第13話:王宮からの呼び出しと、勘違いした悪党たち
## 1. 勝ち誇る副ギルド長
『喫茶・かづと』に営業停止処分を下してから二日後。
商業ギルドの副ギルド長室では、トーマス副ギルド長と査察部のハインツが、高級なワインを片手に高笑いを上げていた。
「ハハハ! ハインツ、よくやったぞ。あのガキの店、本当に昨日から一枚の看板も出さずに閉まっているそうだな」
「はい、トーマス様。今頃は恐怖でガタガタと震えながら、我がギルドにレシピを差し出す準備をしていることでしょう。所詮は平民のガキ、国家の縮図たる我がギルドの権力には逆らえませんよ」
トーマスは脂ぎった顔を歪め、下品な笑みを浮かべた。
ガルガ商会から得ていた莫大な賄賂の穴を、カズトの『マヨネーズ』と『醤油』の利権、そしてあの一等地の店舗ビルを強奪することで、何倍にもして埋め戻す。その完璧な計画に、二人は酔いしれていた。
コンコン。
そこへ、部屋の扉が激しく叩かれた。入ってきたのは、顔面を真っ白にした本部の受付職員だった。
「ト、トーマス副ギルド長! 大変です! 今、王宮から近衛騎士団の方々が直々にいらっしゃいまして……『トーマス副ギルド長と、査察部のハインツを直ちに王宮へ連行せよ』との王命が下りました!」
「何だと……? 近衛騎士団が、私を?」
トーマスは眉をひそめたが、すぐに「フッ」と不敵な笑みを浮かべた。
「ハインツ、これはチャンスだぞ。きっと国王陛下が、我が商会(・ ・ ・ ・)がこれから独占するであろう『至高の調味料』の噂を聞きつけ、我々に極秘の取引を持ちかけてこられたに違いない。よし、すぐに王宮へ向かうぞ!」
「さすがトーマス様! どこまでもついていきます!」
二人は、自分たちの首にかけられたギロチンの縄に、自ら嬉々として首を突っ込んでいることすら気づいていなかった。
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## 2. 謁見の間の氷点下
王宮・謁見の間。
普段は華やかなこの場所に、今は恐ろしいほどの静寂と重圧が満ちていた。
玉座に座る国王の顔は、鬼神のごとく険しい。その隣に立つエレナ王女の翡翠の瞳には、一切の温度が感じられなかった。
「商業ギルド副ギルド長、トーマス。並びに査察部ハインツ。……参上いたしました」
トーマスとハインツは、恭しく膝をついて頭を下げた。トーマスは胸を張り、恩賞を待つ忠臣のような顔をしている。
「トーマスよ」
国王の地を這うような低い声が、広大な謁見の間に響いた。
「ははっ、何なりとお申し付けください、陛下。近々、我がギルドが国の経済を何倍にも拡大させる『奇跡の調味料』を管理下に置く予定にございます。その献上の件でございましょうか?」
「……黙れ」
「へ?」
トーマスが間抜けな声を上げた瞬間、国王は玉座の肘掛けをドォン! と凄まじい音を立てて叩いた。
「貴様ら、自分が何をしたか分かっているのかッ!? 王都の一等地にある『喫茶・かづと』に対し、法的根拠もない理不尽な営業停止処分を下したな!?」
「な……ッ!?」
トーマスの顔から、一瞬で血の気が引いた。なぜ一国の王が、平民のしがないカフェの名前を知っているのか、彼の脳内では全く処理が追いつかない。
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## 3. エレナ王女の冷徹な宣告
すかさず、隣に立つエレナ王女が一歩前へと進み出た。その手には、商業ギルドの規約書が握られている。
「ハインツ。貴方はカズト殿の店に対し、『未認証調味料の違法販売』を罪状に挙げたそうですね。ですが、ギルド規約第十二条には、新規調味料には一年間の審査猶予が与えられると明記されています。即時停止にする法的根拠など、最初から存在しない」
「そ、それは……! しかし、あれは公共の利益に反する疑いがありまして……!」
ハインツが滝のような汗を流しながら弁明する。
「公共の利益? 笑わせないで。カズト殿の料理は、我が王宮の公式晩餐会で隣国の勇者をもてなした『国賓級の至高の料理』。そして、我が王家が正式に独占供給の契約を結ぼうとしていた、国家の最重要物資ですわ」
エレナ王女の言葉に、トーマスとハインツの目玉が飛び出さんばかりに見開かれた。
「こ、国賓……!? 王家との、契約……!?」
「それを、貴様らの私利私欲な利権強奪のために、勝手に営業停止にして仕入れをストップさせたのだ! おかげで、我が王宮の朝食のクオリティは著しく低下し、国王たる我が胃袋は多大な損害を被ったのだぞッ!」
国王が実にしごく真面目に(しかし凄まじい怒りで)叫ぶ。
「貴様らが潰したガルガ商会との癒着、および裏での不正蓄財の証拠は、すでに我が近衛騎士団がすべて押さえている。……言い残すことはあるか? 商業ギルドのゴミめ」
エレナ王女の冷徹な一言が、二人に引導を渡した。
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## 4. 悪党たちの完全なる失脚
「ひ、ひえぇぇぇっ! 申し訳ありません! 誤解です、全てハインツが勝手にやったことで――」
「トーマス様!? 貴方がレシピを奪えと命令したのではないですかァ!」
先ほどまでの醜い主従関係は一瞬で崩壊し、二人は床に這いつくばって互いに罪を擦り付け合いながら涙を流した。
「衛兵、この愚か者どもを即刻連れて行け。全資産を没収の上、地下牢へ投獄せよ!」
国王の非情な命令により、トーマスとハインツは引きずられるようにして謁見の間から連行されていった。王都の経済を裏で牛耳っていたはずの権力者は、カズトの「大人しくバカンスに行く」という無抵抗の抵抗によって、国家権力の手で文字通り一瞬にして圧殺されたのだ。
「さて、エレナ。これで邪魔者は消した。一刻も早く、カズト殿に店を再開してもらわねばならんのだが……」
「ふふ、お父様。カズト殿は今、リゾート地でシアたちとのんびりバカンスを楽しんでいるそうですわ。私が直々に、最高級のお詫びの品を持って、お迎えに上がります」
エレナ王女は、カズトの作ったフレンチトーストを思い浮かべながら、実にお茶目に微笑んだのだった。
(第13話・了)




