第138話 微睡の日
エンニオに別れを告げ、さあ明日は出発だと意気込んで眠りに入った二人が目を覚ませば、未だ外は暗かった。
なのでまだ夜かと竜郎が時間を見てみれば、とっくに朝が来ていてもおかしくない時間帯であった。
そこでようやく竜郎は、今日が光属の日で極夜なのだと理解した。
(ミスッたな。ダンジョンに入っていたせいで、曜日の感覚がずれたか……)
別に暗闇だからと無視して出発してもいいのが、安全対策は取れるだけ取っておいても損はない。この世界には、まだ二人が理解していない何かがあるかもしれないのだから。
となると、今日はどうするのかという話になってくる。そこで隣で自分に引っ付いている彼女を見ると、安心しきった緩んだ顔で寝ており、それを見た竜郎はギュッとさらに抱き寄せておでこにキスすると、もういいやと再び眠りに落ちていった。
そんな事も有り、二人が完全に起床したのは昼過ぎ頃になっていた。
いくらなんでも寝過ぎたかと、ボーっとする頭で反省しながら支度を済ませ食事を取り始めた。
「そう言えばダンジョンで結構SP溜まってたのに、まだ使ってないよね?」
「え? ああ、そういえばステータス確認もしてなかったから忘れてた。んじゃあ、ちょっと確認がてらSPも消費しておこうかな」
そう言いながら竜郎はシステムを開きつつ、今のSPを確認した。
すると、ダンジョンに通っていた数日間で溜まった数は(418)もあった。
そこで、竜郎はどれを取ろうか思案した結果。
「ん~。呪魔法をレベル10、雷と樹魔法を3にしようかな」
「呪魔法が10になれば、奈々ちゃんも称号が手に入るし一石二鳥だね」
「ああ。だからこれは、最優先で上げておきたい。後はまあ、あげとくと便利そうだからって理由だな」
「現状でも結構色んなことが出来るようになって来てるし、後はもう好みの問題みたいなものだしね」
愛衣の方にも異存はないようなので、竜郎は言った通りにSPを(391)消費した。
《称号『呪を修めし者』を取得しました。》
「ん。無事称号もゲットと。そんでもってお次は、皆出てきてくれ」
竜郎のその呼びかけに応えて、カルディナ達が姿を現した。
それを確認したら、まずは奈々の呪魔法の因子を更新すべく、球体の状態になってもらい10レベルの呪魔法を移植し直した。
奈々に無事できているか念の為確認してもらったあとは、ダンジョンで上がったステータスの確認に移った。
最初はいつものように、竜郎のものからシステムを起動してステータス画面を開いた。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:複合魔法師
レベル:51
気力:40
魔力:1709
竜力:100
筋力:100
耐久力:100
速力:83
魔法力:1515
魔法抵抗力:1465
魔法制御力:1546
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《複合魔法スキル化》《陰陽玉》
《炎風》《土尖風》《粘着水》
《光魔法 Lv.10》《闇魔法 Lv.10》《火魔法 Lv.10》
《水魔法 Lv.10》《生魔法 Lv.5》《土魔法 Lv.10》
《解魔法 Lv.10》《風魔法 Lv.10》《呪魔法 Lv.10》
《雷魔法 Lv.3》《樹魔法 Lv.3》《魔力質上昇 Lv.4》
《魔力回復速度上昇 Lv.3》《魔力視 Lv.4》《集中 Lv.4》
《全言語理解》
◆システムスキル◆
《マップ機能》《アイテムボックス+5》
残存スキルポイント:27
◆称号◆
《光を修めし者》《闇を修めし者》《火を修めし者》
《水を修めし者》《土を修めし者》《解を修めし者》
《風を修めし者》《呪を修めし者》《打ち破る者》
《響きあう存在+1》《竜殺し》《竜を喰らう者》
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「修めシリーズもあと四つか。とってない氷魔法のレベル10までは遠いが、十二個とれば称号だけで1200プラスなんだよな。それだけ見ても、《レベルイーター》の能力は有難いな」
「だねー。私のも相当アレなスキルだったけど、弱点はちゃんとあるし、たつろーのは手間がかかること以外はほぼメリットしかないもん」
「そう考えると、この世界の人達って、初期スキルに恵まれるかどうかで、かなり人生左右されそうである意味恐くもあるな」
「私たちの世界と違って、あからさまに変わってきそうだもんね。もし、二人とも碌でもない初期スキルだったら、今頃は森の中で餌か肥料になってただろうし」
愛衣の《武神》が無ければ、最初のイモムーですら危険であったのだから、そのもしもは想像に難くなく、二人は背筋を寒くさせた。
そこで話題の転換もかねて、次は愛衣のステータスを開いていく。
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名前:アイ・ヤシキ
クラス:体術家
レベル:36
気力:4857
魔力:35
竜力:100
筋力:964
耐久力:936
速力:724
魔法力:33
魔法抵抗力:33
魔法制御力:33
◆取得スキル◆
《武神》《体術 Lv.7》《棒術 Lv.3》
《投擲 Lv.8》《槍術 Lv.8》《剣術 Lv.9》
《盾術 Lv.8》《鞭術 Lv.9》《斧術 Lv.2》
《弓術 Lv.9》《気力回復速度上昇 Lv.7》《身体強化 Lv.10》
《集中 Lv.1》《空中飛び Lv.2》《遠見 Lv.1》
《受け流し Lv.1》《全言語理解》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+2》
残存スキルポイント:42
◆称号◆
《剛なる者》《打ち破る者》《響きあう存在+1》
《竜殺し》《竜を喰らう者》
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「《遠見》と《受け流し》を、今回のダンジョン巡りで覚えたんだよな?」
「うん、それぞれ《弓術》と《盾術》の派生スキルだね。《棒術 Lv.5》以上だと《危機感知》ってスキルが手に入るみたいだし、今度はそれを取得してみようかな」
「《危機感知》……、《棒術》の派生スキルだったのか。確かに、あれは便利そうだな」
竜郎は目の前で首を飛ばされ殺された、全身甲冑の男がそのスキルを持っていたことを思い出していた。
この男は《危機感知》のおかげで、格上の愛衣の攻撃を凌いで見せていた。それを愛衣が使えるようになれば、《受け流し》と合わせて鉄壁の防御を敷けるようになるだろうと竜郎は予想した。
と、そこで竜郎は少し気になる項目を見つけた。
「結構天装の弓から出した槍を使ってたと思うんだが、《槍術》のスキルレベルが上がってないな。道中使っていた弓と盾のは上がってるってのに」
「それねー。あの天装からでてる槍って操作してるのは私だけど、攻撃してるのは天装って扱いになってるみたいでね。動きは《槍術》依存だけど、スキルに対しての経験値は全く入ってないみたいなの」
「あくまで、自分の手で振るわなきゃダメってわけか」
「へんなトコで厳しいんだよね~」
愛衣が口を尖らせてぶーたれ出したので、竜郎は頭を撫でながら今度はカルディナ達のステータスを一気に見ていく。
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名前:カルディナ
クラス:-
レベル:12
竜力:344
筋力:75
耐久力:75
速力:70
魔法力:193
魔法抵抗力:193
魔法制御力:188
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜飛翔 Lv.6》《竜翼刃 Lv.4》《解魔法 Lv.10》
《土魔法 Lv.8》《竜力回復速度上昇 Lv.6》
残存スキルポイント:41
◆称号◆
《解を修めし者》
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名前:ジャンヌ
クラス:-
レベル:11
竜力:325
筋力:74
耐久力:70
速力:67
魔法力:182
魔法抵抗力:178
魔法制御力:173
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜角槍刃 Lv.6》《竜飛翔 Lv.3》《風魔法 Lv.10》
《竜力回復速度上昇 Lv.6》
残存スキルポイント:38
◆称号◆
《風を修めし者》
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名前:ナナ
クラス:獣術家
レベル:9
竜力:312
筋力:98
耐久力:68
速力:98
魔法力:139
魔法抵抗力:139
魔法制御力:134
◆取得スキル◆
《アストラル体》《真体化》《成体化》
《浮遊 Lv.5》《竜吸精 Lv.5》《竜飛翔 Lv.4》
《呪魔法 Lv.10》《生魔法 Lv.5》《竜力回復速度上昇 Lv.4》
《かみつく Lv.4》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス》
残存スキルポイント:23
◆称号◆
《呪を修めし者》
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「カルディナは《竜翼刃》、ジャンヌは《竜飛翔》のレベルが上がって、後は平均的に伸びていったってところか」
「ピピッ」「ヒヒン」
「それでもって、今回優先してレベル上げさせていっただけあって奈々が一番伸びたな」
「うん。それに《かみつく》を覚えたから、クラスが付いて物理寄りのステータスになってきてるね」
「みたいですの。ですが、称号効果のおかげで今のところ魔法関係のステータスの方が強いですの」
「奈々のクラスは獣術家か。何気にスピード特化のアサシンタイプになりそうだ」
「おおー。それでもって魔法も使えるんだから、鬼に金棒じゃない」
そう愛衣が奈々を手放しでほめたのだが、奈々の方には一つ懸念があり、素直に喜べなかった。
「色んな事が出来るのはいいのですけど、器用貧乏にならないかが心配ですの」
「まあ、ステータスに頼らなくても魔法は十分強いし、奈々の役割は主に回復と補助だから、継戦能力が高い方がありがたいんだ。そう考えれば、物理系の弱点も無くなって悪くない成長だと思うぞ」
「そうですの?」
「そうだよー。とくに奈々ちゃんの獣術家は速力が伸びやすそうだし、危ない時にさっと回復とかもできていいと思うよ」
「なら、よかったですの!」
そこでようやく可愛い笑顔を浮かべた奈々を、愛衣は抱っこして撫で繰り回し、《幼体化》したカルディナとジャンヌは竜郎が抱き寄せて甘やかしていった。
そうして適度な触れ合いを楽しんだ後、カルディナたちは三体で遊びだしたので、今は別の話題を二人は話していた。
「そういえば、この前買った種ってまだ使ってないよね?」
「なんだかんだで町に近かったおかげで、出来合いのもので何とかなってたからなあ。試しに一個育ててみるか」
「私が買った奴がいいな。ほら、あの小っちゃいリンゴみたいなのができるって書いてあったやつ」
「果物系か。しょっぱなにしてはハードルが高い気もするが、とりあえずやってみるか」
竜郎は要望に応えるために、愛衣が言っていた果物の種を《アイテムボックス》から取り出して、それと同時に大きな植木鉢を取り出したのだった。




