表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この魔王の紋所が目に入らぬか!  作者: 柚原小花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

団子屋騒動(3)

「危なかったなあ、スケサラーン」

「本当にそうだ。ギリギリが過ぎるぞ、カクサラーン」

「助けてやったのだ、文句を言うな」

「お前が出番を(うかが)っているのがチラと見えたのでな。登場しやすいピンチを演出してやったというのに、本当に刺さったらどうするのだ」

「間に合ったのだからよいだろう。ともあれ、出番をもらったので参戦させてもらうぞ」

「それがいい。ご隠居曰く、大立ち回りは最大の見せ場ゆえ、私一人では絵にならんらしい」

 両雄並んで仁王像のごとく屹立(きつりつ)する。しかし、面相はしたり顔。

「そういうことで、お前たちも二対六となって大変だろうが、もう少し頑張ってくれ」

「ふ、ふざけやがって……」

 ヤッコンは両手を背中に回すと、そこから新たなナイフを二本、スラリと引き出した。それらを慎重に前方に突き出して構え、カクサラーンの隙を探るようにジリジリと摺り足で詰め寄る。余裕がなくなっているのは一目に明らかだった。

「うおお、ヤッコンさんの二丁ナイフが炸裂するぜえ!」

「拝めるのは一年ぶりじゃねえか? こいつは楽しみだあ!」

 手下どもはヤッコンの緊張した空気が読めないらしい。しかしカクサラーンも空気の読めなさでは負けていない。担いだこん棒をトントンと二回肩でバウンドさせて、高く振り上げ掲げる。「むんっ」と掛け声を発した次の瞬間、ヤッコンの両の手からナイフは消え、それは騒いでいた手下二人の股下の地面に突き刺さっていた。

 スケサラーンがやれやれと首を振りながら苦言する。

「カクサラーンよ、秒で全滅させては立ち回りとは呼べんぞ」

「がっはっは、すまんすまん。こん棒はやめておこう。術も使わん」

 ヤッコンは格の違いを見せつけられて、顔から血の気が引いている。両手のナイフは一瞬で弾き飛ばされたのだろうが、ヤッコンにはそれが全く見えなかった。カクサラーンが振ったこん棒の軌道が手首の真上でなく首の真上であったなら、弾け飛んだのはナイフではなく(おの)頭蓋(づがい)であっただろう。わなわなと空っぽになった両手を見つめ、既にヤッコンは逃げる算段に頭が傾いていたが、そこに耳が痛い声が響く。

「うわあーー、コノヤローーー! ヤッコンさんは負けないんだ―!」

 空気ヨメナイコンビの片割れが叫びながらカクサラーンに殴り掛かってきた。そしてヤッコンの周りを引っ込みがつかない空気で固めてしまった。

「よし、では練習した通りにやるぞ。カクサラーン」

「心得た。口上のタイミングは任せるぞ、スケサラーン」

 襲い掛かってくるチンピラを軽くかわして後ろ頭を小突く。次々と迫るチンピラたちも同様に身をかわしては小突き、あるいは足を引っ掛けて転ばせた。すべて致命傷にならないどころか気を失いさえしない程度にあしらっている。

 倒れては起き上がりかかってくるので埒が明かない。しかし二人の実力ならば、このような小者程度は一撃で全滅せしめるはずなのだから、なにか狙いがあってのことだろう。チンピラたちの疲労が溜まり動きが鈍くなるにつれ、スケサラーンとカクサラーンは徐々にご隠居に近づいていく。

 スケサラーンとカクサラーンの動きがご隠居の前で交錯したそのとき、二人揃って独楽(こま)のようにくるりと一回転し、ぴたりと動きを止めてご隠居の両脇に並び立った。

 杖を片手に佇むご隠居の傍ら、二人は一瞬だけ互いの立ち位置に目を配ると、ひと際大きく息を吸い込み胸を張る。

「ええい、静まれえー、静まれえーー」

「皆の者、ひかえい、ひかえおろーー」

 示し合わしたかのようにスケサラーンとカクサラーンが声を揃えて口上を述べ始める。まあ、示し合わせたのだが。遠巻きに眺めていた茶屋の客たちも、息を切らし地面にへたり込むチンピラたちも、ただならぬ雰囲気に一体何が始まるのかと釘付けになっていた。

 スケサラーンは鼻息荒く口上を続ける。

「ここにおわすお方をどなたと心得る! このもんどこ……」

 スケサラーンが懐から何かを取り出そうとした瞬間、ご隠居の手にした杖がスケサラーンの頭に振り下ろされた。

「あいたーー!」

 頭を押さえてうずくまったスケサラーンの耳元にご隠居が顔を寄せて囁く。

「バカやろ、今出してどうする。早すぎるわ」

 スケサラーンは反射的に痛いと言ってしまったが実際はさほど痛くなかったようで、ご隠居に振り向いて「何故(なにゆえ)?」とでも言いたげな真顔になっている。ご隠居が小声で説教を続ける。

「場面が違うわ。関係者勢ぞろいした中で黒幕とか悪の親玉とかが悪事を暴かれて、そんでやっちまえ的に襲い掛かられて大立ち回りして、それから出すんだよ。こいつら、どう見ても下っ端のチンピラじゃねーか」

「いえ、ご隠居からミトコーモンの物語を伺う度にいつも思うのですが、もったいぶらずに早い段階で出してしまえばいいのではないでしょうか」

「身も蓋もないことを……。さっき言っただろう、これは様式美だ。この場は適当に痛めつけるだけでよい。そうすれば覚えてろーとか言って尻尾巻いて逃げ帰る」

「はあ……精進いたします」

 突然割って入り豪傑の頭を殴った謎の老人に皆が困惑していた。チンピラたちは圧倒的な力の差にすでに戦意を喪失していたので、何やらひそひそと話し二人の気が逸れているのを逃げ出す好機と見て、「覚えてやがれ」と言い残して走り去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ