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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第四章 初級ダンジョン編
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第124話 友達に会いに

 百貨店を一日中歩き回った次の朝、二人は前日かなり深夜まで起きていたにも関わらず、眠い目を擦りながら珍しく早起きをして、まずは冒険者ギルドに向かっていた。



「依頼を受けた時は、特急料金を払ってやるけーのお! がははーとかあの元町長が言ってたけど、さすがにそれはもうなくなっちゃったよねー」

「俺の記憶が確かなら、そんな偉そうな言い方じゃあなかった気もするが……。まあ、腹の底では盗賊達に俺達を殺させる気満々だったみたいだし、そんなものは無いだろうな」

「むー。そっか、思えばあの時からもう私達の事を狙ってたんだね。

 そう考えると、むかつくー! いいように動かされたって事でしょ」

「まあなあ、あの依頼を受けずに無視して次の町に行ってたら、色々と俺たちの状況も変わっていたんだろうし」



 そんな会話を挟みながら冒険者ギルドにたどり着き、すぐに受け付けの人に達成済みの依頼書を取り出し渡した。

 そして当初の予定通り五百万シスを受けとると、受付の人がもう一枚コインを渡してきた。



「これは?」

「追加報酬分です。お二人が来たら渡す様にと、ギルド長から受け取っていましたので」

「ギルド長が私達に?」

「はい。それと、一言伝言がありまして。すまなかった、と」



 城に滞在中に元町長のジョエル・ウイッカムを捕えたのが、ギルド長というのは聞いていた。

 ギルド長は完全に白だったらしく、あの時イヤルキに耳を貸さずに、ここのギルド長に言うだけでも話は変わっていたのかもしれないと、もしもの可能性を一瞬だけ二人は思い浮かべながら、そのコインを受け取った。



「では、これで以上になります。何か別に依頼を受けていかれますか?」

「いえ、大丈夫です。それじゃあ、僕らはこれで」

「はい。それでは、さようなら」

「「さようなら」」



 町長の逮捕やらなんやらで、竜郎は何か余計な手続きや話が必要になるのかもと思っていたが、他に何を聞かれるでもなく、二人はあっけなく外に出た。

 そうして今度は宿の方角ではなく、外壁を添う道に乗って、本日のメインの目的地に向かった。

 外壁に添う様に暫く進んでから、何度か道を乗り換えて行くと、人工的に整理された自然が豊かな区画に切り替わってきていた。

 道中緑一杯の公園を通り過ぎ、そこから一本右に行く道に乗り換えると、ようやくそれは見えてきた。

 学校の運動場程の広さの庭には柵に覆われた緑の大地、木の様な薄茶色の金属で造られた、縦に長く、所々に枝の様にせり出した棒が数十本ある大きな家が建っており、敷地内に入る門からすぐの所には緑色の大蛇が寝そべりながら、こちらを睨んでいた。



「ヨルンがいるって事は、ここで間違いないみたいだな」

「あんな目立つ子、そうそういないしね。おーい、ヨルンくーん!」



 愛衣がそう言いながら睨むヨルンに手をふると、鼻を鳴らしそっぽを向いたかと思えば、家の方にズルズルとだるそうに這っていき、尻尾の先で戸を鳴らした。

 するとまた、ヨルンは地面に寝そべり寝息を豪快に立て始めた。

 そんな光景を見つめながら竜郎達が門の前に立っていると、家の戸が中から叩かれた。

 どうやらヨルンが意地悪をして、尻尾の先で戸が開かないように塞いでいるようだった。

 あー、うちの子は素直で良かった。と二人がしみじみ思っていると、上の方の大きな窓から赤い巨虎が飛び降りてきた。



「エンニオだ」

「うん、エンニオだね」



 その完全な獣の姿に寂寥感を覚えていると、エンニオはヨルンの尻尾を爪を引っ込めた状態の前足で払った。

 すると戸が開き、次の町長がほぼ確定している妖精種族のマリッカが頬を膨らませながらヨルンを怒っていた。

 それにヨルンは、あからさまな寝たふりを続けたまま無視していた。

 それにさらに頬を膨らませていたマリッカだったが、エンニオがホメろよ。とでも言いたげにすり寄って来たので、笑顔で抱きついて体中を撫でまわした。

 それに嬉しそうにしながらも、必死ですまし顔を装うエンニオだったが、ヘリコプターのように回る尻尾は隠しきれなかったようだ。


 そんな幸せそうなエンニオに、二人は胸を詰まらせながらマリッカの許可を得て、鍵のかかっていない門を竜郎が開けようとするも、ビクともしなかった。

 どうやら鍵はかかっていないが、恐ろしく重い材質でできているらしく、愛衣に頼んで門を開いてもらい、敷地内に入っていった。



「おはようございます。マリッカさん」

「おはよー。マリッカさん!」

「うん、おはよう。タツロウ君に、アイちゃん」



 そうして本日一番の目的である、エンニオとマリッカへの訪問がなされたのだった。



「可愛い家だねー」

「でしょー、けっこう拘ったから自分でも気に入ってるの。

 でも、本当は大きな樹を生やして、その中をくりぬいて家にしたかったんだけど、それは町の法令に引っかかってできなかったんだ」

「へえ、そんな法令があるんですね」



 それでもできるだけ大樹に寄せようとしていることは解る家の形に、二人は感心しながら見つめていると、ふと何者かの視線を感じ取った。

 その視線の方向に二人が同時に目線を向けると、そこには大きな紅い虎がじっと不思議そうな顔でこちらを見つめていた。



「そうだ。エンニオ、プレゼントがあるんだ」

「ガウッ!? ガウガウ!」

「あれ、プレゼントの意味が解ってるのかな?」

「ん~。人だった頃に嬉しかった記憶が残ってるのかな? きっと、よっぽど嬉しかったんだと思うよ」



 逃がさんとばかりにエンニオの太い前足で抱え込まれ、身動きが取れない状態になった竜郎をほのぼのと二人は眺めていた。



「いや、助けてくれよ!」

「おっと、そうだった。ほらエンニオ、離してくれなきゃ渡せないよ」

「ガウ!」



 愛衣の渡せないという言葉に反応したのか、竜郎をぺいっと転がして離した。

 竜郎は緑の柔らかい植物の絨毯の上を、三メートル程転がった末に仰向けに止まった。



「な、なんでこんな目に……っと、すまん」

「ふふっ、なんだかエンニオが楽しそう」

「だな」



 眩しい太陽に目を細めながら寝転がった竜郎に愛衣が手を差し出し、引っ張り起こしながらエンニオに向き直ると、尻尾を振り乱し口角も上がって笑っているようだった。



「まあ、百貨店でもいいものがないか色々見て回ったんだがな、ピンとくるものが無かったし、結局これなんかどうかなって」

「ガガガガガガガーーーーーーウ!」

「エンニオ! お座り!」

「ガウ!」



 竜の肉を百キロほど出した竜郎に飛び掛かろうとしたところで、マリッカが契約の元に強制的に指示をだし一旦大人しくさせた。

 それに竜郎は、あの巨体で飛び掛かられなかったことに胸を撫で下ろしながら、ダラダラと滝のように涎を流すエンニオを見つめて仰け反った体を元に戻した。



「これって、竜の肉だよね。いいの、こんなに?」

「全然いいよ。私達じゃ、食べきれないくらいあるし」

「そうなの、売ればいいのに──って、そんなにお金には困ってはなさそうね」

「ええ、まあ。こっちに来て、臨時収入もありましたし」



 そんな風に井戸端会議を初めだした三人に、エンニオは「まだか! まだだめなのか!?」とでも言いたげに体を揺すって存在をアピールしてきた。

 そんな姿を三人は可愛く思いながら、肉から少し離れてからお座りを解除した。

 すると、エンニオは竜郎やマリッカの目には消えたようにしか映らない程の速さで駆け寄って、百キロの竜の肉を貪り、一口齧るごとに雄たけびを上げていた。



「もう、美味しいのは解ったから、もっと静かに食べなきゃご近所迷惑じゃない!」

「ガウガウガウガウ」

「聞いてないみたい」

「まあ、それだけ喜んで貰えれば嬉しいよ」



 無邪気な子供のように齧り付くその様に何も言えずに、三人で食べているのを見ていると、ふと興味なさげに寝そべっているヨルンが目に入った。



「ヨルン君は、竜の肉はいらないのかな?」

「ヨルン? ああ、あの子はあんな外見だけど、草食だから肉には興味ないんだよ」

「ベジタリアンな蛇て……」



 何でもかんでも丸呑みしそうな大きな口をしながら、その実草類しか食べない事に驚きを隠せないでいると、肉を食べ終わったエンニオが幸せそうな顔を浮かべながら満足げに一声鳴いた。



「食べ終わったみたいだな」

「みたいだね。んじゃあ、いっちょ愛衣ちゃんが腹ごなしに遊んであげよう!」

「ガーーウ!」

「はしゃぎ過ぎて、物を壊さないでくれよー」

「解ってるー!」



 そう言いながら愛衣はエンニオに向かって走り寄ると、庭で追いかけっこをはじめだした。

 それにヨルンは迷惑そうに眉間に皺を寄せながら、這って隅の方に移動してまたぱたりと寝こけた。



「ヨルン君は、普段はあんな感じなんですね」

「ん~、まあだいたいそうだけど、この前結構働かせちゃったから、いつも以上にダルダルモードに入っちゃってるね」

「そうなんですね」

「うん」

「「……………………」」



 それ以降は特に話題もなく、竜郎が愛衣と遊んでいるエンニオをジッと見つめていると、マリッカが呟くように話しかけてきた。



「あんまり、気にしない方がいいよ」

「え? 何がですか?」

「だって、あそこに連れて行かなければ……。とか思ってそうな顔してたから」

「そんな顔……」



 していない、とまでは言えなかった。確かに心のどこかで、エンニオが完全な獣になってしまったことを未だに悔いていた。

 もっと早く気が付いていれば、もっと注意深く動いていれば、あの場に連れて行かなければ、そんな事をふと考えてしまう。



「仕方がなかった。なんて言葉で片付けるわけじゃないけれど、元々の原因はグレゴリーよ。あんな人を人とも思わず改造しようとするなんて、想像もつかない事だったし、タツロウ君達だって神さまじゃないんだから、何でもかんでも自分がこうしなかったからなんて傲慢だよ」

「…傲慢ですか?」

「うん、あなた達がどんなに優秀でも、世の中どうにもならない事なんかいくらでもあると思う。

 でもだからって、なってしまったことをいつまでも悔やんでいたら前に進めないよ?

 エンニオは、私がちゃんと幸せにするわ。あの子が生まれたことが幸いだったと思えるくらい、めいっぱい愛してあげるつもり。

 あんまり可哀そうだと思われると、逆にあの子が可哀そうよ」

「そう…ですか」

「そうよー。ほら、今はあんなに楽しそう」



 そう言われて伏せた視線を上に向けると、家から突き出した樹の枝に似せた棒の上を愛衣が飛び跳ねながら、縦横無尽にはしゃいでエンニオと追いかけっこを楽しんでいた。

 そんな光景に自然に竜郎の口元が緩んだその時、愛衣が踏み込んだ棒の一本がへし折れた。



「「あ゛っ」」

「ああああああああああーーーーーーーーーーーーー! 壊したああああああああああああっ!!」



 しんみりした空気は遠く空の彼方まですっ飛んで、二人はマリッカにとっ捕まって三時間ものお説教をされ、それをエンニオは知らん顔で庭で寝だし、ヨルンはわれ関せずと欠伸をして体を丸めたのだった。

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