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転生ではなく地獄に転職する道を選んだら労働環境が超ホワイトでした  作者: 雪途かす
第三章 呪術師との最終決戦

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拾:末路

 蘇芳の刀が松葉の首を捉えたように、誰もが思った。


 しかし、一瞬で松葉の姿が霧散して、刃は空を切った。


「っ!」


 驚く蘇芳が素早く構え直すが、その直後、黒い瘴気が碧羅の目の前に集まった。

 それが一瞬で、松葉の姿になる。


 アイアとストロンの結界越しに松葉と対峙した碧羅は、思わず息を詰めた。


「乱鴉様が求めた瑠璃の魂……! それがあれば、私はあの方になれる……!」


 見慣れたはずの赤い瞳に射竦められ、碧羅が凍りつく。


 その瞳の奥に、乱鴉の存在を見た気がした。


「瑠璃! その魂を渡せ!」


 松葉の声に、乱鴉のしゃがれ声が重なる。


 刹那、碧羅の胸に痛みが走った。

 魂についた傷は癒えていない。術者である乱鴉が解呪せずに消滅してしまった以上、本来そのままでは永遠に癒えることはない。


 ただ、本来ならば乱鴉が消滅した時点で、もう危険はないはずだった。


 つまりそれは、乱鴉に呼ばれたら反応してしまうということ。


「碧羅!」


 蘇芳が声を上げるが、碧羅の耳には届かない。


 アイアとストロンの結界に亀裂が走る。


「まずい! 破られるぞ!」


 ストロンが声を上げた直後、玄が松葉の背後から飛び掛かって攻撃を仕掛けた。

 しかし、松葉は振り返ることもなく、黒い瘴気が床から一直線に伸びてきて、玄の脇腹を貫いた。


「っ!」

「玄さん!」


 琥珀が声を上げる。


「鬱陶しい蠅だ」


 松葉が冷たく吐き捨てると、玄がその場に頽れる。

 蘇芳がすかさず松葉に斬りかかろうとするが、瘴気が行く手を阻んで距離が詰められない。


「碧羅! 松葉の声を聞くな!」


 蘇芳が叫ぶが、既に碧羅は身動きが取れなくなっていた。


 琥珀が咄嗟に碧羅の背後に立って耳を塞ぐが、気休めにしかならない。


「駄目だ、もう結界がもたない……!」


 アイアが苦渋の表情で呟いた直後、結界が音を立てて四散した。

 同時に、黒い瘴気が琥珀を吹き飛ばしてしまう。


「瑠璃! お前の魂は私が貰う……!」


 松葉の手が碧羅に迫る。


 駄目だ、間に合わない、蘇芳が絶望しかけた、その時だった。


「おい、誰の許可を得てこんなことをしている?」


 重たい声がその場に響き、全員が動きを止めた。


 松葉がひゅっと息を呑み、青褪める。


「まさか……そんな……裁判以外には、干渉しないはずじゃ……」


 ぶつぶつと呟いたのが聞こえたと思った直後、碧羅はようやく身体が動くのを感じた。

 何があったのか、先程の声は誰のものなのか、怪訝に思いつつ視線を巡らせると、松葉のすぐ背後で、何かが揺らいだ。


 直後に姿を見せたのは、黒髪に黄金の双眸を有した、三十代くらい青年だった。

 見るものを圧倒する美貌。一度見たら絶対に忘れない存在感と覇気。


「閻魔大王様……!」


 蘇芳がその名を呼ぶと、彼は無表情のままついと片手を上げた。


 刹那、玄の傷が癒えて意識を取り戻す。


「松葉、お前はもう鬼ではない。輪廻転生の環に戻ることも許さん。私の手で、滅してやる」


 言うや、閻魔大王は左手で松葉の頭を鷲掴みにした。

 その瞬間、漆黒の炎が燃え上がり、断末魔を上げる間もなく、松葉の姿は消えてしまった。


「……アイア、ストロン、すまないが、天元城に浄化術をかけてはもらえないか?」

「は、はい。もちろんです」


 閻魔大王直々に頼まれた二人は、すぐに力を合わせて浄化の術を天元城全体に施してくれた。

 浄化は天使特有の術らしく、瘴気などの影響を消し去ってくれるそうだ。


「……これで問題ないな」

「閻魔大王様、何故、ここに……?」


 蘇芳が戸惑いを隠せない様子で尋ねる。

 閻魔大王はやれやれと言わんばかりに嘆息した。


「あれだけ派手に暴れていていたら出て行かざるを得んだろうが。それに、そもそも私は死者が多すぎるあまり裁判をこなし続けるしかないという状況になっているだけで、他のことに干渉してはならないという制約がある訳ではない」


 そうだったのか。

 閻魔大王は常時裁判を行っているため、他の雑務は全て鬼の仕事なのだと思っていた碧羅が目を瞬く。


「……よもや、鬼に裏切者がいたとはな……天国庁に報告書を出す時、何と言われることやら……」


 げんなりした様子で呟きながら、ベッドで眠る桔梗を一瞥する。


「……仏か」

「はい。天国庁からの諜報員だったようです。隠滅術によって命を落としかけています……術の解析中ですが、あと少しのところで躓いています」


 白花が答えると、閻魔大王は桔梗に歩み寄り、彼女の額に右手の人差し指を当てた。


「……ふむ。これで大丈夫だ。間もなく目を覚ます。身柄は拘束して諜報課へ回せ」

「……承知しました」


 呆気なく解析されてしまい、白花は複雑そうな顔で頷いた。


「心配せずとも悪いようにはしない。とりあえず、鬼から裏切者が出た件について神から嫌味を言われたら、天国から寄越された諜報員のせいで捜査が乱されて発見が遅れたということで一点突破する。そのために桔梗は必要だ」


 まさかの天国に対する嫌味対策で使うつもりか。

 

 アイアとストロンも、少々意外そうな様子で顔を見合わせている。 


「そういう訳で、後処理は任せたぞ、蘇芳、玄」


 そう言い放つと、閻魔大王は姿を消してしまったのだった。


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