表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ではなく地獄に転職する道を選んだら労働環境が超ホワイトでした  作者: 雪途かす
第三章 呪術師との最終決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

陸:お守り

 乱鴉が、成功を確信して高らかに嗤った。


「これで! これで瑠璃は、永遠に俺のもの……!」


 しかし、碧羅の胸の痛みは変わらずだった。

 逆をいえば、碧羅の意識はまだ紙一重で残っていて、乱鴉が望んだ魂の融合とやらは起きていない。


「……何故だ……! 確かに術式は成功したはず……!」


 動揺する乱鴉の眼に、碧羅の胸元に揺れる勾玉が映った。


「それは……!」


 その勾玉は、碧羅が鬼になった時に、閻魔大王がお守りと言ってくれたものだ。

 乱鴉の術を受けて、碧羅の魂を身体に繋ぎとめてくれていたらしい。


 痛みで意識を飛ばしかけていた碧羅が、助かったと直感した、その刹那。


「碧羅!」


 声がした。

 その声を聞くだけで、もう大丈夫だと、心の底から安堵が込み上げる。


「っ! 蘇芳さん……!」


 頭上から文字通り飛んで来た蘇芳は、すぐに状況を把握して、碧羅の周りに刻まれていた文字を踏み付け、蹴散らした。

 その瞬間、碧羅の身体から痛みが消え、一気に呼吸が楽になる。

 ついでに束縛の術も解除されたらしく、身体に自由が戻った。


「っ! 赤鬼ぃ!」


 魂を融合する術が破られて、乱鴉が激昂する。

 彼の身体から、どす黒い霊力が噴き出した。


「いい加減、決着をつけるぞ! 赤鬼! 此処で死ねぇ!」


 黒い霊力が、刃となって蘇芳に向かう。

 蘇芳が日本刀を顕現させてそれを斬り裂くが、霊力は無限に蘇芳に襲い掛かる。


「死ぬのはお前だ! 乱鴉! ここで完全に滅する!」


 蘇芳の周りに、真っ赤な妖力が渦を巻く。まるで炎のようだ。

 ばちばちと音を立てながら、蘇芳の妖力と乱鴉の霊力が何度もぶつかり合う。


 蘇芳が日本刀を振り翳し、乱鴉が霊力でそれを受け止める。

 その度に爆風のような風が発生し、辺りは粉塵に覆われていった。


「っ! 蘇芳さん!」


 たまらず、勾玉を握り締めながら叫ぶと、その直後、何かが貫かれるような鈍い音がした。


 嫌な沈黙が流れ、砂埃が薄らいでいくと、蘇芳が手にした日本刀が、乱鴉の胸を貫いているのが見えた。


 即座に蘇芳が何か唱え、乱鴉の足元に六芒星が顕現する。


「こ、これは……!」

「魂をこの場に拘束した。もう逃げられんぞ」

「赤鬼ぃ………!」


 恨みがまし気に蘇芳を睨む乱鴉。

 蘇芳が別の呪文を唱えると、彼の身体が深紅の炎に包まれた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 耳を劈く断末魔に、碧羅の口から無意識に「お館様……!」という言葉が漏れた。

 乱鴉の黒い目が碧羅を見る。


 何かを訴えるように唇が動くが、言葉は炎に掻き消され、碧羅に届くことはなかった。


 やがて、灰も残らずに、全てが燃え尽きた。


「……これで、乱鴉は……」

「ああ、今度こそ完全に滅したはずだ」


 ふう、と嘆息し、刀を鞘に納める蘇芳。


 その姿に、碧羅は目を瞠った。


「……芳鷹……?」


 その名を呼ぶと、蘇芳ははっとして碧羅を振り返った。


「……どうしてその名を……?」

「瑠璃の記憶の一部を、思い出したんです……乱鴉は、瑠璃が使えていた主人、旭直影だったと……」


 そして、瑠璃が想いを寄せていた幼馴染、芳鷹。

 瑠璃の記憶にある彼の顔は、蘇芳とは全く別人だ。


 しかしそれでも、今この瞬間、碧羅は何故か芳鷹と蘇芳が同じ人物だと思った。


「……瑠璃の幼馴染に、芳鷹という人がいました……まさか、蘇芳さんが……?」


 蘇芳は、泣きそうに顔を歪め、額を押さえた。


「……そうだ」


 絞り出された声に、碧羅の漆黒の瞳から涙が零れ落ちる。


「……あの最後の戦で、俺は背後から矢を受けた。敵の者でも味方のものでもない、黒塗りの矢だった……」


 彼の言葉に、直影が芳鷹を呪ったと語っていたことを思い出す。

 まさか、本当に呪いが芳鷹を殺していたのか。


「瑠璃を想いながら三途の川を渡り、閻魔大王様の裁きを受け、俺は自らが呪い殺されたことを知らされた……そして、閻魔様が俺の武士としての力量を鬼の素質として認めてくださり、鬼になった……」


 そうだったのか。蘇芳は蘇芳で、辛い時を過ごしていたのだな。

 彼のこれまでを思うと、涙が込み上げてくる碧羅だが、そんな彼女を、蘇芳は少しぎこちない手つきで優しく抱き締めた。


「……とにかく、お前が無事でよかった……」

「はい、私も、蘇芳さんが無事で、よかったです……」


 彼の背に手を回してしがみ付く碧羅に、蘇芳は何かを堪えるような顔をして、それを隠すように彼女の肩に顔を埋めるのだった。

もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援いただけると励みになります!感想も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ