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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
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第119話 いつもの日常へ

 ようやく嫌な事が全て終わり一安心していた二人の前に、領主ブレンダンとその娘ロランスが護衛を引きつれやって来た。

 そしてさらにその後続には、マクダモット家家長で商人の筋肉だるまレジナルド、その息子の太っちょギリアン、マグダモット家の警備長の老騎士ネヴィル、ネヴィルの部下の解魔法使いの女性、元盗賊サルマンと、ここへ二人が来た時に一緒に居たメンバーが一堂に会した。



「本当に、見事言った通りやってのけたようだな。なんと礼を言っていいやら、解らんよ」

「いえ。結果として、こちらも厄介ごとが全て片付いたので」

「そうか。して、そうなってくると報酬なのだが……どうしような。

 金も用意するつもりではあるが、それだけでは足りぬ気もする。何か欲しい物はないのか?」

「欲しい物……」



 今竜郎が一番欲しいものはSPなのだが、まさかくれとも言えるものではない。

 お金はくれる前提の様なので、それ以外で領主の力でないと手に入れにくい物が望ましいのだが、そうなると竜郎にはパッと思い浮かばなかった。

 なので何かないかと愛衣に視線を送ると、顎に手を当てて少し考え、念話を送ってきた。



『そういえば、私の装備品が何個かなくなっちゃったから、何かないかな』

『あー、確かに領主なら宝石剣みたいに愛衣の全力の気力に耐えられる何かがあるかもしれないな』

『そうそう。いざという時は手加減忘れちゃうから、普通のだと壊れちゃうんだよね』



 そうと決まれば、さっそく領主に相談だ。

 竜郎は視線を領主に戻し、口を開いた。



「あの、何か武器をいただけませんか?」

「武器か。ふむ、具体的に何の武器がいいのだ?」

「種類にこだわりはないんですけど、大量の気力を注いでも壊れないような素材で作られたものが望ましいです」

「種類にこだわりはないと? ふーむ」



 そこで何か無いか、領主が頭を悩ませはじめると、後ろにいたロランスが話に入ってきた。



「いっそのこと、あの家宝の斧なんていかがでしょう?

 あれなら大量の気力を注いでも壊れませんよね?」

「ん? ああ、それはそうだが……。さすがにあれはやれん。

 盗賊に使われケチが付いたとはいえ、我が家のシンボルでもあるのだから」

「使えもしないものを後生大事にしまっておくほうが、武器には失礼な気もしますが……となると、アレはどうでしょうか」

「アレとは?」

「ほら、私がまだ小さかった頃に、珍しいからとおじい様が使えもしないのに買ってしまったアレです」

「あれ……あれ…………ああ! あれならば、いいかもしれん」



 何やら二人を置き去りにしたまま話はあれよあれよと進んでいき、領主は後ろにいた護衛の男に一言いうと、その男がまた違う部下らしき人物に命令して部屋を出ていかせた。


 それから待つこと十数分、先ほど部屋を出て行った男ともう一人見知らぬ男が、一つの巨大な大弓を二人がかりで担いでやって来た。

 それは三メートル弱の大きさで、厚さも三十センチはあり、そこだけ細くなった持ち手の部分の中心部に、薄青の玉が埋め込まれ、持ち手と同じ太さのワイヤーの様な弦が張られていた。

 ただ弓と言っても、大きすぎるし弦も太すぎる。

 見た限りでは、弓として使えるようには思えなかった。


 こんな重そうな上に、見かけだけ弓っぽくなった武器を持ってこられても、正直いらないものを押し付けようとしているのではないかと竜郎は疑いたくなってきた。

 しかしそれを後ろで見ていたレジナルドが、驚きに声を上げた。



「それは、天装では!?」

「その通りだ。これなら、今回の功労にも十分見合う一品であろう」

「それはそうでございますが……。よろしいので?

 ものによっては国宝級に指定されてもおかしくないものでございましょうに」

「そうなのだがな。今までそれを手にしたものは、誰一人としてその真の力を引き出せはせなんだ。

 だから色々な所をたらいまわしされた結果、父が破格の値段で置物として購入したのだ。

 その父はもういないし、私も別に思い入れがあるわけではない。

 だから、この者達がその力を引き出せるのならば、渡した方がよかろう」

「はあ」



 それでも自分なら高値で売りさばく自信のあるレジナルドは、少し納得がいかなげな表情を浮かべるが、それでも所有者の言葉を曲げてまで言う事でもないと、喉の奥に押し込んだ。

 そうして何やら凄そうな雰囲気を出してはいるが、先ほどから完全に無視されている竜郎達はなんのこっちゃである。



「あの、その天装とはなんなのか聞いてもいいですか?」

「何? 天装を知らぬとな。ふむ。天装と言うのは──」



 そうして語られた言によれば、気力を吸い取って特殊な能力を発現する武器の事で、今の全人類の技術を集結させても再現不可能な事象を引き起こす代物である。

 では何処でそんな物を手に入れられるのかと言えば、それはダンジョンで極まれに手に入れられるらしい。

 倒した魔物が天装に変化することもあれば、宝箱の中から現れることもあるのだという。

 それも、どんな低レベルのダンジョンでも起こり得る事なので、まさに手に入れられるかどうかは運次第。実力だけでは、手の届かない要素が必要となるようだ。

 そこで付いた名が天装。意味は、天から授かった装備品。と言う何の捻りもない名が、冒険者たちによって定着していったらしい。



『RPGのドロップアイテムかよ』

『いよいよ、ゲームの世界だね、ほんと』



 さらに今回渡そうとしている弓は弦を引くことも出来ず、気力を注いでも穴の開いたコップのように漏れ出してまるで使い物にならないが、解析によれば相当な力を秘めている可能性も無きにしも非ず……かもしれない。とのことで、ようするに凄そうだけど、良く解んね。といった弓らしい。



「へー、でも面白そう。誰にも抜けなかった剣が抜けたアーサーの様に、私も誰にも使えなかった弓を使う愛衣ちゃんになりたいっ」

「なら、ちょっと使ってみてくれ。いいですよね、領主様」

「ああ、元よりそのつもりだ」

「そうと決まればさっそく。ちょいと貸してくださいな」

「「ええっ!?」」



 愛衣は素早く、弓を床に下したそうにしていた二人の兵から片手でひょいと持ち上げると、若干ショックを受けたような目で愛衣は見られていた。

 しかしそんな者らよりも、興味はすっかり弓に向いているので気にも留めずに、矢の代わりに使う様にと渡された細身の槍を手に持つ。

 そして誰もいない方向に向かって、身長的に通常の持ち方は無理なので横向きの状態で構えてみた。


 しかし、身体強化までした愛衣の力を持ってしても弦が引けなかった。

 また気力を流しても、糠に釘。流し込んだ先から大気中にこぼれていった。

 そんな姿を見た竜郎は、愛衣に引けないなら世界中のほぼすべての人類が引けないだろうと考え、何か別の要因があるのではと思った。



「これって、専用の矢とかがいる。などは無いのでしょうか?」

「んむ。それも解らん!」

「……そうですか」『使えない領主だなぁ。愛衣、そっちも使えなさそうか?』

『ん~、何か。この子が嫌がってる気がする』

『どういう事だ?』

『ちょっと待ってね』



 そう言って愛衣は矢の代わりに使っていた槍を下に置き、何も番えずに架空の矢を持つようにして気力を弓全体に流していく。

 すると、青色に可視化された気力の矢が現れた。



「「「「「おおっ!」」」」」



 その場にいた何人かは、驚きの声を上げてそれを見た。

 しかし、領主とその娘は首を傾げていた。

 なので竜郎がその理由を聞いてみると、他にも同じように矢を番えずに試した者もいたらしいが、それでもこんな現象は一度も現れなかったのだと言われた。



「しかしなるほど、矢のいらぬ弓か。確かに……便利よな」

「そう……ですね。しかし、見た目の割に普通な気もしますが」

「まあ。あれだけ必死に使おうとした人間がいたのに、効果がこれではな」



 などと領主とその娘が納得し始めた所で、愛衣はまだ何か違うような気がしてならなかった。

 だがそれをここで明らかにして、やっぱりあげないと言われてしまうのは嫌だった愛衣は、弓に心の中で後でね。と言って、それ以上の追及を止めた。


 そうして見事使えることは証明できたので、愛衣は領主からその弓をプレゼントされた。

 それを嬉しそうに、愛衣は《アイテムボックス》にしまいこんだ。



「ふむ。喜んでもらえているようで、何よりだ。金も今用意させている故、暫し待っていてくれ」

「解りました」



 そんなぽっかりあいた時間で、領主息子と町長の今後についても、少し聞かされた。

 どうやら町長は処刑され、息子もどこかに放浪したまま帰らなくなったという事にして、全ての罪は町長や死んだグレゴリーに被せ、密かに処刑することが決まったらしい。

 そのことを話す領主の目に力はなく、自分のせいでもあったと、次の町長選が終わるのと同時に領主の座を娘に譲り、その補佐をしばらく務めた後は、田舎で少ない金だけ持って暮らすらしい。

 そのあたりの親子のあれこれは、正直若い二人には重すぎたので軽く受け流し、話が終わった後、今度はマリッカとその傍で横たわるエンニオの所に向かった。



「やっぱり、この子はイアロウリスとは違う気がするの」

「そう、なんですか?」

「ええ、確かにあそこで戦っていた時も強かったけど、正直あのレベルなら竜族が滅ぼそうとまでは考えないと思うの。

 そんな事をみだりに行うような種族ではないし、危険を感じたからこその絶滅。

 そう考えると、エンニオはイアロウリスに近い何かという事なんでしょうね」

「ハッキリは解んないってこと?」

「ええ、それにパララケルスの死体も見せて貰ったけど、そっちも違った様に思う。

 まあ、見たことがないから、憶測でしかないけどね」



 そう言いながら、マリッカは優しくエンニオを撫でてくれていた。

 それにエンニオは尻尾をブンブン振りながら喜んでいる様で、竜郎たちも加わって三人で一通り話し合いながら撫でていった。

 それから、今度はギリアン、サルマンの二人の元へと行った。



「わ、私は、ギリアンの助手として働くことになったんだ」

「そうなのか? という事は、盗賊業の一件はお咎めなしって事になったのか?」

「か、完全に無罪とはならなかったが、君たちに協力したのと、以前のトーファスで衛兵をしていた私を覚えてくれていた人がいいいてね。

 そ、その人が以前のわわ、私の勤務態度や性格など話してくれた様で、たたた多額の罰金と監視だけで済ませてくれるらしい。

 まあ、いい一生借金地獄になる様な額だが、本来守るべき場所にいた者が、自分の命欲しさに傷つける側になってしまったんだ。

 その事を胸に刻みながら、残りの人生を生きていくつつつもりだ。

 たたた、ただ、もう一度どんな些細な問題でも起こしようものなら──だけどな」



 サルマンは人差し指で首を斬る様なジェスチャーをして、苦笑いしていた。

 それを隣に立って見ていたギリアンも、そこは神妙にうなずいていた。

 情状酌量の余地ありと、元のサルマンの性格、ステータスに《同族殺し》の称号が無かった──など色々な事象を加味しての特例らしく、これから罰金を返しつつ、自己の身の振りを見せていくことを義務づけられる。



「へー。ギリアンさんはどうしてまた雇おうと思ったの?

 正直事情を詳しく知らない人からしたら、そういう人を雇ってるって外聞は良くないよね」

「はい。けれど、サルマンとは意気投合しましてね。それでなくとも彼は優秀ですし。

 これから彼自身が一生懸命働けば、時間と共に見方も変わっていってくれるものと信じていますよ」



 そう言いながら、ギリアンはサルマンの肩をガシッと掴んで、ニカッと笑った。

 それにサルマンは、優秀だと言われたことが嬉しかったらしく、どこか照れくさそうに笑っていた。

 そうしてそこを後にして、次にレジナルドとネヴィル達の所に行った。



「また、家に遊びに来てくれ。その時は、ぜひ改めて今回息子を救ってくれた礼をしよう」

「はい、機会があればぜひ」

「ははっ、若いのに欲がないな。じゃあ、これならどうだろう。

 金はあまり興味がないようだが、装備品には興味があるようだ。

 なら、うちにもとっておきの物があるから、それを格安で提供しよう」

「あれ? そっちはくれないんだ?」



 愛衣が冗談めかして意地悪そうな顔でそう言うと、レジナルドは不敵に笑い返した。



「どうも職業柄、只で商品を提供するというのは、なかなか心苦しいものでね。

 だけれど値引きの方は普段以上に勉強させてもらうよ」

「それは楽しみ」

「魔法使い用の装備とかも、あるんですか?」

「ああ、もちろん」



 流石は大商家を取り仕切っているだけはある貫録を見せつけられ、そこから二、三、世間話をしていると領主に再び呼ばれた。

 そこで今回の報奨金を貰っていると、唐突にとんでもないことを話し始めた。



「どうだろうか。うちの娘は結婚を考えていないようだが、子は残してほしいと思っている。

 そこで君の子種を我が家に入れては貰えないだろうか」

「「え"っ」」

「君たちが愛し合っているのは知っておる。だからなにも婚姻を交わせとか、子を理由に我が領に縛り付けようとも思っていない。

 ただ子を授かるまでの間だけ、何度かまぐわってもらいたいというだけなのだ。

 優秀な者の血を我が家が欲しているというだけなのだから」

「それは……」「む~~」



 何言ってんだこのジジイ、と言った顔をする愛衣と、なんでそうなった。と言う顔をする竜郎の雰囲気に、断られそうな気配を感じた領主はすかさず猛プッシュしてきた。



「うちの娘は、贔屓目に見ても美人だと思う。

 数夜楽しむというくらいの、軽い気持ちで構わんのだぞ?

 なんなら、子が出来た際はまた褒賞を出してもいい」

「いえ。そう言う問題では……。それに、娘さんの意見はどうなんですか? そういう相手は自分で見つけたいでしょう」

「あら、私はかまいませんよ。貴方の血が我が家の繁栄に繋がると思ったからこその提案でしょうし、私もどうせ子を成すなら優秀な者がいいので」

「ええ……」



 なんだこの家族。と、もはや呆れさえしてきた竜郎は、横でむくれる愛衣を一度見て、はっきりとせねばと気合を入れ直した。



「すみませんが、そのお話は受けられません」

「何故だ。うちの娘では不服か?」

「いいえ。確かに、お綺麗だと思います。ですが、僕がこの先誰かと子を成すのなら、世界で一人と決めているのです」



 そう言って竜郎は、はっきりと領主の目を見て答えると、愛衣の手を引きよせて指を絡めて繋いで見せた。

 余りにも大胆な告白に愛衣は顔を真っ赤にし、ロランスは「まあ!」と、どこか羨ましそうな顔をして微笑み、領主は神妙な顔を取った。

 その神妙な顔に、まずったかと竜郎が思い始めた瞬間、領主は破顔した。



「はっはっはっはっ! そうかっ、そうかっ。ならば仕方あるまいな。

 無理な事を言ってすまなんだ。今言ったことは、全部忘れてくれ」

「はい。もう忘れました」

「そうか。なら、私からの話はこれで終わりだ。久しぶりに、気持ちの良い意見を聞いた。

 これからもしも何かあったのなら、我が家を頼ってくれ。その時は微力ながら、力を貸そうではないか」

「はい、ありがとうございます」



 そうして思わぬところで妙なコネクションが出来た竜郎たちは、領主の城で一泊過ごした後、皆と別れ、拠点に決めていた以前泊まったあの宿屋へと帰っていく。

 その道中──。



「ロランスさんとの事、ちょっと勿体ないとか思ってる?」

「そう見えるか?」

「全然♪」

「なら、よかったよ」



 腕を絡ませ合い、いつも以上に頬を赤くした男女が度々止まってはキスをしたり、いちゃつく姿を辺りに見せつけまくり道行く人々から白い目を向けられていたのだが……、それに二人は最後まで気が付くことは無かったのだという──。

これにて第三章の終了です。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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