表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
113/634

第112話 二体の奮闘

 羊の顔を持った人型の、愛衣曰く山羊男やぎおと呼ばれた魔物を倒した時より少し時間は戻り、今現在カルディナが必死に探査魔法で、蜂型の魔物デプリス発生の原因であろう女王蜂にあたる魔物ビプリスを捜索していた。



「どう、みつかりそう?」

「ピューーーイ……」



 妖精種族でテイマーのクラスを持つマリッカのその言葉に、カルディナは力なく首を横に振った。

 本当なら早く終わらせて、竜郎や愛衣に思いっきり褒めてもらいたかったのだが、デプリスのあまりの多さに探査、解析が追い付かず、未だに見つけることができなかった。

 長年色んな動物や魔物を見てきたマリッカは的確にその感情を感じ取り、苦笑しながらカルディナを励ました。



「気にしちゃダメだよ。元気出して! これが終わったら、あの二人にはとっても頑張ってたよって言ってあげるから」

「ピュィーー!」



 言葉を話せない自分の頑張りが、果たしてちゃんと二人に伝わるか不安を持っていたカルディナは、一つ懸念が消えたことに気を持ち直し、探査魔法に集中していった。

 その様をしっかりと見届けたマリッカは、自分を乗せて飛んでいる相棒ヨルンと共に気合を入れていく。



「よしっ、じゃあそっちは任せたよ! その代わり、雑魚に邪魔は絶対させないから! ヨルン、アレやるよっ!」

「シヤアアアッ」



 ヨルンのその声と共に、二人の身体が緑色の光に包まれた。

 そしてマリッカが発動の合図を呟くと、それは起こった。

 突然マリッカとヨルンを包むように、緑色の太いつたが巻き付いていき、やがてそれは形を成していく。

 巨大な蛇を中核にし、それに後付けする様な形でつけられた蔦が何重にも絡まって出来た太い手足、葉っぱと茎で出来た巨大な翼、そして兜の様に頭を覆う植物たち。

 その形はまるで、ドラゴンだった。



「いっけーーー!」

「シャアアアアアア!」



 首の後ろにコックピットの様に備え付けられた場所にいるマリッカがそう言うと、三回りほど植物で体積が嵩増しされたドラゴン風ヨルンは、その大きな巨体を振り回して、こちらに来るデプリスの大軍をはたき落していく。

 そしてさらに体の四方八方から触手の様に伸びた植物を、樹魔法が使えないはずのマリッカが操作し、デプリスをカルディナに近づけさせないように根絶やしにしていく。

 それができる理由と言えば、熟練のテイマーだけが習得しえる《共存する者達》という称号効果で、真に信頼したパートナー同士なら、一時的にお互いのスキルを共有し増幅することができるのだ。

 それを使って普段以上の力を発揮し、猛威を振るっているのだ。

 これは決してグレゴリーでは成しえない、真のテイマーだけの到達点でもあった。


 そんな風に孤軍奮闘する一人と一匹の姿に感謝しながら、カルディナは持てる集中力を全て探査魔法に費やして、今もなおデプリスを生み続けている親を探していく。

 そして、カルディナは気が付いた。

 発生源を直に見つけなくても、数が増産されている、増えている場所を特定すれば早いのではと。

 そう思ったカルディナは、細かく探査解析をするのではなく、情報は少なくてもいいから、できるだけ広く薄く解魔法の魔力を拡散していった。

 すると直ぐに答えは見つかった。しかし、その結果は妙だとも思えた。

 なんと、デプリスが増殖しているポイントが、計五か所も有るのだ。

 どういう事だと思いながら、カルディナはまずは見に行くことにした。

 一声鳴いて、自分を守ってくれている者達に移動の意図を伝えると、まずは一番近いポイントに飛んで行った。


 その場所は、城の敷地内でも特に高い場所。尖った屋根の天頂部に、既に土くれで造られた巣が建造されつつあった。

 そしてそこの影になった巣穴から、お尻だけを出して子供を外に産み続けるビプリスもいた。



「あれは、デプリスの巣で間違いないわ! ヨルン、GO!」

「シャアアーーー」



 ドラゴン風ヨルンは建造中の巣に突っ込んでいき、死にもの狂いで襲い掛かってくるデプリスを構いもせずに弾き飛ばし、蔦の両手でむんずとそれを掴んで、女王蜂ビプリスごと握りつぶした。

 しかし、未だにカルディナの探査魔法には、別の場所で増え続けている反応が四つもあった。なので直ぐに次の場所に向かう様に、マリッカ達に鳴いて知らせる。



「まあ、これだけの数を一匹だけで埋められるわけないからね。あと、何匹くらいいそう?」

「ピィ、ピィ、ピィ、ピィッ」

「あと四匹ね。それにしても、あなた本当に頭がいいのね」

「ピュィーー」



 マリッカの言葉に当然とばかりに一声鳴いて、次のポイントに向かった。




「これで最後!」

「シャアアッ」



 そうして順調にデプリスの巣の排除を終えていったカルディナたちは、今最後の五つ目のポイントの破壊に成功した。

 最初の頃は、どこを見てもデプリスしか見えないというくらい大量発生していたというのに、現在はだいぶ見通しも良くなっていた。



「ここまで減れば、残りの残党はここの兵に任せても良さそうね。それじゃあ、カルディナちゃんの勇姿を伝えに、タツロウ君達の所に行こうか?」

「ピュィーー! ──ピッ!?」

「ん? どうしたの───って、ちょっと待ってよ!」



 全て潰したはずなのに、ここから一番遠いポイント。つまり最初に潰したはずの場所から、またデプリスの増殖を感知したのだ。

 カルディナは取るものも取らぬ勢いで翼をはためかせ、猛スピードで現場に向かった。

 すると案の定。巣はまだできてはいないが、まだ生まれて間も無さそうな、粘液にまみれたビプリスが、辺りに卵をまき散らし、またそれが一斉に羽化していた。



「なんでっ!? ビプリスの卵なんて、どこにもなかったはずなのに!」

「シャア……」



 いつまで続くのかと、ヨルンが疲れた声を出しながら、再びビプリスを潰している間にカルディナは考える。

 何故、何処から、どうやって。

 そこでカルディナは視点を変えるために、探査魔法を屋内にも広げていった。

 すると人ではないが、猫背の小さな人型の……そう、猿の様な形状をしている魔物を発見した。

 さらに詳しく探査し探っていくと、その手には以前竜郎達がビプリスのいた巣の中から見つけ、《アイテムボックス》にしまっていた、微量の魔力を放つ握り拳大のオレンジ色の水晶玉を持っていた。

 それが解った瞬間、カルディナは朧げに真相を理解した。

 この水晶玉こそが、ビプリスの卵ではないかと。

 つまり、この猿型の魔物が高い所に卵を設置し、何らかの方法で羽化させたビプリスに、すぐデプリスではなく、まずはビプリスの卵を産まさせる。

 その卵を持って猿型の魔物は目につきにくい場所に潜伏し、もし倒されたら今持っているスペアを設置。

 と、無限に産ませ続ける仕組みを組んでいたのだ。


 それに気が付いたカルディナは、《真体化》し体の強度を上げると、外壁に《竜飛翔》で最大まで加速して突撃し、尖った屋根の建物に穴を開けて最短で接敵、驚く猿が逃げる前に《竜翼刃》で首を刎ね飛ばした。


 そして《成体化》し元の鷲形体に戻ると、その首と水晶玉を片方ずつの足で持ってマリッカのいる場所に飛んで行った。



「これは……ビプリスの卵と、魔物の首? そっか、そいつが運び屋で、設置人代行って事ね。という事は他の所にも?」

「ピュィー!」

「そっか、ならビプリスはこっちでやるから、カルディナちゃんはその猿の討伐をお願いできる?」

「ピュイ!」



 勢いよくカルディナが顔を縦に振ると、再発しだしたポイント巡りに向かったのだった。




 そんな風にカルディナが奮闘している一方で、その妹であるジャンヌも負けじと頑張っていた。

 相手は最初ジャンヌに瞬倒させられたはずだった、マンモス型の魔物パララケウス。

 しかし今は巨大な十メールの人型で、顔はそのままマンモスの魔物に変身を遂げていた。

 その形態は、最初の愚鈍な動きとは打って変わり、プロボクサーの様な軽やかなフットワークを身に着けていた。

 それにより、ジャンヌの最速の直進はギリギリで避けられてしまう。

 颯爽と倒して、華麗に成長を遂げた自分の姿を二人に見せたかったのだが、どうやらそこそこ相手もやる様で、そこまで簡単ではないようだった。

 しかしその状況を、ジャンヌは丁度いいかもしれないとも思い始めていた。

 この体の性能を試す試金石として、この魔物は適していると。

 そして、ジャンヌは駆けだした。

 ちなみに《成体化》状態では、竜のスキルを使うのに適していないので、威力や効力などは劣化してしまう。その状態で、竜力を消費するのは勿体ない。

 なのでジャンヌは、システムによって与えられた竜力ではなく、自前の魔力を使用して風魔法をすぐにでも発動出来るよう、あらかじめ準備しておく。

 その間に、パララケウスが雷撃を放ってきたり、近くの瓦礫を投げつけたりしてくるが、四本の足でダンスでもしているかのように、ステップだけで躱していく。

 そうして準備が整ったジャンヌは、体中に風の魔力を漂わせ、以前サイドステップで躱されたただの突進攻撃を再び敢行した。

 パララケウスはまたそれかとでもいいたげに、また紙一重で躱そうと、ジャンヌが通り過ぎる寸前に動こうとした。

 しかし。



「プオオオオオッ!?」

「ヒヒーーンッ」



 体が横に移動できず、何かに吸い込まれるようにして、避けるどころか自分から鋭利な角にその身をさらした。

 そしてその身が貫かれてようやく、パララケウスは理解した。

 暴風の渦で、自分を角の前に引きこんでいったのだと。

 しかし、理解した所でもう遅い。人間でいう右腿みぎももに当たり、骨ごと砕き肉にしっかりと巨角が突き刺さる。

 そして、ジャンヌの攻撃はまだ続く。

 刺さった瞬間に風魔法で角先に竜巻を巻き起こし、刺突個所に大穴を開けた。

 さらに穴が空いた瞬間、ジャンヌはバックステップで一歩下がると、千切れかけた右足にもう一度突進し完全に引きちぎった。



「──プオオオオーーンッ」



 痛みで視界が真っ白になったパララケウスは、血を吹きだしながら足を抑えて前傾姿勢に倒れ込んだ。

 しかしそうなると、背中をジャンヌに晒すことになる。

 そしてジャンヌは、それを見逃さない。

 風魔法で自身とパララケウスまでの間に強烈な追い風を巻き起こし、力をためた足を一気に前に押し出して、空気抵抗だけで轟音を鳴らしそうな勢いで、がら空きの背中に突っ込んだ。

 そしてそれは、効果覿面だった。

 普通のマンモス形体より、体の耐久力も上がっていた様だが、そんなものなどあってないようなものだと見せつけるかのように、パララケウスの背中を突き破り、胸からジャンヌが飛び出した。



「─────ゥッン……」

「ヒヒーーーーーーーーーーーーーン!!」



 そうしてジャンヌは、今日一番の雄たけびを上げたのだった。


 けれど、まだ終わってはいなかった。

 パララケウスの身体が再び粘土の様にぐにゃぐにゃ動きだし、新たな体に変化していった。

 これはパララケウスの持つ特殊スキル、《極限進化》。

 このスキルは死ぬほどの重傷や大病を患った時、三回まで体を進化させ、その命を救うというものだった。

 そしてその二回目が、今発動したのだ。

 ジャンヌは新たな形を作り始めたことに気が付き、警戒心剥き出しで睨み付ける。

 そしてその頃には、進化も終わっていた。


 今回の変化は、かなり奇抜なものだった。

 まず高さは先ほどの半分の五メートル程で、人と瓜二つの手足を持ちながら、それはうつぶせ状態の体から蜘蛛の足の様に四本ずつ両脇に付いており、肘や膝にあたる関節が二つあって、その分長くなっていた。

 体は人の形を取っていながら、さらに耐久力を増すためか、硬い剛毛が隙間なく生えそろっていた。

 そして顔はと言えば、……そこは変わらずマンモスフェイスを頑なに守っていた。


 NEWパララケウスは、その増えた手足六本を器用に使って、先ほどよりも早くジャンヌの目の前にやってくると、使っていない前二本の長い腕でジャンヌの身体を掴もうとした。

 しかしそれを、ジャンヌは向かい風を起こしながら素早く後ろに下がって躱す。

 そうすると額の三つの目を開いて、下がっている最中のジャンヌに向けて雷撃をお見舞いしてきた。

 ジャンヌはそれに対し、風で地面の土を巻き上げて即席の土嚢を一瞬で作って防御した。

 けれどパララケウスはさらに前に進んでいき、その土嚢に前二本の腕を突き入れ、かき分け、穴を開けると、再びジャンヌに雷撃を放った。

 ジャンヌは人だったら舌打ちをしていただろう表情を作り、地面を蹴って横に飛んで躱そうとするも、右肩に雷撃を掠めてしまった。



「プオオオン」

「ブルルッ」



 ジャンヌは初めて攻撃を喰らってしまったことに怒りを覚え、歯をむき出しにした。

 その表情に満足げな顔で、パララケウスは笑っているようだった。

 そしてそれが不用意な挑発であり、ジャンヌの堪忍袋の緒を引きちぎる原因になったのだとパララケウスが知るのは、その命が尽きる寸前の事である。


 ジャンヌは怒りが頂点に達した瞬間、体の試運転というお題目を捨て去り、すぐさまスキル《真体化》を使った。

 するとパララケウスから、余裕の表情が消え去った。

 なぜならそこにいるのは、先ほど侮った相手とは似ても似つかない、圧倒的な威圧感を放つ生物が立っていたからだ。

 それは大きさ十二メートルで、赤黒色の一枚一枚が分厚く大きな竜の鱗に覆われた体、そしてそこからは太く長い竜の物とそっくりな尻尾が伸びている。

 二本の太い足で大地に立ち、その手は巨大な純白の四本爪と長く横に伸びた小指の側面から腕を通り腰の位置に渡って皮膜が付いており、それを横に大きく広げれば大きな翼になる仕組みになっていた。

 

 そして顔だが、サイの頃の面影は残しつつもスマートになり、しかしその歯は以前の平らなものではなく、肉を切り裂くためのナイフのような形状をしていた。

 さらにトレードマークの鼻先の角だが、これは巨大な銀色に光る名刀のような形に変化し、突き刺すことはもちろん、切り裂くことも可能になっていた。


 ジャンヌは自身の身体に沸き起こる解放感に一瞬浸ると、目の前の敵に軽く右手を振るった。

 それにパララケウスは後ろに飛んで逃げようとするが、後ろにはジャンヌの尻尾が回り込んでおり、上方に高く跳ね飛ばされた。

 それをジャンヌは右手でキャッチし、地面に向かって叩き潰した。

 ベシャッと音がし、あっけなく二度目の死を迎え、三度目の最後の進化が始まりだした。

 それを見て取ったジャンヌは、鼻先の角に竜力を込めて《竜角槍刃》の使用準備に入った。

 そんな事とも知らずに、三度目の進化を終えた体中にマンモスの牙を棘の様に生やし、先ほどの様に叩き潰されないようにと変化していた。

 しかしいざジャンヌと再戦と見上げてみれば、その頃には鼻先の角から竜力の斬撃が放たれた後になっていた。

 その斬撃はいともたやすくパララケウスを縦に分断し、その命を散らしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ