団子屋騒動(7)
このように思い至ったのはスケサラーンだけのようで、一同「なるほど」といった顔でこの話に得心している。シルヴァがアウグスに尋ねる。
「言われてみればそうね……アウグス、あなた真勇者だけど、結局魔王討伐に参加してないわよね。この紋章知ってた?」
「いえ、まったく。ひょっとしたら育成機関で見せられたかも知れやせんが、あっしは戦争は苦手なもんで、そういった話は上の空で聞いていやせんでした。スケサラーン様の言う通り、一般人には知るよしもなければ興味もないでやしょう」
アウグスの即答にご隠居は「マジか」と落胆する。
さらにスケサラーンがダメ押しの見解を述べる。
「よしんば知っていたとしても、今のご隠居はそのお姿ですから。もし紋章が王家のものなどであれば、たとえ眼前の人物がおじいちゃんであっても、『この人は王家縁の方だろう』とひれ伏しもしましょう。ですが魔王軍の紋章を見せられても、割と普通の人間のおじいちゃんを、魔王やその縁者だとは思い至らないでしょう」
「うおー、確かにその通りだ。このまま突っ走ってたら本番でスベってたってことかー。今日イチの反省は俺だったな。ちょっと対策考えるわ」ご隠居は両手で顔を覆い、己の至らなさに反省しきりの様子だ。「いや、しかし本当に反省会やってよかった。スケサラーン智将だな」
ご隠居の賞賛にスケサラーンは目を閉じて澄ましているが、わずかに口角が持ち上がりちょっとうれしそうだ。気を良くしたのか、スケサラーンにしては珍しく「そろそろ新作の団子を食べませんか」と食事を促す提案があった。ご隠居が「そうだな」と応じるとすぐさま、気が変わらないうちにとばかりにアウグスが小袋の封を切り、追いきな粉を団子に振りかける。香ばしい香りが辺りに広がり、皆の期待をくすぐった。アウグスは皆に一本ずつ団子を配ると、高らかに食事開始の号令を発した。
「みなさん行き渡ったでやすね。では、いただきやす!」
アウグスが唱えて大口を開けたそのとき、頭上から鳶の鳴く声が響き渡った。ご隠居が目線を空に向けて「あ」とひと言つぶやく。その声にアウグスが「ん?」と静止する。
次の瞬間、車座に座る一行の中央を黒い影が疾風のように横切った。残像すら残さず、しかし風を切る音を残し、そしてアウグスの手にあったはずのひと串は消えて無くなっていた。
「あははは、やられたな。ありゃあ、街道を歩いてた時から俺たちを追うように飛んでいた鳶だな。あいつも旅の道連れとして分け前が欲しかったのだろう」
ご隠居は一笑に付したが、アウグスは本気の涙でおいおいと嘆き悲しむ。
「ああ、あっしの団子があああ、まだ一つも食べてやせんのにいーー」
ご隠居は笑いを苦笑に変えて、少し済まなそうに言う。
「泣くなアウグス。一幕のオチもしっかり押さえるとは、見事だ。褒美だ、俺のを食え」
ご隠居は手にした団子をアウグスに向かって差し出す。その団子を見てアウグスはごくりと唾を飲み込み、しかし目を閉じて首を横に振る。
「半分でいいでやす。美味いものはみんなで食べるから美味いんでやす。ご隠居だけ食べないのでは美味さ半減でやすから」
これを聞いたカクサラーンがひと際大きな音で膝を平手で叩き鳴らした。
「がははは、感心したぞアウグス。皆どうだろう、皆で団子を一つずつアウグスに譲っては」
ご隠居が首肯すると続けてスケサラーンとシルヴァも「うむ、名案だ」「いいわね」と同意する。
晴れて一番多くの団子を手に入れたアウグスは、串がないので手づかみで団子を頬張っている。
「う~ん、おいしいでやす!」
横に目を向ければ、件の鳶も一緒になって団子を味わっていた。アウグスの食いっぷりが小汚いことを除けば、爽やかな春の陽射しに包まれたひと時であった。




