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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
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第106話 領主との面会

 相変わらずゆっくりと空を飛ぶヨルンの頭に、カルディナにのった二人が横付けして追いついていた。



「ちょっと! その子はいったいなんて子なの!?」

「マリッカ君。それより前に、どうなったかを聞くのが先じゃないかい?」

「──っえ? あっ、そうですけどぉ…」


 カルディナを目で射殺さんばかりに凝視して周囲を飛び回るマリッカに、自分自身も気になりながらも、大商家の家長レジナルドがそれを窘めた。

 マリッカはテイマーと言うクラス柄、見たことも聞いた事もない魔物の事が聞きたくてしょうがなかった様だが、不承不承ふしょうぶしょう大人しくして聞く体制を取った。



「下にいる獣人は、エンニオと言います」

「それはサルマン君や、うちのギリアンに聞いたから、省いてくれて構わないよ、タツロウ君」



 エンニオがどういう人物なのか、概要は説明済みの様なので、竜郎は有難く本題だけを説明させてもらう。



「うーん、先祖返りした人に契約かあ。最悪だね、そのグレゴリーって人」

「しかし、不完全とはいえテイマーの契約がかかるほど、先祖返りしているというのは危険なのではないですかな?

 これから行くのは領主様のおられる場所ですし」

「エンニオが暴れない様にしっかり手綱を握っておきますし、あの子の目的は領主ではなく、首謀者側のグレゴリーにあるので領主に危害を加えようとはしないでしょう…………たぶん」

「たぶんでは困りますぞ!」



 ネヴィルからその後もくどくどと安全性について注意を受けながら、それでも目を離す方が危険だという、実際に何度か殺されかけたサルマンの言葉に、最後は了承してくれた。

 そうしてなんとか了承を得た所で、そろそろ竜力が乏しくなってきたカルディナが、竜郎に目で訴えかけてきた。

 自前の魔力は十分あるのだが、《竜飛翔》は竜力依存のスキル。今は1レベルで竜力に乏しいので、二人を乗せての長時間飛行はまだまだ難しいようだ。



「マリッカさん。僕らもヨルンに乗り換えていいですか。

 それと、ついでにエンニオも。この子が疲れちゃったみたいなので」

「えっ、そうなの? 外見の割に体力がないのね」

「うちの子はこれから伸びるのー。ねー、カルディナちゃん」

「ピュィーー!」



 そうだそうだ! と言わんばかりに、カルディナもコクコク頷いていた。その明らかに言葉を正確に理解している姿に、マリッカは感心しながら二人をヨルンの上に乗せ、エンニオに繋がっているワイヤーをヨルンに括り付けた。

 そしてカルディナは《幼体化》で雛鳥の姿になってもらい、竜郎の頭の上に乗せようとしたとこで、愛衣がひょいと自分の頭の上に乗せた。



「なにその子! そんなに小さくもなれるんだ。あっ、そうやって隠してたのね!」

「まあ、そんなとこです」

「それで、その子はなんていう魔物なの? ヨルンの事は教えてあげたんだから、当然教えてくれるよね?」



 先ほどヨルンの事を根掘り葉掘り聞きまくってしまった手前、教えないでは体裁が悪すぎる。

 どうしようかと竜郎は頭を悩ませるが、これと言ったいい答えが直ぐには思い浮かんでこない。



「え? あーそうですね。でもあんまり魔物には詳しくないんで、種類まではちょっと……」

「えーー? そんなに懐いてくれてるんだから、ちゃんと知ってあげないと可哀そうよ。

 あー……でも、私これでもかなり生き物や魔物に詳しい方だけど、その子みたいなのは本にも載ってなかった気がするかも。

 いったいどこで、出会ったの?」

「えーと。あー、アムネリ大森林?」

「何で疑問形?」



 それからも数々の質問を曖昧かつ適当に答えていくと、良く解ってないという風に伝わったらしく、ため息を吐かれた。



「もーいいわ。今度、自分でも調べてみるから。それにしても、アムネリ大森林なんて危ない所に行ったの?」

「行ったというより、成り行き上行っちゃったって感じかな」

「そこもあやふやねー。あそこは本当に危ないから、もう近づいちゃ駄目よ」

「「はーい」」「ピピッ」



 あそこが色々やばそうなのは二人とも重々承知しているので、そこははっきりと返事をしておいた。

 ちなみにカルディナは、それに合わせて鳴いただけである。

 そうして雑談もそこそこに移動していると、突然湧き出るかのように領主の邸宅……というより、西洋風の巨城が現れた。



「城て……、あんなの今まで見えなかったんですけど……」

「あー、なんか特殊な素材でつくられてるらしいから、近くまで来ないと見えないらしいよ。

 私も初めて見た時はおどろいちゃったよ」

「そんな素材もあるんだあ……。てか、某ねずみのお城よりデッカイねー」



 突然現れた、馬鹿でかいお城とその敷地内に建つ塔の数々に二人は面食らいながら、ヨルンは城壁を越えてその中へとズカズカ入っていく。

 領空侵犯にならないかと竜郎が心配していると、それが後ろにいるレジナルドに伝わったらしく、大丈夫だと言ってくれた。



「すでに、どういう方法で行くのかも伝えてあるからねえ。

 後は指定されたポイントに着陸するだけさ」

「なら安心ですね」



 そういう竜郎の下側、地上にいる衛兵らしき人達も、見慣れた光景なのか警戒した様子もなくチラリと見ては仕事に戻っていく。



「指定されたポイントって、いつものとこでいいんですよね?」

「ああ、そこで構わないよ」



 マリッカが聞いた問いにレジナルドがそう答えると、ヨルンを左方に舵を取って目的地に急いでゆっくり向かう。

 そうしてお城の中で高い所にいくつかある、天辺が平らで屋上のようになっている塔のうちの一つにヨルンがゆっくりと高度を落としていった。

 それから完全に着地すると、そこには絶世の……とまではいかないが、そこそこ顔の整った女性が、三人の騎士を後ろに従えて待ち構えていた。



「皆さん、ご苦労様です。マリッカもヨルンも、お疲れ様」

「気にしないで、ロランスちゃん! ──じゃなかった。気にしないでください、ロランス様」

「ふふっ、そうね。公私は分けませんと。それでは皆さん、お父様がお待ちです。応接室へどうぞ」

「かしこまりました。ロランス様」



 レジナルドが爽やかな口調から一転、慇懃な言葉使いで領主の三女、ロランス・リャダス・ブルーイットに腰を折った。

 それにロランスが一度頷くと、竜郎たちの方に一度目を向けて軽やかに微笑みつつ会釈すると、先頭を切って城の中へと歩き出した。



「ほえー、お姫様って感じだね」

「所作も楚々として慣れた感じだし、さすがだな」

「なに? あの人にときめいちゃった?」

「ああいう、高貴な人はちょっと。俺は、元気で笑顔の可愛い普通の子が好みなんだ」



 そう言って竜郎は愛衣と手を繋いで、微笑みかけた。

 すると愛衣はからかったつもりが、逆に顔を赤くして動揺していた。



「へー、そんな子いるかなー」

「ああ、今手を繋いでる」

「あっれー? 私だったかあー、こりゃ参ったなあ」

「なにやってる? おまえら、ばかっぽいぞ」

「「エンニオに言われた!?」」

「どーいうことだー!」



 後ろでガヤガヤ五月蠅くしているのに対し、ロランスの護衛達が眉間に皺を寄せていたが、ロランスは誰にも見えない先頭で、おかしそうに小さく笑った。


 そうして案内されるままに応接室の前に来ると、ロランスがノックをし、すぐに返事が返ってきたのでゾロゾロと大人数でお邪魔する。

 さすが広大な土地の領主様といった応接室で、十人以上が連なって入っても、まったく余裕の広さだった。



「此度は色々迷惑をかけたようだな、レジナルド」

「いえ、めっそうもない」



 そう豪華な椅子に腰かけながら語りかけてきたのは、やや疲れ気味の顔で白髪が少し目立つ、体格のいい五十代くらいの男だった。



「では、詳しく説明をしてもらってもいいか」

「はい。しかし私から話しても良いのですが、ここは渦中に巻き込まれた人間に聞いた方が早いかと存じます」

「それもそうだな。して、そのものは誰か?」

「こちらの方々ですわ、お父様」



 ロランスが竜郎達を前に促して、二人は領主の前に立った。

 その際、じっと領主がこちらの顔を見て一言、まだ幼いな。と呟くと、背筋を伸ばして聞く体制を取った。



「では、これで何度目の説明になるか解らぬが、レジナルドに説明したことを私にも説明してくれ」

「解りました。最初は───」



 そうして竜郎は、今まであったことをつぶさに語っていった。

 その間、領主はしっかりと耳を傾けて、手元の資料と照らし合わせていた。



「それでは最後に、我が家の家宝を見せてくれ」

「……死体と一緒ですが、よろしいですか?」

「かまわない。それも含めての証拠だからな」



 その領主の言葉にうなずいて、竜郎はイヤルキの死体を取り出した。

 その際、一番後ろにいたエンニオがビクッと動いたが、それ以上は特に動く気配もないので話を進める。



「これはレジナルドから見ても、本物だったか?」

「はい。間違いなく。そして、その死体の身元もこちらで調べておきました」

「さすがに仕事が早いな、どれどれ」



 そうしてレジナルドから資料を受けとり目を通すと、何かを諦めるように一度目を閉じ長くゆっくりと息を吐いた。



「これで確定だな。ロランス、前からお前の方で調べていたものと、こちらの少年たちから聞いた情報は合致するように思えたが、何かおかしな点はあったか?」

「いいえ。むしろ、今まで穴の開いていた所を埋めてくれたほどです」

「そうだな。あい解った。ホアキン。手荒にしてもかまわん、手筈通りにバートラムとグレゴリーの両名を捕えてまいれ」

「はっ!」



 影の様に領主ブレンダンの後ろに立っていた二人の内一人の、吊り目が特徴的な獣人の男が即座に部屋を出て行った。



「大人しく捕まるでしょうか?」

「ホアキンには、兵を出しても構わんと言ってあるし、居場所は常に監視している。問題はなかろう。

 して、そこの冒険者達には礼をせねばならんな。職業柄見て見ぬふりをして遠くに行ってしまえば早かっただろうに」

「え? あっ、いえ。知人が何人かこの領に居るので、出来る限りのことはしておきたかったんです」

「そうか……。まだ若いのにしっかりしておる。後で褒美を取らせる故、そちらも少し待っていてくれ。事の顛末も気になるだろうしの」

「では、そうさせてもらいます」



 二人は褒美と言うのも少し気になるが、それよりもこの一件がちゃんと片付いて終わる瞬間を見届けたかった。

 なので異存は無く、ここで待たせてもらう事にする。



『なんか俺達が何もしなくても、ロランスさんが色々裏で探ってたみたいだな』

『だよね。いくらなんでも対応が早すぎるし。こりゃ、そのままリャダスを通り過ぎていても問題なかったかもね』

『けど最後の一押しくらいにはなったんだろうさ。これで被害に遭う人も少しは減ったことになるだろうし、全部が無駄と言うわけでもないさ』

『そうだね』



 そんな事を念話で話しながら、エンニオの横に戻って待機していた。

 そしてそれは、それから十分ほど過ぎてからだった。

 ドガーーーーンッ。という何か大きな破壊音が城中に響き渡り、部屋が少し揺れた。

 竜郎は直ぐにエンニオに触れて、感情の高ぶりを抑えておく。



「なんだ!? 何があった!?」

『こりゃ、まだ終わりそうにないみたいだね』

『はあ……、さっきあんなに自信満々に問題ないって言ってたのに、何やってんのさ領主さん』



 そうして領主ブレンダンや、他の者達の叫び声が響く中、二人はまだもう少しこの件に関わることになると悟り、目を合わせて肩を落としたのだった。

 

ここで一つお知らせを。

数日前に活動報告でも書いたことなのですが、

0話から今話数まで毎日更新をしていた本作品を、

明日から月、火休みの週5更新に切り替えたいと思います。

私としても毎日投稿したいところではあったのですが、

このまま休みなく書き続けるのは、体が持ちそうにないと判断しました。

更新頻度が少し減ってしまいますが、これからも読み続けて下さると嬉しいです。

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