表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ではなく地獄に転職する道を選んだら労働環境が超ホワイトでした  作者: 雪途かす
第三章 呪術師との最終決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/36

玖:噴き出した憎悪

 玄は医療部へ向かおうと、他の四人を促した。


「……あの、アイアさんや桔梗さんは、どうなるんですか?」


 歩き出したところで、碧羅が尋ねると、玄は歩みを止めることなく答えた。


「ん-? 実は鬼と天使って、昔からスパイを送り合って腹の探り合いをしてるのよ。だからこっちが天国からのスパイを捕らえたところで、大した罰は下さないのよね」

「でも、隠滅術で消すって……」

「それはあくまでも送り込んだ側が、相手側にスパイを送り込んだ事実を知られたくないっていう事情からね。そういう不穏な側面は確かにあるけど、見つかった場合に関係者全員が殺されるってことはないわ。精々、閻魔大王様と神がやりあうくらいで」


 二人の処遇を心配した碧羅だが、あっけらかんとした様子の玄に肩透かしを食らった気分になる。


「まぁ、元々地獄と天国って、敵対関係ではないしね。特に、今回の件については、アイアちゃんは桔梗ちゃんがスパイだって知っていはいたけど、直属の部下ではなさそうだから、鬼側がアイアちゃんに何かすることはないわ。当然、何も知らなかったストロンちゃんはお咎めなしね」

「そういえば、玄さんって嘘を見抜けるんですか?」

「ええ。目を見ればわかるわよ」


 ふふ、と不敵に微笑む玄に、絶対に嘘は言わないことにしようと心に誓う碧羅だった。


「それより、問題は桔梗ちゃんね……」

「あの天空庁舎の入館証は、やはり桔梗さん本人のものだったのでしょうか?」

「おそらくね。顔もそっくりだったし、桔梗ちゃんは仏だったんでしょうね」


 オカト・トキという名前が書かれていた入館証を思い出す。

 彼女は、一体どんな気持ちで現世警護課で働いていたのだろうか。


 話している間に医療部へ到着した。

 中に入ると、既に到着していた白花が、横たわっている桔梗に向かって両手を掲げていた。


 脇で見守っていた蘇芳に歩み寄って、玄が尋ねる。


「どう?」

「白花が術式を解析中だ。思ったよりてこずっている」

「そう……こっちは、アイアちゃんが桔梗ちゃんがスパイだったと認めたわ。やはり天国側からの隠滅術ね」


 玄の報告に、蘇芳が何か思うように視線を落とす。


 と、その時、玄は僅かに目を瞠った。

 それから、ゆらりと振り返り、部屋の奥に視線を向ける。


「……ねぇ、どうしてそんなに敵意剥き出しで立っているの?」


 そこには、腕組みをして桔梗を見つめていた松葉がいる。


「松葉ちゃん……?」


 玄が、白花と桔梗を庇うように前に出る。

 琥珀が驚いた顔で玄と松葉を見比べた。


「ちょっと玄さん、何言ってるんですか!」


 ぴりついた空気を緩和させようとした琥珀だったが、その次の瞬間、蘇芳が右手を振り払って叫んだ。


「伏せろ!」


 蘇芳の妖力が迸り、数秒前まで琥珀の首があった場所で何かとぶつかる。

 黒い妖気だ。


 咄嗟に屈んだ琥珀がぎょっとした直後、松葉が右手を頭上に掲げた。


「っ!」


 どんよりとした、嫌な()()が噴き出し、辺りを包み込んだ。


「何だこれは……! 妖気じゃない!」

「松葉ちゃん、貴方は鬼のはず……! なのにどうして……?」


 蘇芳と玄が目を瞠る。

 松葉は、うっそりと唇を歪めて嗤った。


 その表情はまるで、乱鴉のそれのようだった。


「あの方の力だ……! あの方の全てを、私が引き継ぐ……!」


 諸手を掲げる松葉は、碧羅が知っている彼ではなかった。

 短い間だが、真面目で冷静な男だと思っていた。

 少なくとも、碧羅が知る限り松葉が声を荒らげて怒ったりするところは見たことがない。


「まさか、乱鴉に操られていたのか……!」

「いいえ違うわ……!」


 蘇芳の言葉を否定した玄が、信じられないものを見るような目を松葉に向ける。


「松葉ちゃん、乱鴉に心を奪われていたのよ……でも、一体いつから……?」


 玄は、目を見れば嘘を見ぬけると言っていた。

 それでも、松葉の裏切りを見抜けなかったのだ。


「乱鴉様に初めてお声をかけていただいた時からだ……! あの方の偉大な力は、閻魔大王をも凌ぐ……!」

「……愚かな」


 蘇芳が舌打ちする。


 閻魔大王は地獄を統べる鬼の頂点に君臨する唯一無二の存在だ。

 たかが元人間の呪術師が勝てる訳がない。


 それがわからなくなる程に、彼は平静ではなくなっているということだ。


「乱鴉の瘴気にあてられたのか……」

「松葉ちゃん、呪詛耐性なかったものね」


 憐れむような目で松葉を見る玄。その視線が癪に障ったのか、松葉は忌々し気に顔を歪めた。


「お前らはいつも私を見下して……! 耐え難い屈辱だった……! それも、今日終わる……!」


 どす黒い瘴気が更に勢いよく噴き上がる。


 アイアとストロンが同時に右手を翳して結界を生成し、白花と桔梗、碧羅と滅紫を囲んだ。


「玄、一気に叩くぞ」

「任せて。援護するわ」


 蘇芳が深紅の刀を顕現させ、無造作に払うと、周囲の瘴気がふっと割れた。


「所詮、紛い物だ」


 蘇芳は呟くと、大きく刀を振るった。


 刃は躊躇う様子もなく、松葉の首目掛けて振り下ろされる。


 しかし、その時。


 松葉が、ニヤリと笑った。

もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援いただけると励みになります!感想も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ