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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第四章 初級ダンジョン編

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第121話 レジナルドの手腕

 雨の日から次の光属の日は極夜、つまり一日中夜が続く日だった。

 まだ店は休業中ということもあり、思えば二日と休んだことのなかった二人は、今回の騒動で疲れた心身共に癒す為に、みだ──怠惰に過ごし、翌日の一日やってこなかった朝日を迎えた。

 竜郎はそれから数時間後に目を覚まし、レベルの上がった生魔法で、自分にくっついたまま裸で眠る彼女を起こしていく。



「お……おあよ~。たつろ」

「おはよう、愛衣」



 そうしてもはや習性と言っていいほど、毎日の日課になったおはようのキスを交わし、二人とも風呂に入り直してから着替えて遅い朝食を取った。



「今日の予定は、レジナルドさんとギリアンさんの家に行くんだよね」

「ああ、行くって言ってあったしな。明日には百貨店も再開するみたいだし、することも無い今日行くのがベストだろ」

「そうだね。あっ、どうせ町の外に出ないならあっちの服が着たいな」

「高いやつか。あそこらへんは富裕層ばっかりだし、そっちの方が逆に浮かなくていいかもな」



 そうして二人はお高い方の服に着替え直し、軽くおしゃれをした愛衣と手を繋いで部屋に鍵をかけ宿を出た。

 マクダモット邸は富裕層の集う場所で、城の敷地内から少々離れた程度の場所にあるので、町の奥に向かう動く道に乗ってその上をのんびりと歩いていった。

 動く道の上を歩くことで小走り程度の速さで進んでいった為、そこまで時間をかけることなく目的の邸宅を見つけた。

 今度はちゃんと門から入るべく、入り口に立っている警備の男に取り次いでもらい問題なく通された。


 敷地に通された後、そのままレジナルドの執務室に通された先には、レジナルドとギリアンの二人が待っていた。

 そこで前と雰囲気の違う、貴族の様な恰好をしている二人に一瞬だけ面食らったようなマクダモット親子だったが、流石商人と言うべきか、直ぐに普段通りに話しかけてきた。



「やあ、ちゃんと来てくれたようだね。嬉しいよ」

「ええ、良いものが安く手に入るらしいので」

「と言っても、相当な額を領主様から頂いたのでは?」

「まあ、ぼちぼちだよー」



 そんな世間話もソコソコに、さっそく四人で竜郎達の為に用意していた品が置いてあるという倉庫に向かって行った。

 そうして辿り着いたそこは倉庫といっても、竜郎達が通っていた学校の体育館程の大きさの場所だった。



「ここにあるのは普通の店には並べられないような代物ばかりで、お得意様から要望のあった時だけ開ける倉庫なんだよ」

「へえ。それは凄そうですね」

「そりゃあ、すごいですよ! 私でも滅多にここへは入れませんからね!」

「「お、おう」」



 異様にテンションの上がっているギリアンに若干引きながら、二人は改めて広い倉庫を眺めていく。

 そこにはギッシリと商品が敷き詰められているわけでもなく、一つ一つタグの付いた金属の箱が綺麗に整頓されて並べられていた。



「今回見せたいのは、これっ──なんだ」



 倉庫に入って直ぐに、いくつか手前に置かれていた箱に近づいて行ったレジナルドは、重そうな蓋を自慢の筋肉を使って開けると中の物を見せてきた。



「これは、女の人用の防具かな?」

「だな、少なくとも俺には着れそうにないし」



 見せられたその防具は、全体的に黒を基調としており、女性の胸のふくらみも考慮された上半身を覆う装甲に、肩装甲、腕装甲、手装甲とパーツ分けされて、下半身部分は動きやすさを優先しての事か、硬そうな装甲ではなくフィッシュテールスカートの様に後面は長く、前面は短い丈夫そうな布が上半身の装甲に付いていた。

 また足の部分は、脛装甲と先が尖った靴の様な足装甲になっていた。

 ただ、その防具も気になるといえば気になったのだが……、後ろで鼻息荒く震えているギリアンの方が正直二人は気になっていた。



「あの、ギリアンさん。見たいなら、前にどうぞ……」

「はい! ──じゃなかった。いいえ、私の事は気にせずに、父とお話し下さい」

「はあ」



 思わず二人を押しのけてその鎧を見ようとしたギリアンだったが、すんでで踏みとどまり冷静さを装いながら後ろに下がって距離を取った。

 この悪癖のせいで、ここになかなか入れて貰えないんじゃないか。などと思いながら、二人は話の軌道を元に戻した。



「これが、この前言っていたとっておきの物?」

「ああ、そうだよ。それは死した今でも有名なドワーフ族の名工、トラウゴット氏の作品で、とてもじゃないが市場に流せるような物じゃない。

 性能も、トラウゴットの名に相応しいものとなっているしね」

「ん~、防具かあ。でも、これはカッコいいかも」



 愛衣は何かすごい武器が来ると思っていたらしく、少しだけ肩すかしをくらったような気がしていたが、よく見てみればデザインもシックでカッコ可愛く、食指が動き始めていた。

 愛衣の心が動き始めているのをしっかりと読み取ったレジナルドは、さらに何故防具をここに持ってきたのかを話しだした。



「この前君たちが装備を身に着けているところを見たが、あまりにも守りに無頓着すぎるよ」

「そう、ですかね」

「そうだよ。どんなに強かろうと、もしもはいつも付きまとってくるものだ。

 そのもしもで、大切な人が傷つくところを見たくはないだろ?

 だからここで、君の分も含めて守りを固めたらどうだい?」

「そう言われると、そうだよね。たつろーなんて魔法使い系統だから、防御面の不安はいつも有るんだし。たつろーの物は、どんなのがあるのかな?」



 さりげなく竜郎の分も入れ込むことに成功したレジナルドは、爽やかに笑顔を浮かべながら隣の箱の蓋も開けた。

 その用意の良さに、最初から売るつもりだったんだろうなあ。と竜郎は思ったが、確かに言っていることはごもっともなので、このまま前向きに見ていく。



「これはロングコートですか?」

「ああ。だが、ただのコートじゃあないよ。なんと、こちらもトラウゴット氏の作品だ」



 レジナルドがここまで自慢げに話すのだから、そのトラウゴット何某はさぞ凄い人だったのだろうが、そんな人物は全く知らない二人からしたら、どのくらいの品物なのかが全く解らなかった。

 だが、こちらに見せられた深緑色のロングコートはデザイン性もさることながら、竜郎の《魔力視》に微かな魔力が見て取れた。



「これは、どういった物なんですか?」

「ふーむ。何やらトラウゴットの名にさほど驚きが無いようだが……、まあいいか。

 それはただの布製に見えるかもしれないが、使われている糸の一本に至るまで一から造っているらしくてね。

 気力の通わない攻撃なら貫くことは絶対できないし、気力が通っていても、そこいらの武器では敵わない程なんだ」

「ちょっと、着てみてもいいですか?」

「ああ、構わないよ」



 愛衣の方の鎧と違って羽織るだけでいいので、竜郎は試着させてもらう事にした。

 見た感じもっと重いかと思えば、手に持つとその軽さにまず驚いた。

 まるで羽毛でも持っているのかと錯覚する程だが、軽く引っ張ってみてもビクともしない。

 そこで羽織ってみれば、着ていないんじゃないかと思うほど着た感じが伝わってこなかった。

 しかし体がポカポカと暖かくなり、何かに守られているような不思議な感覚があった。



「なんだろう。不思議な感じがしますね」

「そうなのかい? 私は魔法使いじゃないから解らないけれど、それには魔力の回復効果も付いてるらしいから、それが関係しているのかもしれないね。

 ちなみに、ちょっとそれに魔力を流してみてくれるかい?」

「魔力をですか? 解りました。──ん。これは」



 竜郎が魔力を通した瞬間、コートが金属の様に硬くなった。

 試しに軽く拳で叩いてみるとコンコンと音が鳴り、さらに驚くべきことに衝撃が全く伝わってこなかった。



「これ、衝撃も吸収されてませんか?」

「鋭いね、その通りだよ。魔法使いの筋力でも動き回れる軽さを保ったままで、そこまでの防御性能を持つ物なんて他には見たことがないよ」

「それは、理想の装備ですね」

「でしょう! それは本当に凄くてですね! 実はトラウゴット氏が───」



 竜郎の感想に我慢できなくなったギリアンが、いかにそれが素晴らしいのかとまくし立ててきた。

 それを竜郎が顔を引きつらせながら相手をしている間に、愛衣は自分の方に出された防具が気になってきたので、レジナルドに問いかけた。



「ねね、私の方はどんなのなの?」

「そちらも着てみてかまわないよ。見た目より、着るのも簡単だからね」

「そうなの? じゃあ、ちょっと失礼して」



 そうして愛衣も、箱の中にある鎧を手に取ってみる。

 すると竜郎のコートと比べれば重いのだが、今愛衣が所持している軽装鎧よりずっと軽かった。

 そして手に持つとカシャっという音がして、後ろ側がパカリと開いた。

 なのでそれに、自分の胸に押し付けるように体を入れると、再びカシャッと音がして、後ろ部分の繋ぎ目も解らないほどしっかりと閉まり体に固定された。

 他の肩、腕、手、の三つのパーツも同様に、開いた箇所に適した体の部位を押し当てるだけで固定されていき、足の装備も一瞬で装備できた。

 これなら慣れれば、着用までに十秒も有れば余裕で出来そうだった。



「何これ。簡単!」

「ははっ、トラウゴット氏は着易さにも拘りのある人だったからね。

 それに着易さはおまけみたいなもので、その装備の売りではないよ。気力を流してみてくれないかい」

「わかった!」



 次は何が起こるのかとワクワクしながら、愛衣は黒い鎧に気力を流していく。

 するとスポンジのようにグングン愛衣の気力を吸い込んでいき、相当量を飲み込むと、鎧から黒い霧状の粒子が湧きあがってきた。



「んん? これは?」

「それが、この防具の一番の売りなんだよ。その黒粒子に、盾になる様にイメージしてみてくれないかい」

「ああ。そういう事ね」



 愛衣はそれだけで何が起こるのか感覚的に理解して、粒子を前に突き出した自分の手の平の前に凝縮して形を造っていく。

 すると、目の前には空中に浮かぶ黒い六角形の盾が現れた。

 そしてさらに気力を追加して黒い粒子を増すと、同じ要領で周囲に十個の盾を造りだすことに成功した。



「んー。これって、盾以外には出来ないの? …………レジナルドさん?」

「──はっ。あ、ああ、すまないね。少し、ぼーっとしていた様だ」



 愛衣の予想以上の気力量に言葉を失っていたレジナルドは、なんとか正気に戻ると、愛衣の質問がなんだったのか聞き直した上で説明してくれた。



「それは多少変化しているとはいえ、気力とほぼ同じ性質だからね。剣に気力で斧の刃を纏えないように、棒に槍の刃を纏えないように、全く違う物には形どれないんだよ。だけどそれは、普通の気力よりは制限が緩くなるから、防御に関係ある物に限って好きな形にすることができるんだ」

「完全に防御特化ってわけね。でも、一々手に持つ必要がないから、そこもポイント高いなぁ」



 そうして愛衣も、ますます気に入りだした。

 竜郎もそれをギリアンの話を聞き流しながら見ていて、確かにどちらの物も守りを固める点ではかなり有用な装備だと思った。

 そうしてもう九割がた購入を決めている所で、さらにレジナルドは別の商品の蓋も開けた。

 そちらには、いくつもの腕輪が整理されて入れられていた。



「こっちは何ですか?」

「これは、簡易的に魔法を補助してくれる物。つまりは、杖の腕輪版だね。

 魔法を使う魔物をテイムした時に、杖が持てないって際に身に着けさせるものなんだ。タツロウ君の所にも、いるんだろう?」

「はあ。でも、大きさが……」

「安心してくれていいよ。それは、持ち主に合わせて伸縮するからね、大きさが変動するような魔物にも、ちゃんとつけられるように考えられているんだ」

「おー。それは便利ね」

「ああ。まさにピッタリな装備品だな」



 まさか自分達以外の存在もしっかりとリサーチした上で、そちらの装備まで考えていたとは思わず、竜郎は素直にこの商人を讃頌さんしょうしたくなったのだった。

次回、第122話は11月30日(水)更新です。

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