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8.今一度、祭壇へ






ふわふわと身体が軽く感じる。

辺りを見回すと真っ暗だった。


『……まさか、ここへ二回も訪れる者がいるとは思わなかった』


そんな声が聞こえて、ぼんやりとした思考が徐々にクリアになっていく。

シェーナはようやく顔を上げ、そこが人間であることを捨てた祭壇だということに気がついた。


「私も、まさか魔王にされるなんて思ってもみなかったわ」

『それは違いない。 しかし、いろいろな経験が出来てよかっただろう?』

「今となってはそう思うけど……でも、恐ろしかった」

『ほう?』


恐ろしかったという発言に疑問の声が上がる。


「大きな力を持っても、その分だけ大きな期待をされるでしょう? 自分でつけた力なら、その操り方も知ってるかもしれないけれど、私は私という器に突然力を注ぎこまれた、ただのまがい物でしかなかったもの。 それに…」

『それに?』

「自分がなくなっていくの。 身体はもちろん存在するけど、自分の家族、知人、過ごしてきた時間……そういうものがどんどんなくなって、置いてけぼりにされる。 そういう意味で、魔王だった私は人間だったころの私じゃなくなったわ」


声はうーん、と思案しているようだった。


「ねえ、私も質問していいかしら?」

『何だろうか?』

「私はなぜ、魔王にされたの?」

『そのことか。 何、難しいことじゃない。 願いを叶えるためにはそれなりの試練というものが必要でね。 お前の願いはあまりにも……そうだな……抽象的すぎて、狙いが定まらなかったのだ』

「……ちょっと待って。 それじゃあ、この人とこうなりたい!と願うと、その願いにあった試練が課されるということ?」

『……まあ、そういうことになるな』


あまりの言葉の軽さに、シェーナは呆然とした。 あのとき願ったことが原因で、こんなことになったのかと思うと、途端に力が抜け、笑いがこみ上げてくる。


「……ふ、ふふっ…なんだぁ…そうなんだ……!」

『む。 何がそんなにおかしいんだ?』

「いいえ、こっちのことよ。 気にしないで」


ふと我に返ったシェーナは、頭の中にとある疑問が浮かび上がってくる。

思い切って口に出してみた。


「ねえ、その願いって……今も有効なの?」

『ああ。 この祭壇は試練と共に、いつでも来た者の願いを叶える』

「じゃあ、あと一つだけお願いさせて」

『……よし、願うがいい』


シェーナは大きく深呼吸すると、目を閉じて願った。


「私は――――」







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