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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第141話 謎の依頼

 緑化運動。テルゲニという町は、そんな言葉が似合うほど町のいたるところに植物が植えられていた。

 そして道はリャダスのように動きはしないが、色とりどりのタイルで草花の絵柄のモザイクアートが施されており、今まで立ち寄ったどの町よりもオシャレな雰囲気の町並みであった。



「素敵な町ね。リャダスみたいに近未来的な町も嫌いじゃないけど、私はこういう素朴でオシャレな感じの方が好きだな」

「そうなのか? 俺は観光でならこういう所がいいが、住むならリャダスの方がいいな」

「このシティボーイめ」

「大きい方が物流も豊富だし、暮らすに便利だろ」

「ぶーぶー。現実見すぎー」



 膨れた愛衣の頬にキスをして、竜郎は愛衣の手を取って進みだした。

 すると膨れたほっぺは直ぐに萎んで、愛衣はいつもの笑顔で竜郎に引っ付いた。



「まずはご飯ご飯~」

「お勧めの食べ物屋とか、さっきのお姉さんに聞いとけばよかったな。──っお、冒険者ギルド発見っと」

「ほんと、あの建物だけは何処に行ってもぶれないねー」



 他の家々や施設には必ずと言っていいほど、近くには植物が植えられているのだが、冒険者ギルドの敷地内には憮然と普通の石畳が敷き詰められて、そこだけ切り取ったかのように今までと変わらぬ姿の建物が建っていた。

 今回は奈々の件で用事もあるが、急ぎではないのでとりあえず場所だけ覚えてスルーして食事処を探していった。

 程なくしてパスタ系の店を発見したので、そこに立ち寄り適当に注文して食事をとると、そこの店の店員に教えて貰った宿屋に向かった。

 この場所からは少し遠いのだが、それなりに広くて風呂のある宿という事なので気にせずに歩いて行くと、赤いとんがり屋根が特徴的な可愛らしいデザインの宿屋が見えてきた。

 そのファンシーな外観の建物に愛衣は目を輝かせながら竜郎の手を引いて、その宿屋に直行した。



「いらっしゃいませ。お泊りですか?」

「はい。二名で、とりあえず一泊の予定です。広くて風呂のある部屋がいいのですが、有りますか?」

「二人でなら充分寛げて、お風呂のある部屋でよろしければございますよ」

「じゃあ、そこでお願いします」

「では二名様一泊で、五万シスいただけますか?」

「はい」



 竜郎は直ぐに五万シスをコインに変換して渡すと、金額の確認の後に部屋の鍵を渡された。

 鍵の番号と同じ部屋は三階にあるという事なので、階段を上っていく。

 そうして三階に着いたら直ぐの所に目的の部屋を発見したので、早速鍵を開けて中に入っていった。


 すると中は十分広く、内装はフリフリのレースのカーテンや、ピンクのソファなど、かなり乙女チックなメルヘン仕様になっていた。

 それに竜郎はマジカーといった渋い顔をしていたが、愛衣的には有りらしく、嬉しそうにピンクのソファにダイブした。

 竜郎はその姿にまあいいかと思いなおし、風呂場の位置を確認しに行けば、一人用の浴槽を発見した。

 これだと昨日も入った仮設風呂の方が大きいのだが、部屋の広さは申し分ないので、こちらはこれで良しとした。

 そうしてあらかた部屋を見て回り、竜郎的に内装以外は特に気になる所もないという事で、さっそく愛衣を連れて外に出た。

 頃合い的には夕方より少し前と言った所。竜郎達は暗くなる前に宿に帰れるように速やかに人気のない所に行って奈々を呼び出した。



「わたくしも、冒険者になるのですね。こーゆー所は人型の利点ですの」

「そうだな、けど前にサルマンがシステムがインストールされていれば人扱いされる的なニュアンスの事を言ってたから、それさえ証明できればカルディナとジャンヌもなれるのかもしれないな」

「でも、そうなるとカルディナちゃん達がなんなのかってなってきそうだよね」

「だなあ……。だから余程必要にかられなければ、しなくてもいいかな。

 あの姿なら、身分証を見せろなんて言われるシュチエーションもないだろうし」

「逆にいうと人型の奈々ちゃんは、いざという時の為にもあった方が良いって事だね」

「ですの、ですの」



 冒険者ギルドへの提出書類への記入事項を奈々とすり合わせながら、綺麗なタイルのモザイクアートの道を踏みしめ歩くこと数十分。

 竜郎たちは、冒険者ギルドの建物のある場所に戻ってきた。

 そうしてもう慣れたものだと気軽に三人で入って行くと、その内装もまた変わらぬ趣のままであった。


 竜郎たちは入った足でそのまま受付のカウンターに直行し、丁度他の冒険者の用が終り誰もいなくなった三十代前半ほどで、眼鏡をかけた温和そうな男性の前にすっと入っていった。



「こんにちは」

「こんにちは。依頼書の提出ですか?」

「いえ、今日はこの子を冒険者ギルドに登録したくて来ました」

「そちらの女の子だけですか?」

「ええ、僕と彼女はもう登録してあるので」

「解りました。では書類を用意いたしますので、少々お待ちください」

「はい、お願いします」



 職員の男性は、幼すぎる外見の奈々が登録することに特に疑問も無かったのか、直ぐに必要な書類を取りに奥へと去っていった。



『もう少し何か聞かれると思ってたが、こっちじゃこのくらいの子が登録しに来ることも良くあるのかもしれないな』

『ねー。あ、そうですかーみたいな感じだったし』



 空いた少しの時間で二人は、奈々の頭を撫でながら念話で会話をしていると、すぐに男性が戻ってきた。



「お待たせいたしました。それでは、こちらの書類に必要事項をご記入ください。

 必須項目は赤枠で、それ以外は書かれなくても結構です」

「わかったですの」

「一人で書けるか?」

「大丈夫ですの」

「解らない所があったら、すぐ聞くんだよ?」

「解ってますのー!」



 余りにも二人が過保護に対応するものだから、奈々は少し拗ねて頬を膨らませながら事前に決めていた通りの情報を、書類に的確に書いていく。

 そんな姿も二人には愛らしく見えるため、記入の邪魔にならない程度に頭を撫で繰り回した。

 その光景を見ていた男性職員も、どこかほっこりした顔をしていた。



「出来ましたの! これでよろしいですの?」

「では、確認させて頂きますね。…………………………はい、必要な個所は全て問題ありませんね。

 それでは今から加入証を作ってきますので、また少々お待ちください」

「はいですの」



 そう言って男性は奥に去って一、二分ほど引っ込んでいると、竜郎達のときと同じ薄青く光る半透明の薄い板を一枚手に持って帰ってきた。

 それを奈々に手渡すと、システムが奈々の目の前に浮かんできた。



 ----------------------------------------------------------------

   冒険者ギルドの加入証 を確認しました。 加入いたしますか?


             はい / いいえ

 ----------------------------------------------------------------



「はい、ですの」



 思わず口に出しながら、奈々は直ぐに「はい」を選択した。

 すると、板が粒子となって奈々に吸い込まれていった。そして、システムの起動画面に切り替わり、新たな項目が加わっているのを確認した奈々は、横に立つ竜郎と愛衣にそれぞれ笑顔で頷いて、ちゃんと出来たことを知らせてくれた。



「加入できたようですね。では、これからよろしくお願いします」

「よろしくですの!」



 こうして奈々も、冒険者の仲間入りを果たしたのであった。

 それから竜郎たちは特に受ける気もないけれど、情報収集もかねて入り口付近にあった白いプレートに三人で冒険者ギルドの登録証をかざして、現在受けられる依頼を確認してみた。



「うーん。特に面白そうな依頼はなさそうだね」

「そうだなあ……──ん、この依頼は何だろ」

「どんな依頼?」

「なんか滝に行ってそこの川から、海に生息するピポリンって魔物を生け捕りしてきて欲しいってやつ。それに、報酬の金額が他より飛びぬけて高い」

「ぴぽりん? なにそのご当地マスコットキャラみたいな魔物は──っと、これね」

「わたくしも見つけましたの。海の魔物を川で取ってこいとは、どういう事ですの?」

「「さあ?」」



 そんな事を聞かれても竜郎と愛衣にも解らないし、当然ポケットの中でまったりと寛いでいるカルディナに聞いても答えは得られないだろう。

 なので竜郎は周りを見渡し、一番気の良さそうなおじさんに聞いてみることにした。



「すいません、少しいいですか?」

「おっ、何だい若いの」

「えーと、少し気になる依頼があってですね。実は──」



 見た目通り気の良さそうな返事にホッとしながら、竜郎は先ほどの依頼について何か知ってるかとおじさんに聞いてみた。

 するとさわりだけ話しただけで、すぐに何の依頼なのか理解し、丁寧に教えてくれた。



「あー。それかあ。そいつは、博士の依頼だな」

「ハカセですか? それは名前ではなく、知恵者という意味での博士でしょうか?」

「ああそうだ。だが、まだ若いんだぞ。確か三十になったか、ならなかったかくらいだったか。んでその博士なんだが、数年前から突然ピポリンを捕まえてくれって冒険者ギルドに依頼を出したんだが、博士が指定してる場所で海の、それも深海に住む魔物がいるわきゃねーんだよな。お前達もそう思ったから、俺に聞いてきたわけだろ?」

「そう、ですね。でも、それなら何故その博士はそんな依頼を出したのでしょう?」

「博士曰く、二十年くらい前に一度見たことがあるっていうんだよ」

「それじゃあ、いるって事でいいんですか?」



 竜郎達が何のこっちゃと首を傾げると、おじさんは苦笑いして言葉を続けた。



「それがなあ…。博士が嘘を吐く意味も解らんから、俺達も何度か探したんだがよお」

「見つからなかったと?」

「そういうこった。でも、報酬の値段が値段だろ? だからやっぱり飛びつく奴が何人もいたが、全員空振り。それからは、いねーって事で誰もその依頼を受けなくなった。んで、偶に外からやって来たお前さん達みたいのが受けたりするが、見つけられずに帰ってくるってなわけなんだよ。

 だからお前さん達も、無駄足踏まねえようにな」

「そうですね、お話ありがとうございました。それでは、失礼──」

「おいおい、何言ってんだ。ほれ」



 竜郎が礼を言って離れようとすると、おじさんは気のいい顔はそのままに、手の平を突き出してきた。

 どうやら、情報料を払ってくれという事らしい。



『気のいいおじさんだと思ったのに……』

『後だしは酷いけど、これがこの世界の常識なのかもしれないね』



 愛衣と念話で話しながら、竜郎はシステムを開き値段を聞くと、おじさんは指を十本あげて見せてきた。

 この前は八本で八千シスだったので、その計算で言えば一万シスである。

 正直こんな簡単に集まりそうな情報にそこまで値がつくとは思わなかったが、揉めるのも面倒なので素直に一万シスをおじさんに渡した。

 するとオジサンは値段を確認して、直ぐにコインを自分のシステムに入れて消し去ると、再びコインを手の平にだして竜郎に握らせた。



「釣りだ」

「え?」



 自分が間違えたのかと、そのコインの値段を確かめると、9,990シスと表示されていた。これでは、おじさんの取り分は10シスしかないことになる。

 竜郎は戸惑いながらおじさんを再び見ると、ニカッと笑って粗っぽく竜郎の頭をガシガシ撫でた。



「おわっ」

「こういう事もあるから、次からは気を付けるんだぜ、若いのっ」



 そうしておじさんは、竜郎の髪をグシャグシャにすると、颯爽と後ろ姿で手を振って冒険者ギルドを出ていった。



「なんだ、結局気のいいおじさんだったのか」

「そうみたいだね」



 愛衣は竜郎の乱れた髪を手櫛で整え、二人顔を見合わせて笑い合ったのだった。

次回、第142話は1月4日(水)更新です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 受付で聞けばよかったんじゃない?
[一言] いいおじさん!
2020/10/25 14:29 退会済み
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