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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編

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第9話 只の人

《スキル 投擲 Lv.7 を取得しました。》



 そんな声を聴きながら、愛衣はベシャッと音を立てて蜘蛛の体液の海へ着地した。



「ぎゃあああああっ」



 そして女子らしからぬ悲鳴をあげながら、脱兎のごとく竜郎のもとへ駆け戻ってきた。



「あー……とりあえず川で洗おうな」

「うん……っ」



 涙目で、すぐさま上と下のジャージと靴と靴下を脱ぎ、ハーフパンツと体操服姿になると、それらを水につけてバシャバシャと水洗いする。



「キモイキモイキモイッ」

「半分貸してくれ、俺も手伝う」

「ありがとー!」



 竜郎は疲労困憊の体を何とか叩き起こして、愛衣から靴と靴下の片方ずつと、上のジャージを借り、隣に座って洗いだす。



「それはこっちのセリフだ。さっきは助けてくれてありがとな」

「へへっ、いいってことよ!

 てか、たつろー特製ぶちゃスビーのおかげでもあるんだから気にしなくていいよ」

「まあ、そうだとしても、あそこで立ち向かっていけるかどうかは別だからな。

 だから感謝くらいさせてくれ」

「そっか」

「そうだ」



 そこで心地の良い空白が生まれ、しばらく二人でその空気に浸っていると、愛衣がその沈黙を破って一言ぽつりと呟いた。



「──そゆとこ好きだよ」

「俺もな、愛衣のそういう所、好きだよ」

「そっか」

「そうだ」



 そんな恥ずかしい空気をかき消すように、二人は見つめ合ってキスをして、またお互いの真っ赤な顔に笑いあった。




「半袖で寒くないか?」

「うん、今のところ大丈夫だよ」



 衣類の汚れを落とし一段落つくと、並んで座り、清流を見つめながらコンビニ弁当を二人で分けて食べていた。

 


「コンビニ弁当も結構いけるねー」

「ああ、ここ最近の進化は目を見張るものがある」



 そんな益体も無い話をしながら食べ終わると、竜郎は弁当の空き容器を川で洗い出した。



「なんでそんなことしてるの?」

「こっちがどんな世界か解らないからな。こういうのも取っとけば役に立つかもしれない」

「えーそんなの使えるかな?」

「まあ、使えなけりゃ捨てればいいんだから」



 綺麗になった容器の水を払うと、ふと思いついたように《水魔法 Lv.1》を使って付着した水を全部一か所に集め地面に落とした。

 すると完全に水気のない乾いた容器が手元に残った。



「おっ、うまくいった」

「そんなこともできるんだ」

「みたいだな、思いつきでやってみたんだが便利なもんだ」

「ということは服も乾かせる?」

「やってみよう」



 愛衣はジャージや靴などまだ湿った衣類を取り出し竜郎に渡した。



「んじゃ、まずは下のジャージから」



 ジャージのウエストの端を片手づつ両手で持つ。《水魔法 Lv.1》を意識して使い、自分の魔力をジャージに浸透させるようなイメージをする。

 すると、ジャージに滲みた水を感じることができた。後はその水を左足の裾に集めていく、そして集め終わったら裾から水をポタリと落とした。



「これでどうだ?」

「おー乾いてるー!」



 ぺたぺたとジャージの乾き具合を確かめると、早速身にまとった。



「んじゃあ、次は……」

「ね……ねえ、たつろー」

「ん? なんだ」

「えーと……ね。先に乾かしてほしいモノがあるんだけどいいですかな」

「ああ、別にいいけど。何からやればいいんだ?」

「う、うん、ちょっと待って」



 そう言うと、愛衣は自分のショルダーバッグから小さなビニール製の袋を取り出した。



「これ…なんだけど」

「ん? 中を見ていいか?」

「え、ええぇ。そのままじゃできない?」

「いや、ビニール越しじゃ水を落とせないだろ。いったいなん──あ」



 そこまで言ったところで竜郎は、この袋の中身が予想できた。

 第一、女性が隠したがるような衣類などアレとソレしかない。そして、さらに竜郎の灰色の脳細胞は加速する。



(今、ここにアレとソレがあるということは、つまり今、愛衣は……)



「愛衣、今ノーパ――」

「みなまでゆーなぁっ」



 バシッと軽く頭を叩かれた。だが竜郎のテンションはうなぎ上りだ。



「ま、まあ。アレやらソレやらがないと心もとないしな!

 大丈夫だ! 任せろ! 俺ならできる! 完璧にやり遂げてみせらーな!」

「もう、いいからやって!」

「それでは失礼しまして」



 ビニール製の袋を開け、まずはショーツ……もといアレを手に取った。

 アレは水色に花柄のレースがあしらわれ、真ん中にリボンが──



「見てないで、はよやらんかいっ」

「おっと、失礼」



 竜郎は今度こそ集中して《水魔法 Lv.1》を使う。

 その過程である魔力の浸透を行うことで、色や柄はともかく形は目で見るより鮮明に脳内に入ってくるのだが、これは誰にも内緒であった。

 かくしてアレの乾燥が終り愛衣に渡した。愛衣は頬を膨らませながら引っ手繰るように持っていった。

 

 さて次に取り出したるは、ブラ…もといソレである。ソレはおそらくアレとセットで購入したのだろう。よく似たデザインで統一されており──



「たつろー!」

「おっと、これまた失敬」



 竜郎の魔力がソレに浸透していく、無駄なく一部の空きも逃さず完全に行き渡るように、いつもよりも集中に集中を重ねた。

 すると、頭の中にソレの全体像が極細部にわたって思い浮かべることができた。竜郎は水の反応を探るのもそこそこに、ソレの大きさに驚いていた。



(あれ!? 想像していたよりも大きいぞ!?

 どういうことだ! まさかこれが噂のKI・YA・SEというやつとでもいうのか!!)



「たつろー、口元がニヤけてるよ」

「何を馬鹿な──おっとホントだ」

「えろろー」

「そう褒めるな」

「褒めてない!」



 そしてソレの乾燥を終え、惜しみながら愛衣に返却した。受け取り方はアレの時とほとんど同じであった。



「今から着替えるから、そっち向いててね」

「解ってる。そっちを見ないで、そっちを見る方法を今考えているところだ」

「何考えてんの!?」

「気にしなくていい」

「気にするよ! えろろーのバカッ。いいから、他の奴も乾かしといてよ!」

「仕方ないなぁ、もう」

「もう、はこっちのセリフ!」



 そうして愛衣が着替えている間、竜郎は最初に来た時に濡れたままだった他の衣類も含めて水気を払っていく。



《スキル 魔力質上昇 Lv.1 を取得しました。》



 それは愛衣が無事着替え終わり、元のジャージ姿に戻って乾かした物を畳み、竜郎が最後の一枚を乾かし終わる頃、何やら初めてスキルを自力で取得した。



「おースキルを手に入れる時ってこんな感じなのか」

「え、なんか手に入れたの? ──解った、《乾燥機 Lv.1》ね!」

「そんな洗濯機みたいなスキルいらんわ!」

「えー、私も覚えたいくらいなのに……」

「覚えたいのかよ……。じゃなくて、どうやら《魔力質上昇 Lv.1》ってのを覚えたみたいだ」

「効能は?」

「温泉みたいに言うなよ……。えっと、魔力の質が上がることで魔法使用時の魔力消費量が減少するらしい」

「魔法職はぜひ取っておきたいスキルだね」

「だな。魔力無けりゃ只の人、が魔法職の基本だからな」

「やな基本だね……なまじ違うとも言い難いのが余計に」



 愛衣がそう言って嘆息していると、システムを使って調べていた竜郎は顔を上げた。



「ふむふむ、魔力の消費量をできるだけ少なくするように意識して、魔法を使っていると覚えるスキルらしいな」

「byヘルプ?」

「byヘルプだ」

「何にしても自力取得は私たちにとっても助かるね」

「だな。──ふう、そろそろ行くか?」

「体力は大丈夫?」

「そっちは《生魔法》で何とかできると思う」

「《生魔法》? 怪我とか治すやつって言ってなかった?」

「ああ、けど他にも体調を整えたり、疲労回復や血行を良くしたり、肩こり、腰痛改善なんてのもできるらしい」



 それを聞き、「ほえー」と感心したように愛衣は目を丸くした。



「なんて言うか、魔法使いって万能なのね」

「魔力無けりゃ只の人、だけどな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み始めたばかりです. 「灰色の脳細胞」っていう表現は,有名な作家の表現であることは知ってます(本は読んでないけどドラマで観た)が,実は,灰色なのはホルマリン漬けの脳であって,生きている状…
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