終末の世界
「終末の世界」
今はそう呼ばれている
ゾンビウイルスの蔓延により、人口の多い主要都市は壊滅し、隔離に成功したわずかな町が残るだけだ
空はグレーの色をし、人々は他人とかかわらず、息をひそめて生活していた
ここは荷物のデリバリーを行っている会社の倉庫である
配達員のスキンは焦っていた
今日、配られた会社の健康診断の結果で、ゾンビの項目に陽性と出たのだ
「何で俺が・・・」
昨日の出来事を振り返った
朝、いつも通り会社に来て、いつも通り配達をし、いつも通り帰宅
人と接したのは配達の際サインをもらった瞬間だけ
その程度で感染するとは思えなかった
誰にも見られないようその紙を胸ポケットにしまい込んだ
仕事をする気になれなかったスキンは、アパートのわきの道にトラックをよせ、スマホをいじっていた
これからどうすればいいのか、もしゾンビ化が進行したら俺はもう正気ではいられない
そうなる前にこの身を差し出し、収容所に入るのが賢明か、
それとも、ゾンビ化するギリギリまで、この人生を生き抜くか
そんなことを考えていたら、道に一台のセダンが止まった
「スカイライン・・・覆面か?」
高速を仕事柄よく使うスキンは、スカイラインが覆面に多いことを知っていた
案の定、スーツの男が中から出てきて、アパートの中へ入っていった
もう間違いなかった
スーツ姿の男など、うちのアパートで見たことなかったのだ
スキンはトラックを走らせ、少し離れたショッピングモールへとやってきた
逃亡するために必要なものを買い込むためである
「すいません、少し具合がよくないので、しばらく休みます」
そう会社にメールを入れた
もう警察から俺のことが会社に伝わっているかもしれないが・・・
スキンは広い駐車場の隅にトラックをとめ、ショッピングモールの中へ入っていった
駐車場はガラガラである
これはウイルスの蔓延の他にも理由があった
今、iツールというアプリケーションのおかげで、欲しいものはなんでも携帯から取り出せる時代になった
このシステムの延長で、ネット上で買い物をして、カードで金を払えば即座に携帯から取り出せる
ほとんどの人はこれによって買い物に出かける必要もなくなり、他人との接触もほとんど必要なくなった
これが開発されたのは最近だが、すでにこのせいで配達サービスやこういったショッピングモールもほとんど必要なくなり、仕事の形式が大きく変わろうとしていた
昨日まではそれは自分にとって、重要なことだったが、今はどうでもよくなってしまった・・・
こういう状況だが、ショッピングモールでの買い物にメリットが無いわけではない
この事態をうけて、モール側も商品を安くしたり、直接足を運んでくれた客には無料で、次回千円サービス券などの、大判ぶるまいをして何とか客を取り返そうと必死になっていた
しかし、ゾンビウイルスが追い打ちをかけ、とうとう客離れは回避できなかったようだ
「人込みは嫌いだし、ある意味俺にとっては天国だな」
スキンはショッピングモールを貸切った王様のような気分になっていた
「全部俺のものだ!」
カートにのって子供の用にはしゃいでいたが、店員と目が合うと、急に物悲しくなってはしゃぐのをやめた
そして必要なものを選び始めた
「ゾンビ化発症の潜伏期間はおよそ三か月、だからその分だけ買い込めばいい」
しかし、三か月分という量が全くピンとこなかった
手当たり次第にカップ麺など、保存のきく食料をカゴに目いっぱいつめた
「インスタントコーヒー、サトウのご飯、冷凍は・・・やめとくか インスタントカレー、インスタント味噌汁・・・」
カートが埋まったため、レジに向かった
「占めて53,345円です」
カードで支払いを済ませ、食料、洗面用具、衣類などを買い込み、トラックに戻った
トラックに戻ると、さてこれからどうしたものか、と思った
潜伏期間中に答えを出さなければならない
だが、今は考えても最善の答えは出ない
スキンは隣の町に向かってトラックを走らせた
隣の町はかつてかなり栄えていた
ビルが立ち並び、駅とデパートが一体となった巨大商業施設として、休日は人であふれかえっていたはずのその町は、今は誰もいない
ゾンビの排除が完全には行われておらず、しかもウイルスが空気中にただよってる危険があったためだ
半ば放棄されたこの町にスキンはやってきた
「このトラックは手放さないとな」
会社の借り物のこのトラックは、ナンバーですぐにバレる
だからその前に自分の新しい住まいを確保し、身をひそめねばならなかった
スキンはこの誰もいない町で、ビルを一つ拝借し、そこを警察から身を隠す砦にしようと思い立ったのだった
ビルを選んだ理由は、セキュリティの設備を流用し、警察を感知する設備を設置しようという考えがあったからだ
さらに何個もビルがあることで、簡単に自分を見つけることはできない
「さて、選び放題だな・・・どれにするか」
スキンの新しい住まい探しが始まった
ゾンビと戦う話にする予定だったのですが、人間が相手のほうが面白いなと思ったので、こうなりました