そして魔女はただ待っていた
トン、と何かが木の板を叩いた。
兎が音につられるようにそちらを見ると、そこには退屈そうな顔をした兎の主人――魔女と呼ばれる魔法使いが、階段に腰を下ろして、下の床を杖で突いていた。
魔女がなにかを催促するように、持っていた杖で床を叩くと、兎が振り返る。
「暇ね。兎さん」
「いつものことだよ。恐い恐い魔女さん」
兎が茶化すようにそう言うと、魔女はつまらないとでもいうかのようにため息をついて、玄関の扉を見た。
朽ちかけた洋風の玄関の扉は、まるで誰かが入ってくるのを今か今かと待っているかのようにそこにあるだけ。
「まったく、今日こそは面白い物が見れると思ったのに。兎さん、迷い子はまだ?」
「僕に言われても。あ、連れてくる?」
「却下。私はまだ人間です」
「魔女なのに?」
「魔女だから、よ」
兎は彼女の考えが解せない、と表情を歪め、すぐに玄関に向き直る。
魔女はそれを見て呆れたように玄関に視線を戻した。
「あなたとは長い付き合いになるわ。兎さん。そろそろ私の意図を読んだらどう?」
「僕は獣だよ。人間の考えなんて分からない」
「変なやつ。私に魔法を教えたのは貴方じゃない」
「こんな怠け者になるなんて思わなかったよ」
「はいはい、わるーございました。私から動けばいいの?」
「それは困るかな。ならここで人が来るのを待っていよう」
お付きの状態になり下がっている兎に、彼女はそう言った。
「さぁ、今日はどんな面白い人に出会うかな」
にやにやと笑いながら、魔女は玄関を見つめるのだった。