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時刻は、現代風に言えば7時くらいだろうか。
本陣の陣幕を照らす篝火が、島津家の面々の顔もまた照らしている。
ちょっと、なんちゃって詩的チックに描写をしてみたが何というか………
こわっ!!ここ、なんか怖いよ!!元々怖い顔の首脳陣の顔が、初日の敗戦とそして篝火と相まって、何かこう………ヤクザ屋さんが、百物語してるような非常に恐ろし空間が広がっている。
「明日ん先陣は、義弘と歳久ん任す。」
そんなガクブル空間で口を開いたのは、島津家トップである貴久様だった。島津のチート兄弟の親だけあって、この人も大概チート性能だ。内外政に軍略そして決断力などなど、戦国大名に必要な能力が軒並み高水準なびっくりオジサンだ。
「今日ん戦で、忠将ん首ぁ取られちょっど。本家筋ん仇ぁ、本家んモンが返さにゃん。」
………いや、まぁ。武士の習わし的にはそれで合ってるんでしょうが、その言い方だと本家筋のトップというよりは、その筋の親分サンみたいに聞こえちゃう。
「応。」
「分りもした。」
そんな、オヤジからの命令を粛々と受け止める二男三男。
一番槍の名誉を主家の人間が独占する。功を焦る家臣が、異議を唱えてもおかしくは無いが、そんな声が一切上がらない。島津家の強さは、ここに有るのでは無いかと思う。『君主の命に従う』、唯一にして絶対の不文の軍規。
「んで、歳久ん補佐に………伊集院。おはんが」
死ねと命じられれば「はい」と答える。異常としか思えないこの忠誠心こそが、島津家の強さだ。
「いやです。」
………ん?
「いや、だって殿。あれですよ、奴さんは今日の勝利でかなり勢いづいてますよね?そんな中先陣配置とか、この伊集院忠倉に死ねと?」
………あれ?
「………じゃぁ」
そう言って視線を彷徨わせる貴久様。
プイ
と、顔を背ける家臣のおっさんたち。
………いや、いやいやいやいや。何?さっきの沈黙って、明日の先陣になりたくなくて皆黙ってたの!?何この!?
『じゃぁ、副委員長やりたい奴、挙手して。』
『えーやだよー、メンドイもん。お前やれよー。』
『えー、俺だってやだよー。』
みたいなやり取り!!ここは小学校かよ!?どうしたんだよ!!勇猛果敢な島津の兵だろ!?
「じゃぁ、長寿院。おはんは………」
プイ。
………まぁ、普通いやだよね!!皆が春休み明けのHRみたいな雰囲気だしちゃうのも仕方ないよね!!
「おお!!鬼坊主が居ったか!!」
「うむ、新参ながら長寿院殿の勇猛さは手本になるからのう!!」
「え!?ちょっ!?」
「よっ!!社長!!大統領!!!」
待って、このパターンは!!
「「「「長寿院!!長寿院!!!CYOUJYUIN!!!」」」」
いつの間にか陣内の面々が、長寿院コール始めてるし。普段そんなことしない義弘様もぎこちなくコールしてるし………こ、断れねぇぇぇ!!!
「ううぅぅぅ。ちくしょー!!!やってやんよぉ!!!」
「「「「長寿院、huuuuuuuuu!!!!!」」」」
………矢次郎、皆………ごめん。