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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第142話 博士

 気のいいおじさんと別れた竜郎たちは、結局依頼を受けることなく冒険者ギルドを後にした。

 ほとんど登録に時間もかからなかったというのもあり、せっかくなので百貨店を探して買い物をすることに決めた。

 百貨店の場所は冒険者ギルドからさほど離れていないのと、他の建物よりも頭一つ飛び出ていたので見つけるのは簡単だった。


 百貨店に入れば、規模的にはほぼオブスルの時と変わらないくらいで、リャダスの所に寄ったばかりだったというのもあって、少し物足りなさを感じてしまった。

 しかしそれでも最低限の物はちゃんと揃っていたので、二人は奈々を間に挟んで三人仲良く手を繋いで店内を散策した。



「こうしてると、夫婦とその子供に見えるかな?」

「ん~どうだろ。見た目年齢的に、三人兄弟に見られてもおかしくなさそうだけどな」

「わたくしは、兄弟よりも子供の方がいいですの」

「私も夫婦の方がいいなあ」

「………………まあ、いずれな」



 顔を赤くしてそう言った竜郎に愛衣はだらしなく顔を綻ばせ、奈々は空気を読んで間からさっと抜けると、二人の手を繋がせて、自分は愛衣の空いた方の手を握ったのだった。


 そんな事もありつつ竜郎たちは、あらかた消耗品を補充し終えて、最後に回していた種の置いてある店にやってきていた。

 意外なことに種の種類はリャダスの時よりも豊富に揃っており、目移りしながら花や観葉植物には目もくれず、最終的に食べ物になるものだけを選んでいった。



「ん~。これだけあっても、米みたいなのは無いのか……」

「日本人としては、お米をいつでも食べられるように持ち歩きたいよね」

「わたくしにはよく解りませんが、その米とはそんなに大事なものなんですの?」

「普段は別に何とも思っていなかったが、しばらく食べないと無性に食べたくなるんだよなあ」

「それ解るわあ。焼き竜肉をおかずにご飯をパクッと……。おっと、想像しただけで涎が……」



 冗談抜きで涎を垂らしそうになった愛衣の口を、竜郎がすぐさまハンカチで押さえてあげた。



「探してもないのなら、店員の方に聞いてみるのもいいのではないですの?」

「そっか、ここになくても何か情報くらいは聞けるかもしれないし」

「よし、ちょっと聞いてみるか」



 竜郎は早速、少し離れた所にいた店員らしき女性に話を聞いてみることにした。



「おこめですか? 白くて小さな粒々の食べ物? ん~?」

「それって、ここに置いてますかね?」

「すいません……私にはそのコメというものが解りませんが、恐らくこの店にはおいてないと思います」

「では手に入れられそうな店とか場所とか、心当たりはありませんか?」

「手に入れられそう………………あっ、博士なら持っているかもしれませんよ」

「博士って、あのピポリンって魔物を欲しがってる人ですか?」

「はい、その方です。確か名前は……名前は…………あはは」



 女性店員は博士の名前が思い出せなかったらしく、笑ってごまかしていた。

 どうやら町の有名人ではあるようだが、博士という言葉が先行している様である。



「えーと、博士でいいですよ。でも、何故その博士が持っているのでしょう?」

「彼は植物の研究者です。なので、色んな植物のサンプルを持ってらっしゃるんですよ」

「植物の博士なんですか? てっきり魔物博士か何かだとばかり……。ピポリンとかいう魔物を欲しがってるみたいですし」

「あー、それだけしか知らないと確かに魔物博士って思われてしまうかもしれませんね」



 では何故植物の博士がという話になるのだが、それをこの女性に聞いてもしょうがないだろうと、ざっくりとした博士の居場所を聞くだけにしておいた。

 どうやら住んでいる場所もかなり有名らしく、名前などしらなくても博士の住んでいる所と聞けば町人なら大抵知っているとの事。

 必要な情報を聞き終えた竜郎は、礼を言って店員の人と離れ、その後は目ぼしい種をいくつか購入して百貨店を後にした。


 宿へと帰る途中で奈々には竜郎の中に戻ってもらい、二人で食事を適当に取り、今は宿屋の一室で二人仲良くソファに腰掛け寛いでいた。



「それで結局、その博士って人の所に行ってみるの?」

「そうなあ……。なんかめんどくさそうな人の気配がするから気は進まないんだが、久々に米も食べたいしなあ。愛衣はどう思う?」

「まあ、ちょっと寄り道になっちゃうけど、お米があるかどうか聞いてみるだけならすぐ終わりそうじゃない? 迷うくらいなら、ちょっと行ってみようよ」

「それもそうか。んじゃあ、明日はちょっと博士さんとこによって、それからこの町を出よう」

「うん、そうしよ」



 明日の予定に博士と呼ばれる人物の家に寄る事を追加し、あとは二人の時間を過ごしつつ夜が更けていった。


 あまり早くに押しかけても迷惑だろうと、二人はのんびり朝食をとったあと、身支度を整えて博士のいる場所に向かっていた。

 その場所は竜郎たちの入ってきた門を正面とした時に、町の左隅辺りに存在し、敷地面積はかなり広いらしい。

 そういう事もあって近くに行けばすぐに解るとの事なので、二人は何処か何処かとキョロキョロしながらその場所を探していると、やたらと植物にまみれたジャングルの様な箇所を発見した。



「たぶんあれだよな。場所的にもあの辺って言ってたし」

「ホントに解りやすいねー。嫌でも目に入ってきちゃった」



 マリッカの住んでいた辺りもかなり緑豊かであったし、この町自体も緑がそこかしこにあった。

 しかし、ここはそれすらはるかに凌駕し、豊かというより溢れ出てしまっているという表現がピッタリである。

 その証拠に敷地内を隔てる柵から色んな種類の植物の葉や枝などが飛び出し、伸び放題になっており、さらにその中にあるであろう家屋が一切見えなかった。

 そんな光景に半ば呆れながらも、何処が入り口だろうかと柵に沿うように歩いて行けば、ぽつんと一か所だけアーチ状にくりぬかれたかの様に植物のない道が存在し、その先には博士がいるであろう家の扉があるのを発見した。



「ここから行けば良さそうだね」

「とくに門とかもないみたいだし、扉を直接ノックしてみるか」



 竜郎と愛衣はそんな事を話しながら並んで敷地内に踏み入れたその時、入り口近くにあった植物が急に震えだし、その枝の先に着いていた鈴が大きな音を立て始めた。



「───びっくりしたっ」

「これって、呼び鈴って事でいいのかな?」

「勝手に入った時の、警報装置とかじゃなければいいが……」

「えー。流石にそれはないでしょ」



 念の為、二人はそこから動かずに何か中からアクションが無いかと待っていると、やがて扉が開き、中から少し痩せ型で黒縁眼鏡をかけ、黒がかった青色の髪をした成人男性が胡散臭い物を見るような目をして現れた。



「何だ君たちは? 今日は来客の予定はなかったはずだが、僕に何のようだ」

「米という食物について、聞きたい事があってきました。少し、お時間頂けませんか?」

「こめ、だと? こめ……こメ……コメ……ああ、米か」

「知ってるんですか?」

「君たちの言うものが、僕の知っているものと同じならな。どんなものか言ってみろ」

「色は白くて硬く、水と一緒に煮ると柔らかく少し甘みのある食べ物になる。っていうので解りますか?」

「………………まあ、合っていると言えば、合っていないことも無いか。

 ふむ、なぜ君らがソレを知っているのか興味が湧いた、家に入るといい」

「「ありがとうございます」」



 一人でさっさと家の中に入っていってしまう博士の背中に、二人で腰を折って礼を言うと、早足で家のドアを開いた。

 すると中も見事に植物だらけではあったのだが、こちらはきちんと透明の容器に入れて整然と並べられ、むしろかなり几帳面に片付けられていた。



「何をしてるんだ、こっちだぞ」

「あっ、はい」「はーい」



 外とのギャップに戸惑っている二人に、博士が面倒臭そうに手招きして奥の部屋に招きよせると、丸い一本足の木のテーブルに、四角い箱のような背もたれの無い木の椅子が六つあり、博士はそのうちの一つに腰掛け、手で向かい側の椅子に座る様に指示してきた。

 かなりおざなりな対応であるのにかかわらず、何故かいら立ちを覚えさせないその堂にいった所作に面食らいながら、素直に二人は着席した。



「それで、君たちは僕に何を聞きたいんだ? 回りくどいのは嫌いでね、率直に述べてくれ」

「では率直に。米を持っているのなら、売っては貰えませんか?」

「何故、僕が持っていると思ったんだ?」



 竜郎の問いに訝しげな顔して右眉を上げ、逆に博士の方からそんな風にまた問いかけてきた。



「昨日百貨店で店員さんに米が売ってはいないのかと聞いた所、博士なら持っているかもしれないと聞いたんです」

「なるほど、そういう事か。では問いに答えよう。僕の返事はイエスでノーだ」

「というと、持っているが売る気は無いと」

「ああ。お前たちは百貨店で手に入れられる類のものだと思っているようだが、まずそこが間違っている。

 米とはある特定の山岳民族が好んで食べる物で、この国の殆どの人間は知らんはずだ。

 だから手にいれるには余程運がいいか、直接その山岳民族の場所までいって取ってくるくらいしかない。

 なのに何故、お前たちはそんな貴重な食べ物を知っている? 僕はそこに興味を持った」

「以前、食べたことあるので食べたくなったというだけです」

「では、その食べた所に行って分けて貰えばいいだろう?」

「現在、僕らがそこに行くのは不可能なんです」



 即座に竜郎が答えを述べると、博士はジッと観察した結果嘘ではないだろうと判断し、一度深く息を吐いた。



「ふーーーーーー。わけが解らんな君たちは……。行くのが不可能と先ほど言ったが、もしや現地で不貞を働いていけなくなったというのではあるまいな?」

「ちが──」

「そんなわけないじゃない。私達は善良な一般冒険者よ!」



 違うと竜郎が否定する前に愛衣が言葉を遮って、すぐさま否定した。



「おおっ、黙っていたから喋らん人間かと思っていたが、場が乱れるから自粛していただけか。

 ふむ、冒険者か…………なら身分証を見せてくれないか?

 冒険者ギルドが身元を保証しているというのなら、もう少し聞く耳を持ってもいい」

「本当ですか?」「ほんとっ?」

「ああ。基本的に僕は嘘を吐かない」

「基本的に、ですか」

「ああ、絶対といえるほど、嘘をついていないわけでもないからな」

「はあ、まあ解りました。愛衣もいいか?」

「うん。竜郎がいいならいいよ」



 愛衣に確認をとってから、竜郎は二人同時に身分証を提示した。

 するとそれを見るや否や、ここで初めて博士は笑みを浮かべた。



「個人での冒険者ランクが6っ! 初めて見たぞ! ははっ、僕にも運が回ってきたようだっ!」

「えーと、もうしまっても?」

「ああ、構わない。そうかそうか、まさか君たちがそこまでの冒険者だとは僕も気が付けなかった」

「それで、私達に米を売ってくれる気にはなった?」



 急にはしゃぎだした博士に胡乱げな視線を向ける愛衣に対し、博士は「まあ待て」と一言いって曲げた右人差し指を顎に当てて思案顔を取った。

 そのまま数秒微動だにせず博士は虚空を見つめた後、再び竜郎達の方へ視線を向けた。



「僕の持っている米を、君たちに譲ってもいい」

「ほんとっ!?」

「…………何か、条件が付きそうですね」

「お察しの通り、こちらの要求をそちらが飲めたのなら、喜んで渡そう」

「その言い方からして、多額の現金。って事はないんでしょうね」



 竜郎はこれから何が言われるのか察しがついたので苦笑いを浮かべて言うが、博士の方はといえば、満面の笑みを浮かべて机に両手をバンとついて立ち上がると、こう言い放った。



「ずばり、ナツェート滝付近の川から、ピポリンを捕獲してきて貰いたい!!」

「ああ、やっぱり……」「ええっ!?」



 驚く愛衣を余所に、竜郎はどうしたもんかと天井を見上げたのだった。

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