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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第118話 それぞれの決着

 マリッカとエンニオの契約もつつがなく終り、さて事後処理だといった所になって、竜郎はようやく何時間もグレゴリーをほったらかしにしていたことに気が付いた。

 そうして慌てて周りを見渡せば、獣人の副団長ホアキンと他の兵たちがしっかりと捕えてくれていたのを発見し安堵した。

 しかし捕まえたといっても、グレゴリーは己の人生全てをかけてきたテイマーの術が何故か使えなくなったことに呆然自失し、自分で立つことすらままならない様子だったので、そのまま放置していた所で大丈夫そうであった。



「因果応報って奴かな」

「ざまあ見ろっての」



 そんな風に二人で悪態をついていると、グレゴリーと領主息子バートラムを拘束して連れた兵を引いたホアキンが、こちらにやってきた。



「協力に感謝する、おかげでデプリスの掃討もあとわずか。

 町への被害も軽微と、大がかりな事件の割に大きな被害は城の敷地内だけと上々な結果となった。

 後で領主様からも、何かあると思うから期待していてくれ」

「これで全部、終わりですね」

「君達は、な。俺たちは町長のジョエル・ウイッカムの逮捕及び、盗賊の残党狩り、トーファスの正常化と山積みだよ。

 君達もどうだ? 俺達の上司になってみるか?」

「「遠慮します」」

「ははっ、そうだよなあ。はあ……」



 これからの多忙な未来にホアキンは肩を落とし、それを見ていた部下たちも苦笑いしていた。

 だが、ここまでやったのだ。もう竜郎達は本来の目的に軌道修正させて貰っても、文句はあるまい。

 そうして竜郎は昼過ぎの、少し曇った空をぐうと鳴く腹の音を響かせながら見上げたのだった。




 グレゴリーは何故こんな事になってしまったのか、どうすればよかったのか。

 そんな事ばかり、ずっと頭を巡っていた。

 あれだけ注いだ情熱も、時間も、技も全て水泡と帰した。

 怒りは無く、後悔だけが胸を押し潰す。

 そんな時だった。一人の少年の声が、耳に届く。

 その瞬間、後悔は怒りへと変貌していく。

 あいつが出てきてから、何もかも狂い始めたのだ。

 あいつさえいなければ、今頃自分は地位も名誉も金も全て手に入れていたはずだ。

 あいつさえ、あいつさえ、あいつさえ、あいつさえ、あいつさえ……。

 次第にその思考は、竜郎さえいなければ、また元に戻るのではないかと、そんな妄執に捕らわれていく。



(あいつさえいなければ……わたしは……きっと……、いまからでも……)



 グレゴリーは、外見上呆けたフリをしつつ、仄暗い視線を密かに竜郎へと向けるのであった。




 城の敷地内は今、竜郎達がいる場所を筆頭に、なかなかの有様になっていた。

 これは修復に手間がかかるだろうなと、自分だったらどうやって直すかなどと考えながら、竜郎は周囲を見渡していた。

 そうしていると、そろそろ領主の所に戻ろうとマリッカが言いだし、それに二人も賛同して歩き出そうとしたその時、兵装した男が数人ホアキンの元へと走ってきた。



「何があった」

「はい。ジョエル・ウイッカムが、盗賊の残党をかき集めて、町中で暴動を起こしました!」

「なんだとっ!? 往生際の悪いっ。今更何も出来んだろうが!」



 ホアキンが憎々しげな表情を浮かべながら、詳細を聞いていく。

 それによれば、散々町を荒した後、商会ギルド直営の百貨店を占拠し、今はそこに立てこもっているらしい。

 その話をここにいる誰もが聞き入り、その視線も全て話をする男に向いていたのだが……たった一人、グレゴリーだけは竜郎を見ていた。

 そのことに、この場にいる人間は誰一人気がついてはいない。

 それをグレゴリーはしっかりと確認したうえで口をモゴモゴと動かすと、左奥歯に仕込んだ小さな箱型の道具を、口の中で作動させないように慎重に取り出しながら、口先に咥えた。

 それから発射ボタンを覆う蓋がある方を自分の喉に向け、舌でスライドさせてそれを外す。

 あとは狙いをつけて、この小さなボタンを舌で押せば、強力な毒が仕込んである針が射出され、ものの数秒で対象を死に至らしめる。

 竜郎までの距離は、五メートル弱。射程範囲ギリギリだが、届く範囲だった。

 さらに、今なら直線距離には誰も立っていない。

 グレゴリーはこれが最後の好機だと、しっかりと狙いを合わせていく。

 なんせ仕込んだ針は一本のみ、外せばもう本当に何の手段も残ってはいないのだから。



(貴様がいなければ……私は……まだっ!)



 今までにないほどの集中力を発揮し、口先だけを小さく動かし、ベストだと思う場所に照準を合わせ終えた。

 グレゴリーは舌先をボタンに伸ばし、ボタンに触れた。

 ──しかし、その一部始終を全部見ていたものが一匹いた。

 その紅の巨虎は、無機物を見るような無表情でグレゴリーが殺気立った瞬間、爪を振り下ろした。



「がっ──」

「グワフッ」



 その爪はグレゴリーの身体だけを、紙のように破って捨てた。

 その場にいた誰もがエンニオの突然の行動に驚き、そちらに視線が集中する。

 地面には分割されたグレゴリーの死体が血まみれ状態で散乱し、首だけが綺麗に無傷で転がっていた。

 その惨状をみた誰もが、それを成した者の主人マリッカに視線を送った。



「私はなんの指示もしてないよっ! それは近くにいたあなた達にも解るでしょ!?」

「それはそうだが……。では、ちゃんと契約は成せていないという事か?」

「そんなはずないよ、ちゃんと今もいう事聞いてくれるし……。ほら、頭を下げて~」

「ガア~」



 問いかけてきたホアキンに証明するように、下までやってきたエンニオの頭を、マリッカは優しく撫でてあげると、目を細めて喜んでいた。

 契約がなければ魔物の本性剥き出しで、こんな事が出来るはずもない。



「じゃあ、何故こんなことを……」

「解んないよ。ちゃんと指示がない限り、人間を傷つけちゃダメって言ってあったし」

「ふうむ。この……ええと、エンニオか。エンニオにとって、こいつは人では非ずってことか?

 まあ、やっちまったもんはしょうがない。もう少し詳しい情報も欲しかったが、どうせ死刑は免れない運命だったんだ。

 んじゃあ、俺はこいつの首だけでも持って行くかな──ん? なんだこれ」



 ホアキンがグレゴリー死亡の証拠として、首を持って行こうと近づいた時、開いた口の中に黒い小さな物体があるのに気が付いた。

 それに目を近づけてよおく見て、初めてそれが何か思い当たった。

 そうして慎重に指で口の中にあるそれを抓みあげて、射出ボタンに蓋をかぶせた。



「これは、暗器だな。こんなものを口に仕込んでたのか。

 んで、あの時こいつがこれで、この方角に狙いをつけていたとすると……、標的は君だな」

「僕ですか?」

「ああ、間違いない……と思う」

「ハッキリしないなあ」



 愛衣が適当に言ったんじゃないかと疑いだした所で、マリッカが何かを思い出したように手を叩いた。



「そっか。そう言えば、もし仲間が危険になった時だけは、躊躇せずに攻撃しなさいって言ったんだった」

「仲間……ですか?」

「うん。それは私やヨルンって意味だったんだけど、エンニオにとってタツロウ君達は仲間。って事だったのかもね」

「そうですか……」「そっかあ……」



 そうして二人は、眠そうに欠伸をしているエンニオに近づいて体を撫でた。

 それにエンニオは、特に嫌そうなそぶりも見せずに、鼻息を一度強く噴き出すと、目を閉じ地面に伏せたのだった。




 一方、絶賛立てこもり中の町長は、グレゴリーもバートラムも捕まったことを、城内部に潜ませていた盗賊の密偵からの伝書鳥から知らされ、もうどうしようもないと理解しながらも行動せずにはいられず、潜ませていた盗賊達を扇動し、こんな暴挙に出ていた。



「くそっ、盗賊風情のことなど聞くのではなかった……」



 今は一人、十階建ての大きな百貨店の最上階から、建物の周りを取り囲む兵たちを見下ろした。

 本来ならこんな事をしている暇があったのなら、こっそり逃げてしまえばまだ他の道もあったのだろうが、それをしようとした時には、既に町の門は閉ざされ、秘密の抜け道も騎士団の精鋭がうろつき、気が付いた時にはとても町の外に出られるような状況ではなかった。

 なので最後の手段と、百貨店の客人を人質に、この町から出ようと考えた結果がこれである。

 自分の取り巻きは既にどこかに逃げていき、今味方と言えるのは信用できない盗賊達のみ、なので先ほどその一人に金を渡して、逃走ルートの確保を条件に人質解放の声明を伝えるように言ったのだが、どうやら金だけ持ってどこかに逃げて行ってしまった様だった。



「ははっ。今まで何年もこの町の為に生きてきてやったと言うのに、少しばかり金に手を出しただけで小娘に靡くとは、なんと愚かな奴らなのだ」

「それは驕りが過ぎるぞ、ジョエル」

「───っ!? ザンっ、どうやってここに!」



 一人しかいないと思っていたのに、自分の後ろには昔なじみのリャダス町の冒険者ギルド長が立っていた。



「うちの職員は優秀でな。既に人質の安全は確保してある。盗賊も、大人しく捕まった者以外は皆、殺した。後はお前だけだ」

「お前も、俺の敵に回ったか」

「昔のジョエル・ウイッカムであれば、一も二も無く助けただろう。

 だが、今のお前に手を差し伸べることは俺にはできない。だからせめて、俺の手で捕まえよう」

「捕まれば、俺は死刑だぞ? それでも友か!」

「お前の支援していた盗賊に、いったい何人の冒険者達が殺されたのだろうな。……お前は、その報いを受けねばならない」



 昔から、頑固で正義感の塊のような人間だった。

 そんな人間が、ここまではっきり言ったことを撤回することは無いだろう。



「出世には興味がないくせに、どんどん上に上がっていったお前に、必死で伸し上がってきた俺は終止符を打たれるわけか。皮肉なもんだな」

「そうさせたのはジョエル、お前の不徳の致すところだ」

「そうか。なら、とっとと捕まえればいい。老いたとはいえ、未だ現役のお前に勝てるわけもない」

「そうだな」



 そうしてザンは、ジョエルを捕まえようと近づいていく。そしてそれを見計らったように、ジョエルは袖の下に隠していた瓶を落とした。



「ごっ!?」

「甘いな。お前が何か、そこに隠していたことなど見抜いていたさ」

「………………」



 瓶が地面に落ちて割れる前に一瞬で駆け寄り、そちらは足で受け止めながら、これ以上抵抗させないように、ザンはジョエルの腹を殴って意識を奪った。

 そうしてものの数時間で、後に町長の乱心事件として歴史の片隅で語られる今回の一件は、あっけなく片が付いたのだった。




 そんな知らせを竜郎達が知ったのは、それから一時間ほど後だった。

 事前に処理しなければならない事があると、豪華な食事を出された部屋で、竜郎、愛衣、マリッカ、そして紅虎のエンニオは待っていると、顔見知りのホアキンが直々に伝えに来てくれた。

 そうしてようやく長かったこの騒動にも片が付いたのだと、肩の荷が下りた二人なのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 生まれる前から人生を狂わせたグレゴリーをエンニオが殺す まさに章のタイトル通り因果応報な最期でしたね 凡人の僻みにしてはあまりにも大勢の人間を傷つけ過ぎた
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