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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第四章 初級ダンジョン編
131/634

第130話 そのボスは……

 ジャンヌが鼻先で扉を開け、それに続くように他のメンバーも後に続いて部屋の中へと入っていく。

 一度入ると扉が閉まり、だだっ広い部屋の床にはくさむらを模した人工物にしか見えない植物が広がり、壁にも造った様な蔦や苔が張り付いていた。

 そして部屋の天井には空の模様が描かれていて、何故かそこから自然光の様な光が部屋中を照らしていた。



「なんか、また変な所に出たな」

「全部造りものっぽいのに、風とか光とかは自然な感じがする……なんなんだろ?」

「それもそうですけど……、ボスというのはドコにいますの?」

「ああ、そう言えばそれが目的だったっけ」



 妙な雰囲気の部屋に気を取られ、一瞬ボスの存在を忘れていた。

 しかし探査魔法をかけても何の存在も見つけられず、どういうことかと思っていると、五階層で奈々が壊したイモムー発生器と瓜二つだけれど、それよりもずっと大きな黒い渦が部屋の中央に突如現れた。



「あそこから、ボスが出てくるって事か」

「みたいだね。どんなのが出てくるのかなぁ」



 二人がそんな事を言っていると、黒い渦自体が形を変えて魔物の姿になっていく。

 そして、それは現れた。



「あ、あれは!?」

「大きい……」

「ありえないですの……」



 そう、そこには黄金に輝く二メートルのイモムーが堂々と参上したのだった。



「って、ばか! なんで結局イモムーなんだよ!?」

「やっぱり、あれはイモムー発生器で間違いなかったのね。さすが私」

「無駄に豪華なのに、全く強さの欠片も感じさせないなんて、逆にすごいですの!」



 黄金イモムーは散々な言われようにも関わらず、何故かご機嫌な様子でウネウネダンスを踊っていた。

 そんな姿におちょくってるのかと、竜郎が手加減したレーザーを放つと、何故か想定していたよりも弱い出力の物が射出され、当たった個所が少し焦げただけに終わった。

 そしてその焦げた個所も徐々に薄まり、元の金色の肌に戻っていった。

 違和感を感じた竜郎は、すぐにウネウネダンスを踊る黄金イモムーに同じ威力のレーザーを複数回に渡って打ち込むが、それら全てが弱体化された状態で打ち出された。



「さっきから、なんでイモムーいじめてるの?」

「いじめてないよ。俺の魔法をあいつに向かって打ち込むと、何故か弱くなるんだ。だから実験してた」

「それは、あのキモ可愛い踊りのせいかなあ」

「か……かわいい?」「かわいい……ですの?」



 今度美的感覚について、奈々と一緒に愛衣に話さなくてはいけない事が出来たと考えながら、竜郎は飽きることなくウネウネして、他の動作に移る気配もない黄金イモムーに《レベルイーター》を使うべく、歩いて距離を詰めていった。

 するとダンスを止めて口をパカッと開けると、金色の糸を竜郎に向かって吐き出してきた。

 その動作はアムネリ大森林で学習済みなので、なんなく横にずれて躱すついでに、せっかくなので風魔法で巻き上げて金色の糸を回収しておいた。

 こちらに来たばかりの頃なら、こんなに余裕ではいられなかっただろうが、今はもう大きかろうとイモムーには恐怖心を抱くことは無かった。

 そして動きが止まった時には、魔法が弱体化したりはしなかったので、今度は躱そうともしないで金糸を回収していく。

 そして近くまでやって来たところで、《レベルイーター》を当てた。



 --------------------------------

 レベル:8


 スキル:《金色体》《体当たり Lv.1》《金色糸吐き Lv.3》

     《かみつく Lv.2》《自己再生 Lv.3》《減退領域 Lv.2》

 --------------------------------



(《金色体》………色って言っちゃってるって事は、本物の金ではなさそうだな。

 んで、《減退領域》か。魔力とか気力とか限定してないって事は、全体的に威力が低下するって事だろうな。

 今回は弱い魔物が単体で使ってたから問題なかったが、後列に使えるやつが控えていて、前列に強力な魔物がいたらかなり厄介そうだ)



 --------------------------------

 レベル:8


 スキル:《金色体》《体当たり Lv.0》《金色糸吐き Lv.0》

     《かみつく Lv.0》《自己再生 Lv.0》《減退領域 Lv.0》

 --------------------------------



 レベルは他の人に回すために残し、スキルレベルだけは全部貰っておいた。

 そうして愛衣達がいるところに帰ろうとすると、イモムーがスキル補正のない体当たりをかまして来ようとしていた。

 竜郎はそれにめんどくさくなり、《アイテムボックス》から奈々が拾ってきた糸を吐く六角形の板を取り出し、魔力を多めに込めて黄金イモムーに放った。

 すると大量の糸が板から放出され、竜郎の風魔法も合わせて使って簀巻すまきにし、身動きがとれなくなったところで、コロコロ転がして愛衣たちの前に持っていった。



「また、凄い状態で連れてきたね」

「いくらイモムーって言っても、このデカさだと圧し掛かられただけでも危なそうだからな。

 しかし、このくらいの魔物なら簡単に梱包できるし、この糸出し機は案外使えるかもしれない」

「糸出し機? その言い方は可愛くないなあ。まあ今はそれでいいとしても、それどうするの? レア色だからゲットするの?」

「いや、いらね。だって金なの色だけみたいだし」

「だよねー」

「なんだかわたくし、その魔物が可哀そうになってきましたの……」



 簀巻きにされ、散々な扱いを受け、ウゴウゴ動く哀れな魔物に奈々は憐憫れんびんの念を禁じえなかった。

 ただ、そんな奈々が一番レベルが低いというのもあって、遠慮することなく止めをさすことになったというのは皮肉な話である。



《《《《《スキルポイント(1)が付与されました。》》》》》



 黄金イモムーを《吸精》で倒した瞬間、それを成した奈々とパーティを組んでいた竜郎、愛衣、カルディナ、ジャンヌにもSPが(1)与えられた。そしてさらに、奈々は4レベルに上がった。

 すると部屋の真ん中、最初に黄金イモムーが現れた場所に階層を渡る光る溜池が現れた。



「アレに入れば、出口の部屋に行けるはずだ」

「なんか、呆気なかったなあ」

「危ないよりはいいさ」



 早速出口へと行きたいところではあるが、ボスの戦利品を貰うべく、黄金イモムーの死骸を糸の中から取り出して竜郎が解析をすれば、やはり表面が金色というだけで、貴金属の金とは関係ないという事が解った。

 なので体は焼いてその中から濃い青色で、十センチくらいの魔石だけを回収した。

 そしてさらに先ほど回収した金の糸も念の為調べたが、こちらも残念ながら色が金なだけで、普通のイモムーの糸と変わらない事が解った。

 なので捨てようかどうかと迷いながら竜郎が手で弄っていると、横着して《アイテムボックス》にしまわずに脇に抱えていた糸出し機に金糸が触れた途端、その中に糸が吸い取られてしまった。



「あれ? 金色の糸がどっかいっちゃったね」

「あー……なんか、こいつの中に入ったみたいだ」

「入ったって事は、出せるのかな?」



 愛衣の単純明快な理論に、それもそうだと竜郎が糸出し機に魔力を込めると、先ほど吸い取られた量をはるかに超えた金糸が飛び出してきた。

 それに一同驚きつつ、竜郎はさらに魔力を込め、部屋中金糸だらけになったところで止めた。



「なんか、金色の糸が出せるようになったみたいだ」

「そうなると、一体どんな効果が?」

「………………み、見た目が派手になる?」

「「あー……」」

「帰ろうか……」

「うん」「ピィー」「ヒヒーン」「ですの」



 そうして微妙な空気が漂いだしたので、竜郎はそれを直ぐに《アイテムボックス》にしまって、颯爽とこの層の出口へと歩き出した。

 それに他のメンバーも後に続き、光る溜池に全員で飛び込んだ。

 すると今度は草も木もなく、何かの白い金属で出来た壁に囲まれただけの質素な空間にでた。

 そしてそこには上に伸びる階段が一つあり、その行先を見上げれば、光る水が膜のように張っており、その先が見えないようになっていた。

 しかしこれが出口だという事を事前に予習済みなので、ジャンヌとカルディナには《幼体化》してもらい、それから全員で階段を上り、水の膜を破る様に上に出ていった。

 するとダンジョン内では昼間の様に明るかったというのに、外は既に夜の帳が落ち切って、月明かりとわずかな人工の明かりだけで周囲は照らされていた。



「ん~っ。無事、元来た場所に帰ってこれたね」

「ああ。だけど、道中楽だったとはいえ歩き通しだったから疲れたな」

「どうする? 近くに簡易宿があるみたいだけど、そこに泊まってから出発する?」

「あ~……。でもあそこって本当に簡易的過ぎて、不特定多数で雑魚寝。みたいな部屋だったろ?

 あれだったら野宿の方が快適そうだし、このまま何か適当に出店で食べて出発しよう」

「それもそっか。確かに知らない人が近くにいる状態で、安心して寝れないよね。それに──」



 愛衣はそこで言葉を切ると、満面の笑みで竜郎の手をぎゅっと握った。



「こうすれば疲れも治るでしょ?」

「ああ、そうだな」



 生魔法で一気に体力を回復してしまおうと思っていた竜郎だったが、そんな考えは一気に吹っ飛び、愛衣の手を握り返して、深夜だというのに商魂たくましく営業中の出店に向かって歩いて行った。

 そしてそんな様を、雛鳥のカルディナ、小サイのジャンヌ、和服幼女の奈々は、そろってその後を付いていきながら、仲睦まじい姿に羨望と喜びの混じった視線を送ったのであった。


 それから食べなじみのない、よく解らない水分多めの焼きそばと言った感じの微妙なもので腹を膨らませ、ジャンヌに次の目的地に向かって貰う。

 ここから近いのはレベル3のダンジョンなので、そちらにと行きたいところだが、今回のダンジョン巡りのメインスポットなので、少し遠回りになるが、もう一つのレベル1のダンジョンに向かう。

 その道中、奈々がカルディナとジャンヌの言葉も代弁して、夜は自分たちがやるから二人は寝ていてくれと言われた。



「別にそこまで急いでいないから、何処かで止まって睡眠をとってもいいんだぞ?

 奈々たちだって、ずっと動きっぱなしじゃないか」

「わたくしたちは、おとーさま方と違って疲れることはありませんの。

 だから事前に魔力さえ一杯にして貰えれば、ぜんぜん平気ですの」

「ん~、確かに寝ている間にも移動出来たら時短できていいんだけど……。どうしようか、たつろー?」

「………………よし、解った。とりあえず、やってみて貰おう。

 これからどうしても強行軍で進まなくちゃいけない時が来たら、頼まざるを得ないんだし、どんな感じになるか余裕のある時にやってみるのもいいだろう。という事で、頼めるかな?」

「ピューイ!」「ヒヒンッ」「ですの!」



 言葉を的確に伝えられる奈々が加わったことで、カルディナ達が自らの意思表示を明確にしてきたことに感心しながら、竜郎は三体の魔力を目一杯まで補給しておいた。

 そうして寝るにしても風呂には入っておきたかったので、人気のない所までは二人は御者席に座って進んでいき、風呂の支度をして見張りをカルディナ達に任せて二人でさっさと入ってでると、寝巻に着替えて犀車の個室に入っていった。

 すると奈々を乗せたジャンヌの鳴き声が聞こえ、段々と速度を上げながら動き出していった。



「ん~、大丈夫かなあ」

「一応紙に書いた地図も渡したし、みんな機転のきく子ばかりだし、信じてみよう。それに例え起きて全然違う所にいたとしても、それはそれでいいさ」

「そっか……、そうだね!」



 個室に造ったロフトに敷いたベッド代わりのマットの上で寝ころびながら、二人はそんな会話を交わし合い、お休みのキスをしてから手を繋いで就寝した。


 それから慣れない事をやったせいか、なんだかんだで精神的にも疲れていた二人は、すぐに寝息を立て始め、それから朝までぐっすりと過ごし、現在は犀車の中で二人は着替えを済ませて外の様子を備え付けの小窓からうかがいつつ、マップ機能を使って現在地を確かめれば、かなり次の目的地に近づいていた。

 なので一度止まれそうな場所まで行って貰い魔力補充と朝食を含めた休憩をとり、三体を褒めちぎり撫でまわした後、再び出発すれば昼前には目的地に到着した。


 そこは前に行ったダンジョンのあった場所と大差なく、同じような出店に簡易宿が並び、ダンジョン入り口には収得品の売買所があった。

 竜郎たちは出店で歩きながらでも食べられそうな何かの肉と野菜の串焼きを数本買って、そのままピクニック気分でレベル1のダンジョンに飛び込んだ。

 するとそこは、乾いた砂漠地帯が広がっていた。



「「あ゛っづっ」」



 そんな言葉が竜郎と愛衣の口から洩れるほど、気温も高く、鎧やコートを身に纏った体から汗が滲みだしてきた。

 しかし魔力体生物は寒暖にも強いらしく、カルディナの羽毛や、ジャンヌの分厚い皮膚、奈々のぴっちりと纏った着物姿でも、汗一つ流すことなく平然と横に立っていた。



「まさか、こんなに暑いなんて思わなかった…」

「うん……、こんな所までご丁寧に再現してくれなくていいのに……」



 ダンジョンの中だというのに、空には太陽が真上から微動だにしないで大地を焦がしていた。

 そんな眩しい存在を疎ましく思いながら、竜郎は風魔法を起こして少しでいいからと涼を取りながら、水魔法で愛衣と自分の水分補給をしておいた。

 魔物ではなく、脱水で倒れたなんて笑い話にもならないからだ。



「よし。こんな所で立ち止まっててもしょうがない。さっさと攻略するぞ」

「さんせー。普通の人間の私達からしたら、ちょっと暑すぎるもん。鎧脱いでいいかな」

「念の為、着ておいた方がいいと思いますの」

「だな、何が起こっても怪我をしないように、俺もこのコートを着てくからさ」

「うー。はーい……」



 そうして竜郎や奈々に諭された愛衣は、渋々鎧を外そうとしていた手をおろし、砂地を皆でゆっくりと歩き始めたのだった。

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