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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第115話 怒りの愛衣

 愛衣は目の前で唸る一頭の獣。イアロウリスと呼ばれる紅の巨虎になってしまったエンニオを、寂しげに見つめながら戦っていた。

 見た目は怖かったが、怒るだけでなく、ちゃんと話せば笑いもするれっきとした人間だった。

 しかし、グレゴリーのワケの解らない実験で、人とすら呼べない獣の姿に変えられた。

 もっと言うのなら、グレゴリーさえいなければ、エンニオは先祖返りなんて起こさずに、普通に生まれ、普通に両親に愛されて、幸せに暮らせていたはずだ。

 そうなると、エンニオに出会う事はなかっただろう。それは寂しいとも、愛衣は思う。

 だが、こんな風になってしまうくらいだったら、初めから会えない人生の方がお互い幸せだったはず。

 だからこそ、愛衣は人の人生も命も弄んでいい気になっている男がどうしても許せなかった。

 何としてでも、あの男の好き勝手にはさせない。

 そう愛衣は、今はもうないエンニオの心に誓ったのだった。


 決意を胸に、愛衣は体全体を覆う気力の量を増やし、身体能力をさらに上げていく。

 デフルスタルと呼ばれる、蒼と金の熊との戦いの時には使いずらかった高レベルの身体強化の制御にも慣れてきた。

 そうなれば、ただでさえ異常なステータスは、さらに異次元のレベルに到達する。



《スキル 身体強化 Lv.10 を取得しました。》

《称号『剛なる者』を取得しました。》



「エンニオ、ごめんね。ちょっと痛いかも」

「グガアアアアアアアアアアアーーーーーー」



 愛衣の漏らす言葉も理解できず、ただただグレゴリーの人形に徹して竜郎に向かって行こうとエンニオは吠えていた。

 そんな姿に愛衣の闘志は静かに燃え広がり、左手に持った宝石剣に溢れんばかりに気力を注ぎ込んでいく。

 愛衣と竜郎の気魔混合の強大なエネルギーにより、翠聖石から虹聖石という材質に変化していたその剣は、それを苦も無く汲み取って、使い手の想いを叶えていく。

 すると一メートル程だった刀身から極彩色に煌めく気力の刃が伸びていき、横幅が一メートル、縦二メートルの巨人の短剣ともいえるような剣になっていた。

 それを、霧状に変化したエンニオの靄に向かって振り下ろした。

 普通の人間が気力を込めた攻撃をしたところで、霧状に変化した今の状態の時には多少嫌悪感はあるが、ダメージはほとんどなかった。

 けれど今回自分の身体に突き立てられたのは、常軌を逸した気力の塊。

 嫌悪感どころか、霧の身体に電撃でも通されたかのような激痛が走り、スキルが解け実体に戻ってしまう。



「ギュガグアアアアアアアッアアアアアアガアアアァァアアア!?」

「捕まえたわ! アイちゃん!」

「合点!」



 その隙にマリッカとヨルンが、樹魔法で雁字搦めに植物でエンニオを縛り付け、激痛で暴れることすら許さずにその場に固定した。

 そして愛衣は縛り付けている間に、右手の斧にも信じられない量の気力を流し込み、刃の部分から気力の刃を薄く伸ばした。



「はあっ!」

「ガッ!?」



《スキル 斧術 Lv.2 を取得しました。》



 その斧の刃は、上あごから伸びた剣の様な牙だけを器用に二本切り落とした。

 これで、牙の攻撃は無効化できたも同然だった。

 しかし、──パンッ。という破裂音がしたかと思うと、右手に持っていた大斧が文字通り粉砕した。



「ああああっ!? 結構気に入ってたのに、壊しちゃったあああっ」

「何なの、そのアホみたいな気力は! そんなに込めたら、ほとんどの武器がそうなるに決まってるじゃない!」

「そんなあ……」



 宝石剣と同じ感覚で気力を用いてしまったため、魔物の持っていた斧では愛衣の気力に耐えきれずに木端微塵と化してしまったのだ。

 そんな風にショックを受けている間にも、エンニオはまた霧状に体を変化させて逃げようかと考えたが、それを目ざとく見つけた愛衣が左手の宝石剣をチラつかせて脅かすと、ビクッとしてそれを中断した。

 それほど先の宝石剣の攻撃は、衝撃的な痛みだったようである。

 しかしそんなものは関係ないと、グレゴリーは命令を下した。



「何を道具の分際で怖がっている! さっさとその植物から抜け出さないかっ!」

「グガァアアッ」



 その言葉に、自分の血に混ざったグレゴリーの契約の魔力が働きかけ、エンニオの意思に反して勝手に霧状の体になって植物の檻から抜け出さんとした。

 それに愛衣は申し訳なさそうにしながらも、剣を右手に持ち替えて振るう。

 だが痛みよりも命令のほうが上回っているのか、実体化をなんとか阻止しながら抜け出し、こちらから距離を取って息を切らしながら元の巨虎の姿に戻った。



「グガアッ……ガアッガアッ…………」

「何をしている! 早く行けっ、このウスノロめ!」

「あんたが無理やり戻したから、そんなに疲れてるんでしょ!」

「お前が攻撃しなければ、それで済んだ話ではないか。 さあ、貴様の能力の全てを開放しろ。竜種に喧嘩を売れるほどの魔物が、その程度の力のわけがないだろうが!」



 エンニオが反撃できないのをいいことに、好き勝手言いながらグレゴリーは蹴りつけていた。

それに愛衣は我慢ならず、無意識のうちに宝石剣をグレゴリーに向かって振りぬいた。



「ガアアアアッ!?」「ぐあっ!?」「───っ!? なにが……?」



 それは、完璧な気力の放出だった。見事剣に乗せた膨大な気力を打ち放ち、それは地面を縦に切り裂きながらグレゴリーに向かって行く。 咄嗟に最上位命令であるグレゴリーの保護が働きエンニオが庇おうとするが、速さも尋常ではなく、不意を突かれたその一撃はエンニオの左肩を深く切り裂き、蹴るために突き出していたグレゴリーの右足を一本切り落とす。 さらに、その後ろでうずくまって泣いていた領主息子バートラムの頭皮の薄皮を髪ごと攫っていき、そのままで終わればよかったのだが、さらに奥に進んで城の一部を切り裂き、遠くにあった山に大きな切れ込みを入れた所でようやく消えてくれた。

 城を破壊したのはそこそこ不味かったのだが、愛衣はそれより深手を負ってしまったエンニオを心配した。

 だがエンニオの方は、傷口は深く大きな攻撃の爪痕を残していたのだが、血は一切流れておらず、死に繋がる様な怪我ではなさそうだった。

 だが誰も何の心配もしていない片足を失ったグレゴリーは、このまま放って置いたら死にそうな勢いで血がだくだくと吹きだしていた。

 生魔法要員としても期待して連れていた、天魔種の魔物シトーメンは愛衣に存在ごと消されたので、その恩恵にはもうあやかることは出来ない。

 ならば、手段はもう一つしかない。

 グレゴリーは直ぐにスライムに命じて足に巻き付かせて、止血することに成功していた。

 これが終わり次第バートラムに、腕利きの生魔法使いを呼んでもらう事にして、ここでようやくグレゴリーは落ち着きを取り戻し、守りきれなかったエンニオ含め、他の魔物にも悪態をついていた。

 しかしまた愛衣のあの攻撃が来ないかの方が気になって、ニ、三小言を言っただけに済ませ、攻撃を再開する様に命じた。



「あの小娘にあれを撃たせるな。そしてとっとと、あのデカブツの後ろにいるやつを殺して来い!」

「グガアアアッ」



 エンニオは一声鳴くと、新たなスキルを発動した。

 それは先ほど愛衣にやられた裂傷から血液を操作し、それを体中に纏って硬化させ、血の鎧を着こんだ。



「あんな事も出来たのね、資料だけじゃ解らなかったわ」

「そんな冷静に見てる場合じゃないって、来るよ」

「解ってる。ヨルン、私達もやるよ」

「シャアアア」



 そうして愛衣たちが気合を入れ直している間に、エンニオはジャンヌの後ろにいる存在に向かって行く。

 しかし赤い光球が四つ飛来し、グレゴリーに向けてレーザーを何本も放たれ、そちらを守らざるを得ないエンニオは、なかなか近づけない。

 その間に、愛衣が攻撃を仕掛ける。

 エンニオはそれに対し、先ほどの様に霧化はしないで、新たに血で造った鎧や牙を携え戦っていた。

 なかでも愛衣を悩ませたのは、自由自在に変化する血で、これが触手の様に鎧から伸びて捕まえてこようとしたり、剣のような形にして切ってきたりするうえで、エンニオ自身の攻撃も加わり、一体との戦闘とは思えないほど攻撃の手数が多かった。

 しかしその中でも、愛衣はエンニオに肉薄しながら全体を見つつ、こちらにできるだけ意識を向けさせていた。

 そうすることが、今回の作戦の鍵となるからだ。



(たつろー。こっちもしっかりやるから、そっちも頑張ってね)



 邪魔にならないようにあえて本人には伝えずに、愛衣は心の中でそう呟きながら、エンニオの相手を続けていった。


 一方その頃の竜郎は、実は絶賛地下トンネル開拓中であった。

 エンニオの壁を越えた上で、グレゴリーに《レベルイーター》を当てるには、地上で攪乱してもらいながら、単独地下から背後に回るのが一番早いと思ったからだ。

 では地上にいるジャンヌの後ろにいるのは誰かと言えば、それは竜郎がジャンヌの後ろの死角になっている場所で、さっきまで身に着けていた装備品や着ているものを、魔法で造った偽竜郎土人形に装着し、それに闇魔法でそれっぽく作った髪モドキをかぶせて、腹の辺りに鉄の棒を刺してジャンヌの尻尾で動かして貰えば、パッと見には竜郎がいるように錯覚させられた。

 さらに視線を集中させないように愛衣に派手に動いてもらいつつ、心象伝達を駆使して遠隔操作でレーザーを放って、ここにいるぞと存在もしっかりアピールする。

 また自分自身は匂い消しもかねて目や鼻、口以外に土を張り付けたおかげか、はたまた愛衣との戦闘で余裕がないせいか、エンニオにも気が付かれずに、グレゴリーの方へと向かう事が出来ていた。


 そうして進んでいきながら、自分の位置と、愛衣から伝わるグレゴリーの位置を確認しながら丁度真後ろだと思われる場所に到着した。

 後はこっそり上に上がり、グレゴリーの後ろに出て《レベルイーター》を使うだけである。

 竜郎は慎重に地上までの階段を作りながら登っていき、後十センチ程掘れば地上と言う所で、小さな穴を開けて外を見た。



「──ぶっ!?」

「ん?」



 竜郎はいきなり見えた衝撃的な光景に思わず吹き出してしまい、何か声が聞こえた気がしたグレゴリーが振り向いてしまう。

 しかし、すぐに竜郎は覗き穴を塞いだので間一髪気が付かれずに済んだ。



(なんで、領主の息子の頭がカッパ禿げになってんの!? そこそこイケメンが泣きながら蹲って、カッパ禿げってどんな状況だよ!?)



 愛衣の放った気力の刃の事は、地下に居たので全く知らない竜郎は、見えた先にいきなりそんなものがあった事に驚いてしまった。

 愛衣からの心象伝達でちょこちょこ地上の様子も見ていたが、何分なにぶん蹲っているのでよく見えないし、戦力的にもその辺の一般人以下なのでまるで気にしていなかった。

 危うくばれそうになったことを反省しながら、この数十分の間にどうやったらあんな禿げ茶瓶はげちゃびんになれるのかという疑問もソコソコに、再び小さな穴を開けてグレゴリーに視線を送る。

 そしてこちらは、どうしてかは見ていないが、足一本失っていたのは知っているので、スライムに乗って相変わらずちょこまかとエンニオを盾に愛衣の死角になる位置取りを欠かしてはいなかった。

 こう動かれては困るのだが、自分の足で動かれるよりはましだ。



『愛衣、グレゴリーの後ろに着いた。この位置に来るように、立ち回ってくれないか?』

『え? あーうん。わかった。やってみる』



 心象伝達で、グレゴリーに立ってほしい場所を知らせると、愛衣はその位置に立たせるように、エンニオと戦っていく。

 まず一度目のトライ。竜郎がタイミングを見計らって放った黒球は、グレゴリーから三十センチずれた横を通り抜けていき不発に終わる。

 二度目の挑戦も大体同じような結果になった。

 やはり、ちょこまか動く相手に当てるのは相当難しい。しかしここで魔法を使ってエンニオを呼ばれたら、振り出しに戻ってしまうので、数をこなしてでもこのまま当てていきたい。

 そうして六度目のトライで、ヒットした。───ただし、グレゴリーではなく、御つきの蛇の魔物の一匹だったが。



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 レベル:21


 スキル:《かみつく Lv.5》《火食い Lv.5》《火炎放射 Lv.3》

     《脱皮再生 Lv.2》

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(お前じゃねーよ! と言いたいところだが、飼われているだけあって、スキルはソコソコだな、ついでに貰っておこう)



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 レベル:1


 スキル:《かみつく Lv.0》《火食い Lv.0》《火炎放射 Lv.0》

     《脱皮再生 Lv.0》

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(よし、んじゃあ今度こそ!)



 蛇のスキルを吸収して口の中の黒球を飲み込むと、再びグレゴリーを狙って《レベルイーター》を行使していく。

 そんなかいもあって、それから六度目にしてドンピシャのタイミングでグレゴリーが黒球の前に寄って来るような形で当てることに成功した。



(よしっ!)



 竜郎は心の中でガッツポーズを取りながら、グレゴリーのスキルを見ていくのであった。

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