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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
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第113話 獣の咆哮

 愛衣が1レベル上がり、竜郎の傍に巨大斧片手に軽やかに戻って来た時、丁度ジャンヌVSマンモス型の魔物パララケウス戦も終着していた。

 その勇姿をチラ見していた竜郎は、見上げるほど巨大になったジャンヌに手を振った。

 するとそれにジャンヌも気が付き、尻尾をズドンズドン振りまし、手を振り返してくれた。



「ヒヒーーーーーーーーン!」

「「あ、その姿でも馬の鳴き声なのね」」



 かなり体は変化していたのに、そこだけはジャンヌのままで少しホッコリしていると、ふと周りに飛び交う蜂型魔物デプリスの数が激変していることに気が付いた。

 これはカルディナがやってくれたなと、我が事のように誇らしく思いながら、大規模な風魔法の結界を解いた。

 するとちょうどそれを見計らったかのように、上空の彼方よりカルディナ、妖精種族のマリッカ、その相棒で巨大な緑蛇のヨルンが帰還してきた。



「ピュィーーー!」

「おーい! こっちは終わったよー!」



 カルディナとヨルンの背に乗ったマリッカが大声で叫びながら、竜郎たちの前に着陸した。

 そしてさらに。



「こっちも終わったぜ」



 そんな事を言いながら、鎧を血に染めた獣人の副団長ホアキンも合流し、エンニオは自分の出番はなく暇そうに頭を掻きながらも、警戒は絶やさずにグレゴリーから距離を取って待機していた。

 そうしてジャンヌも《成体化》して竜郎の横にくれば、こちらの陣営勢揃いとなった。

 その一方で、グレゴリーは能面の様な顔で、半分に割れたパララケウスの亡骸を見つめていた。

 ちなみに領主息子バートラムは、これ以上粘っても無理なのではないかと、グレゴリーをチラチラと見ているだけだった。



「さて。グレゴリー、自慢の厄介な魔物もいなくなって、後はあんたとそこにいる奴らだけになったわけだが。まだ、何かあるか?」

「…………まさか、ここまで一方的にやられるとはな。パララケウスは太古の昔に栄華を誇った魔物であったし、シトーメンに至ってはドラゴンの次に優秀だとも言われる天魔種なのだぞ? ありえん……」

「実際問題有りえているんだから、そろそろ現実を見つめたら?」

「くははっ、貴様の様な頭に花でも咲かせていそうな小娘に、現実を見ろなど言われるとはな」

「なんだとー!」



 グレゴリーは一気に老けこんだ顔をしながら、何かないかといった風に周りを見回し、エンニオに目を止めた。



「エンニオ! お前は私の仲間だったじゃないか? 頼む、助けてくれ!

 さっきはあまりにもそいつらと親しそうにしていたものだから、意地悪であんな事を言っただけなんだ! な? 私とお前の仲だろ?」

「ぐれごり、しってるか? いまおまえ、すごくかっこわるいぞ? そんな、なさけないやつは、おれのなかまにはいらないんだぞ」

「くそっ、ここまで面倒を見てきてやった恩を今返せ! この屑が!

 誰のおかげで、貴様の様な力だけの能無しが生きてこれたと思っている!」

「ふしぎだぞ。さっきまで、あんなにおこれてたのに、いまは、おまえに、ちっともおこるきがしないんだぞ」



 それが憐みの目であることをエンニオは知らないが、グレゴリーはしっかりとその意思を感じ取った。

 そして全てを諦めたように、地面に膝をついた。



「おい、グレゴリー! ななななにを座っているのだ! 早くこの俺様を領主にしろよ!」

「もう、終わったのですよ。バートラム様」

「っききききさまああ! あれだけ大口をたたいていたくせに、何だそのざ───ぶはっ」

「俺はあんたの言う、薄汚い動物人間なんで耳がいいんですよ。

 だから、とっととその耳障りな声を止めて下さいませんかね」



 グレゴリーを罵倒しだした所で、ホアキンは呆れながら近寄ると、バートラムを殴って黙らせた。

 しかしバートラムは殴った人物を見ると、今の状況も理解せずにその矛先をそちらに変えた。



「騎士ごときが、領主の息子である俺様に手を上げたな! こんなこ──ごっ!?」

「もうあなたは領主の息子ではなく、大罪人だ。領主様からも、もしもの時は殺しの許可もいただいている。あまり不用意な事は言わない方が、身の為ですよ」

「なんだとっ!? おおおお父様が、私を……殺す? あのお父様が……」

「御自分は殺す気満々だったのに、その言いぐさは無いんじゃないですかね」



 なんだかんだと、何をしても命くらいは助かるものだと思っていた様で、今はショックで地面に倒れ込んだところを、ホアキンに掴まれ拘束されていた。

 そして風の結界も無くなったことにより、他の騎士達も戻ってきてホアキンの周りに着くと、グレゴリーに手錠をかけた。



 『これで一件落着?』

 『まだ現町長が残ってるけど、まあ、旗印があれじゃあ終わりだろうな』



 そう言いながら、自分で歩くこともままならず、引きずられるように連れて行かれるバートラムを竜郎は顎でさした。

 そしてその後ろに続くようにグレゴリーも、自分の足で歩き出そうとして、不意に立ち止まった。



「どうした。早く歩け! それとも引きずられたいのか?」

「すまない。だが、最後にエンニオにちゃんと謝罪をさせて貰えないか?」

「許可できない。後で手紙でも書かせてやるから、それで我慢するんだな」

「何を言う! こういうものは直接口で言わなけ──ごっ」

「お前に選択する権利はない」



 グレゴリーは、ホアキンが連れていた内の一人に殴られるが、それでも謝罪させろとごねてなかなか進もうとしない。

 そしてその姿があまりにも惨めすぎて、竜郎はそれが逆におかしいのではと違和感を覚えた。

 そしてその違和感の正体を具体的に考えていくと、あることに思い至った。

 そう、まるで時間を稼ごうとしているようではないかと。

 竜郎は急いで探査魔法を密に巡らせ、何か見落としは無いかと探っていった。

 まずは一番疑わしいエンニオの周辺だが、地中にも空にも異常はなかった。

 それでも不安が消え去る事は無かったため、エンニオ自身にも探査魔法をかけていくが、特に異常はなさそうだった。



(──いや、ちがう。これは……のみか?)



 何もないと探査を打ち切ろうとした瞬間、エンニオの身体に小さな一センチ程の虫が十匹ほど、毛皮の奥深くに入り込んで血を吸っているようだった。

 普通の人と違って自前の毛皮を纏っているので蚤の十匹やそこらいるだろうとも思ったのだが、念の為そこに絞ってさらに詳しく調べてみると、その虫は昆虫ではなく魔力を持ったれっきとした魔物であり、血を吸っているのではなく、何かを注入していた。



「──!? エンニオ!」



 それに気が付いた竜郎は、風魔法でエンニオに突風を浴びせて、体に付着していた小さな虫の魔物を吹き飛ばし、それをかき集めると炎で焼き尽くした。

 それになんだと周りの人の注目を集める中で、グレゴリーだけが憎々しげな表情で竜郎を睨んでいた。



「なんなんだ、とつぜん! びっくりしたぞ!」

「いやスマン。何か、変な虫がお前についてたぞ?」

「おお? へんなむし? ん~そういえば、さっきまで、からだがむずむずしてたのが、なくなったきがする」

「そりゃよかった」



 そうしてエンニオに異常がなさそうなので、ホッとしながら今の一連の流れを愛衣に念話で伝えていた──その時だった。



「お?」

「どうしたの、エンニオ?」

「なんか、むねが、どくどく……」



 その言葉を聞いた二人は、同時にグレゴリーを見た。

 するとグレゴリーは、笑っていた。



「グレゴリー! お前、エンニオに何をしたっ!!」

「くはははっ。何をしただって? さて、私には解らないな。言いがかりはよしてくれ。それよりいいのか、君たちの大事なエンニオ君が苦しそうだぞ?」



 その言葉に従うようで癪だったが、竜郎は直ぐにエンニオをみると、胸を押さえて地面に突っ伏していた。

 竜郎は明らかに異常をきたしているエンニオに駆け寄ると、解魔法で今の状態を解析していった。

 すると脈拍は異常に高い癖に、体には異常はないという結果しか出なかった。



「そんなわけないだろがっ!」



 誰に言うでもなくそう叫ぶと、竜郎は生魔法で体調を整えるようにイメージしながら魔法を使った。

 それが功を成したのか、脈拍が正常に戻っていく。

 これで大丈夫かとエンニオの身体をみると、いつの間にか一回り大きくなっていた。



「エン……ニオ?」

「──!? 離れてたつろー!!」



 愛衣に首根っこを掴まれるようにして竜郎は後ろに引っ張られると、自分の目の前を、巨大なネコ科動物の腕が通り抜けて行った。

 いったい何事かと前を見れば、既にそこには何もいなかった。

 そしてそれに気が付いた時、後ろのグレゴリーのいる辺りから男の悲鳴が上がっていた。

 その音につられるようにして振り向けば、そこにはグレゴリーを捕まえていた男の死体が転がっていた。

 そして当のグレゴリー本人は、すっきりした表情で立ち、横にいる魔物に命じて手錠を壊させていた。



「あれって、エンニオなの?」

「………………そのはずだ」



 愛衣の質問に、認めたくはなかったが、答えぬわけにもいかず、竜郎は正直に言った。



「総員、距離を取れーー!」

「エンニオ。バートラム様をここにお連れしろ」

「グオンッ」

「ぐぎゃああああっ」



 グレゴリーの横にいたモノは、バートラムを引きずって逃げようとしていた騎士を、その爪で引き裂いて目的の人物を咥えて元の位置に立った。


 それは六メートルはある巨大な紅色の虎の様な体をし、サーベルタイガーのような二本の長い牙を生やし、異常に切れ味のよさそうな四本の足に着いた爪。

 もはやそれは、人間と呼べるような姿ではなくなっていた。

 そしてまた、先祖返りで普通の人より希薄だったエンニオの理性は、もう一欠けらも残ってはいなかった。



「グルォオオオオオオオオオオオオーーーン」



 その野生の獣としか思えない鳴き声を前に、二人はただただ呆然と立ち尽くすのであった。

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