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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第147話 呪い解析

 アーレンフリートと名乗った派手な黄色に赤の刺繍の入ったローブを纏った男は、唖然とするリアに向かって、自信に満ち溢れた表情で笑っていた。

 そして、選択肢を二つ提示してきたのだという。


 1つ。このまま一生、好きでもない男の金儲けの為だけに生を全うするか。

 2つ。アーレンフリートの呪魔法を使って死を偽装し、ここから出るか。


 ただ2つ目には問題があり、死んだことになった場合、リアがどういう扱いを受けるのか解らないという事だ。

 いずれ甦る様にしてあるものの、その場で肉体を損壊させられるような事でもあれば甦る事は出来ない。

 リアを買った商人、モーリッツ・ホルバインが怒りに任せて死体に鞭打たないとも限らないのだから。そして他にも死んでいる間は何もできないので、不確定要素が多すぎた。

 しかし、リアは2の提案を受け入れた。

 この虚弱な体では、外に出ても数日も生きられないのかもしれない。

 けれどここに居たところで、リア・シュライエルマッハーという人間は、本当に生きているとは言えない。

 だからこそ、この初めて会った妙なエルフを信じることにした。

 そんなことをアーレンフリートに告げると、あいかわらず自信しか持ち合わせていない顔で頷くと、私が協力しているのだから、お前は確実に自由になれるだろうと言ってリアに呪いをかけた。

 それも、本当にこの世界で一級品の呪いを。



「その呪いってのは、解魔法じゃ解らないのか?

 正直に言うと、リアが死にそうになってる時や、死んでいる時に解析させてもらったが何もなかったぞ」

「解魔法を使って呪いだと判明してしまうようなら、死体を調べれば偽装だとすぐばれてしまいますよ。

 だからこそ、それすら欺く呪魔法を使える彼は、自身が述べていた通り、世界で一番の呪魔法使いと言っても過言ではなかったのだと思います」

「ふえー。変な人っぽいけど、なんか凄そうな人でもあるんだね。

 けど何だって、そんな人がリアちゃんを助けに来てくれたんだろうね?」

「さあ、解りません。彼はただ一言、私が哀れだからとしか言いませんでしたから」



 そうしてアーレンフリートの呪いに掛けられた彼女は、魔法で死に向かう最中に簡単な説明を受けたのだという。

 この呪いは、一度目の時は丸一日死んだ状態になるが、その後は呪いを解かない限り、短い周期で交互に死と生を行きかう状態になるという。

 なので外に出られたとき、アーレンフリートはまたリアに必ず会いに行くと約束してきた。

 そして、意識が薄れるなかで最後にこう言われたのだそうだ。


 もし自分と会う前にモーリッツ・ホルバインの手の者に生きていると気が付かれ捕まった時は、本当の死か、現実的な死に戻るか自分で決めろ、と。



「あー、だからあの時いきなり自殺しようとしたんだね」

「はい。ってあれ、短剣がない……」

「おっとすまない。また自殺しようとされたら面倒だから、こっちで持ってた。ほら、返すよ」

「あっ、ありがとうございます」



 リアは素直に金の短剣を受け取ると、また腰に差し直した。



「けど、よくそんな物を持ち出せたな。死体にそう言う物を持たせる風習でもあるのか?」

「いえ。これは私が目覚めた時に、近くに落ちてたんです」

「落ちてた? 結構高そうな奴なのに、勿体ないねえ」

「いや、そう言う問題でもない気が……」



 そうしてリアが気が付いた時、彼女は何故か麻袋に入れられて、荷馬車に色々な荷に混ぜて乗せられていたのだという。

 そしてその間にも何度か死と生を交互に行き来した後、この森の奥に袋に入れられたまま捨てられ、荷馬車は逃げるように去って行ったのだそうだ。

 彼女は虚弱な体に鞭打って何とか麻袋から出ようともがいている時に、近くに先ほど竜郎が返還した短剣がある事に気が付き、麻袋ごしに何とか鞘を抜いて切り裂いて出た後は、野生動物や魔物に気を付けながら彷徨い続けた。

 そして。



「俺達と出くわしたって事か」

「は───あがっ」



 彼女が話し終えて一息つこうとした時、また死の呪いが発動して彼女の呼吸が止まった。



「なんか不便な呪いだね。一回だけ死ぬように設定してくれればいいのに」

「恐らく、それだと只でさえ複雑な魔法が、余計複雑になるからできなかったんだと思う。

 スキルレベル10同士の、俺とカルディナの解魔法を潜り抜ける代物なんだからな。

 いくら凄いといっても、限度はあるんだろ」

「うーん、それじゃあそのアーレンふふふんって人を見つけない限り、解いてあげられないのかなあ」

「…………今なら原因が呪魔法だってのは解ってるし……、そこにだけ集中してやればあるいは……、それに呪の逆位相の水魔法を組み合わせて……ん~~~」



 竜郎が何とか方法はないか腕を組んで思考する事数分、なんとか出来るのではないかというぼんやりした確証を持って、復活した時にリアにどうしたいか聞いてみることにした。


 そしてまた同じ周期で目を覚ましたリアに、竜郎は呪魔法をどうにかできるかどうか試してみていいかと問いかけた。



「え、タツロウさんがですか? しかし、それは難しいと思いますけど……」

「ああ。けどそのアーレンフリートという男が、今どこにいるのかも解らないんだろ?

 向こうだって、リアがここにいる事すら知らないかもしれない。

 そんな状態でいつまでもいたら、いざって時に困るだろ。だから試すだけ試してみる気は無いか?」

「……解りました。私も別にアーレンフリートさんに解いてもらう事に拘っているわけでもないですし、タツロウさんの方ならもしかして……という事もあるかもしれません。

 だからどうか、お願いいたします」

「ああ、お願いされた。ただ、確実にできるわけじゃないから、そこのとこ──」

「ピュィーー!」


 理解しておいてくれ。という言葉が出る前に、カルディナの鳴き声に遮られた。



「おとーさま、誰かこちらに向かってきているようですの!」

「今このタイミングでか。………………人数は大人が五人。

 アーレンフリートって人じゃないだろうし、向こうも探査魔法を使ってるって事は何かを探しに来ている可能性が高いか」

「どうするの、たつろー?」

「よし、こうしよう」




 やがて、五人の男たちが竜郎たちの元にやって来た。

 竜郎と愛衣と奈々は即席の椅子に座り、即席で造った釣竿から糸を滝壺から少し離れた川に垂らし、カルディナと幼体化したジャンヌはその横で寝そべって、のんびりと釣りをしていた。

 それを見つけた男の内、先頭を歩いていた男が小走りでこちらに近づいてくるなり、こんな事を言い放った。



「ちょっとそこの君達、少しいいか?」

「え? 僕らですか? かまいませんよー。ん~なかなか釣れないなあ」

「……この辺りに銀髪で赤い目をした、褐色の肌のドワーフの少女を見なかっただろうか?」

「あーすいません。この辺で今日の昼ごろからずっと釣りをしていたんだけど、そんな特徴的な子みませんでしたよー」

「そうか……。他の、そっちの子達も見てないか?」

「みてなーい」「みてないですのー」



 竜郎たちの顔をじっと見て、その後振り返って解魔法使いの男に確認をとるが、そちらもこの辺りにはいないと首を振った。



「そうか、釣りの邪魔をしてすまなかったね」

「いえいえ、どうせほとんど釣れてないですから、お気になさらずにー」

「ああ、それと。もし私がさっき言ったドワーフの少女を見つけたら、リューシテン領のならどの商会ギルドでもいいから教えてくれないか?

 もしその情報が有益だったのなら、リューシテンの商会ギルト長直々に、褒賞金を出して貰えるぞ」

「報奨金。それもそんな凄そうな肩書の人からですか?

 そりゃーきっと目玉が飛び出るくらいの金額でしょうねー」

「ああ、そうだとも! 君たちが一生遊んで暮らせる額をくれるかもしれないぞ。興味があったら、ぜひ探してみてくれ」



 金に興味があると踏んだ男は少々話を盛ると、それに愛衣が乗っかった。



「おお! そりゃすごいねー。ねねっ、釣りなんてしてないで、その子探そうよー」

「わたくしも探したいですのー」

「あー……、そうだな。ちょっと探してみるかー」

「そうかっ、それは助かるよ! では、俺たちはこの森を抜けて町に向かうとするよ。それじゃあね」

「あっ、ちょっとまって下さい。今この辺りでその子を探しているのは、あなた達だけですか?

 もし他にも探してる人がいたら、先に見つけられちゃうかもしれませんしー」



 竜郎はこの男達から、ほかの捜索隊の情報を引きずりだすために、すこし怪しまれるかとも思ったのだがそんな質問を投げかけた。

 すると男はとくに怪しいとは思わなかったようで、普通に答えてくれた。



「え? ああ、そうだな。俺達も、他の連中もここにまだいるとは思ってないからな。

 この辺りは誰も探していないはずだ。俺達も念の為ここを通ってみてるだけだしね。

 ああ、でもだからこそ、もしここに居たら君たちが全ての手柄を独り占めにできるぞ」

「そりゃいいですねー。なら、俺達はここを念入りに探しちゃいますから、隠れて探して手柄を取ろうとかしないでくださいよー」

「ははっ、そんなことしないよ。それじゃあね」



 そう言い残して、五人の男たちは去って行った。

 そしてさらに森から出たかどうかも、竜郎とカルディナの闇と解の混合魔法で相手の探査魔法に引っかからないように確かめた後、竜郎は先ほどまで座っていた椅子をどけて、空気穴があいている箇所を土魔法で掘り起こした。

 するとそこから蓋のない棺が現れ、先ほどの男たちが探していたであろう、リアの死体が眠っていた。



「おっと、今は死体モードに入ってるのか」

「物音どころか息一つしないなんて、忍者もビックリな隠密技だあねー」

「技っていうか、呪いだけどな」



 竜郎たちは男たちが来るのを知った瞬間、まず橋を《アイテムボックス》に収納した。

 そして次に地下穴を掘って棺ごと地面にリアをいれ、そこに空気穴をあけた蓋をすると、その穴が見えないように椅子を作って乗せることで誤魔化した。さらに、ただ座っているだけでは変なので旅の釣り人を装った。


 そして解魔法対策を竜郎とカルディナが闇と解の混合魔法でして、探査を掛けられてもリアがいないように偽装した。

 こうして男たちはすっかり竜郎達を何も知らない人間だと勘違いして、去っていったというわけである。



「よし、これでひとまず誤魔化せたからいいとして、あいつらは明らかに商会ギルドの連中だったな」

「ってことは、もう死んじゃったってゆーのは嘘だったってばれてーら?」

「そう思って行動するのが、良いだろうな。

 こりゃこの目立つ容姿も隠す手立てを考えないと、逃げられないかもしれないな」



 人間関係のゴタゴタはもうこりごりなのだが、ここまできてリアを見捨てるのも据わりが悪いうえに、こちらも思う所がある。

 そしていざとなれば、リャダスに戻って伝手を使えば何とでもなる気もするので、竜郎達の安全は確保できる。なにせこちらの伝手はリャダスの領主、商会ギルドの長であろうと何とかできるとは思えない。

 なので竜郎達は話し合った末、帰るためのSP集めと並行しつつ、リアが今後やっていけるようにするという方向に舵を向けたのだった。


 それからリアが目を覚ます頃には辺りはすっかり暗くなり、とりあえず当初の目的である深海の魔物ピポリンは明日に回し、竜郎は呪いの解呪を試みることにする。



「では、お願いします」

「ん、別に《万象解識眼》を使っててもいいんだぞ? 自分で言うのもなんだが、会ったばかりの奴らを、そんなに信用しない方が良い」

「恥ずかしい話、もう私はタツロウさん達に助けを求めるしか生き残る術は無いようですし、どうなろうと全てお任せします。

 それに、この呪いはどうやらこの目を使いすぎると、死への時間を早めてしまうようですし」

「ああ、だから生きてる時間はまちまちなのに、死んでる時間は同じなのか」

「はい、そうみたいです」



 そうして呪いの新たな情報を得たことで、何かの足しになればいいなと心に書き留め、竜郎は愛衣にくっついてもらい称号の効果を得ながら、奈々には魔法関連のステータスアップをかけ続けて貰う様にお願いし、カルディナと協力して同時に解魔法を行使した。

 そしてジャンヌは何時何が来てもいいように、《成体化》して警戒していてもらう。

 今回は呪いがある事は解っているので、それに情報収集を特化させてリアをスキャンしていく、しかしそれでも尻尾を掴ませてくれないので、竜郎は四分の一ほど解魔法へ割くリソースを削り、水魔法の魔力をリアの血液に混ぜて流し込んでいく。

 すると、一瞬だが逆の位相の水の魔力に反応した呪魔法を発見した。



「カルディナ、胸骨の下あたりだ!」

「ピュイッ!」



 二人は息を合わせて反応の合った周辺をくまなく探すと、イメージで言うと毛先だけ抓めただけで、それより先が解析できない。

 なので、これ以上は自力だけでは不可能だと悟った竜郎は、リアに助力を頼んだ。



「リア、何にでもいいから《万象解識眼》を使ってくれ。その使用で呪いの効果が変わるなら、その瞬間に活性化するかもしれない」

「はい」



 リアは目を開き、《万象解識眼》を強めに行使する。するとその瞬間、目の色が空色へと変化していった。

 しかしそんな変化を見ている余裕のない竜郎とカルディナは、リアが目を使った瞬間に活性化してきた呪魔法を遂に掴んだ。



「ぐっ、なんだこれっ。カルディナ、そっちがメインで解析を頼む。

 これを俺の頭で解析すると、おかしくなる気がする」

「ピューイ!」



 その呪魔法のさわりに触れただけで頭痛がしてきた竜郎は、主導権をカルディナに任せ、自分はその補助に回った。

 そうして竜郎はカルディナ主導のもとで、異常なほど精密に組まれた呪魔法を解析していき、そのまま一夜を明かした末にようやく水魔法で反対の位相を作れるほどに解析を終えた。



「─────っやっ──たぞ、ざまあ見やがれってんだ!

 はあ……すまん、こっから先は少し休憩させてくれ。集中力が持たない」

「────────」

「リア?」

「リアちゃんなら、今は死体モードだよ」

「え? ああ、ほんとだ……」



 集中が途切れて足が崩れそうになった竜郎を、愛衣がすかさず支えて座らせた。

 竜郎はそれに礼を言うと、そこで疲労に一気に襲われ、そのまま泥のように愛衣に背を任せて眠りについたのであった。

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