第102話 ジャンヌの成長とシステム
カルディナも落ち着いた所で、自分たちの傍にいてもらいながら、ジャンヌの新しい体造りに手をかけていく。
また《陰陽玉》のスキルを、竜魔力で発動させてすぐに生成し終えると、ジャンヌを出して体の換装を促した。
ジャンヌも嫌がることなく、すっと巨大な球の中に入っていき、新たな体と《風魔法 Lv.9》の力も手に入れた。
「ジャンヌ、可能なら進化した姿じゃなくて、小さな姿で出てきてくれ」
「ジャンヌちゃんは、カルディナちゃんより絶対大きくなってるだろうし、屋内でお披露目は不味いよね」
「ここの天井、カルディナの竜力形体でギリギリの高さだったからな。人様の家を壊しかねない」
すでに〈伝達〉を使う必要がなく、言いたいことをしっかりと理解してくれたジャンヌは、魔法レベル1の身体だったらこうなるだろうという想定の形体に変化していく。
「可愛いっ」
「確かに!」
「ヒヒン」
そこに現れたのは、全長六十センチ程の子供の黒いサイだった。
しかし、こちらも既に一定以上の知性を身に付けているため、しっかりと褒められたことを理解して目を細めて喜んでいた。
この子の本来の姿がどうなっているのかは気になるものの、いつもの威風堂々とした佇まいではなく、ちょこんと座るその姿のギャップに二人はメロメロになっていた。
しかし、その様を目の前で見せられたお姉さんのカルディナは嘴で竜郎や愛衣の襟元を掴んで、私は私はと猛アピールしてきた。
「カルディナちゃんは、綺麗だよっ」
「ああ、ちゃんとお姉さんって感じだぞ」
「ピューイ!」
そちらにもちゃんとフォローしつつ、まだまだ甘えたな二体を二人で甘やかした後、いよいよ本題に入っていく。
そう、二体のシステムである。
「カルディナ、ジャンヌ。俺達にパーティ申請してくれるか? やり方は、システムの───」
愛衣とパーティを組んだ時の記憶を掘り起こしながら、細かくレクチャーしていくと、竜郎と愛衣のシステムに二体からの申請が来ていた。
「おっ、来たな」「来た来たっ」
「ピュィーー」「ブルルッ」
久しぶりに来た申請に、二人はもちろん「はい」を選択して受理され、パーティの欄には竜郎、愛衣、カルディナ、ジャンヌの名前がしっかりと記載されていた。
「四つ並ぶと、いよいよパーティって感じだね!」
「二人の名前が並んでいるのも良かったが、これはこれでいいな」
そうして新鮮な気持ちになったところで、まずはカルディナのステータスの確認をしていく。
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名前:カルディナ
クラス:-
レベル:1
竜力:122
筋力:16
耐久力:16
速力:11
魔法力:32
魔法抵抗力:32
魔法制御力:27
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜飛翔 Lv.5》《竜翼刃 Lv.1》《解魔法 Lv.9》
《土魔法 Lv.7》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
なし
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「あれ? 1レベルなのはいいとして、これだけ強そうな見た目の割にステータスが低いな。これなら俺の方が、筋力が強いことになるんだが……」
「ステータスって、地の能力のプラス値らしいよ?」
「へー……って、なんで愛衣はそんな事知ってるんだ?」
「武術系の本を読んでた時に、そう書いてあったの。自分の身体を鍛えることも、無駄ではないんだぞーって」
「そういうことか」
ちなみに愛衣は、素の能力は皆無なので無駄な努力はしない主義である。
決して面倒臭いわけではない。
「後気になるのは、気力も魔力もなくて竜力だけになってる事だよね」
「これって、システム的には竜種判定されてるって事になるよな。体の元になっている物に竜力が含まれてるから、システムが誤認したのか?」
「実際に、この世界では竜種ってことじゃない? これだけ高性能なのに、そんなとこで間違えないでしょ?」
竜郎は数々のオーバーテクノロジーを再現してきたこのシステムを思いだせば、今更そんなちゃちなミスはしないか。と、愛衣と同じ意見に至った。
「それもそうか。んで、この並んでる《真体化》《成体化》《幼体化》ってのは、形体の変化がそのままスキル化したのか」
「三段階の変身なんてずるいっ! たつえもーん、私も一個欲しいよー」
「欲しい欲しくないで、手に入るもんでもないだろ。なんなら俺も、ちょっとやりたいくらいだわ。せめて半分でも人種以外の血が入っていれば出来たかもしれないが、安心安全地球産の俺らじゃ無理だ」
「あっ、お母さんは偶にオニになるよ」
「頓智かっ」
叶わぬ願望や馬鹿な事を言い合いながら、二人の目は次の気になる項目に向いていく。
「《竜飛翔 Lv.5》か、竜飛翔と飛翔って何が違うんだ?」
「説明文を見てみれば解るかな?」
「それもそうか。えーと、……ああ。竜飛翔ってのは、翼自体に浮遊する能力が付与されるのか。だから飛翔と違って、滅多矢鱈に羽ばたく必要もないと」
「でも、前戦った魔竜は羽ばたいてなかった?」
「あっちも動かすことで、浮力を生み出して竜力消費の軽減を図っていたんじゃないか?」
「そっか。飛翔は体力を消費するだけだけど、竜飛翔は竜力を消費するんだね」
竜について新たに知っていったところで、もう一つの見慣れないスキルも二人は調べてみる。
するとこちらは、文字通り翼に竜力を通して刃と化すスキルらしい。
ちなみに、もっとレベルが上がれば斬属性の竜力を飛ばすことも可能だとか。
「うーん。最近当たり前の様に、気力を飛ばしたりする相手が出てきてるから、そろそろ私も本気でやらないとカルディナちゃんに先を越されちゃうかも」
「ピイーーー!」
「おっ、カルディナは先を越す気満々みたいだぞ?」
「なにおー。私が先だもんねー」
「ピュィッ、ピュィッ」
「わたしの方が先だってさ」
「むー生意気になっちゃってもー」
愛衣は大人げなくふくれっ面をしていたが、それでも頑張って背伸びしようとするカルディナが可愛くて、結局は許してしまうのだった。
そしてカルディナの次は、もちろんジャンヌのステータス確認である。
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名前:ジャンヌ
クラス:-
レベル:1
竜力:116
筋力:17
耐久力:17
速力:12
魔法力:26
魔法抵抗力:26
魔法制御力:21
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜角槍刃 Lv.6》《竜飛翔 Lv.1》《風魔法 Lv.9》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
なし
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「「《竜飛翔》!?」」
「ヒヒンッ」
まさかのスキルに二人が目を丸くしていると、「私もすごいのよ!」とでも言う様に、ぺたんとお尻を付いて座っていた状態からシャキッと立ち上がった。
「いやいや、ひひんじゃないぞ。飛ぶって翼もないのに──」
「ねね、たつろー。なんか、ジャンヌの《竜飛翔》の表示が他と比べて薄くない?」
「ん? ああ、ほんとだ。もしかして《幼体化》ではできないけど、《真体化》なら翼が生えて飛べるって事か?」
「ヒヒーーン!」
「当たりみたいだね」
「だな。これはいよいよ、真の体ってのを拝んでみたくなってきたぞ」
「んーでも、ここじゃ無理だよね……。また広いとこにいったらぜひ見せてね、ジャンヌちゃん」
愛衣がそういうと、もちろんだと言う様に、こくこくと首を縦に振ってくれた。
今のジャンヌは子供のサイの形体なので、その姿がとても可愛く、愛衣は人形でも愛でるかのようにギュッと抱きしめた。
その様を見ていたカルディナは、じっと竜郎を見てきたので、こちらはよしよしと頭を撫でてあげた。
そうしてふれあい動物園タイムもそこそこに切り上げて、もう一つ気になるスキルを調べてみることにした。
「《竜角槍刃 Lv.5》ってのは、あの鼻先の角を使ってなんかやるんだろうな」
「たぶん、そうだと思うよ。ああ、やっぱり。あの角の先に気力を集めて放出すると、斬属性の入った気力を飛ばせて、逆に直接ぶつければ突属性の攻撃になるみたいだね」
「なかなか強そうだな。ん? となると、ジャンヌが気力のちゃんとした放出の一番乗りなんじゃないか?」
「あ!?」「ピュィ!?」
先ほど争っていたのはなんだったのかと衝撃を受けた愛衣とカルディナは、勝鬨を上げるジャンヌの前に屈したのだった。
そうして愛衣とカルディナが謎の敗北感を味わっている中で、竜郎はシステムがインストールされたのなら、スキルの取得はどうかとジャンヌに見て貰えば、しっかりと取得も出来そうである。
「はーい。皆、ちゅうもーく」
「なになに?」「ピュー?」「?」
自分の呼びかけに、愛衣、カルディナ、ジャンヌの視線がしっかりと集まったことを確認してから、竜郎はシステムがインストールされた時にやってみたかったことを口にした。
「これからカルディナとジャンヌは、瞑想をしてもらいます」
「瞑想っていうと、確か……。あっ、気力回復速度が上がるスキルが手にはいるやつ!」
「そうだ、おそらく今のカルディナとジャンヌなら、それで《竜力回復速度上昇》が手に入れられるはずだ。そうなれば自前で回復も出来るようになって、活動時間も大幅に伸びると思うんだ」
「なるほどお」
そうして竜郎の指導の元、カルディナとジャンヌは瞑想をする事となったのだった。