第21話:不労所得が多すぎて暇なので、神界にデリバリー始めます
## 1. 贅沢すぎる悩みと、謎の『黒いカード』
完璧だった。これ以上ないほどに、カズトの隠居生活は完成していた。
王家からの外交報酬、商業ギルドからの調味料ロイヤリティ、そして聖エルフレイム帝国が泣きながら送ってくる高級海鮮の利権。働かなくても毎月、店の裏口に金貨が詰まった麻袋が山積みにされる。
「……暇だ」
午前11時半。『喫茶・かづと』のテラス席で、カズトは高級パイプ(中身は最高級のマジックハーブ茶葉)をくゆらせながら呟いた。
現代日本のブラック企業で「死ぬほど働きたい」と願ったことは一度もないが、人間、24時間355日(異世界の暦)ずっとダラダラしていると、今度は別の意味で脳が溶けそうになる。
「マスター、お暇でしたら、私の耳のブラッシングでもなさいますか?」
シアがエルフの長い耳をピコピコさせながら、期待に満ちた目でブラシを差し出してくる。
「ガルル! マスター、ミーシャとお散歩いく!」
「店長、暇なら俺とレナを相手に、新しい魔導列車の召喚実験でもしますか? 国境の山一つ消し飛ばすやつ」
ジンとレナが物騒な提案をしてきたその時、カウンターの端がまばゆく光った。
「カズトぉぉぉ! 助けてくださいませぇぇぇ!!」
光の中から現れたのは、もはや我が物顔で不法侵入してくる創造女神ルミナだった。しかし今日の彼女は、いつものポンコツな笑顔ではなく、本気で泣きべそをかいている。その手には、禍々しい漆黒のカードが握られていた。
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## 2. 神界の『お偉いさん』からのブラックな呼び出し
「どうしたの神様。プリンなら冷蔵庫に冷えてるよ」
「プリンは食べたいですが、それどころではありませんわ! これを見てください!」
ルミナが差し出した『黒いカード』には、神聖な古代文字でこう書かれていた。
『最高神界・監査委員会より:
ルミナ管理管区において、一介の転生者による著しい因果律の歪み(主にマヨネーズ及び新幹線)が観測された。つきましては、担当女神ルミナの管理能力を疑い、当該管区の【神権剥奪】および、転生者カズトの【存在消去】の審議を行う。本日、最高神界の審判所へ出頭せよ』
「……あー、要するに、ルミナ様が上の上司に怒られて、俺も巻き添えでクビ(消去)になりそうってこと?」
「そうなのですわ! 最高神界の『審判三柱神』という、頭の固い偉い神様たちに見つかってしまって……! 彼らは完全なる菜食主義で、禁欲を美徳とする超ブラック上司たちなんです! 私の神権が剥奪されたら、毎週の新作スイーツが食べられなくなってしまいますわ!」
ルミナはカズトの服の裾を掴んでブンブンと振り回す。
カズトの目が、一瞬で「元社畜」の鋭い輝きを取り戻した。
「なるほどね。現場の苦労も知らずに、安全な本社のオフィスから理不尽な通達を送ってくる老害上司か……。いいだろう、俺の『絶対に働かないスローライフ』を脅かすオフィスワーカー(神)どもは、きっちり分からせてやる」
カズトは不敵に笑うと、エプロンをビシッと締め直した。
「ルミナ様、その最高神界とやらに、俺をデリバリー(出張料理)しに行こう。ブラックな組織は、胃袋からホワイトに染め上げるのが一番手っ取り早い」
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## 3. いざ、神々の住まうブラック企業(神界)へ
ルミナの転移魔法により、カズトは人生初(2度目)の『神界』へと足を踏み入れた。
そこは、大理石でできた果てしなく広い宮殿。中央の巨大な裁判席には、厳かなローブをまとった三人の老神――『審判三柱神』が、冷酷な目でカズトたちを見下ろしていた。
「ふん、やってきたか、下界の秩序を乱す不届きな転生者よ。そしてルミナ、言い訳は聞かん。お前がハチミツの菓子に釣られて、この男のチート行為を黙認していたことは全て把握している」
中央の筆頭神・オーディン(仮名)が、地響きのような声で告げる。
「厳粛なる我が神界の規律に従い、これよりお前たちの存在を――」
「まぁまぁ、お偉い神様方。長時間のデスクワーク、本当にお疲れ様です」
カズトは完全に「営業スマイル」を貼り付け、神々の目の前に突如として、スキル【神級創造】でピカピカの『移動式・高級屋台カウンター』を出現させた。
「な、何だその卑俗な木の塊は!? 我らは神! 地上の定命の者が差し出すいかなる供物にも、その心は揺らがん! 特に我らは厳格なベジタリアンであり、肉や魚などの生臭いものは一切――」
「あ、肉も魚も使いませんよ。神様たちの健康と、その凝り固まったお脳に効く、最高の一品をご用意しました」
カズトが手際よく調理を開始する。
今回カズトが神界に持ち込んだのは、帝国から永久無償提供されている最高級の『極上岩塩』、そして王宮の薬草園で採れた、魔力を活性化させる『天上の大葉(大麻ではない)』、さらにカズトが日本の知識で再現した『至高の出汁(昆布と椎茸の精進出汁)』。
これらを組み合わせ、カズトが神々の前で揚げ始めたのは……現代日本の職人技が光る、『サクサク極上・精進天ぷら(大葉、椎茸、サツマイモ)』、そしてそれを引き立てる『黄金の出汁つゆ』だった。
シュワァァァァァァァッッッ……!!!!
神界の冷たい空気に、これまでにない「油の爆ぜる心地よい音」と、昆布と椎茸の旨味が凝縮された、信じられないほど深い香りが広がっていく。
「ぬ、ぬおおお!? な、何だこの香りは……!? 鼻腔を突き抜け、神核(心臓)を直接揺さぶるような、この奥深い芳醇な香気は……ッ!?」
三柱神の老人たちの顔が、一瞬で強張った。
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## 4. 神界のトップ、天ぷらで『ざまぁ』される
「はいお待ち。衣は限界まで薄く、素材の水分を閉じ込めてサクッと揚げた、カづと特製『精進天ぷら』です。こちらの岩塩か、温かいお出汁につけてどうぞ」
「お、おのれ人間め、このような油の塊で我らを惑わそうと……ハグッ!?」
我慢できずに大葉の天ぷらを口に放り込んだ筆頭神の目が、こぼれ落ちそうなくらいに見開かれた。
サクッ……。
神界の静寂に、完璧な咀嚼音が響く。
「――な、何という……何という軽やかな食感だッ!! 噛んだ瞬間、衣がまるで儚い雪のように消え去り、中から大葉の清涼な香りと、大地の生命力が爆発を起こしたぞ!!」
「こちらの椎茸はどうだ……っ! おおぉぉ! 肉を使っていないというのに、アワビのようにもっちりとして、噛むたびに濃厚な旨味の汁が溢れ出てくる!!」
「この『黄金のつゆ』は何だ!? 昆布と椎茸だけで、なぜこれほどまでに深いコクが生まれるのだ……! 旨味の濁流が……我が神体に染み渡るぅぅぅ!!」
さっきまで冷酷にカズトを消去しようとしていた三人の老神たちが、今やなりふり構わず、お互いの天ぷらを奪い合うようにして貪り食っている。
「うむ、美味い! 美味すぎるぞ料理人カズト! これに比べれば、我らが数千年間食べていた神界の果実など、ただの消しゴムのようだ!!」
「はは、気に入っていただけて何よりです。ところで……俺の処分と、ルミナ様の神権の件ですが?」
カズトがジロリと、獲物を捕らえたスパイのような目で三柱神を見つめる。
「しょ、処分などあるわけなかろうッ! あなたのような経済と胃袋の救世主を消去するなど、神界の、いや全宇宙の損失だ! ルミナ、よくぞこれほどの逸材を確保した! お前を『特級管理女神』に昇進させる!」
「わぁぁい! ありがとうございます!」ルミナが万歳三唱する。
カズトは懐から、すでに用意していた『神界用・不労所得契約書』をスッと差し出した。
「では、最高神界の皆様。これからは毎週、この『神界デリバリー(極上和食)』を定刻にお届けします。その代わり、神界の宝物庫にある『永久魔力結晶』の定期譲渡と、俺の店への【神界直通・お取り寄せゲート】の設置を認め、利権のロイヤリティとして――」
こうしてカズトは、下界の王たちに留まらず、ついに世界の最高神界すらも自分の『お得意様(不労所得の源泉)』にしてしまったのだった。
(第21話・了)




