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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
145/634

第144話 ピポリン探し開始

 ジャンヌに始まり、カルディナ、奈々と華麗な姉妹連携を決めた三体の元に二人は魔物が死んでしまう前にと早足で向かうと、竜郎は《レベルイーター》を行使した。



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 レベル:7


 スキル:《かみつく Lv.2》《発毛 Lv.1》《育毛 Lv.1》

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(───っ!? 発毛に育毛…………だと)



 父はまだきていないが、その上の祖父は父方、母方共に立派な禿頭とくとうをお持ちになられており、密かに自分の将来を竜郎は憂いていた。

 勿論、将来祖父と同じ道を歩もうとも、愛衣は自分を変わらず愛してくれるという絶対の自信は持っている。

 だがしかし、そんな愛しい彼女の前ではいつまでも若々しい自分を見てほしいと思うのは間違っているだろうか。いや、間違ってなどいない。


 この魔物やこのスキルをもっと詳しく解析すれば、今も日本全国で同じ不安を持つ少年たちや、もう既にその道のプロを目指して嫌でも走り出してしまっている大人たちに、希望の光をもたらす一助になるのではないか。

 そんなことを、竜郎はこの一瞬で考えだした。


 目の前には、芸術で自然な人達が持っている技術よりも、はるかに上をゆく画期的な何かがそこにあるのかも知れない。

 竜郎は自然とその魔物の方に手が伸びた。それは只のでかい毛玉なんかじゃない、希望の詰まったでかい毛玉なんだ。

 そう言い聞かせて、魔物に手から直接解魔法を使おうとした瞬間、《レベルイーター》の繋がりが切断された。

 何事かと恐る恐るその魔物に解析をかけると、もうすでに出血多量で息を引き取っていた。



「───け、毛玉……」



 ポツリと漏れたその言葉は、誰にも聞かれる事なく森の中へと掻き消えていったのだった。


 その後、突然意気消沈した竜郎を、皆が心配そうに見つめてきていた。

 それに気が付いた竜郎は、何でもないと言いながら、心で涙し顔は気丈にふるまった。



「大丈夫ならいいんだけど。そいつからは、どれくらいのSPが取れたの?」

「SP? ああ……SPか。すまん、吸い取る前に死んじまった……」

「ええ!? 《レベルイーター》使ってから、死ぬまで結構時間があったと思うけど……。やっぱり何かあったの?」

「何も……。いや、あったと言えばあったんだ。実は変わったスキルを持っていてな。

 それに気を取られてたら、いつのまにか逝っちまった」

「へー、そんなに驚くようなスキルがあったんだ。ねね、なんてスキルだったの?」

「そうだな…。一言で言うのなら、希望…………かな」

「「きぼう?」」「ピュィーイ?」「ヒヒン?」



 竜郎は空を仰ぎ、アンニュイな表情で笑った。そして他のメンバーは、わけが解らないと首を傾げるばかりであった。


 それから個人的な感情からSPを取り逃してしまったりしたことに反省しつつ、皆にも一度謝った。

 それから気持ちを切り替えた竜郎は、毛皮が売れるかもしれないという建前の元、毛だ魔物の死体を《アイテムボックス》にしまった。

 そうして再び歩みを再開した一行は、滝に向かって歩き出した。


 毛だ魔物がまたでないかと竜郎は期待しながら歩いていたが、結局それ以降現れることなく、目的地であるナツェート滝へとたどり着いた。



「滝をこんなに近くで見たのなんか初めてだが、すごい迫力だな」

「うん。それに、ズザアアッて凄い音」

「一見の価値はありますの」



 そこは川を上って行った先に急に開けた場所にあり、滝壺の辺りは真っ暗で何も見えないが、その周辺はエメラルドグリーンの綺麗な水が満ちており、その美しい景色だけでもここに来たかいがあると言っても良いほどであった。



「ではさっそく、例の魔物の捜索にといきたいところではあるが、一先ず昼休憩だ」

「そうしよっかー。あっ、ここの川にもいっぱい魚が泳いでる。あの魚とか、でっかくて食べ応えありそう」

「ざっと見た感じ、食べられそうな魚は三種類くらいか。どうする? また土魔法で網でも作るか?」

「ううん。今回は、練習も兼ねてこいつでやってみるつもり」



 そう言って愛衣が取り出したのは、天装の弓だった。竜郎はその弓で一匹一匹仕留めるのかと思いきや、どうやら今回使うのは槍の方らしい。

 けれど気力で出来たその槍の穂先は太く、魚を貫いてしまうと身のほとんどが無くなってしまう。そんな事は言わなくても愛衣は解っているはずなので、竜郎は何も言わずにその動向を見守っていると、愛衣は目を閉じて一度集中すると、まずは槍を弓から飛び出させる。

 その槍はいつものように気力で造られた太い円錐の形をした穂先に変化するが、ここから愛衣はさらに具体的なイメージを取ると、太い円錐の穂先が段々と細く長く伸びていき、最終的に一本の細長いもりの様な先端の槍となった。

 その形は、以前アムネリ大森林で愛衣が夜見張りをしている時に見て、その姿から名前を付けたザリバリ[第21話登場]の手を完全に再現し、逃がさないように返しもちゃんとついていた。



「それって、形を変えられたのか」

「うん。といっても、できるようになったのはつい最近だけどね」

「でも確か、槍以外の形にはできないんだよな?」

「みたいだね。でも、このくらいならギリギリできるよ!」



 そう言って愛衣はまたイメージを変えると、今度はフォークの様な三つ又の槍の形を取った。

 竜郎がそれに感心しているのを見て満足した愛衣は、再び銛バージョンに切り替えて魚に視線を向けた。


 愛衣の槍の操縦も大分様になってきて、手足のようにとまではいかずとも、簡単な動作ならもう支障はないほど慣れてきていた。

 そのため愛衣は、ものの数秒で先ほど言った食べられそうな魚全種を気力の銛で突き刺して、竜郎の用意した入れ物にいれた。

 それに素早く解魔法で解析をかけて、本当に食べられるのかどうなのか鑑定した結果、一匹は毒性は強くはないが体に悪い成分が含まれていたのでダメだったが、他二種は問題ないようだった。

 なのでさっそく竜郎と愛衣はそれぞれ一種ずつ手にとって、包丁で頭をとり、腹を切り、内臓を掻きだして捨てた。

 しかし、ここまでは順調に進んでいたのだが竜郎の方に問題が生じた。



「くさっ!?」「くちゃーーい!」



 なんと竜郎が捌いていた魚から、とんでもない異臭がし始めたのだ。

 その発生源の魚を見れば、先ほどまではしっかりと身が引き締まっていたのに、今は肉がぐずぐずに溶けて腐敗臭をまき散らし、とても食べられそうには見えなかった。

 愛衣は鼻を抓みダッシュで離れていったので、残された竜郎は涙目になりながらも急いでその原因の元となった魚と内臓を地面に落とし燃やし尽くした。

 しかし竜郎の手やまな板に着いた匂いは未だに消えずに、石鹸で念入りに洗う事でようやく取れた。



「鼻がおかしくなるかと思った……」

「ああなるってのは、解魔法じゃ解らなかったの?」

「情報が多すぎると、自分でも纏めきれないから食えるかどうかで調べてたから解らなかったんだ」

「なーる。それじゃあ、一匹になっちゃったから、大丈夫そうなこいつをあと何匹か捕まえてくるね」

「ああ頼んだ。おれは、こいつに塩を塗りこんどく」



 それから愛衣が追加で持ってきた魚をさばいて塩をたっぷり塗りこんで、バーベキューセットに乗せて、先ほど《アイテムボックス》から採取したばかりの野菜と合わせて焼いていった。

 いい匂いが辺りに漂いだし、ちゃんと火が全体に通ったのを確認してから、二人一緒に魚を頬張った。



「うん、これふぁ、おいひい」

「塩があるだけで、やっぱり全然違うんだな。前食べたのより、こっちの方が全然うまい」



 夢中で二匹ずつキッチリ完食し、焼いた野菜も頂いて、最後は果物を絞ったジュースでしめとした。



「ふぅ……、お腹いっぱいだあ。食料が充実してるって、こんなに素晴らしいことなんだねー」

「日本じゃ有るのが当たり前だっただけに、自分たちで一から用意してみるってのもいいな。

 元の世界に帰ってからも、定期的にキャンプとかするか」

「そうだね。私も、魚を処理できるようになったし」



 そんな事を話しあいながら一杯になった腹を落ち着かせた後は、本来の目的に移って行く。

 竜郎は周囲の警戒をしつつ、滝周辺で遊んでいたカルディナたちを呼び戻し、ピポリンという名の魔物がいると言われていた滝壺の方へと歩いて行った。

 するとその滝壺は、竜郎達の立っている川辺から十メートルほど先に有り、歩いてそこまで行けるような陸地は何処にもなかった。



「あそこに行くには、川に入らなきゃ駄目っぽいな。濡れるのは嫌だし、魔法で何とかできるかな」

「寒くはないけど水遊びできるほどあったかくもないし、出来るならぜひ。んでも、どうやって?」

「水魔法でモーゼの滝みたいに割ってみるのも楽しそうだが、そんな大がかりなことしてたら他の魔法が使えないからな。

 さてどうするか…………よし、橋でも作るか」

「橋だったら一回作れば、魔力を使いっぱなしにする必要もないし、いいかも」

「ああ。幸い鉄もあちこちの町で買い漁ってきたから、充分できるはずだ」



 そうして竜郎はまず初めに、闇魔法で今立っている川縁かわべり付近全体の土を硬化させ頑丈な地盤を作り上げ、直径二メートル程の横長の穴をあけておく。

 そしてそこにこちらも闇魔法で硬度を強化した横長で縦にも長い鉄の支柱を差し込み、土魔法で鉄の支柱と地面の穴との隙間を完全に埋める。

 それが終われば今度はその支柱から真横に向かって、滝壺までの足場となる魔法で薄く頑丈にした鉄板を通していく。

 それが出来たら、横に伸びた鉄板が自重でたわまないように、支柱と鉄板先端を斜めに鉄の太いワイヤーで直角三角形の形になる様に繋げば、片側の横棒が短い十字の様な形をした即席の橋が完成した。

 念の為に解析魔法で強度を確かめてみたが、ジャンヌが《幼体化》した状態でなら、十分全員乗る事が出来るという結果が出たので、別に用意していた補強案は却下した。



「これで行けるな」

「やっぱり、魔法って便利だよね。私達の世界で同じものをと思ったら、到底自分達だけじゃできないもん」

「だよなあ」



 愛衣の言葉に、竜郎自身もしみじみと今やってのけたことの凄さを実感した。


 それから全員で橋に乗って、滝壺が近くで見える位置まで歩いて行く。

 当然だが滝の落下地点に近づくほど、音も激しくなり、大声で叫んでも他者の声が耳に届きにくくなっていた。

 なので必然的に会話も念話か、大声になっていた。



『滝壺の下は真っ暗で、私の《遠見》でも全く見えないよ。光魔法で照らして貰っていい?』

『勿論』



 目視で確認できるところにはいないだろうと思いつつも、竜郎は念の為にと光魔法で滝壺の中を照らした。



『どうだ? 何かいたか?』

『なんにもいなーい』

『それじゃあ、探査魔法をかけてみるか』



 そう言いながら竜郎は上を飛んでいるカルディナに視線で合図を送り、近くに寄ってきてもらう。そしたらカルディナは解魔法を全力で、竜郎は水魔法を全力で使い、可能な限り滝壺に空いた大穴の中に向かって下に長く水中探査の混合魔法を使った。

 スキルレベル10同士の混合魔法という事も有り、その範囲はグングン伸びて穴の中を調べ上げていく。

 しかし……。



「ぐ……」「ピュィ……」

『どうしたの?』

『穴が深すぎて探査しきれない。一旦、岸に戻って作戦を練り直そう』

『げげっ、そんなに深いんだ』



 竜郎は奈々とジャンヌにもジェスチャーで岸に向かう様に指示して、全員で橋を降り、さてどうしようかと別の方法を思案し始めたのであった。

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