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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第139話 新たな食料源の確保

 種から樹魔法で食料調達をできるようにするための実験を開始した竜郎は、大きな植木鉢に土と樹の混合魔法で、養分たっぷりな土を造りだし植木鉢に敷き詰めた。

 それが終われば種を蒔き、魔法でやるのでいるかどうかは解らなかったが、水もついでに撒いておいた。



「直接、魔法で種からぶわあって成長させられないの?」

「まだそれは出来なさそうだからな。けどレベル10くらいになれば、マリッカさん達みたいに種すらなくても出来るようになりそうだけど」

「なにそれ、すごいじゃん。じゃあ、私達の世界の果物とかも竜郎なら作れるんじゃない?」

「かもしれないな。だが今は、色々下地を作って置いた方が確実だろ」



 そう言いながら、竜郎は樹魔法で一気に目の前の種を芽吹かせるべく魔力を込めた。

 すると、ポンッと可愛らしい芽が出てきたかと思えば徐々に成長していき、一メートルほどの細く小さな木が生った。

 そこでさらに竜郎は樹魔法で成長をさせるべく魔力を込めていくと、成長速度は緩まってきたものの、二メートル程の木に生ったところで小ぶりだがリンゴに似た実が枝にぶら下がり始めた。

 そこで竜郎と愛衣はお互い一つずつもぎ取ると、同時にその実に齧りついた。

 そして、そのお味は……。



「まずっ」「まずーい!」



 とんでもなく薄味で妙なえぐ味もある、二口目にいきたいとはとても思えない代物になっていた。



「え~なんでぇ? 説明文には少し酸味があって甘い果物になるって書いてあったのに。騙されたのかなあ…」

「仮にも商会ギルドが取り仕切ってる店でそんなことしたら、二度と営業させてもらえなくなりそうだし、騙されたって事は無いと思う。

 んで、その説明文が嘘でないとするなら、俺の魔法の方に原因がありそうだな……」



 そう言いながら竜郎は他の実もいくつか取って食べてみるが、皆総じて食べられたものではなかった。

 そこで竜郎は一端植木鉢と樹を《アイテムボックス》にしまい、樹魔法の事が書かれた本を取り出して原因が解らないかと色々調べ始めた。

 その間、しばらく愛衣は竜郎の横でくっついたり、首筋にキスしたりと楽しみながら時を過ごした。

 やがて竜郎は目的の項目を見つけ出し、そこをよく読み込むと再び本を《アイテムボックス》にしまいこんだ。



「何か見つかった?」

「ああ。どうやら樹魔法で食べる事を目的として育てる場合、一気に成長させると、味やら栄養やらがスカスカになっちゃうみたいだな」

「となると、ゆっくり育てましょうってこと? それじゃあ、魔法の意味が無くない?」

「食べなきゃ普通に使えるみたいだし、意味がないわけじゃないぞ?

 実際安い木材なんかは魔法製の物が多いらしいし」



 実際に薪木などに利用される木材は、魔法で大量生産したものを安く買って使うのがこの世界の常識らしい。

 ただ、魔道具技術の発展でその薪木としての役割も減ってきてはいるらしいが、貧困層にはまだまだ需要が高い。

 ちなみに魔法で一から作ってしまうと、気力や魔力を上手く扱えなくなるので、装備品の素材としては成り立たない。なので、樹魔法で稀少な木材を一から生み出しても高くは売れない。さらに魔法で一から造られたものは厳密には植物ではないので、そこから増えることも無いようだ。



「でも、私達の目的は道中の食べ物を調達するために覚えたようなもんだから、ショックだなあ」

「けどな、魔法で丹念に成長させた植物から取れる野菜や果物はかなり美味いらしいし、普通に育てるよりも元気に早く育つみたいだぞ」

「それは魅力的だねー。でも、そんなに時間かけてたら元の世界に帰れそう」

「まっとうにやればそうだな。だが、一つ俺には案がある。ちょっとそれをやってみようと思う」

「もしかして、早くて美味しい果物や野菜が食べられそうな案ってこと?」

「ああ。だが、やってみないと解らないから。

 今日は取りあえず仕込みだけして明日、町を出た後にでもどうなるか確かめよう」

「解った。明日ね」



 そうして竜郎は、その仕込みをしてからカルディナ達には自分の中で眠ってもらい、誰もいなくなったところで愛衣の腰を抱き、共にベッドに入って行ったのであった。


 翌日。その日は少し雲が太陽にかかっているがそれだけで、雨が降る気配はなく、絶好の出立日和であった。

 さっそく竜郎と愛衣は着替えて朝食を食べ、宿を出ると直ぐに門に向かった。

 その道中、町は町長選の話題で持ちきりのようで、マリッカやそれ以外の候補者の名前やマニフェストが書かれたポスターの様なものが、いたるところに張られていた。



「今日から選挙活動が開始だっけか」

「みたいだね。私達はもうこの町を出ちゃうからあんま関係ないけど、マリッカさんには頑張ってほしいな」

「けどまあ、ほとんど決まったようなもんらしいし問題はないだろうな」

「うん。それにマリッカさんならきっともっといい町にしてくれるよね」



 竜郎たちが歩いて門の前にたどり着くと、順番を守って列に並び、リャダスの町を出立したのだった。

 門から出て二人で三十分ほど人目のなさそうな所まで歩いて行くと、そこで犀車を《アイテムボックス》から取り出してカルディナ達にも出てきてもらう。

 それからジャンヌに犀車の金具を繋がせてもらうと、その上に奈々が乗り、カルディナは犀車の天頂部に設けられた特等席に飛んで行き、早速探査魔法を全面に行使しだした。

 次に向かうは隣領リューシテンに属するテルゲニという町を通過し、そこからさらに二つの町を抜けた先にある鍛冶師の町ホルムズが目下のゴールである。

 そして最初のテルゲニまでの道は若干分かれ道などが複雑なので、今回ばかりは竜郎と愛衣も犀車の中には入らず御者席に収り、ジャンヌに出発の合図を出した。



「やっぱりレジナルドさんの所で買ったこの椅子、すっごくフカフカでずっと座ってられるね」

「ああ。長時間座っても疲れず、できるだけ軽くておしゃれな椅子は無いかとか言ったら、すぐに用意してくれるんだから凄いよな」



 少しずつ速度が上がる中、二人はそれぞれ緑と赤の色違いでデザインが同じ椅子を取り付けた御者席で、満足そうにお尻を動かした。

 今までは寝袋を敷いていて、そちらもモチモチ素材で座り心地は悪くはなかったのだが、やはり本職の椅子の座り心地にはかなわなかったようだ。

 そして犀車のスピードも一定になってきたところで、そこから道順をマップ機能を使ってジャンヌに乗ってこちらを見ている奈々に伝えていった。



「そういえば、奈々が獣術家になったのはいいんだが、カルディナやジャンヌはどういう風に成長させていくのがいいんだろうな」

「うーん。今のままでも十分魔法は強いし、物理もなかなかで前衛にも出られるし、迷いどころだよね」

「最悪このままクラスにつかずに、平均的に伸ばすのも有りっちゃ有りだし」

「あーそう言う手もあるのかあ。でも、どのクラスにつこうとつくまいと、うちの子は強いし、もういっそ奈々ちゃんみたいに流れに任せるか、本人たちの意思で決めて貰った方が良いかもしれないね」

「まあ、それが一番か。使い魔の様なものといえど、ちゃんと個としての意思を持ってるんだし、そこは自由に育ててこうか」

「うん!」



 そんなプチ子育て会議をしていると、最初の分かれ道が見えてきた。

 するとジャンヌは前を向いたままで、その上に乗った奈々だけが振り向いて指示を仰いできた。

 そこで竜郎は走行音で聞き間違えても困るので、事前に決めていたジェスチャーで、右から二番目の道に曲がる様に奈々に伝えた。

 奈々は確認の為に同じジェスチャーを竜郎に見せ、竜郎が頷いたのを確認した後ジャンヌに正しい道順を伝えた。



「なんか、それ楽しそうっ。次は私にやらせて!」

「じゃあ、次は左の道だから、その時は頼んだぞ」

「りょーかーい」



 丁度愛衣の言葉と同時に、ジャンヌも指示通りの道を通過した。

 そんなことを道中しながら、偶に出てきたイモムーを狩りつつ朝から昼まで移動し続けた。

 そうして昼になればジャンヌと奈々に言って、犀車を道から少し外れた場所に止めてもらい、竜郎達は多めに頼んだ朝食の残りを出して休息を取り始めた。

 竜郎達が食べている間、カルディナ達は食べる必要が無いので、食事の邪魔にならないようにか、警戒しながら三体で何やらじゃれ合っていた。

 そんな光景を眺めつつ、出来合いの物を口に運んでいると、ふと思い出したかのように愛衣が竜郎に話題を振ってきた。



「ねえ、そう言えば昨日言ってた仕込みの方はどうなったの?」

「おっと、忘れてた。んじゃあ、さっそく見てみるか」



 そう言って竜郎は《アイテムボックス》から、昨日仕込みをしておいた植木鉢を取り出した。

 すると、どことなく昨日急成長させた時よりも葉の枚数や枝の数が増え、幹も一回りくらい太く見える全長二メートルの木が生っていた。

 また、竜郎たちの目的である木の実は、緑色でまだ熟してはいない様だった。



「おっ、我ながらなかなか上手くいってるんじゃないか?」

「ほんと、昨日の不味い実を付けた木よりも、生き生きしてる気がする。これなら美味しい実が取れるかも!」

「ああ、もう少し《アイテムボックス》で寝かせれば食べられそうだな。

 ってことで、こっちに魔法をかけ直しておくか」



 竜郎は植木鉢に近づいてしゃがみ込むと、木の根元に挿した鉄の棒を計八本抜くと、そこに呪と樹の混合魔法で植物の成長を促す魔法を付与していった。

 そう今回の仕込みとは、呪魔法と《アイテムボックス》での時間経過加速を合わせた手法のことで、まず鉄の棒数本に植物の成長を促す魔法を徐々に木に送る様条件を付けて付与し、木の根元に数本挿しておく。

 そしてさらに《アイテムボックス》に仕舞って、時間の進みを早めることでゆっくりと早くを同時に成し遂げたのだった。



「《アイテムボックス》もまだ余裕があるし、この実験が上手くいけば自家栽培が大量にできるぞ」

「もう、歩く農園になれそうだね。なら次は野菜を育ててみようよ! お肉の付け合せのサラダ的な奴!」

「そうやって野菜ができるようになってくると、今度は魚が欲しくなってくるな。魚型の竜とかいないかなぁ」

「陸海空ならぬ、肉菜魚を揃えられれば完璧ね!」

「完璧になるには、料理の技術もいるけどな」

「おふ……それはめんどくちゃいなあ。お金はあるんだし、いっそ専属シェフでも雇っちゃおうよ」

「あんまり、こっちの金銭感覚に慣れない方が良いぞ。日本に帰れば、俺たちは只の一般人なんだから」

「そーなんだけどねー」



 一応、料理本の類は買ってはあるのだが、なんとなく調味料を振っただけの肉でも美味しいのと、所持金がかなりあるというのもあって、そちらに手を回そうとも思っていなかった。

 しかし、あまり単調な食生活も良くないし、お互い料理本を今度読んでみようという、確証もない取り決めをしたところで、二人は食事を終えた。

 その後はジャンヌたちにも目一杯魔力を補給してから、再び犀車が走りだした。



「このまま行けば、明日の昼ごろにはテルゲニって町に着けそうだ」

「確かレジナルドさんが、私達に初めて会う前にいた所だよね」

「ああ。確か領主に頼まれて直々に商談しに赴いていたらしいが、何か変わった物でもあるのかもしれないな」

「そう言われると、ただの通過点だった場所も気になって来るね」



 なにせ、領主が直々に頼むほどの何かがあるというのは確実なのだ。二人の期待値も自然と上がり、ワクワクしながらテルゲニに向かったのだった。


 この日の夜は闇属の日なので、朔の日でもある。なので月が出ず、道中に明かりもないので真っ暗になってしまう。

 そんな中でも、夜通し進んでくれると奈々が代表して訴えてきてくれたのだが、この暗闇の中で進んでいくのは危険と判断し、今日は日暮れ前には止まって適当な場所で野宿となった。

 そうと決まれば早いと、夕陽が完全に沈む前に石畳で整備された道から外れて、そこから少し離れた場所で犀車を停車した。

 完全に犀車が停車したのを確認したら、竜郎達は降りると労いながらジャンヌから留め具を外して自由にする。

 それからカルディナと奈々も同様に労うと、夜食の準備に取り掛かった。

 道中にでも料理本に目を通しておけばいいものを、二人は始終ベタベタくっ付いて話していたので、今回も相変わらずのBBQスタイルである。

 だが、いつもと違う物もちゃんとある。そうそれは。



「果物ー!」

「上手くいっててくれよ」



 愛衣は目をらんらんと輝かせ、竜郎は上手くいっているよう祈りながら《アイテムボックス》から大きな植木鉢を取り出した。

 すると木の方は高さはそれほど変わりないが、昼時よりも幹が太くなり、葉っぱももっさりしていた。

 そして肝心の実の方はといえば、いくつか熟しすぎて下に落ちたまま腐ってしまっているものの、食べられそうなものも沢山実っていた。



「ちょっと《アイテムボックス》から出すのが、遅すぎたみたいだな。何個か駄目にしちゃったみたいだ」

「でも、大丈夫そうなのも沢山実ってるよ! 早速、取っていい?」

「ああ、一緒に取ろうか」

「うん!」



 二人で仲良く植木鉢に生った木に手を伸ばし、リンゴというより、姫リンゴに近い木の実を二人でいくつか摘み取った。

 味は以前の物しか知らないので失敗した時の恐さもあった、しかし二人は一度見つめ合って頷くと、勢いよく齧りついた。



「あまっ」「おいしーーー!」



 そのお味は、思わず声を上げてしまうほど美味なものになっていた。

 以前食べたものとは比べ物にならず、ほんのりした酸味の中に甘さが混じり、高級なリンゴだと言われて出されても違和感を感じない程、最高の出来になっていた。



「これ、普通に売れるレベルだろっ」

「はぐはぐっ、ホント、こんなのが約一日でできるなんて異世界マジパナイっす

ね!」

「ああ、パナイっ。はぐはぐ」



 そうして二人であっという間に十個ほど完食すると、またいくつかもぎ取って、呪と樹の混合魔法を鉄の棒に掛け直してから、今度は経過時間が遅くなるように個別設定しなおして《アイテムボックス》に植木鉢をしまった。



「実験は大成功だ。時間の速度の切り替えを探っていく必要があるが、これなら他の野菜や果物も作れるはずだ!」

「やったあ。テルゲニに行ったら、もっと色んな種を買い漁ろうね!」

「おう。美味そうなのは全部買ってこう!」

「楽しみー!」



 そうしてハイテンションのまま、二人は小躍りしながら手持ちの他の種も何種か植えていくのであった。

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