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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第146話 リア

 こちらとしては、最大限彼女の意思を尊重し、もう大丈夫そうなら関わらないようにしようと決めた矢先に、自害するぞアピールである。

 正直竜郎達は突然の事すぎて、目を白黒させるしかできなかった。

 そんな唖然とした空気になったところで、少女は刃を首から離した。

 そしてそれと同時に、鮮やかな空色の瞳が元の深紅に戻っていった。



「今、そこの鳥に魔法を使わせようとしましたよね。どういうつもりですか?」

「どういうつもりも何も、君の安否を確認させてもらうつもりだっただけだ。君はさっきまで本当に死んでいたんだぞ」

「そんなことはわか───ぐうっ」

「っておい、またかよ!」



 少女はまた、今度は竜郎達の見ている前で胸を押さえて棺桶の中で眠る様に後ろに倒れた。

 竜郎は今度こそ助けようと、再び死に向かいだした少女に奈々と一緒に生魔法をかけていく。

 カルディナも同様に、現在の少女のこの不可思議な容体を調べ上げていく。

 しかし。



「駄目だった」

「ってことは、また?」

「ああ、死んでる。一体なんなんだ……、カルディナは何か解ったか?」

「ピュイーィ…」

「何も、だそうですの」

「そうか…」



 そうして全員が少女に視線を向けるが、確実に死体と化していた。

 しかし、一度ある事は何とやらともいうので、そうなってくるとこちらもどうこの少女に対処していいか解らない。

 だが竜郎はまずこれはやっておかなくてはと、生き返った時にまた自殺未遂を起こさせないよう短剣を《アイテムボックス》に入れておいた。

 そのついでに少女の死体が、《アイテムボックス》に入れられるかどうか試してみるも、やはり入れることは出来なかった。



(生物的には死んでるけど、システム的には死んでいないって事なのかもしれないな)



 アイテムボックスは、生きたものは入らない。なので植物も最初は無理かと思ったのだが、ヘルプによると正確には自分の意思で動ける物が入れられないのだそうだ。

 そのため同じ植物でも、魔物は入れられない。そして生き返る人間は、いずれ動き出すので入れられない。

 そう考えると辻褄が合ってくる。

 そんなことを考えながら少女を見つめる事数十分、先ほど復活するまでにかかった時間とほぼ同じくらいに、少女は目を覚ました。



「おはよう。今度は、無断で魔法を使おうとはしないと約束しよう。だから、まずは話を聞いてくれないか?」

「…………その前に聞かせてください。あなた方は、商会ギルドの者ですか?」

「いや、違う。俺たちは皆、冒険者だ」



 まったくの事実なので、竜郎ははっきりと目を見てそう答えた。するとまた、彼女の瞳が紅から空色に変化していった。



「それを、証明できますか?」

「冒険者ギルドの身分証なら持ってるが……、商会ギルドと兼任とか出来たりするのか? それだと見せても意味がないだろうし」

「え? できません。商人と冒険者の仲は良好な場合が多いですが、商会ギルドと冒険者ギルドの上は仲が悪いそうなので、できないようになっていると聞いた事があります」

「「へー」」

「へーって……」



 またこの世界の常識に触れた二人は、久しぶりの何でこの人達そんな事も知らないの光線を軽く受け流した。

 そして冒険者ギルドに登録していることを証明できれば、商会ギルドの人間ではないという事は最低限保証されるようなので、何故という疑問は取りあえず横に置いて、竜郎と愛衣が揃ってその証を少女に見せた。



「確かにぼうけ───個人ランク6にパーティランク8って……、これ本物? ……本物だ」

「いや、偽物の造り方とか知らないぞ」

「そう、ですね。それに、高ランクの冒険者なら信用できます」



 どうやら冒険者であることというより、高ランクの冒険者であることを証明できた途端、少女の警戒心が目に見えて下がっていった。



「ん~、高ランクの冒険者の肩書って、信用度がすごく高いよね」

「そりゃそうですよ。商会ギルドと違って、冒険者ギルドっていうのはそう簡単にランクを与えてくれません。

 まして四以上ともなれば、よほどの冒険者としての実力と、誠実さを見せない限り得られません。

 そして高ランクの冒険者とは、冒険者ギルドが掲げる象徴になるような人間なのです。

 だからこそ、不用意な行動に出た場合、全世界の冒険者ギルドが全力を挙げて敵になるので、その点においても安心できるんです」

「全力を挙げて敵て……。まあ、ちょっかい出されない限りは、人様に顔向けできないような事をする気は無いからいいが」

「えーと、それじゃあ私達の事をとりあえず信用してくれたということでいいの?」

「はい」



 ただ容体を確かめたら離れようと思っていたのに、何故こんな事になっているのかとも思った竜郎であったが、この少女におこっていることがなんなのか、それに興味が湧いてきたので早速質問を開始した。



「なら答えてほしいんだが、君は君自身がどうなっているのかは解っているのか?」

「はい、解っています。生き返ったり、死んだりを繰り返しているんですよね」

「そうそう、初めて目の前で死んじゃった時はびっくりしたんだから」

「それは、すいませんでした。しかしまた、数分後に死ぬと思います。なのでその時は気にしないでください」

「気にしないでくれって、それはどうにかできないのか?」



 竜郎がそう言うと、少女は弱弱しく首を振った。



「どうにかできる人と合流できなかったので、今は対処のしようがありません。

 なんせ、世界最高峰の呪魔法使いの方が私にかけた呪いですから」

「呪魔法での呪い……。そんな事までできるの、たつろー?」

「呪魔法はレベルが上がれば上がるほど、色々な条件を付与できるようになるから、よほどの高レベルともなれば可能かもしれない。

 しかしそれがその通りだったとして、君はそんな状態にされたというのに、何故そんなに冷静なんだ?」

「……勘違いなされているようですが、この呪いはかけられたものではなく、かけて貰ったんです。自分から」

「はあ?」「え?」「ピューィ?」「ヒヒン?」「んんん?」



 竜郎と愛衣と同じように、カルディナ達も黙って周辺の警戒に努めていたのだが、耳に入ってきたあまりにも理解不能な答えに思わず疑問符がこぼれていた。

 何処の誰が、自分から生死を繰り返す呪いをかけてくれと頼むのだと。

 そんな疑問を抱かれるのは解っていたので、少女はどこ吹く風と真顔でそれを受け止めていた。



「すまない。ますます訳が解らなくなった。説明できる部分だけでいいから、説明してくれないか?

 そうしてくれたのなら、その理由次第でもあるが、俺たちのできる範囲で君に手を貸してもいい」

「そうですか。では、まず初めに私の名前は──ぐぅ……、すい、ませ、まぁ、とで……」



 ここで強制的なブレイクタイムを挟まれ、竜郎たちはやきもきしながら時が経つのを待った。



「失礼しました。改めて、私の名前はリア・シュライエルマッハー。種族はドワーフです」

「竜郎・波佐見だ。種族は人」

「愛衣・八敷だよ。種族はたつろーと一緒」

「人種? ですか? あなた方が? ──っと、今は私の話でした。

 では順序立ててご説明します。私は、ホルムズ町の中流鍛冶師の家の娘として生まれました。

 そして私にある程度自我が芽生えるまでは、普通の家族であったのだと思います。

 ですが私にシステムがインストールされる年齢になった時から、その普通が崩れていきました──」



 そこからリアは、ここに至るまでの自分の人生を竜郎達に語り始めた。

 曰く。リアにシステムがインストールされたと同時に与えられたスキルがあり、その名を《万象解識眼》といった。

 これは目にしたあらゆるものを読み解き、理解する事ができるスキルなのだが、何故かこれを得てから体が弱くなり、手先が神がかり的に不器用になったのだという。

 なのでせっかくこのスキルで得た知識を使って、何かをしようとしても全て上手くいかない上に、理解した情報は本人だからこそ理解できるものであって、それを人に伝えても誰もその意味を理解してはくれなかった。


 さらに体が弱くなったことで、常に体が重く病気がちになり、ほとんど部屋から出ることも難しくなった。

 そしてこのスキルも得た情報量で変わっては来るが、かなり体力を消耗するスキルなのでほんの数秒しか連続で使えないのだという。

 そんな状態では、このスキルも宝の持ち腐れであり、最初は喜んでくれていた両親も、しだいに力を持っているにも関わらず、何もできない娘を疎ましく思う様になっていった。


 そんな日常を過ごしていたリアだったが、やがて大きな転機がやって来る。

 父親が町の寂れた酒場で、安酒に酔った勢いで娘の愚痴を言った際、スキルの事をその時近くに座っていた見知らぬ男に話したのだという。

 そしてその男は、何の因果かとある商人に仕える人間だった。

 その男は直ぐにその情報を主人の商人に伝えると、その商人はぜひともリアが、というよりそのスキルが欲しくなった。

 聞けば両親も疎ましく思っているうえに、その母は新しい子を身籠ってもいるという。

 商人は取るものも取らず、誰にも先を越されぬようにと直接リアの家、シュライエルマッハー家にやってくるや否や、娘を言い値で買うと言ったという。

 最初は渋っていた両親だったが、父は直ぐに懐柔され、母も「二人子供が欲しいなら、また子を産めばいい」と父に聡され、最後は母も頷いてしまったのだという。



「それを、リアちゃんが知ってるってことは……」

「私が聞こえるすぐ側で、話していたんです」

「何だよそれっ」



 そうしてリアは自分の意思など誰も尊重などせずに、まるで物でも売るかのように多額の現金と引き換えに商人に引き取られていった。

 ただそこが地獄かといわれれば、最初はそうでもなかった。

 実家にいた時は、毎日聞かされた嫌味を耳にすることも無くなり、監視役もかねてだが、虚弱体質なリアの身の回りの世話をしてくれる女の使用人を数人付けてくれ、ただ暮らすだけという事なら、むしろ快適になったともいえた。


 ただ、商人は可哀そうなリアを扶養するために買ったのではない。

 そのスキルを何とか利用して、出した金額以上の利益を生み出してもらう必要があるのだ。

 そこで考えたのが、未だその技術が解き明かされていないダンジョン製の道具などを見せ、一見意味不明なリアが語る知識を、その道の最先端をいく研究者たちを金の力で抱きかかえ、滅茶苦茶としか思えない言葉を一から解明させたのだ。

 もちろん、いくらその道のプロとはいえ一から十まで理解することは出来なかった。

 しかし、リアが語るのは自分たちが研究を進めた先にある究極の答えなのである。その答えがあるという事は、かならずたどり着くまでの過程が存在するという事でもある。

 なので必死に研究者たちはその答えに齧りつき、大海からほんの一滴にも満たない水を掬い上げるかの如く苦心して、現行の技術よりも少しだけ上を行く過程を見つけ出したのだ。

 そうなれば商人はその技術をすぐに投入し、市井の者達には新技術を搭載した新商品と銘打って色々な商品を世に送り出した。

 実際にその商品は現行の物よりも優れているとあって、市民は値段は高いが最新のものをと食いついてきたのだった。

 その結果、リアを購入した金額など直ぐに帳消しになり、それどころか利益は数百倍にも跳ね上がっていった。


 そうして現在その商人、名をモーリッツ・ホルバインと名乗るドワーフ種の父と人種の母との混血の男は、商会ギルド内でも上に伸し上がっていった結果、ここリューシテン領、リューシテン商会ギルドの長にまで昇進したのだった。



「ん? 確か、この辺の商会ギルドって確か……」

「悪い噂があるって、レーラさんが言ってた気がする」

「ええ、モーリッツがリューシテンのギルド長という事は、実質この領全ての商会ギルドに口を出せるようになったといっても過言ではありません。

 それからというもの、元から稼げればいいと言った者も多くいた知人やそのまた知人の商人たちを焚き付けて、より悪どい儲け方を裏で推進しているようです」

「うわっ、最悪」

「これで、こっちの商会ギルドとは関わらない方が良いって確証が出来たな。

 あれ、だがそうなってくるとリアちゃ──さんは」

「リアでいいですよ、タツロウさん。貴方の方が少し年上ですし」



 竜郎はどう見ても小学3~5年生あたりにしか見えないリアに、少し?とは思ったものの、せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらう。



「じゃあ、リアはそのモーリッツとか言う商人の……あー……言い方は悪いが、金の卵ってわけだろ?

 そんな子をみすみす逃がすとは思わないし、そこが呪いをかけて貰ったという事に繋がるってことか?」

「はい、その通りです」



 モーリッツ・ホルバインは、金を得れば得るほど欲望を露わにし、リアの体調を最低限にしか考慮しなくなり、体調を崩して寝ている時以外は、ほぼ毎日のように《万象解識眼》の行使をさせられた。

 この男の金儲けの為に生まれてきたのではないと、そう突っぱねたかったリアであったが、それを言葉にする事すら周りの状況が許さず、機械のようにリアは働き続けたのだった。


 そんなある日、何をどうやってかは知らないが、金髪碧眼でド派手な黄色に赤の大きな刺繍の入ったローブを着た、エルフの男がリアを訪ねてきたのだという。

 そしてそのエルフの男は、開口一番こう言い放ったそうだ。

「私はこの世界一の呪魔法使い、アーレンフリート。哀れなドワーフの少女に、選択肢を持ってきたぞ」と。



「なにそれ、ちょー怪しいんですけど……」

「ですね…。確かに初めて見た時は、なんて胡散臭そうな人だろうと思いました」



 冗談めかす様にそう言って、リアは少しだけ笑みを浮かべると、話の続きを語りだしたのだった。

次回、第147話は1月11日(水)更新です。

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