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9.幸せになれますように。







シンは、魔王を倒した勇者としてあっという間にまつり上げられ、国一番の騎士として王宮に勤めるよう要請があった。 そればかりか、貴族や王族の姫からの求婚も多く寄せられている。

しかし、それらを全て断って養父母であるクレインとジュリアの待つ村へ戻った。 最初のうちは疲れているだけなのだろうと思っていた二人も、自分達のいないところで暗い表情をする息子の姿を見て、だんだんと心配になってきた。


「ねえ、シン。 今日は湖へ散歩に行ってみない?」

「わかりました」


ジュリアとシンの二人で、村の近くの湖へ出かける。 ほんの一ヵ月前までは蒸し暑かった風が、今では色とりどりの葉を散らす悪戯をしていた。


「いい風ね」

「そうですね」

「こんな日には、きっといいことが起こるわ」

「……そうだといいのですが」


努めて明るく声を掛けたはずなのに、シンの表情は若干沈んでいるようだ。


「お母さんの言うことを信じなさい! ほら、もしかしたら、あの大きな木の陰に、貴方が探している人が隠れているかも……」


そう言って、ジュリアはシンの肩を押す。 養母の気遣いに申し訳なく思いながらも、シンは押されるままに歩いた。

そして、木の裏側を覗き見た瞬間、シンの目は見開かれた。


「……そ、んな……!?」


ちょこんと読書をしながら木陰に腰掛けているのは、ワンピースを着た栗色の髪の少女。

彼女がゆっくり顔を上げると、にっこりと満面の笑みを浮かべた。


「シン」

「シェーナっ!!」


一瞬、人違いだと思ったが、声は確かにあのとき死んだはずのシェーナだった。

しかし、そんなことはシンにとってはどうでもいいことにすぎず、腕を伸ばすと力の限り抱き締めた。

ばさりと本の落ちる音がする。


「シンっ! ちょっと、苦しい…っ」


あやうく抱き潰してしまいそうになり、シンは慌てて腕の力を緩めた。 その表情には驚きしか浮かんでいない。


「す、すまない。 …本当にシェーナなのか…?」

「本物だよ。 正真正銘、人間のシェーナ。 目も、茶色でしょ?」


そう呟いたシェーナは自分の瞳を指差した。


「あぁ……本物だ……! だから、もう、これからは勝手にいなくならないでくれ」

「……いいの……? だって、私は、」

「いいんだ。 俺は、貴方の願いを叶えると決めたんだから!」


そう言って、シンはシェーナの栗色の髪に顔を埋める。 自然と二人の距離は更に近づいた。


「ありがとう。 ……絶対叶えようね……大好きよ、シン」


二人の影はそのまましばらく重なったままだった。












シェーナの二度目の願い、それは―――。


『シンと一緒に、幸せになれますように』







短い話でしたが、何年も前から書きたい設定でした。

これを書き上げることが出来て、とても嬉しいです。読んでくださった方、本当にありがとうございました。


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