第13話 解魔法
それからも二人は二時間交代で睡眠をとり、竜郎の時の獣以外は特に変わったことも無く、朝日を無事迎えた。
そしてそれは同時に、この世界にきて二日目という証明でもあった。
「あー今日も歩くのかー」
「いーやだけど、この森からはさっさと出たいし、早速行こっ」
「うーい」
「えーい、もっとシャキッとせんかっ」
「おーこりゃすまねえ」
ただ歩くのもなんだと、二人が謎のあいうえお作文でじゃれつきながら川辺を歩く。
その途中で竜郎はリュックからおにぎりを一つ取り出すと、半分に割って愛衣に渡した。
「具はおかか?」
「そう。コンビニでおにぎり買う時、一つはこれにしちゃうんだよな」
「そうだね。むしろどっちも違ったら、たつろーを偽物かと疑うところだった」
「そんなに頑なにおかかだっただろうか……」
いらぬ葛藤に苛まれる竜郎を尻目に、愛衣はおにぎりを少しずつ噛みしめながら嚥下した。
「たつろー、お水を下さいな。……たつろー?」
「──えっ、ああ水な。ちょっと待ってろ」
意識を覚醒させた竜郎は《水魔法 Lv.1》を使用して水球を生み出し、愛衣の顔の前に持ってきた。
それに「ありがと」とお礼を言って、愛衣は口をつけて水を啜った。
「んー、なんか宇宙で水の玉を飲み込んでる宇宙飛行士の気分」
「まあ、わからんでもないな」
そして余った水を竜郎も啜り、残りは川に投げ捨てた。
「お湯もできるんだっけ?」
「ああ、火と水の混合魔法でなら作れるぞ。お湯の方がよかったか?」
「んーん、それならカップ麺を持ち込めれば、どこでも食べられたなあと」
「十個くらい買い溜めしてこれれば、もっと食べられたんだろうけどな。たく、異世界に来るなら準備くらいさせろってんだ」
誰ともいえぬ者に文句を付けながら、ガブリと手に持ったおにぎりを食べた。
今現在の二人の残りの食料はおにぎり一つと駄菓子が諸々。水は魔力さえ尽きなければ無限に出せるうえに、念のためにとってあるお茶も一本残ってはいるが、食料の方はギリギリだった。
木が生い茂る方に潜り込んでいけば、果物か何かあるかもしれないが、どんな生物がいるともわからないし、それが本当に食べて大丈夫なのかも解らない。川の魚も同様の理由で却下された。
つまり八方塞がりであった。
「はあ、こうなったら多少強行軍でも急いだ方がいいか」
「でも、無理して何かあったら、余計に時間がかかってアウト! なんてこともありえるよ」
「……このまま行くか」
「だーねー」
これ以上は気分が盛り下がるだけだと、竜郎は昨日の夜に考えていたSPの使い道について切り出した。
「そういえば、昨日大量にゲットしたSPのことなんだが」
「あー言ってたね。何に使うか決めたの?」
「ああ、光と土をそれぞれLv.5ずつと《解魔法 Lv.3》をとって、消費SP(180)の余りSP(3)で行こうと思う」
「その心は」
「土の属性の便利さは昨日で身に染みたからな。
光はちょっと新魔法に必要だからで、解は探索魔法とかもできるから、今後役に立つかもという希望的観測で」
「新魔法! 見たいっ見たいっ」
「えーでは反対意見も無いようなので、これで決定と。ではさっそく」
システムを起動し、スキル欄から先に言った魔法を順番に選択、取得していった。
そして、念の為にステータスを二人で確認した。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:光魔法師
レベル:14
気力:21
魔力:233
筋力:32
耐久力:32
速力:27
魔法力:141
魔法抵抗力:139
魔法制御力:141
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《光魔法 Lv.5》《闇魔法 Lv.1》
《火魔法 Lv.5》《水魔法 Lv.1》《生魔法 Lv.1》
《土魔法 Lv.5》《解魔法 Lv.3》《魔力質上昇 Lv.1》
《魔力回復速度上昇 Lv.2》《集中 Lv.3》
◆システムスキル◆
《マップ機能》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
なし
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「やっぱりだ。レベルが上がってないのにステータスが昨日より上がってる」
「そうなの?」
「ああ、前にもスキルを取得した前と後だと違ってたから、今回は魔法関係の数字を覚えといたんだ」
「マメだねぇ」
「それで今回上がったのは11、スキルのレベルが上がった、もしくは増えた方も合わせて11、多分魔法系のスキルレベルの数だけステに上乗せされるってことだと思う」
「じゃあ、スキルを取れば取るだけ強くなると」
「そういうことだな」
新たな発見をしつつ無事にとれたことが確認できると、愛衣はシステムを閉じ、竜郎はヘルプを使って新しく覚えた魔法について調べた。
「んじゃあ、まずは解の属性の探査魔法いっとくか」
「探査魔法かぁ、どんなのなんだろ」
スキルに身を任せる方法はもう十分だと悟った竜郎は、早速自分の意思で制御することにした。
まずは探査魔法、脳の処理を軽減するために目を閉じ、解属性に生成した自分の魔力を手のひらから霧のように散布していく。
自分を中心としてドーム型になるように、不可視の霧状の魔力を制御していく。
すると上に三メートルほどの不可視で霧状の魔力のドームが完成した。
「──うっ」
霧の制御を最低限にし竜郎が情報の収集に意識を向けた瞬間、ものすごい情報の渦が頭を侵食してきた。
たまらず情報の収集を切り、必要なもの、ここでは生物だけの情報に制限するように念じ、また意識を収集に向けると今度は近くにいる愛衣の存在を感じられるのみとなった。
「たつろー? 顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ、ちょっとミスったが、大丈夫だ。
それよりも愛衣、右手か左手どっちかを上げてみてくれ。今なら目を瞑っても解るはずだ」
「そうなの? じゃあ、ほいっ右手!」
と言いながら愛衣はどちらの手も上げなかった。
「どっちの手も上げてない」
「むむっ、正解。それじゃあ、はいっ右手!」
と言いながら愛衣は右足を上げた。
「どっちの手も上げずに右足を上げてる」
「正解っ。それじゃあ、最後。はいっ右手!」
と言いながら、音を立てずに半回転し、左手を上げた。
「右向きに百八十度回転してから、左手を上げた。どうだ?」
「完璧ね! これなら日本に帰っても超能力者として食いっぱぐれることはないわ! おめでとう!」
「なんの賛辞だよ……まぁ超能力者云々は置いといて、特に使用に問題はなさそうだな」
そこでようやく目を開けた竜郎は、解魔法の使い道について後で色々研究してみようと考えた。今のやり方では、消費魔力、範囲、それぞれ改良点が多々あるからだ。そこで、再びどちらからともなく歩きだした。
「そういえば、他の魔法は練習しなくていいの?」
「ああ、そっちはLv.1の時にできるか試してて、後は出力をその時よりも上げればいいだけだからな。それに」
「それに?」
「さっきの魔法が思った以上に魔力消費が激しかったから、残りの魔力は温存しときたいってのもある」
「そんなに魔力喰いなんだ探査魔法って」
「さっきやったのは何の捻りもなく、力技でやってみたって感じだからな。
これから改良して、使い勝手を良くしていく予定だ」
「ゲームだったらコマンド一つで打てるのに、こっちの魔法は色々考えて使わないとダメなんだねー」
「俺としてはそっちの方が面白い」
「私はそういうのめんどくさいタイプだから、コッチで良かったのかもね」
そう言って愛衣は、拳を「えいやっ」と突き出した。その堂に入った迫力ある突きを見て、確かにそうだと思った竜郎であった。