第12話 獣の群れ
「それじゃあ、おやすみ、たつろー」
「おやすみ、愛衣」
就寝の挨拶をしてから眠るために横になった愛衣は、十分ほどもぞもぞして、ようやく眠りに就く。
それを確認した竜郎は、再び生魔法で眠りの質を上げておいた。
その時に愛衣の汗の匂いが少しして、いけない気分になってしまった竜郎は慌てて胡坐を組むと、邪念を振り払うように瞑想モドキに入った。
それから一時間経ったか、経たなかったかという頃合いで、《魔力回復速度上昇 Lv.2》を手に入れ、そのまた数十分後に《集中 Lv.3》を入手した。
それに気を良くしながら一旦瞑想モドキを解き、新たな魔法の構想を練っていると、森の茂みの方からガサガサと音が聞こえてきた。
(──ん、何か来るか?)
それに慌てずに静かにうつ伏せになって、監視用に開けてある壁の隙間からそちらを覗き込んだ。
すると、その視線の先の茂みから、目を光らせた6匹の四足歩行の獣が月明かりに照らされた。
(あれは、オオカミ……みたいな体格だけど顔はネコ科っぽいな。
先頭を歩いてる一番デカいので……150センチくらいはあるか)
慎重に観察していると、その獣たちは川の方に向かっていき、竜郎たちのいる巨石から6メートルほど離れた場所で辺りをキョロキョロと見回すと、やがて水を飲み始めた。
(水を飲みに来ただけか? なら、そのままどっか行ってくれるかもしれないが……いざ見つかって戦闘になったら厄介だ。レベルだけは貰っておこう)
《レベルイーター》を発動させ、壁の隙間からフッと音を立てないように黒球を、一番初めに水を飲み、その後も他の取り巻きに毛繕いさせていたボスらしき個体に当てた。
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レベル:12
スキル:《かみつく Lv.5》《嗅覚 Lv.5》《疾走 Lv.5》
《統率 Lv.3》《音波攻撃 Lv.3》《引っ掻く Lv.4》
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(やばい、レベルはともかくスキルレベルが軒並み高い。さすがはボス)
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レベル:1
スキル:《かみつく Lv.0》《嗅覚 Lv.0》《疾走 Lv.0》
《統率 Lv.0》《音波攻撃 Lv.0》《引っ掻く Lv.0》
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取り終わると直ぐにごくりと飲み込み、すかさず二番目に大きい個体に《レベルイーター》の黒球を当てにはいる。
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レベル:8
スキル:《かみつく Lv.4》《嗅覚 Lv.3》《疾走 Lv.3》
《統率 Lv.1》《音波攻撃 Lv.1》《引っ掻く Lv.4》
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(さっきよりはマシだが、こいつもそこそこ強そうだな。では頂きます)
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レベル:1
スキル:《かみつく Lv.0》《嗅覚 Lv.0》《疾走 Lv.0》
《統率 Lv.0》《音波攻撃 Lv.0》《引っ掻く Lv.0》
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(あと四匹!)
それからも間髪容れずに飲み込んで、どんどん《レベルイーター》を使う。
三匹目、
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レベル:5
スキル:《かみつく Lv.2》《嗅覚 Lv.2》《引っ掻く Lv.1》
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四匹目、
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レベル:6
スキル:《かみつく Lv.2》《嗅覚 Lv.2》《引っ掻く Lv.1》
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そして五匹目の、
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レベル:2
スキル:《かみつく Lv.1》《嗅覚 Lv.1》
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から、レベルを頂こうとしたその時だった。
急に他の個体がボスを攻撃し始めたのだ。攻撃されたボスは当然返り討ちにしようとするが、うまくスキルが発動できず、無抵抗で他の個体に首を噛みつかれ死んでしまった。
(もしかして《統率》が無くなって群れを制御できなくなったのか?)
そして二番目にレベルを吸収した個体が群れを引こうとしたようだが、こちらも全てのレベル、スキルレベルを失っているのだからそうもいかず、ボスと同じ運命をたどった。
それから残り四匹も争いだし、残ったのはまだレベルを取っていなかった二匹だけ。
また、その二匹も這う這うの体で睨み合っていた。
(まさかこんな結果になろうとは……。
自分でやっといてなんだが、こんなとこで血の匂いをいつまでもさせたままじゃ、他の奴も来るかもしれないし──やるか)
そう決心し両の掌に魔力を集中していく。そして準備が整うとゆっくりと、気取られぬように立ち上がった。
すると睨み合っていた二匹がこちらに目を向けた。どうやらここに何かが潜んでいるのは、解っていたらしい。
そのまま二匹は休戦し、竜郎を睨みながらゆっくりと近寄ってきた。
しかし、その行動は竜郎にとってありがたかった。今からやろうとしているのは距離が離れるほど威力が弱まってしまい、逃げられてしまうかも知れなかったからだ。
(あと少し、あと少し…)
竜郎は慎重に射程を測っていく。2匹が3メートル圏内に入ってきたその瞬間、竜郎は手に込めた魔力を一気に解き放った。
(ファイアー!)
その、なんとなくで思った心の叫びと共に、両の掌からそれぞれの獣に向かって猛烈な黒い火柱をあげ、2匹を一気に飲み込んでいく。
一瞬で高温の熱に晒された2匹は声をあげることなく焼け死んだ。そして、そのままの勢いで他の死体にも、闇と炎の混合魔法である黒い火柱を当て処理をした。
《『レベル:14』になりました。》
「うおっ」
(レベル:3から14とか、一気に上がったな。
やっぱり《レベルイーター》だと経験値的なものは入ってるけど、レベルアップは何かを倒したときに判定されるのか)
それから念のため辺りを警戒してみるが不審なモノもいなければ、音もしなかった。
そこで人心地が付いた竜郎は、座り込んで時間を確認した。するとまだ少し交代まで時間があった。
なので、レベルアップでのステータスを確かめることにした。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:光魔法師
レベル:14
気力:21
魔力:222
筋力:32
耐久力:32
速力:27
魔法力:130
魔法抵抗力:128
魔法制御力:130
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《光魔法 Lv.1》《闇魔法 Lv.1》《火魔法 Lv.5》
《水魔法 Lv.1》《生魔法 Lv.1》《土魔法 Lv.1》
《魔力質上昇 Lv.1》《魔力回復速度上昇 Lv.2》《集中 Lv.3》
◆システムスキル◆
《マップ機能》
残存スキルポイント:183
◆称号◆
なし
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(魔法制御力が他のよりも上がってるな。制御を毎回意識して使ってたからか?
あとはあのオオカミモドキたちからのSPがかなり溜まったな。今のうちに何を取るか考えておくか)
そうして次の魔法の構想や、明日の計画などを思い浮かべながら、その後何事もなく時間が過ぎていった。
それから生魔法を使って愛衣をゆっくりと目覚めに向かわせる。
「おあよー……たつろ」
「おはよう。交代の時間だ、いけるか?」
「うん、大丈夫だよ。ん……んん? なんかちょっと焦げ臭くない?」
「ああ、俺が見張りの時に野生の獣っぽいのがきたから焼いた」
「食べたのっ?」
「んなこと一言も言ってないわっ。ただ、ここで暴れられて他のが集まったら困るから早めに倒しといただけだ」
「はー、やっぱり夜でも何かしら来るんだね」
「まあ、これだけ大自然が広がってりゃ色んなのが出てくるよ」
そう言いながら竜郎は、開き直るように大自然に手を広げた。
「早くちゃんとした所で寝たい」
「だな」