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ここはなにかが欠けている

神殿勤めのぼやき

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/15

この神殿に中級神官として赴任して、もうそろそろ二年になる。


俺は実家の父が宮中伯で、内務局の上級文官をやっているのだが、

本来の実家の爵位は準男爵。つまり準貴族という地位である。


父は多分仕事が出来る人なのだろう、一代だが男爵と同じ扱いだ。

しかし兄貴達を含めて三兄弟は、みんな出来がいいとは言えない。

俺もなんとか王立中央学院は卒業できたが、文官試験には落ちた。

制式騎士団?あちらは最初から無理だな、剣術はひどいもんだし。

魔術は学院内でも一応水準以上と言われたんだが。


一番上の兄貴はもう嫁さんもいるし、そのまま準男爵を継いだ。

すぐ上の兄貴は運がいい事に別の準男爵家に婿入りが決まった。


俺だけが何も決まっていなかった。

冒険者にでも、とか考えていたら、神官学校に放り込まれた。

魔術が得意だったのなら、それを活かして神官にでもなれと。

神殿との縁を繋いで兄貴達の役に立てって事かね。


いや、神聖魔術は学院で教わる魔術と全然違うんだって、父上。

俺も最初は甘く見ていたけど、体内魔素の使い方からして違う。

経典を読んでもなかなか理解が出来ず、覚えられたのは微妙な、

《聖者の慰労》という疲労回復の神聖魔術ぐらいだった。

でも何が悪いのか、これ使うと滅茶苦茶疲れるんだ。自分が。


攻撃魔術なら《火炎の炸弾》あたりまでは使えるんだが…。

神官が最前線で戦うって、もう末期の状態だろう。



卒業後、俺は神官見習いから下級神官、中級神官へ昇格した。

こんな奴が中級神官なんかでいいのか?と自分でも思ったんだが、

神官学校での同期を思い返して、ああ、と納得してしまった。


元貴族の連中、やはり王立中央学院での魔術と勝手が違い過ぎて、

使える神聖魔術数が俺と大差ない。むしろ俺の方が多いと来た。

全く使えない者も結構いる。そんな奴らすらなぜか昇格している。


神殿側も貴族との縁を期待して、神官資格を与えているようだ。

後で知ったが、元貴族の連中は神殿入りしても大して仕事せず、

数年で還俗して神殿に縁のある商会に好待遇で行けるんだとか。

まだ若いうちから、安心安全安泰な将来が決まっている訳だ。


貴族も神殿も名誉を売り買いして、値を釣り上げてるって事か。

まあ釣り上げられた側としちゃあ、文句も言えないけどなぁ。

準男爵家の三男が持ち上げられるんだ。そこは感謝しかないわ。

さすがに貴族と準貴族では、待遇差が付くらしいが。



赴任した先が、この「大きくはないが小さくもない」町。

そこの責任者が還俗するらしくて、俺が都合よく後釜に据えられた。

入ってから理解できたわ、そりゃあ還俗もしたくなるだろうさ。


治癒術使えるのが四人だけ、下級神官一人に見習い三人。

俺みたいに微妙な神聖魔術を使える下級神官が三人。

あとは修行中の見習いが八人。彼ら彼女らは何も使えない。

なのに次から次へと怪我人や病人が来る。それも毎日欠かさず。

治療される側からは散々文句が飛んでくる。貴族も平民も。

手が足りない。そもそも簡単に増やせない。


収入源はほとんど、周辺貴族の寄付と治療費頼み。

よその神殿へ行った事はないが、他もこんな経済状態なのかね?

平民からは人気取り…いや、貧しき者へは与えよ、との教え通り、

食事一食分程度しか治療費をもらわないと来ている。

貧しき者ってのは、むしろここの神殿じゃないのか?


あとは薬草栽培で多少収入が入って来るが、安定はしていない。

これじゃ下の者達に、満足いく給金も食事も与えられない。


なお見習いの子供達は平民出身という理由で神官学校へ通えない。

仕方なくこの神殿で自習している。教国の教義はどこ行ったよ。

準男爵家なんて下っ端もいいところだが、恵まれてたと痛感した。

俺も教えてやりたいが、神聖魔術はどうする事も出来ない。


何と言うか、懸命に働いている子達を見ていると色々辛い。

そのくせ、俺自身は教国から給金が出るんだ。罪悪感が半端ない。

心苦しくて俺の給金から少し食費を上乗せしているが全然足りん。

自分が力になれないのが歯痒い。せめて雑事はやらなきゃだめだ。

貴族や大商人に、きれいごとを並べ立てて金の無心をする。

俺自身どうかと思うが、下の者達を食わせる為だ。


正直、学院で学んでいた事がここで活きてくるとは思わなかった。

経済経営の成績がそれなりに良かったのは幸運だった。

継ぐような領地もない俺にとっては無駄知識だと思ってたよ。



ここ最近になって、少しばかり状況がましになった。

何でも農作物やら畜産物やらの生産量が安定した上に増加したと。

作物寄付のおかげで、下の者達の食事量が少し増えている。

先日は果物や卵の寄付を頂いて、見習い達が心底嬉しそうだった。


薬草畑も、最近学院から情報を得て植える品種を変えてみた。

新しい品種で作る水薬が効果も高く、しかも多く生産可能らしい。

上手くすればこれで下の者達の給金を上げてやれるかもしれない。


見習いの子供達には少しずつでも報われて欲しいものだ。

他人を救ってるのに、自分が救われないんじゃ悲しいじゃないか。

こういう人は結構神官に向いてるんじゃないかと思う。

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