第133話 色々な攻略方法
頭や手足を引っ込めれば巨大な岩にしか見えない亀型の魔物の腹に、次の階層へ行くポイントがあるのを発見した竜郎達は、甲羅が重い為なのか動きは遅いが、異様に長く伸びる黄色い舌に襲われていた。
竜郎達はそれから逃げながら、どうやってそこに入ろうかと相談していた。
というのも、あれを殺してしまった場合、それに付随している入り口が閉じてはしまわないかという懸念があるため、悪戯に攻撃も出来なかった。
「うーん。ひっくり返して、皆で飛び込むのが一番安全かな」
「レベル3のダンジョン一層目で、そこまでは求められてはいない気もするが、やってみるか」
「どうするんですの?」
「取りあえず土魔法で──ええええ!?」
「何あれ!?」「なんですの!?」
土魔法で下から突いてひっくり返そうと言おうとした竜郎の目に、舌では倒せないと察した大亀がグルンと前転したかと思えば、腹を上に向けた状態で駒の様に回りだし、回転しながらこちらに高速で迫ってきた。
それを竜郎は愛衣に抱えられ、奈々はジャンヌにつかまり、カルディナは空高くへと逃げて、躱していく。
そんなただ避ける時間を三分ほど続けていたら、回転速度も移動速度も落ちていき、やがて完全に停止して亀自体も動かなくなった。
何事かと竜郎が大亀を解魔法で調べると、どうやら回りすぎて気絶してしまったらしい。
そのことを周りに伝えると、呆れた顔でひっくり返って気絶する大亀を見つめたのだった。
「舌の攻撃を躱し続けて、最後の回転攻撃さえ乗り切れば安全に次の階層に行けるってわけか」
「倒さなくても、逃げてればいいなら難易度は低いね」
「これなら、普通の冒険者でもできそうですの」
「まあ、言うてもダンジョンレベル3で、しかも一層目だから、難易度的におかしいと思ってたから腑に落ちたよ」
そうして竜郎達は気絶した大亀の腹に上っていき、《レベルイーター》を使って変に次の階の入り口に支障が出ても怖いので、今回は何もせずに二層目に向かった。
そして飛び出た先は、植物の様な物で出来た目の粗い網が足場になっており、下は雲と空が広がった場所になっていた。
横幅は十メートル程で、前方、後方に延々とその植物の網が張られている。
ちなみに、網の強度はジャンヌの巨体さえ支えられているのでかなり強靭な様だが、所々脆くなっている所もあり、そこを踏み抜いてしまえば、パラシュート無しでスカイダイビングが楽しめる環境になっていた。
「今度はまた、歩きにくい所に出たな」
「でもでも、アスレチックみたいで面白いよ」
愛衣はそう言いながら、網の上をピョンピョン飛び跳ねてはしゃいでいた。
楽しむことはいいことだと、竜郎は揺れる網の上で愛衣の笑顔に癒された。
それから、前に進むか後ろに進むか話し合った結果、今自分たちが向いている方向でもある前方へと歩くことにした。
前へと歩き始めて数分も経った頃、カルディナの探査魔法は魔物の反応を感知した。
「もう魔物のお出ましか。今度もまた、空を飛んでるタイプみたいだな」
「うちらは皆何かしら空中で移動できるスキルを持ってるから、あんまり脅威じゃないけど、そういうのがない人からしたら厄介だね、このダンジョン」
「この、所々にあるトラップもいい性格してますの」
そう言いながら、こっそりと偶にある周りと同じ色の棘の付いた網の上を、奈々が浮遊でフワフワと通り過ぎた。
そんな事をしていると、網の張っていない横方向の空から、虫の羽音をたてながら、その魔物はやって来た。
それは蜂の様な羽を生やし、上半身は五十センチ程の人型のブリキの玩具、下半身には全長一メートルはありそうな大きな金槌を逆さに吊るし、振り子のように縦に揺らしていた。
そしてその魔物は左右に三体ずつやってきて、その金槌で網の外に打ち落とそうと突進してきた。
しかし。
「ジャンヌ、反対側の方は任せた」
「ヒヒーーン!」
ジャンヌは右側を向いて風魔法で気流を操作し、カルディナと奈々の方へと誘導する。
そして竜郎はその反対側の三体の気流を操作し、愛衣の都合のいい方に行くように操っていく。
すると足も無く、移動手段が飛行だけの様なので、面白いようにこちらの思い通りの場所にやってきてくれた。
まずカルディナの前に二体やってくるが、《真体化》し《竜飛翔》で気流を無視して飛び上がると、一瞬で後ろに回って上半身に蹴りを入れて力任せに一体破壊し、もう一体は羽と金槌の接合部分だけを《竜翼刃》で切り落とし、軽く蹴ってジャンヌの前に転がした。
すると、それをジャンヌは前足を上げて踏みつぶした。
そして右側に現れた三体の内残った一体は、吸い込まれるように奈々の前にやってきた。奈々は、金槌が当たる前にサイドステップで躱してクルリと魔物の後ろに小さな体で回り込むと、右手と左手に一本ずつ持った魔竜の歯に竜力を流し、それを同時にブリキの玩具のこめかみ部分に突き刺した。
しかしそれでも動き出してきたので、奈々は立て続けに左右対象に首、肩、脇、横腹と穴を開けて、最後に左右に持った竜歯の先端部分を合わせるように金槌の接合部を破壊した。
するとそこで、動力が切れたかのように動きが止まった。
(この金槌と切り離すのが、一番効果的のようですの)
などと冷静に奈々が分析していると、突然耳にアナウンスが流れた。
《スキル かみつく Lv.1 を取得しました。》
奈々が予想外のスキルを取得している一方で、竜郎と愛衣も危なげなくカルディナ達の反対側の魔物三体を相手取っていた。
今回は新装備の試運転も兼ねているので、愛衣は天装の弓から三つの球体関節を持った槍を二本飛び出させると、気力でできた円錐型の穂先で二体を同時に貫いた。
そしてそれだけでは終わらず、四方八方から滅多刺しにして二体の魔物は残骸と化した。
そして残りの一体は、竜郎が風魔法で起こした竜巻で羽だけを千切って地面に落とすと、暴れないように《粘着水》でコーティングしてから《レベルイーター》を使った。
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レベル:11
スキル:《飛翔 Lv.3》《槌衝波 Lv.1》
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(足場になってる網の外側から飛来して、その金槌で冒険者を外側に落としてドロップアウトさせる為だけの存在みたいだな。ダンジョンにとって、魔物もトラップの一部みたいなものなのかもしれない)
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レベル:11
スキル:《飛翔 Lv.0》《槌衝波 Lv.0》
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そうしてスキルレベルだけを吸い取ってから、竜郎は黒球を飲み込むと、全てを終えたカルディナ達もこちらにやって来た。
そうしてまだ倒さずに、《粘着水》に絡め取られて身動きが取れずにいる魔物を竜郎が奈々に渡そうとすると、《かみつく》を覚えたと聞かされた。
いいサンプルも有る事なので、実際にそのスキルを見させてもらう事にした。
「ていっ、ですの!」
「ほんとだぁ。竜の歯と歯二本で、かみついてる様に見える」
「それって、スキルの有る無しでどんな違いがあるんだ?」
「まだ1レベルのスキルなので断言はできませんが、《かみつく》の動作に入ると、腕の筋力に補正がかかって、より強くなっている気がしますの」
「スキルになることで、威力が増すってことなんだね」
「単純動作だからこそ、レベルを上げていけば接近戦でもかなり活躍できそうだな」
「はいですの!」
奈々は張り切りながら、魔物に練習も兼ねて五度の《かみつく》を使って止めをさした。
その後は、武器としても使えそうな金槌を《アイテムボックス》に回収して、残りは魔石を取り出して下に捨てた。
そうして奈々が変わったスキルを覚えるなどありながらも、竜郎たちは順調にトラップを回避し、ブリキの玩具型の魔物、トンカチ虫(愛衣命名 ※羽が虫っぽいから)でスキルや新装備の練習もしつつ歩いて行くと、ようやく網の道の終わりが見えてきた。
なので速度を上げながらそちらに向かって行くと、そこにはちゃんとした地面も有るにはあったのだが、少しばかり奇抜な陸地になっていた。
それは虫眼鏡の縁の様な形をした陸地で、それでいうレンズの嵌っている部分はぽっかり穴が空いて何もなく、空が広がっているだけだった。
そしてその穴から下をさらによく見れば、二十メートル程下に小島がフワフワ空を漂っていて、定期的にその穴から見ることができるのだが、問題はその小島の上に次の階層のポイントが設置されているという事だった。
「空が飛べなくても、タイミングを見計らってここから飛び降りれば、行けなくもないか」
「うん。でも、ほらあそこ」
「あれは、トンカチ虫ですの?」
「ああ、飛び降りている最中にちょっかいを出されたら、飛行手段がない奴は無理だな」
浮き小島の周囲にはトンカチ虫が常にうろついており、無防備に近づこう物なら、その金槌で吹き飛ばされ、次の階層に行く前にあの世に行ってしまう。
ただ、こちらには空を飛ぶ手段がいくらでもあるので、他の人はどうか知らないが問題はなさそうだった。
なのでさっそくジャンヌに《真体化》してもらって、安全に行こうと思っていたのだが、竜郎はカルディナに袖を引っ張られた。
「ん? どうしたカルディナ」
「ピューイ、ピュィーューイ!」
「一度探査魔法で、ここから浮き小島までの間を探ってみて欲しい。とのことですの」
「解った。……………………ああ。空が飛べなくても、無理では無いのか」
「どういうこと?」
「ここからあの浮き小島が定期的に通りがかるポイントまで、見えない踏み台がいくつも設置されてるみたいだ」
そう。ここ、ダンジョンの二層目の最後のポイントは、ちゃんと空が飛べない者でも、それなりに安全に浮き小島にたどり着けるようになっていたのだ。
探査魔法で調べれば何処に見えない踏み台が有るかはすぐに解るし、風もないので、ここまで倒したトンカチ虫の残骸を細かく砕いて、下に向かってばら撒けば、そこに魔物の残骸が引っかかって可視化できる。
また土魔法で土をかけたり、長い棒を持ち込めれば突いて調べるなど、意外と突破する方法は多岐に存在した。
「まあ、正攻法を選ぶ必要はないんだが、練習がてら踏み台の方で行ってみるか。ということで、解りやすいようにしておこう」
「解りやすいように?」
「ああ、闇魔法で色つけとけば簡単だろ」
「それはもう、正攻法ではない気もするけど……」
そんな愛衣のツッコミを聞き流しつつ、竜郎は探査で調べた見えない踏み台を闇魔法で黒く染め、最早ただの踏み台状態だった。
そうして竜郎達は危なげなく踏み台を下って行き、途中でやって来たトンカチ虫を倒して、次の階層に入って行った。
次の階層は、ちゃんとした地面のある場所に降り立ったのだが、そこはなんだか見覚えのある場所でもあった。
「これは、一層目の逆バージョンか」
「今度はこれを昇ってねって事なんだろうけど、もしかしてこれとさっきのツーパターンしか無いのかな?」
そこは一層目で見た岩山が聳え立ち、周囲の即死トラップは無くなっているものの、そこから垂れ下がる鎖の位置まで同じだった。
「まあ、ここを突破してみれば解るだろ。ジャンヌ、また頼めるか?」
「ヒヒーン」
「今度は滑空じゃなくて、上昇だけど大丈夫?」
「私も手伝いますの!」
「ああ、頼む。それでもつらそうなら、俺も風魔法でアシストするし」
「ん、なら大丈夫そうだね」
そうしてジャンヌは《真体化》し、その上に全員が乗り終わると、ゆっくりと空へと上昇していったのであった。