センス・オブ・エシックス
これは実体験でもなんでもなく私個人の感じている事でもない、作品です。
意図があって作成したものでは一切ございません
この文章をパクる等といったことは一切しないでください
倫理とはなにか、そう問われた時にすぐに答えることが出来ますか?
大体の人は拙い記憶の中で倫理とはなにかをイメージして答えます。
それでも大きくは脱線しませんが全く意味が一緒かと言われると違うと思います。
俺はこの「倫理」を完璧に意味や使い方を知っています。
何故かって?それは、絶対に俺は倫理を許すことは死んでもないからである。────────
倫理をまだ知らない頃、僕は小学生だった。
無邪気で明るく、まだ社会も知らない、善悪もあまり分からない歳だった。
「まもる!」トウヤの甲高い声を上げて当時の僕の家の玄関に飛び込んできた。
トウヤとは幼稚園の頃からずっと一緒で、当時は放課後になればどちらかの家に集まり、ボードゲームやカードゲームに明け暮れていた。ルールを破ってずるをしようとするトウヤを僕が叱り、2人で笑い転げる。そんな穏やかで退屈な日常が、僕の何気ない毎日だった。
しかし、こんな無邪気で元気いっぱいの少年だったが密かに好意を寄せている人がいた、それは2年間同じクラスだったサクラだ。
彼女はこの歳にして既に「正しさ」というものを理解していた。誰かがいじめられそうになれば毅然とした態度で止めに入り、掃除の時間には進んで誰もやりたがらない汚い場所を磨く。彼女の行動には一切の嫌みがなく、いつだって透き通った瞳で世界を見つめていた。
そんな僕の初恋の相手は、ある日の放課後、夕焼けに染まる図書室で僕に微笑みかけてくれた。
「大人になったら、私とケッコンしようね」
当時の僕は「ケッコン」という言葉の本当の意味をよく知らなかった。けれど、それがとても特別で、生涯に一度しか交わせない約束だということくらいは分かった。赤くなる僕を見て、サクラは飴の噛んだ瞬間かのように甘い声で笑っていた。サクラの周囲にはいつも、正しく美しい光が満ちていた。
月日は流れ中学生とある事件があった。
きっかけは大手スーパーで頻発していた連続万引き事件だった。地元の高価な食べ物や商品が次々と消えて警察が動き出す大事件になっていた。
その主犯格がなんと、あのアニメやゲームの話で一緒に笑い転げていたトウヤだったのだ。
当時の僕には刺激が強く、まだ犯人が分からない時にトウヤから突然校舎裏に呼び出され、告白された時には頭が真っ白になり、吐き気も同時に感じた。
その感覚はまるで自分が積み上げてきた何かが崩れて無駄になったかのようだった。
しかもトウヤは、自分より年下の子の小学生と子分を巧みに利用して万引きを行わせていたという。
その報せを聞いた僕は更に気分が悪くなった、あの善悪もまだ分からない子を利用するなんてどうかしている。
しかしそんな冷静な考えも回る余地もなく、ずっと一緒にいた幼なじみが、そんな卑劣なことをしていたなんて。言葉にできない激しいショックと悲しみが僕を襲った。裏切られたという思いと、かつての友人が闇に堕ちてしまったことへの絶望で、頭がどうにかなりそうだった。
だが、本当の地獄はそこから始まった。
サクラが偶然にもトウヤが犯した悪事を掴んでしまったのだ。
サクラは迷わなかった、彼女にとって悪を見逃すというのは倫理が許されないことだったからだ。
僕はトウヤを何とか弁護した。
「トウヤが本当にやったかはまだ警察も知らないんだから確証がないのに告発するのは良くないんじゃないか?」
「もしやっていたとしてもまだ中学生だろ?アイツが変わることのできる時間も沢山あるはずだ」
しかしサクラにはまるで僕の声がクラクションのように聞こえたかような顔をされた
「警察や学校に本当のことを話すべきよ。それがトウヤにとっても、利用された小学生たちにとっても、一番正しいことなんだから」
サクラは僕にそう語った。その瞳には、幼い頃と変わらない純粋な「正しさ」が宿っていた。
僕は恐ろしくなりサクラの腕を掴んだ。
「やめよう、サクラ、トウヤの悪事は大人が解決するのを待とう」
「ダメだよ、まもるくん。知っていて黙っているのは、罪を犯しているのと同じなの、正しくないことを放置するのは倫理に反するわ」
サクラの論理は完璧だった。一ぐうのぐうの音も出ないほどに正々堂々としており、道徳的にも、社会的にも、100%の正解だった。彼女の頭の中にある「倫理的最適解」に従えば、悪は裁かれ、幼い被害者たちは救われ、トウヤもまた罪を償ってくれるはずだった。
僕はそんな彼女の熱い目を見て何も言えなかった、いや他にも何も言えない理由があった。
まだ彼女が好きで嫌われたくないからだ
雨の降る日の放課後、サクラはトウヤを校舎の屋上に呼び出した。自首を勧め、これ以上罪を重ねないように説得するために。警察に告発する前に、僕たちの手で彼を正しい道へと戻そうとする、彼女なりの優しさであった。
そんなところも僕はこんな状況であったが好きだと感じた。
しかし、サクラが信じた「倫理」は、追い詰められた人間の醜悪な欲望の前では何の役にも立たなかった。
トウヤとその子分は罪の告発を恐れてパニックになった。彼らにとって、サクラの掲げる「正しさ」は、自分たちの人生を壊しに来た脅威でしかなかった。
説得は決裂した、まるで世界の時空がそこでねじ曲がったかのような感覚に襲われた。
激怒した子分たちとトウヤはサクラを突き飛ばした。
突き飛ばされたサクラは運悪く柵を越えて、そのまま、重い音が響き、雨の中に血が広がった────
逃げ惑うトウヤたちの足音を聞きながら冷たいコンクリートの上で息を引き取った彼女の名前を、僕は屋上から叫んだ、彼女が最期まで握りしめていた携帯電話には、警察への通報画面が開かれたままになっていた。
サクラの葬式は、雨の日だった。
葬儀場には彼女の死を悼む多くの人々が集まっていた。遺影の中のサクラは、相変わらず澄んだ瞳で微笑んでいた。
参列した大人たちは、涙を流しながら口々にサクラを称えた。
「サクラちゃんは最後まで正しく、立派な子だった」
「悪に屈せず、正しい道を示そうとした勇気ある少女だ」
「彼女の行動は、人間の持つべき倫理の鑑だ」
美しい言葉が斎場を満たしていた。教師も、警察も、近所の人々も、誰もが彼女の「正しさ」を称賛し、感動的な物語として処理しようとしていた。
僕の中で、何かが音を立てて壊れた。
「ふざけるな」
立派だったから何だというのだ。
正しかったから何だというのだ。
サクラは正しさを貫いた結果、冷たい雨の中で屋上から落とされて死んだのだ。
一方で、非人道的な行いに手を染め、仲間を売って罪をなすりつけ合ったトウヤたちは、未成年だからという理由で守られ、数年の少年院生活を経て、いずれまたこの社会で生きていく。
「倫理」に従って生きようとした者が命を落とし、「非倫理」に生きた者が生き残る。
そして大人たちは、死んだサクラに「倫理の鑑」などという無価値なレッテルを貼り、自分たちの心が痛まないように消費している。
もしも、この世に「倫理」なんて概念が存在しなければ。
サクラが「正しさ」なんてものに縛られず、もっとズルく、もっと汚く、逃げ出すような選択ができていたなら。
サクラは今も僕の隣で笑っていたはずだ。
大人になったら結婚しようという、あの稚拙で愛おしい約束を果たせていたはずなのだ。
サクラを殺したのは、トウヤたちだけではない。
彼女の頭の中に植え付けられ、彼女の背中を崖っぷちへと押し出した「倫理」という名の悪魔だ。
人間が作り出した最も美しく、最も残酷な毒薬。それが倫理だ。
大人になり、俺は社会に紛れて生きている。
顔には貼り付けたような微笑みを浮かべ、世間が求める「正しさ」を完璧に演じて見せながら。
人々は俺を「誠実で倫理観のある人間だ」と評する。
皮肉なものだ。俺が倫理を理解すればするほど、その構造の欠陥と醜悪さが手に取るように分かる。相手が何を「正解」とみなすかを予測し、それに合わせた行動を取るのは、ただの簡単なゲームに過ぎない。
だが、俺の心の奥底には、決して消えない黒い炎が燃え続けている。
誰かが「倫理的に正しく生きるべきだ」と美しい言葉を口にするたび、俺の脳裏には、雨の日の屋上と、血に染まったサクラの希望の光のない目が蘇る
世間がどれほど称えようと、道徳書がどれほど説こうと、俺だけは騙されない。
倫理は人を救わない。ただ、正しい人間から順番に犠牲にしていくだけだ
だから俺は、絶対に「倫理」を許すことはない。
この命がなくなる、いや、死んでも俺はあの美しく狂った概念を憎み続け、倫理観に誰も囚われない社会を俺は作っていってやる────
倫理観に関するサスペンス、いかがだったでしょうか、時間をかけて作成したのでどうかコメント等などよろしくお願いします。
〜完〜




