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俺が任されたのは、三十人ほどの足軽達だった。
彼らとの顔合わせを済ませ(当り前だが、俺みたいな若造が上に立つと知らされ皆不安げで不満げな顔をしていた)、彼らの取りまとめ役と思しきおっさんに城内を案内してもらっている。
岩剣山城は、三方敵に囲まれた自然の要塞である。立地だけを見れば、難攻不落と言って差し支えない。
この城内、中には女性も含む非戦闘員がまだ多くのが残っている。
………気が重い。
あれよあれよという間に、立場が変わった俺。此処の人たちに愛着なんてまだまだ抱けないが、女子供が酷い目に会うのを見たいとは思わない。
俺自身に、この岩剣城で起きた戦闘についての知識は殆どない。
有名な三段打ちなんかは分るけど、流石に今から訓練させて、実戦で使えるとも思わない。
出来る事が、殆ど無いのだ。
時刻は夕暮れ時。斥候に出た兵から聞く所によると、敵が来るのは明日の昼ごろになるという。
………っべー。何か変な汗出てきた。緊張しまくりなんだけど!!!
もー、何でこいつら戦なんてすんの!?死ぬよ!?死んじゃうよ!?
なんか、どっかの異世界みたいに、アスレチック競技で戦するとかさぁ!!!各国の代表で戦って、センゴクファイトレディゴー!!!とか出来ないの!?
「頭ぁ、そろそろ戻りやすぜぇ!!!」
先ほど部下になったおっさんが声を掛ける。
てか………頭って………そんな山賊みたいな呼び方しないでよ!!大将とか何とかあるでしょう!?
荒くれ者と一発で分る部下の発言に、うんざりしつつも守備位置である門の辺りに足を向けた。
同時刻。
島津義久は、弟である義弘、歳久と馬を並べていた。
「兄どん。こん戦は勝てっかな?」
一番下の歳久が、不安げに尋ねてくる。
「知りもうさん。じゃっど、勝たんとなーんも始まらんぞ、歳久。」
「緊張ばっかしぃちょっても、どうにもならん。おんしも薩摩ん武士やったい、どっしりせんね。」
「義弘は大したもんやいね。俺達三人、皆初陣じゃっど、おまいは丸でそうは見えん。」
そう言った長兄義久の表情にもまた、緊張は見られない。
一番若い歳久を安心させる様に、義久は再度口を開く。
「まぁ、さっくり終わらせてとっとと帰っどー!!」
そんな兄の姿を見て少し勇気付けられたのか、歳久はぎこちないながらも笑みを浮かべた。
だが、義久の心中は晴れやかとは行かなかった。
攻めるは、あの天然の要害岩剣城。
数はほぼ同数。
激しい戦いが予想され、三人の中から死ぬものが出ても全く可笑しくはない。
両軍激突、前日の事だった。