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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
117/634

第116話 解き放たれた獣

 --------------------------------

 レベル:50


 スキル:《契約補助》《多重服従》《共感覚》

《テイム契約 Lv.11:上限解放》《集中 Lv.5》

《魔力質上昇 Lv.4》

 --------------------------------



(SPのほとんどを、《テイム契約》につぎ込んでるっぽいな。これが無くなると、騒ぎかねないがしょうがない。ばれたら、遠くに逃げればいいか)



 竜郎は半ばやけっぱちになりながら、グレゴリーのレベルをドンドン吸い取っていく。



 --------------------------------

 レベル:1


 スキル:《契約補助》《多重服従》《テイム契約 Lv.0》

     《集中 Lv.0》《魔力質上昇 Lv.0》

 --------------------------------



(あれ、《共感覚》が消えてる。まあいいか)



 そうして竜郎が、黒球を飲み込んだ頃。地上で変化が起こった。



「ぐわっ、何をする!」

「おや?」

『愛衣。グレゴリーのレベルは、全部吸い取った。そっちはどうなってる』

『ん~、とりあえずエンニオはなんか、戸惑ってる感じで体のあちこちを見てる。

 んで、グレゴリーの周りにいた魔物達が逃げてる。

 ちなみに今、グレゴリーが乗ってたスライムも、振り落してどっかにいこうとしてる』

『そうか。んじゃあ、俺は禿げ茶瓶を回収ししだいそっちに戻る。

 グレゴリーは吸収できないスキルがあるから、念の為合流してから捕まえよう』

『禿げ茶瓶? まあいいや。おけおけ』



 愛衣も領主息子バートラムの天頂部の頭髪を剃ってしまったことに気が付いていないため、クエスチョンマークが浮かぶが、恐らくバートラムへの悪口だと解釈して受け流した。

 そうして愛衣は、いつ動き出すか解らないエンニオと、逃げようとする魔物を必至に押し止めようとするグレゴリーを注視していった。


 竜郎は、上でグレゴリーがジタバタしながら騒がしく怒鳴っている光景を尻目に、禿げ茶瓶の真下にまでトンネルを繋げ、穴を開けて下に落とした。

 すると禿げ茶瓶は、ドシャっという酷い音と共に呻いていた。



「があっ、う~~痛いっ、っ!? 真っ暗だ!? 一体何が!?」

「うるせー禿げ茶瓶」

「ぶふっ!?」



 竜郎はむかっ腹もたっていたので、顔面を素手で殴って黙らせると、土魔法で鼻の穴以外の全てを土で埋めて身動きも声も上げられないようにした。

 ん~ん~と、何やら言っている様子だが、無視して魔法で補助しながらバートラムを引きずりながら来た道を戻っていく。

 そうしてジャンヌの後ろに繋がっている穴に出る階段を、バートラムに地味にダメージを与えながら引きずって上っていった。



「よっこいせっと」

「おう。って、そいつはバートラムか?」

「そうですよ。お土産にあげます」

「ああ、それはご丁寧にどうも───ってそうじゃない」



 華麗な乗りツッコミに竜郎が感心していると、副団長のホアキンはお土産をほっといたまま竜郎に問いかけてきた。



「あんたが、穴掘って向こうに行ったのは知ってたがな。そうしたら、向こうの陣営が総崩れなんだが、何をしたんだ?」

「秘密でーす。それに今は、最後にやらなきゃいけない事もありますし」

「アイツか……」



 そうして二人が見つめる先には、急にグレゴリーからの命令が契約越しに届かなくなり、それでもいつ来るかもわからず右往左往していたエンニオの姿があった。

 未だグレゴリーの契約の魔力は体内の血液中に残ったままだが、それに対する命令権は、《テイム契約》が無ければ発動できない。

 なので今現在、エンニオに命令できる者は誰一人いなくなった。

 そしてそれに気が付くのも、時間の問題だ。

 考える能力はほとんどないが、それでも自分を従えられるかどうかは獣の本能で解るものだからだ。

 なのでその前に生魔法で意識を飛ばしたいところだが、竜郎がむやみに近づけば即ミンチだ。

 いくら戸惑っていたとしても、自分への攻撃には当然反撃もしてくるだろう。

 などと竜郎が考えている間にも、エンニオはグレゴリーにはもう自分に命令できる力が無いと悟ってしまった。

 先ほどなら自害しろと言われても従ってしまう状態だったが、少し拘束感は残るものの、強制的に脳を浸食されるような、そんな嫌な感覚は全く感じなくなっていたからだった。

 自身の自由を知ったエンニオは、白みかけ始めた空に吠えた。



「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

「あの子に暴れられたら、やっぱり困りますよね」

「困るどころの騒ぎじゃないぞ!」

「ですよねー」



 お腹が空いたらお寝む作戦は、どうやら却下のようだ。

 さてどうしたものかと考えていると、マリッカがこちらにやって来た。



「あの子は、どうする気なの?」

「とりあえず眠らせるなり、気絶させるなりするつもりです」

「本当にできるの? それに殺した方が、あの子も幸せかもしれないわよ? だってその後どうするの? あなた達が責任もって、一生世話してあげられる?」

「それは……」

「出来ないでしょ。寿命だって、あの子の方が長いだろうし」



 その言葉に、ただ殺したくないと理由だけでは駄目なことを思い知らされた。

 なんだかんだと、まだ高校生。甘さを捨て去ることなど、できようはずもなかったのだ。

 そうしてしょ気る竜郎を、マリッカはつぶさに見つめると、厳しい顔から打って変わってニッコリと笑った。



「うん。タツロウ君が、本気であの子を助けたいと思っているのは解ったから、お姉さんが一つ案を出してあげよう。と言っても、できるかどうかは、やってみないと解らないけどね」

「……それは、エンニオにとって救いになりますか?」

「さあねえ。それは、あの子自身が決める事だから」

「ですか……。それでも、殺す以外の道があるのなら、やってみたいです。教えてくれませんか、マリッカさん」



 竜郎は一拍考えたのちに、決意の籠った目でマリッカを見つめた。

 マリッカはその目をしっかりと見つめ返し、その方法を説明しだした。



「まず大前提として、あの子を殺さず生け捕りにすることが絶対条件。ここまではいい?」

「はい」

「そうしたら、あなた解魔法も使えるのよね? ヨルンとリンクしている時に、知覚しちゃったんだけど」

「……ですね。それが、今回の案に必要なんですか?」

「うん。むしろそれが無いと成立しない。今からやろうとしているのは、グレゴリーの契約の上書きをして、私を主人に挿げ替えるって事なんだから」



 その言葉に、竜郎は目を剥いた。そんな事が出来るのかと。

 その表情にマリッカは予想通りの顔に笑って、具体的な案を詰めていく。

 それによれば、まず竜郎は、グレゴリーの魔力だけを解魔法で解析し消していく。

 その際、魔力を完全に消してしまうと中の契約自体も無くなってしまうので、契約を切らせないように消したそばから、代わりに同じテイム契約が使えるマリッカの魔力を注入していく。

 これはグレゴリーと、エンニオに契約のパスが出来ている状態では、魔力を供給しなおせば簡単に防げるので不可能なのだが、現在当人には《テイム契約》が使えないので、防ぐ手立てはない。

 そしてそれが上手くいけば、晴れてマリッカの制御下にエンニオが入るというわけだった。



「でも、これはそうとう高度な技術を要するわ。だからタツロウ君はもちろん、私も失敗する可能性が高い上に、一発勝負。勝算は低いわ。そしてそれが失敗すれば、残された手段は最悪の一手しかない……。どう? それでもやる?」

「はい。それしか方法が無いのなら、やってみたいです」

「解った。なら、早速エンニオ君を、何とかしなくちゃね」

「はい」



 それに竜郎はしっかりと返事をしながら、愛衣にも同じ内容を念話で聞かせていたので、その内容確認をしていく。



『という事だが、解ったか?』

『とにかくエンニオを一回眠らせて、その間にマリッカさんを新しい契約主に……ってことで、あってる?』

『ああ。その考えで当ってる。それじゃあ、こっからは総力戦だ。

 エンニオの攻撃はそっちに殆ど防いでもらう事になりそうだが、大丈夫そうか?』

『うん。カルディナちゃんも、いいタイミングで補佐してくれてるから、いけると思うよ』

『そうか。なら始めよう』

『了解!』



 そうして今度は、竜郎も本格的に参戦することになった。

 まず、エンニオに生魔法を直で使えれば、おそらく意識を飛ばせるはずだ。

 なので、それを念頭に行動する必要がある。

 とくれば、あの厄介なスピードを何とかしたい。

 なので竜郎は、土と水の混合魔法で地面を泥沼に変えていく。

 するとエンニオはそれに気が付き、霧状に変化して後ろに逃げようとした。

 しかし、そこには愛衣がめいっぱい気力を注いだ宝石剣が襲い掛かる。



「はあっ!」

「─────グガアッ」



 その瞬間、生身に戻って傷口の奥にしまっていた血液を操作し、それを弾丸のようにして愛衣に打ち込んだ。



「うぇ!?」



 気力でもない血液の弾丸に面食らったが、愛衣は立ち止まって冷静に弾いた。

 しかし、その間にエンニオは距離をとってしまった。だが、そこは竜郎が作り上げた泥の沼の中。

 エンニオは足を取られ、上手く地面を蹴ることが出来ない。

 なら霧状に変化すれば抜け出せそうなものだが、あの形態では一方的に攻撃されるだけで、反撃は一切できないと体で理解していた。なのでエンニオは、その手になかなか踏み込めない。

 それに占めたと、竜郎が風魔法でそこまで飛んで行こうとした瞬間の事。

 エンニオは雄たけびを上げると、血液を操作し蜘蛛の巣のようにあちこちに張り巡らせると、その上に飛び乗って脱出し、血の網の上をスイスイと昇っていった。

 その位置、実に地上十メートル。

 エンニオは高みから見下ろしながら、血液の弾丸を降り注がんとした。

 しかし、空には頼もしい味方がいる。



「ピューーイッ!」

「グガッ!?」



 下ばかり見ていたエンニオは、さらに上空から急降下してくる存在に気が付くのにコンマ一秒遅れた。

 カルディナは、《真体化》で鋼鉄のように硬くなった翼に竜力を込め、エンニオとすれ違いざまに《竜翼刃》を発動させた。

 それはエンニオの左肩を、血の鎧ごと切り裂いて傷を負わせる事に成功した。

 それだけなら、血液を操作し外に出ないようにすればいいので、そこまで大打撃と言うわけでもなかった。

 しかし、事はそれだけにとどまらなかった。

 カルディナに怒りの矛先が向き、他に目もくれずにその行き先を追ってしまっていたため、さらに第二陣が来るとは夢にも思っていなかった。

 その名はジャンヌ。十二メートルの巨体を空に舞いあげ、後はエンニオに自由落下するだけである。

 その巨体の落下スピードは、カルディナの急降下にも負けてはいない。

 重力に導かれるままにエンニオに蹴りを喰らわせ、血の網の上から地面に叩き落した。

 それを見届けたジャンヌは、竜力を腕に着いた両翼に纏わせゆっくりと着陸していった。



「ジャンヌが飛べるのは知ってたが、あの巨体で空にいると圧巻だな」

「だねえ。一旦落着いたら、ジャンヌにも乗せてほしいな」

「ああ。そのためにも、早く終わらせよう」

「うん!」



 上でエンニオがごたごたしている間に、ちゃっかりと合流していた二人は、泥沼に突き落とされたエンニオに、最後の一押しをすべく、そちらに走り寄って行ったのだった。

次回、第117話は11月16日(水)更新です。

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