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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第四章 初級ダンジョン編
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第127話 初ダンジョン突入

 二人の心配をよそに、ジャンヌと奈々は道を間違えることも無く、しっかりと正しい道を進んでいた。

 それを竜郎はマップ機能を使いながらしばらく確かめていたが、任せて大丈夫だと判断し、今は室内で椅子に腰かけ愛衣と二人でダンジョンについて話し合っていた。



「ダンジョンって、具体的にはどんな風なの?」

「うーん、本で調べただけの知識ってのもあって、あやふやな部分もあるから、そのまま信じたりしないでくれよ?」

「わかったー」

「えーと、まず今俺たちが向かっているのはレベル1のダンジョンなんだが─」



 そうして竜郎は、今解っている事を愛衣に伝えていった。

 曰く。ダンジョンというものは、異空間ともいわれるようなフィールドを彷徨い、ダンジョンの魔物だけが持つ魔石の入手や、トラップを潜り抜けながら宝を探したり、そのダンジョンのボスを倒したりすることが、この世界の人々が挑戦する主な理由である。


 入り口は円形の大きな白く光る湖といった風になっており、そこに飛び込むことでそのダンジョンに飛ばされるらしい。

 その飛ばされた先で、入り口と同じ白光の湖を探し出し、そこへ飛び込めば次のフィールドに送られる。

 ちなみに、レベル1のダンジョンはランダムで三階層から八階層。レベル2のダンジョンはランダムで六階層から十二階層。レベル3のダンジョンはランダムで九階層から十五階層。で、ボスに挑むことのできる扉のあるフィールドに飛ぶことができ、運が良ければ、レベル1のダンジョンでは三階層目でボスに挑む扉を発見できるが、悪ければ八層目まで見つけられないと、運の要素があるらしい。

 また同一ダンジョンに複数人で挑む場合、パーティ登録していないと別々の場所に飛ばされてしまうので注意が必要。

 

 最後に帰還方法はといえば、飛ばされた先のフィールドで次の階層に行くポイントの湖を発見した時、帰りたいと願いながらそこへ飛び込むか、そのダンジョンボスを倒した後に出てくる白光の湖に飛び込めば、出口のある部屋に行けるようになっているようだった。



「ねえねえ。その話でいくなら、途中で帰れるんでしょ? 魔石集めや宝探しはお金になるから解るけど、態々危ない思いまでしてボスって倒す意味あるの? 経験値稼ぎとか、腕試しって事?」

「ああ、それなんだがな。実はボスを探し出して倒すことができれば、そのダンジョンのレベル分だけSPが付与されるらしいんだ」

「うそっ、レベル上げ以外で手に入れられるって事?」

「そういう事だ。ただし、同じダンジョンでは一人一回のみ有効。けどパーティを組んだ全員に有効だから、なかなか大盤振る舞いなのかもしれない」



 つまり、パーティを組んでレベル1のダンジョンのボスを倒せば、SP(1)が自分のステータスに加算される。

 なので例え(1)でも貴重なSPを取るために、冒険者や兵士など危険な場所に身を置く可能性のある者達は、むしろ宝や魔石よりもボスの方を積極的に探す傾向があるらしい。



「ならボスさえ倒せば、私やカルディナちゃん達にもSPがレベルアップ以外で手に入れられるって事ね。確かにそれは魅力的かも」

「だろ、それに俺も(1)でも多く手に入れておきたいから、この辺にある三つのダンジョンを制覇して、確実にSP(5)を余分に手に入れよう」

「おー!」



 そうして他の細々した注意点を愛衣に話しつつ、ダンジョンに入ってからの事を相談し合いながら時間が過ぎていった。



「おとーさま、おかーさま。もうすぐ四差路に着きますのー」

「おー、ありがとう。それじゃあ、道から一旦外れた場所に止めてくれー」

「はーいですの。ジャンヌおねーさま」

「ヒヒンッ」



 そうしてしっかりと二人の会話を聞いていたジャンヌが、心得たとばかりに一声鳴いて道から少し離れた場所に危なげなく犀車を停車した。

 犀車が止まったのを確認した後、二人が外に出てくると、いつの間にか目の前に来ていた奈々が飛び込んできた。

 それを竜郎が受け止めて、抱っこしながら魔力を補給し、犀車の上に止まっていたカルディナもこちらに来るように手招きして、ジャンヌの金具もいったん外した。



「よし、それじゃあ一旦休憩しよう。おかげですごく快適だった、ありがとう」

「ありがとーう」



 そう言いながら、カルディナ達の魔力補給もかねてじゃれ合った。

 その魔力補給の際、いつもよりも長い距離を走ってもらったにもかかわらず、補給魔力の量は今までのジャンヌ一体分よりも、三体合わせての補給の方が少なくなっていたことに気が付いた。

 ここで改めてステータスの恩恵に、竜郎は感心したのだった。

 そうして天気もいいので、外で昼食用に《アイテムボックス》に入れておいた料理を取り出して、愛衣と二人で昼食タイムに入った。



「そう言えば、何回か別の通行人とすれ違ってたみたいだが、どうだった?」

「ヒヒン?」「どうとは、どういう意味ですの?」



 ジャンヌと奈々は、竜郎の意図が上手く汲み取れずに首を傾げた。それに竜郎も、言葉足らずだったと改めて説明をした。



「いやな。もっとジャンヌが小さい時ですらびっくりする人が多かったから、今のさらに巨大になったジャンヌにどういう反応をしたのかと、不意に気になったんだよ」

「ああ、そうゆーことですの。確かにジャンヌおねーさまを見た人は、面白い顔をなさっていましたけど、私が手を振ったらキョトンとした顔をなさって、逆に手を振り返してくれる方もいたんですの」

「あー。可愛い小さな女の子が優雅に乗ってれば、恐がるような生き物じゃないってすぐに解るのかもね」

「まあ、ただ移動しているよりはイメージが良いかもなあ」



 ジャンヌの補助以外にも、意外な所で活躍していた奈々の頭を撫でて、二人は残りの昼食を口に運んで行ったのだった。


 そんな事もありながら、ここからは道が複雑になって来るので、道案内として竜郎達も御者席に座ってジャンヌに指示を出しながら、夕暮れ前にはダンジョンのある区画近くまでやって来た。

 竜郎は本格的に人通りが激しくなる前に犀車を引っ込め、カルディナとジャンヌには《幼体化》モードになってもらい、レジナルドのところで購入した防具を身に纏い、三体には腕輪型の魔法の補助道具を全種買っていたので、それをそれぞれの腕や足、尻尾に着けてもらった。

 そうして準備が出来たら、ジャンヌの頭の上に乗った雛鳥のカルディナ以外の全員で、揃ってダンジョン目指して歩いて行った。


 ダンジョン入り口付近にまで来ると、多くの人がそれぞれの活動をしていた。

 そんな行きかう人々を見ながら歩いて行くと、簡易的な宿屋や、出店の様なものもいくつかあり、子供も多く見られた。



「ダンジョンっていうから、もっとくらーい場所かと思ってたんだけど、結構明るい雰囲気だね」

「まあ、レベル1って探索するだけなら、普通の子供でも小遣い稼ぎに挑める所らしいし、ちょっとしたテーマパークみたいな扱いなのかもな」



 そんな感想を抱きつつ竜郎達は、入り口の目の前までやって来た。

 そこは直径十メートルはある白色に光る湖というより溜池の様な所で、ここに飛び込むことで、ダンジョンに入ることができるらしい。

 見れば子供から大人まで、そこに入ったり、そこから出てきたりしている人が何人もいた。



「あれが入り口か。ダンジョンって言葉を最初に聞いた時は、洞窟の洞穴みたいなイメージをしていたんだが、幻想的で綺麗な入り口だな」

「だねぇ。写真撮りたいくらいだよ」

「それを言ったら、オブスルの湖とかも撮っておきたかったな」



 などと言いながら、竜郎はどう見ても巨大な白光を放つ液体溜まりにしか見えない入り口前にしゃがみ込んで水を掬ってみるが、ホログラムを掴もうとした時の様に何も手に触れることすらできなかった。

 しかし現に飛び込む者や、出てくる者が触れている部分は波打っているのだから、不思議なものだ。

 そんな風に入り口前で油を売っていると、不意に後ろから声を掛けられた。



「おい、にーちゃん。入らねーなら、そこをどいてくれねーか」

「ん? ああ、すみません。珍しくて、つい立ち止まっていたので」



 別に入り口は広いのだから、他の所から入ればいいのに。とも思ったが、立ち止まっていたのは事実なのでとりあえず謝りながら竜郎達が振り向けば、そこには八人のちびっこ達が、精一杯の重そうな装備を身に着けて、おそらく格好いいと思っているであろうポーズを取りながら立っていた。

 大人になった時、この姿を見せられたら恥ずかしくてたまらないんだろうなと思いながら、取りあえず道を譲るために横にずれた。



「おう、サンキューな。しかし、めずらしーって、にーちゃん達はダンジョンは初めてかい?」

「……なんですの、この生意気ながきんちょ共は」

「しー。そういうお年頃なんだから、生暖かい目で見てあげるのが大人だよ」

「そうなんですの? では、わたくしもおかーさまを見習って、生暖かく見守りますの」



 必死でベテランぶって竜郎に話しかける子供たちが鼻に付いた様だが、愛衣に大人の所作を教わり、奈々は一生懸命生暖かい目を愛衣を見ながら学んで行く。

 そんな余計な技能を奈々が身に付けようとしているとは露知らず、竜郎は可愛らしく背伸びをする子供たちの相手をしていた。



「そうなんだ、今までは他で忙しかったから来られなかったんだよ」

「そうかい。なら気を付けていくんだな。慣れていない奴が軽い気持ちで挑めば痛い目をみる………………それが、ダンジョンだ」



 無意味な溜めを造りカッコよさを探求する男の子の姿に、竜郎は今よりももっと若かりし頃の思い出が過り、背中が痒くなった。



「君たちは、結構ここには来てるのかい?」

「ああ。週に二回は来てるな。俺達の親がここで働いてんだ。

 んで、もうすぐ俺達のパーティの稼ぎが一万シスに届きそうなんだぜ? すごいだろ!」

「おお。それは凄いな!」

「……しょぼくないですの?」

「しー。あの子たちの努力を否定しちゃだめだよ。それに、子供からしたら一万は大金だよ。私だって、元の世界にいた頃は大金だったもの」

「そうゆーものなんですのね」



 竜郎は、凄いと言われて鼻高々なちびっこたちが微笑ましくてしょうがなかったので、聞いてもいない自慢話も凄い凄いと褒め称えた。

 そうして一通り話して満足したのか、ちびっ子たちは走り幅跳びのようにして、ダンジョンに飛び込んでいった。



「おとーさま。あのガキンチョの話はちっともすごくなかったですの。なぜ、あのように褒めたんですの?」

「無邪気でいいじゃないか。それに、あの子達は比較的入り口周辺の浅い層を探索しているみたいだが、何回も入っているだけあって、ここのダンジョンの情報が自慢話に混じってたから、全く価値の無い時間と言うわけでもなかったしな」

「ああ。そういうことですの」

「んじゃあ、私達も行きましょ! ここに飛び込めばいいんだよね?」

「ああ。んじゃあ皆、最初だし、せーので行くぞ。せーのっ!」



 そうして竜郎達は一斉に、白光放つ湖に飛び込んでいったのだった。

 すると一瞬全身が液体に触れたような感覚がしたと思えば、目の前には広い草原が広がっていた。



「ここが、ダンジョンか……。凄いな、空に太陽まである」

「ホントだ。それに風もある、まるで只の草原に飛ばされただけみたい」

「ああ、だけどもうすぐ夕方だってのに、あの太陽の位置は昼前だ。明らかにおかしい」

「だよねえ。でも、散歩コースとしては中々よさそう」



 愛衣がその場で深呼吸をすれば、新鮮な空気が肺に入って爽やかな気分になった。

 そんな姿を見ながら竜郎は、確かに散歩するにはうってつけな、程よい自然に囲まれた大地ではあるなと思った。

 しかし、ここにいる者は全員ダンジョン初心者。なので、油断なく進むために緩んだ空気を引き締めた。



「よし、まず俺たちの目的はボスの討伐だ。このフロアのどこかに次の階層に行く入り口がある筈だ、それを探そう。カルディナ、《成体化》して周辺警戒を頼む、ジャンヌもいつでも魔物が来てもいいように《成体化》で頼む。奈々は俺たちの後ろで皆のサポートを」

「ピュィー」「ヒヒーン」「はいですの」



 こうして、竜郎達の初のダンジョン探索が始まった。

 舗装された道も無く、マップ機能も歩いた場所をマッピングするだけしかできなくなっていたので、文字通り手探りで進んでいくしかない。

 しかし、意気込んでいけたのも最初の三分が限界だった。

 なぜなら、そこかしこに初心者とみられる若い冒険者や、見知らぬちびっ子がはびこり、その者達がダンジョンではなく、竜郎達に──正確にはジャンヌに怯えて騒いでいたからだった。

 どうやらこのダンジョンの一層目は皆共通して、このだだっ広い草原に出るらしい。

 さらに期待していたSP達……ではなく魔物達も、ジャンヌの姿を見るや否や逃走してしまう始末である。



「あーもう、なんなんだよ。ここは遠足地かよ」

「ねー、あのちびっ子たちの話じゃ、浅い層にはトラップもないみたいだし、ただの散歩になってるね」

「拍子抜けですの……」

「ピィー……」「ブルルルッ」



 奈々と同じ気持ちなのか、カルディナとジャンヌも不満げであった。



「しかたない。警戒レベルを下げて、次の層の入り口探しを急ごう」

「賛成」「ピィイ」「ヒヒン」「ですの」



 そうしてスピード重視で歩を進め、ひたすら真っ直ぐ草原を突き進んで行くと、ようやく目的の入り口が見えてきた。



「あれか」

「だね」



 ダンジョンに入った時のモノとそっくりな光る溜池を発見し、皆でダッシュでそこに向かうと、一斉にまた飛び込んでいく。

 するとまた、全身に液体が浸みるような感触を懐きつつ、新たなフィールドに辿り着いた。

 そこは前の場所とは少し趣が変わり、草原ではなく森の様な、木が立ち並ぶ場所にやってきていた。



「ここは森か。なんか懐かしいな」

「あんまりいい思い出は無いけどねえ……」



 そうして、久方ぶりの森の探査が始まるのであった。

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