表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

影差す館の住人たち

月影荘に閉じ込められた人々は、それぞれが複雑な思惑を抱えていた。佐倉梓は、取材という名目で彼らの間に潜り込み、その人間関係の網の目を解きほぐそうと試みた。


まず、この館の現所有者であり、被害者となる黒崎雅人。彼は、祖父である画家の遺産を独占しようと画策しており、その傲慢な態度は、館の住人たちの反感を買っていた。梓が彼に取材を申し込むと、雅人は鼻で笑い、「こんな田舎の新聞に何が書けるんだ」と吐き捨てた。その言葉の端々には、他人を見下すような傲慢さが滲み出ていた。


「祖父の遺産は、すべて私が受け継ぐべきものだ。あの老いぼれどもに分け与える筋合いはない」


雅人は、そう言って不敵に笑った。彼の言う「老いぼれども」とは、遺産相続の権利を主張する親族たちを指しているのだろう。梓は、彼の言葉の裏に隠された、深い確執の存在を感じ取った。


次に、白石恵。雅人の遠縁の親戚で、弁護士という肩書きを持つ彼女は、常に冷静沈着で、感情を表に出すことがなかった。彼女は、黒崎宗一郎の遺言書に不審な点があるとして、相続の無効を訴えていた。梓が彼女に話を聞くと、恵は淡々と法的な見解を述べた。


「遺言書には、いくつかの瑕疵が見受けられます。私は、正当な手続きに則って、真実を明らかにしたいだけです」


その言葉には、一切の感情が込められていないように見えたが、梓は、彼女の瞳の奥に、強い意志の光が宿っているのを感じた。彼女もまた、雅人に対して何らかの不満を抱いていることは明らかだった。


館の管理人である青木健太は、長年、月影荘に仕えてきた老練な男だった。彼は、黒崎宗一郎が存命の頃から館の隅々まで知り尽くしており、画家への深い敬愛の念を抱いていた。雅人が館の美術品を売却しようとしていることに、彼は強い憤りを感じているようだった。


「宗一郎先生の作品は、この館と共に生きるべきものです。それを金儲けの道具にするなど、許されることではありません」


青木は、そう言って静かに怒りを滲ませた。彼の言葉からは、館と画家に対する異常なまでの執着が感じられた。梓は、彼の言葉が、単なる管理人の職務を超えた、個人的な感情に基づいていることを察した。


赤井涼子は、黒崎雅人の元恋人だった。華やかな外見とは裏腹に、どこか影のある彼女は、雅人との金銭トラブルを抱えていると噂されていた。梓が彼女に近づくと、涼子は感情的に雅人への恨みをぶちまけた。


「あの男は、私を騙したのよ! 私の人生をめちゃくちゃにした! 絶対に許さない!」


彼女の言葉は、怒りと悲しみに満ちていた。事件直前にも、雅人と激しい口論をしていたという目撃情報があり、彼女の動機は最も分かりやすいものだった。


そして、緑川徹。黒崎雅人の事業パートナーだった彼は、共同事業の失敗で多額の負債を抱え、追い詰められた状況にあった。口数が少なく、常に周囲を伺うような態度をとる彼は、雅人からの資金援助を強く求めていた。


「黒崎さんには、もう少し、こちらの事情も考えてもらいたいものです……」


緑川は、そう言って目を伏せた。彼の言葉の裏には、雅人への不満と、自身の窮状に対する焦りが隠されていた。梓は、彼ら一人ひとりの言葉と態度から、雅人に対する様々な感情が渦巻いていることを感じ取った。雪は降り続き、月影荘は完全に外界から隔絶された。この白い密室の中で、何かが起こる予感に、梓の胸はざわめいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ