海
既に生徒はみんな帰っていて
教室が茜色に染まっていた。
”美術室”
とかかれたドアを、そっと開ける。
「領?」
シーンとした空気はなぜか、好き。
友達と、話しながらやる部活。
周りも例外じゃなくて
皆、友達とのトークがメインになっている時だってある。
だけど、領だけはいつも違った。
窓側に少しだけ、みんなと距離をとるように
1人で、もくもくと書き続ける。
その目は、どんな時よりも強くて
真剣。
私はその目が大好きで
何も書かずに領を見て部活を終えたことだって
多々ある。
「領?りょー・・・・」
「スースー」
壁にもたれるようにして、目を閉じている領。
「寝てる・・・(笑」
そういや、授業中もすんごく眠そうだった。
きっと、昨日の夜も絵かいてたんだろうな・・・
私が寝るころ、まだ窓に明かりがついてたから。
ふと、目の前にある絵を見る。
きれいな、海と空。
私は、海と空が大の苦手。
空の色を反射する海は、どうも描きにくいから。
それは、私に限らずみんなそうで・・・
だけど、才能の違いっていうのかな。
領は、写真のような絵を描く。
海の浜辺に立つ
白のワンピースを着た女の子
領は、どんな思いでこの絵を描いたのだろう。
「綺麗すぎ・・・」
「・・・ん・・っ
あり、さ?」
「あ・・・」
「もう、終わったの?」
まだ開かない目をこすりながら言う
「うん。
義ちゃんが来てね
みんな義ちゃんの話しに付き合ってるから
私が領をむかえにきたの。」
「そうだったんだ。
ちょっと待ってて、絵の具片付ける・・・」
「うん。」
ふわぁと欠伸をして立ち上がる領に
クスッと笑うと
不思議そうな顔をした領が私を見る
「なに?」
「ううん。
そういや、この絵・・・綺麗だね。」
「あー・・・うん」
「?」
「ありさにあげよっか?」
「え?」
「遊んでかいただけだし。
気に入ったんなら、ありさにあげるよ?」
「いい、の?」
「うん。
だって、ありさを思って描いたんだもん。
ありさにあげるよ。」
「私を・・・思って?」
「そう。
この女の子はありさなの。
ありさ、海好きでしょ?」
「うん。」
幼い頃、両親に連れて行ってもらった海。
それが、最後の家族旅行。
それ以来、両親が忙しくなって
どこにも行けなくなった。
「今度、みんなで海行こうか。」
「え?」
「ね?」
「・・・うん。」
領は、私の気持ちを知ってるのか知らないのか
ほわんとした、優しい笑みを浮かべた