6.直接対決・1
「ようこそ、“勇者”様」
いつの間に現れたのだろうか、黒いマントで身を隠した人物が祭壇の上に座っていた。
姿は闇色の霧で包まれており、それ以外全く見えない。
「お前が魔王…?!」
「そう」
「覚悟…!」
槍を振り上げ、一気になぎ払う。
しかし、全く手ごたえはなかった。
「…聞いてもいいかな」
「お前の質問に答える義務は」
「貴方の居場所は見つかった…?」
ぴたりと動きを止める。
魔王というには、哀しすぎる声だった。
「……」
「居場所がないなら、必要とされないなら滅ぼしてしまえ…そう望んだのは貴方だったよね」
「…まさか…お前は…」
槍を下ろして、肩を上下させる。
「会ったのは一度きりだったけど。 よかったね…あんなに素敵な仲間ができて」
突然起こった風で霧が晴れ、黒衣のフードが外れると中からふわりと栗色の髪が零れ出る。
その姿は魔王というには、あまりにも若い。
「願い、叶ったね」
シェーナは笑っていたが、その表情はあまりにも痛々しい。
「…でも、私を殺さないと手放すことになるよ」
『今度は、私の願いを叶えて』
その一言をぐっと飲み込んで、シェーナは右手に魔力を集中させると、大きな一振りの鎌を創り上げた。
ぬらりとした反射光が異様に毒々しい。それを構えて一閃する。
勢いよくシンは飛び退った。
「昔は貴方も私と一緒だった。 …村の皆から役立たずだと罵られ、忌み嫌われて、そして」
「言うな!」
「生贄にされた」
「………」
カツン…カツン…と小さく足音を響かせながら、二人の距離は縮まっていく。
「…ねえ、あの祭壇がどういう役割を果たすか知っている?」
「魔族召喚の儀式のためのものだろう? それ以外の使い道など、考えたこともない…!」
忌々しげにシンは吐き捨てた。
「あれは…別ちの祭壇。 ここで貴方は、弱かった自分、居場所のない自分と決別した」
小さく息を吐いて、シェーナはそっと双眸を閉じる。 と、思っているとそれはゆっくりと開かれていく。
シェーナの瞳が、徐々に金色に輝き始めた。 金の瞳は魔に属する者の証だ。
「そして、私も」
「ここで、人間としての自分に別れを告げた」
完全に開かれた目は、最早何も映していなかったが、どんな宝石よりも美しい、シンはそう思った。
「……」
「…もう、思い出話はやめよう。 人々は、一刻も早い貴方の帰りを待ってるから」
再び、闇色の鎌を構えたシェーナは、思い切り地面を蹴った。 ふわりとマントが翻る。
確実に首を狙った。 だが…
―ガキンッ!!
鈍い音と共に差し込まれた槍が行く手を阻む。
一寸も先には進まない。
「…貴方が本当に魔王なら、俺は…貴方を葬らなければならない…ッだが!!」
「ッ!?」
叫びと共に、シンはシェーナを弾き飛ばした。 ダンッと大きな音を立てて、シェーナの身体は壁に打ち付けられる。 間髪入れずにシンは間合いを詰めてきた。
荒い息を吐きながら、槍を喉元に突きつける。
「魔王などいないッ!!」




