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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三章 因果応報編

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第99話 エンニオとの会話

 エンニオ。

 この男は、重度の先祖返りという症状を発症していた。

 これは特に多く発症する獣人の中でも、百万人に一人とも呼ばれる極珍しい症状である。

 発症すると、遺伝子の奥深くに刻まれた情報が正常な遺伝子を蝕んで表に出てきてしまい、重症になればなるほど原始的な獣の姿になり、往々にして力が増したり感覚器官が敏感になったり、知能レベルが下がると言われている。

 しかし大概は少し毛深かったり、怒りっぽくなるというくらいの軽度なもので済むのだが、エンニオはここ数百年に例がないほど重度なものだった。

 そのため自制が効かず、癇癪を起すと疲れて眠るまで暴れ続ける。

 なので、ここの盗賊たちは腫れ物にでも触る様に接し、できるだけ近づかないようにしていた。

 今回竜郎たちに気が付いたのは、ひとえにその鋭い嗅覚のおかげであった。

 だが辛うじて相手をしてくれていた一人は死に、もう一人はリャダスで領主の息子と裏工作の真っ最中である。

 解魔法使いたちは自分の魔法を信じてやまないので、エンニオがあちこちに駆け回っていても侵入者がいるとは思わず、また癇癪を起こして暴れていると、今は邸宅の外に出るなと盗賊全員に御触れを出していた。

 なので竜郎達は、エンニオを何とかして探査魔法にさえ気を付ければ、庭を堂々とつっきってもばれない状態だった。

 そんな状況の中、竜郎達はエンニオと話をしていた。



「おまえたち、こんなところで、なにしてんだ?」

「あー、そうだな。俺たちはイヤルキに頼まれて、お家の下に秘密基地を作ってるんだ」

「ひみついち?」

「ひ、み、つ、き、ち、だよ」

「わかってるぞ、ひみつちきだろ」

「ああ、うん。それそれ……」

「ふふん」



 あまりしつこく訂正しても癇癪を起こされそうなので、愛衣に視線を送って訂正を止めて貰い、竜郎は改めて秘密基地の説明を噛み砕いて説明していく。



「えっとな、秘密基地っていうのは、仲間だけが知っている特別なお家っていえば解るか?」

「???」

『解ってないみたいよ』

『……ああ、子供に解りやすいかと思って言ってみたんだが、これはダメそうだ。』「えーと、これから沢山仲間が増えると思うんだ」

「なかまがふえる? なんでだ?」

「あー、エンニオ達は強いから、仲間にしてくれーってお願いしてくるんだ。エンニオの子分ができるって事だな」

「こぶん! それしってるぞ! いやるきが、たくさん、いるやつだろ!」



 イヤルキが沢山いたら困るだろ! と内心突っ込みながら、イヤルキが沢山持っている、みたいなニュアンスと受け取って竜郎はこの線でいくことにした。



「ああ、その子分だ。エンニオは欲しくないか?」

「ほしいぞ!」

「だよな! でも子分が沢山いると、部屋が狭くなっちゃうだろ? エンニオも狭いのは嫌だよな」

「せまいのは、きらいだ!」

「うん、だからイヤルキはエンニオの子分が沢山増えても狭くならないように、新しいお家を造ってねって、俺たちに頼んできたんだ」

「いやるきが、おれのためにか!」

「ああ、そうだ。エンニオの為にな」



 エンニオの為というのが余程気に入ったのか、言われた本人はニコニコしながらその場を飛び跳ねていた。

 その様子に、故人の名前を出してまで騙していることに罪悪感が芽生えてくる。

 しかし今は一刻でも早く帰ることを優先するんだと自分を言い聞かせて、我慢する。



「あれ? でもそんなこときいてないぞ? ほんとに、いやるきが、そういったか?」

「え? ああ、言った、言った」

「ん~~~あやしいぞ! そういうときは、しょーこをだせ!」

「しょーこ? ああ、証拠か。え~と……すごく難しい言葉を知ってるんだな!」

「そーだろ! えんにおは、すごいんだ!」

「おー凄いな!」

「それで。しょーこはどこだ?」

『全然誤魔化されてないみたいだよ』

『畜生。忘れてくれるかと思ってたのに……』



 有耶無耶にして切り抜けようとするも、元来頑固な性格なのか、エンニオはしっかりと鋭い爪の生えた大きな手を突き出して証拠の提示を求めてきた。

 そこで竜郎はどうしたものかと頭を巡らせ、苦し紛れにイヤルキの遺品を《アイテムボックス》から漁り、指輪を嵌めていた様なので、それを分離して取り出して見せた。



「これは、イヤルキのしていた指輪だ。何か聞かれたら、これを見せてくれって言ってた」

「ん? くんくん。いやるきの、もってたのにまちがいないぞ!」

「すごい、匂いだけで解るんだね」

「ふふん、えんにお、すごいから!」



 手の平に乗せて差し出された指輪に触れることなく、鼻先を近づけて匂いを嗅いで確信したようだった。

 それを愛衣が褒めると、嬉しそうに胸を張った。

 正直竜郎としては、奪ったと思われないか心配していたのだが、そういう考えは無いようで安心していた。



「じゃあ、ほんとうなんだな、ここは、えんにおのへやになるか?」

「ああ、なるなる。ひろーいのを作ってやるから、お家の中で待っていてくれるか?

 実はこっそり造って、エンニオを驚かそうとしてたんだ。なのに、エンニオが知ってたら駄目だと思わないか?」

「ん!? たしかに! いいこというな、おまえ!」

「おお、そうか。ありがとう」



 だんだんとこの会話になれてきた竜郎は、調子を合わせてエンニオを追い出しにかかる。

 エンニオも、どこかソワソワしながら周りをみて、どういう部屋になるのかと思いを馳せながら、その言葉に従うつもりになっていた。



「じゃあ、えんにお、かえる! ごくじょうのものを、たのむぞ」

「極上な。任せとけ!」

「うん! ───ところで、あそこにかくれてるやつは、なんであそこいる? いやるきは、でてきたら、ころせっていってたぞ?」

「…………それも、イヤルキに頼まれたんだ。この部屋を造り終わったら、イヤルキの所に連れて行く」

「そういうことか! てっきり、どろぼうかと、かんちがいしちゃった!」

「気にするな。急に頼まれたから、俺達も急いできちゃったからな。お相子だ」

「そうな! おまえもわるいな! ぐふぁふぁふぁふぁ」



 言葉使いは幼いのに、その笑い声は猛獣のソレにしか聞こえず、苦笑いするしかなかった。

 それでもう帰ってくれるのかと思いきや、なかなか後ろを向こうとしないエンニオに、竜郎はじれてせかしだした。

 ここまで時間をかけるつもりは、なかったのだから。



「で、もういいか? 俺たちは、作業をしなくちゃいけないんだが」

「………………ここに、いちゃだめか?」

「それまたどうして?」



 愛衣のその問いかけに、エンニオは叱られた子犬の様に、頭の上にはえている耳を垂らしてポツポツと話しだした。



「えんにお、こんなに、だれかとはなしたの、はじめて。たのしいんだぞ。もっとはなしたいんだぞ!」

「…………イヤルキとは、話さないのか? 仲良いんだろ?」

「いやるきも、ぐれごりも、はずかしがりや。えんにおに、やってほしいことができたときだけしか、はなさないんだぞ」

「それって──」



 ただの道具扱い。

 そう言葉が出そうになる愛衣の口を竜郎が手で塞いで止め、首を横に振った。



「そうか。でも、できてから見た方が、ビックリすると思うんだ。エンニオはそう思わないか?」

「…………おもう」

「じゃあ、お家で我慢して待っててくれる? それで、明日の朝にはスゴイのを造っておいてあげるからさ」

「…………うん」

「エンニオは良い子だな」



 寂しそうにするその顔に、竜郎は思わずそんな言葉がこぼれた。



「えんにおはいいこ……。わかった。いいこだから、がまんする! でも、もうおまえたちとは、あえないか?」

「解らないな。俺たちは旅をしているから、すぐにここから遠くに行ってしまうんだ」

「そうか……。なら、おまえたちを、えんにおの、いちばんの、こぶんに、してやろうか?」

「子分? 子分は勘弁してくれよ」

「そうそう。それじゃあ、対等じゃないでしょ。お話を楽しみたいなら、同じ目線でないと」



 いいことを言ったと思った矢先に出鼻をくじかれ、エンニオは途端にその顔を歪め不機嫌になっていく。

 それに不味いと思った竜郎は、破れかぶれに勢いで口を出した。



「友達!」

「グルゥゥうう……う? ともだち?」

「そう。友達だ。どうだ?」

「ともだちってなに?」

「さっきみたいに、楽しくお話したり、一緒に遊んだりする人の事だよ」

「おはなし……あそぶ……ともだち! それな! それいいな! ともだちなるぞ!!」



 不機嫌な顔が吹き飛んで、エンニオはご機嫌に飛び跳ねた。

 だが二人は友達の意味すら知らずにいた事の方が気になって、上手く笑う事が出来なかった。

 だからだろうか。

 相手に手の内を一つ晒すことになってしまうかもしれないが、竜郎は《アイテムボックス》から鉄のインゴットを取り出して、小さな鉄の玉を一つ作って、それに呪と生の混合魔法を込めていく。



「エンニオ。友達になった記念に、プレゼントをあげよう」

「ぷれぜんと? なんだ、なんだ!? それもはつめめだぞ!」

『ああまた、はつめめになってる……』

『興奮してるし、しょうがないさ』「これを、エンニオにあげるよ」

「これは……なんだ? くんくん、たべるものか?」



 貰った直径一センチ程の鉄の玉を、手の上で転がしたり、鼻を近づけて匂いを嗅いだりと忙しなく動き回る姿に、二人は微笑ましく思えてきた。



「ちがうよ。エンニオが、もっと良い子でいられるようになるおまじないがこもってる、不思議な玉だ」

「ふーしぎ? すごいものか!?」

「ああ、すごいぞ。友達だから、特別だぞ?」

「とくべつ……、なんかいいな!」

『実際はどういうものなの?』

『あれはエンニオの怒りを感知すると、俺の込めた魔力が尽きるまで、鎮静効果を持ち主に与えるものだな』

『それって、呪魔法を使ったんだよね?』



 その愛衣の言葉に、竜郎は無言で頷いた。

 それに愛衣も頷き返し、正の方向の呪魔法なら素敵だなと、呪魔法に対してのイメージがまた少し変わった。



「じゃあ本当に、そろそろ、な?」

「う~~、わかったぞ! またあえたら、たくさん、あそぶぞ!」

「うんっ、たくさんあそぼうねー」

「ぜったいだぞ!」



 そうしてエンニオは二人に手を振られ、それがまた新鮮だったのか、嬉しそうに手をブンブン振り回して颯爽と去っていった。



「なんか、面白い子だったね」

「そう……だな。たぶん俺達なら、エンニオが暴れてもどうにかできるだろうし、会う場所が違えば本当に友達になれたのかもしれない」

「え? 何言ってるの、たつろー?」

「ん? 何がだ?」

「私はあの子と、本当に友達になったんだよ? たつろーは違う?」



 本当にそう思っている純粋な瞳を向けられて、竜郎は思わず破顔してしまう。



「ははっ。確かに、そうだな!」



 そうして竜郎は、約束通りエンニオの部屋を一つ地下に手早く造った後、速やかに商人のギリアンを連れて地上に向かったのだった。

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