第一章『出会い』-1
オリジナルの小説です。
更新優先のため、一話一話は短めになると思います。
感想いただけたら嬉しいです。
アルカディアさんのほうでも投稿させてもらってます。
よろしくお願いします!
夢と言うモノについて語ろう。
夢――多くは人間が一度は心に抱き、自身の進むべき道に定めるモノ。目標と言い変えていいそれは抱く者に大きな行動力と温かな勇気を与え、いつだって自身の味方をしてくれる。
故に夢は裏切らないし、抱き続ければいつか必ず叶う。
人はそんな考えを鼻で笑い否定するけれど、南かなえにとって夢とはまさにそういうモノだった。
いつだって自身の味方で――いつだってかなえを支えてくれている。目に見えず、言葉にしてもすぐに空気に消えてしまうそれはきっと曖昧なモノなのだろうけど、胸に残る温かな気持ちは決して嘘ではないから。
だからかなえは信じている。自身が諦めない限り――夢はなくならない。
なくならなければ――いつか必ず叶う、と。
誰にも信じてもらえない、理想論。
子供の考えだと笑われたことさえある、そんな想い。
だけどかなえは諦めない。いつだって、諦めた時が夢の終わりだから。
でも――今だけは泣きたかった。
夜の帳が落ちた街道。雨の降るそこに、かなえはいた。
さんさんと、静かに降る雫。優しい程にゆっくりと降り落ちてくるそれらはけれどどこまでも残酷に彼女の夢を壊していく。
紙――水――崩壊。
雨の中へたり込む彼女の前には開いたまま転がった傘があり、その横には水たまりに落ちた封筒と、そこから溢れてしまった原稿がある。
そう、原稿。
絵が描かれたそれは彼女の夢の一つの形で――それが雨にさらされていた。
さんさんと、降る雨に。
呆然と何も考えられなくなるかなえは、それを拾うことさえ忘れ、目の前に広がるそれらを眺める。
それは、きっと逃避。
理解したくない現実を前に、彼女は思考を停止してしまっていた。
でも、涙だけは流れて――
雨に混じり、レンガ敷きの通路に落ちる。
真っ白になる視界。見えるのは、ただただ濡れて、崩れていく夢の欠片。
黒のインクがにじみ、白を汚していく。調和のとれていたそれらは少しずつ崩壊していき原稿はゴミに変わった。
たぶん、叫びそうになったのだと、かなえは思う。
けれど、叫ばなかった。それは――雨がやんだから。
雨音だけは聞こえるのに、身体に当たっていて雫が止み、呆然とかなえが上を見上げれば、そこには帽子を深く被った大きな人がいて。
「……誰?」
「……」
その人は答えず、彼女に傘を貸すと自身は雨の中に入って行った。
淡々と彼女が見守る中、淡々とその人は落ちた――ゴミとなった原稿を拾っていく。
まるで、大切なモノを扱うような、そんな優しい手つきで。
そして、その人は全ての原稿を揃えると、かなえの前に立ち、差し出した。
受け取るそれは、じっとりと雨に染められ歪んでいて――でも彼女はそれを抱きしめた。
大切な、モノだったから。
彼女の夢の、一つの形だから。
「……立てるか?」
声は、帽子の人から。低い、声変わりが終わったそれはその人が男ということを伝えていて――かなえは頷き、立ち上がる。
彼は、それから何も言わなかった。
かなえも、何も言わなかった。
だけど、かなえの場合は何も言えないが正解で――
不意に歪む視界は今度こそ彼女を現実から遠ざけて――かなえは倒れた。
そんな中、思ったのは母のこと。
これが最後と約束したことを思い出し――
「帰りたく、ないな……」
その声は呟きになっていたのか。
かなえには、もう分からなかった。