物を、コツンとかるく拳を当てて音を鳴らした。



「ですけど、これは《アイテムボックス》に入れられませんの。手で持って行きますの?」

「あーそれなあ。ちょうどもうすぐ日も落ちるし、森林地帯はスルーしてくか」

「スルーって、空飛んで帰るの? リアちゃんもいるし、目立つのは避けた方がいいんじゃない?」

「私のせいで、何やらすいません」



 何をするかまでは良く解ってはいなかったが、とりあえず自分がネックになっている事だけは察してリアは頭を下げた。



「リアは別に謝る必要ないですの。やるかどうか決めたのはおとーさま方なんですから」

「そうそう、それに夜だったら探査魔法対策しつつ、闇魔法で覆って月明かりを光魔法で再現すれば視覚的にも誤魔化せる─────と思う」

「確証はないんかいっ」



 愛衣のツッコミに竜郎はまあまあと言って、とりあえずできるかどうか試してみることになったのだった。

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