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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編
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第104話 道中にて

 次期リャダスの町長候補、マリッカ・シュルヤニエミと面識のない二人やサルマンは軽く自己紹介をしておいた。



「タツロウ君に、アイちゃんに、お猿さんね! ばっちり覚えたわ! よろしく!」

「ぜぜぜ、全然覚えてないじゃないか!」

「「よろしくおねがいしまーす」」

「きき君たちも、流すんじゃないっ」



 何やら騒がしいお猿さんは放っておいて、竜郎たちはマリッカの相棒ヨルンに目を向けた。

 すると「何見とんじゃい」と言った、攻撃的な視線を送られ、普段カルディナやジャンヌから好き好きオーラ全開で来られている二人には逆に新鮮に映った。



「こら、ヨルン! そんな目をしちゃ駄目でしょ!」

「シーーー」



 そんなの知らん。とばかりにそっぽを向く緑大蛇ヨルンに、マリッカは頬を膨らませ、背中の羽をパタパタ動かして怒っていた。

 そんな中、ネヴィルに先をせかされたマリッカは、今度は恥ずかしそうに顔を赤らめて背中の羽もしゅんとしな垂れた。



「ごめんなさい。今は一刻も早く、領主様の所に行くのが先ですね。じゃあ、順番にヨルンに乗ってください」

「マリッカさんは、どこに乗るの?」



 ヨルンの制御ができるのは、この場でマリッカただ一人なのに、先頭に乗り込もうとしない様子に愛衣が気になり問いかけた。



「私は自前の羽があるから、これで飛んで行くわ。いくら力が強いって言っても、この人数を乗せるのは大変だしね」

「ならならっ、私が先頭に乗ってもいいっ?」

「ふふっ、いいわよー」

「やったあ!」

「良かったな、愛衣」



 そうして喜ぶ愛衣を先頭にして、その後ろに竜郎、ネヴィル、レジナルド、ギリアン、サルマン、ローブの女性の順にヨルンの背中にまたがって、ヨルンの首輪に取り付けられた器具から伸びるロープをしっかりと自分達の身体に巻きつけた。



「それじゃあ落ちないように、しっかりと捕まっていてね」

「はーい!」

「ふふっ、良い返事ね! じゃあヨルン、お願い!」

「シャーーーーーーーーーーーーー」



 マリッカに対してそっけなくしながらも、しっかりと言う事を聞いているのを見て二人はツンデレ蛇なんだな。などと思っていると、ヨルンの体長の割に小さな翼をはためかせて、上へとゆっくり上昇していった。

 いつも最初からジェットコースターの下り状態で上昇していたので、これはかなり不思議な感覚だった。

 そうして大蛇が空へと舞い上がり、適度な高度を稼いだら領主のいる方角に頭を向けて、ゆっくりと進みだした。

 こちらも、ゆっくり滑れないことも無いが、余計に魔力を消耗するだけなので、やったことのない浮遊感を楽しみながら、真横で自前の羽をぱたつかせて飛んでいるマリッカに愛衣が話しかけた。



「ねえ、マリッカさん。このヨルン君が、亜竜なんだよね?」

「そうだよ、アイちゃん。この子は亜竜の中の、シュラーセルっていう魔物なの」

「亜竜っていうのは、普通の竜と違うんですか?」



 ちょうど気になっていた話題が出てきたので、竜郎も話し合いに加わっていく。



「亜竜っていうのは、竜種ではないけれど、それに限りなく近い種族のことね。もっというなら、竜種ほど生物として優れてはいないけれど、竜種限定のスキルなんかを低レベルだけど覚えたりできるって所かしら。こういう言い方は嫌いだけど、劣化竜種なんて言う人もいるわ」

「シャアアアアアアッ」

「私は、そんな風に思ったことはないよ。ヨルン」

「シーーー」



 劣化竜種と言う言葉が、自分に対しての悪口と思ったヨルンは怒り出したが、すぐにマリッカに優しく撫でられて大人しくなった。



「言葉は解るんですか?」

「そうだね。システムがインストールされるほどではないけれど、なんとなくは解ってるみたい。ね、ヨルン?」

「シー」

「仲良いね」

「ふふっ、ありがと。でも、あなた達には敵わないわ」



 そう言って微笑みながら、愛衣の後ろで腰を抱いている竜郎に目を向けた。

 それに二人は照れながらも、まんざらでもない顔をした。

 その他にもヨルンの事を聞いたりしながら、人数のせいであまり速度が出せないのをもどかしげにしているヨルンが、ゆっくりと進んでいく。

 そんな時だった。一番後ろに乗っていたローブを纏った女性が、警鐘を鳴らした。



「何かがこちらに向かって、猛スピードで近づいてきています!」

「近づいていると言っても、ここは空の上だよ、ペニー。何をそんなに警戒しているんだい?」

「どう考えても、普通の人間ではないからです!」



 呑気なレジナルドに、焦る様にローブをまとった女性ペニーが、解魔法でさらなる情報を集めていく。

 普段冷静なペニーの焦る声色に表情を硬くしたレジナルドは、この亜竜の使い手であるマリッカに判断を仰ぐために視線を送った。



「そんな目をされても困りますよ、レジナルドさん。見ての通り、この子は今、重さのせいでスピードは出せませんし、人を乗せているので戦えませんよ」

「これ以上高度を上げることは、出来ないかい?」

「やってみます。ヨルン、もっと上に上がって!」

「シーーー!」



 ヨルンが一度止まって、それからゆっくりと上に上がっている間に、竜郎は幼生体のカルディナを手の平にだして、一緒に解と闇の混合魔法を使って探査魔法を広げ、何が来ているのかこちらでも確認していく。



『これは……、エンニオだ』

『うそっ、来るのが早くない!?』

『あの身体能力をフルに使えば、来れなくもないかもしれない』



 竜郎の言う通り、エンニオは道なき道も気にせず突っ走り、最短距離でリャダスにやって来たのだ。

 そしてその人物は今まで出会ったどの生物より速いスピードで、建物の屋根の上を足場にしながら飛び跳ねて、こちらに向かってきていた。

 その跳躍力からして、今の高度では爪の斬撃が届いてしまう距離ではあるが、特に筋肉の塊レジナルドと、贅肉の塊ギリアンのマクダモット親子の体重がヨルンの許容積載重量オーバーに一役買っているので、相変わらずゆっくりとしか上昇できていない。



『このままだと、確実に戦闘になるな。でも、俺達以外の人が出ると、どっちかが死ぬ可能性が高い。どうする愛衣?』

『うーん、しょうがないね。ここで捕まえて、後でちゃんと話せば解ってくれるでしょ』

『じゃあ、パパッとやるか』

『おー』



 そうしてエンニオと拳を交える覚悟をした二人は、ヨルンの真下付近にまで追い迫ってきているエンニオを見た。



「レジナルドさん達は、先にいってて下さい。あいつは、僕らが何とかします」

「……わけありのようだね。なら、任せようか」

「ちょっと、レジナルドさん!」



 マリッカは二人だけに任せようとするレジナルドに批判的な声を上げるが、そこにいるそれ以外の全員に大丈夫だと諭されて、しぶしぶ了承した。

 そんな中、もう出撃する気満々な二人は下を見ながら、爪の斬撃が来るだろうと思い待ち構えていると、エンニオはヨルンの真下に入り込み、屋根を足場に一度跳躍した。



「きたっ、ではすぐに追いつくんで、先に行っててくださいね」

「じゃあ、またね。マリッカさん」

「ちょっと。行くって、羽も無いのにここから飛び降りるつもり!?」

「「勿論」」

「───あっ」



 マリッカが止める隙もなく二人はヨルンの背中から滑り落ち、その身を重力に晒した。

 そしてさらに竜郎は、カルディナにお願いをする。



「カルディナ、幼生体解除! 真体化でGOだ!」

「ピピッ! ─────ピュイイイイイーー!」



 竜郎のその言葉を聞いたカルディナは、落下中の竜郎の手から飛び出し、真の姿に変化する。

 その姿は、竜の鱗に覆われた爬虫類の様なグリフォン。二人はその背に飛び乗って、宙を舞う。



「すごい! 本当に乗れるようになっちゃったんだね!」

「これだけ大きくなればいけるかもと思ったが、予想通り──と、来るぞ!」



 一度の跳躍で信じられない程飛び上がったエンニオが、こちらに放ってきた爪の斬撃をカルディナが自ら躱した。

 そして、そのまま落下に身を任せるしかないエンニオに、愛衣が手に持った鞭で拘束、竜郎の魔法で鎮静化&気絶をと一気に接近しようとした。

 しかし、落ちるしかないと思っていたエンニオが、何もない中空を蹴り上げて、向こうからさらにこちらに迫ってきた。



「《空中飛び》!? エンニオは体術のスキル持ちか──愛衣!」

「解ってる!」



 カルディナは、空中を蹴って迫ってきたエンニオに対して、すぐに上昇に切り替えて上に上がる。

 そしてカルディナには移動に専念してもらい、二度目に放たれた爪の斬撃は愛衣が宝石剣で打ち破った。



「グルアアアアアアアアッ!」

「ぶちぎれてるな。あそこまでいくと、俺のあげた玩具じゃ効かないか」

「んー。とりあえず、大人しくさせよ!」

「だな。カルディナ、攻撃に気を付けながら近寄ってくれ」



 カルディナはその言葉に一声鳴いて頷くと、両翼に竜力を注ぎ込んで《竜飛翔》の能力をさらに行使してエンニオの近くを飛び回り、その背の上から愛衣は絡め取って拘束しようと鞭を振るっていく。

 しかしエンニオは野生の勘なのか、愛衣の鞭による攻撃を器用に空中で落下しながら躱して地面に足を付けると、再び跳躍してこちらに迫ってくる。



「ああ、もうっちょこまかと! あんまり動くと、攻撃しちゃうじゃないっ!」

「落ち着けって、一度離れるぞ」

「え!? 逃げるの?」

「違う違う、魔法を使うから一度距離を取りたいんだよ」



 そう言って、カルディナに今度は少し高度を上げるように言って上昇してもらいつつ、竜郎は右手に杖を、左手に愛衣の腰を持ち魔法を行使する。

 その魔法は、水と生と呪の混合魔法で、水の中に呪魔法で生魔法の鎮静効果を付与して、それを広範囲に雨として落とす、攻撃力皆無の鎮静化魔法である。

 ザーという音を立てながら、土砂降り雨の様にエンニオに雨粒が降り注ぎ、その一粒一粒から鎮静の魔法が体にしみこんでいく。



「グルルアアアあああぁ……あ?」

「落ち着いたみたいだな」

「でも、こっちをまだ睨んでるよ」

「ああ。それじゃあ、話し合いといきましょうかね。

 カルディナ、一応警戒しながらエンニオが立ってる建物の屋根の上に降りてくれ」



 その言葉通りに、カルディナは向こうが手慰みの様に放ってきた爪の斬撃をスイスイ躱しながら、竜郎の指示した場所、エンニオから五メートル離れた場所に着地したのだった。

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